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第7章 決戦! 首都奪還作戦編

第1話 都心突入前夜

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 ・・1・・
 一二月四日の夜。この頃までにはドラゴンの対処を終えた九十九里南部方面上陸軍が大網白里市中心街を奪還。銚子方面からのCTが増加傾向にあるものの想定の範囲内で、千葉市進出への足がかりを確実なものとしていた。
 東京都心方面へ向かう部隊も順調に前進。横浜方面から都心南部へと向かう部隊はそれぞれ、溝ノ口・鷺沼・新横浜・保土ヶ谷・磯子まで到達。もう一つの要衝奪還地である横浜、川崎の目の前まで迫っていた。

 孝弘達のいる東京西部方面も中野まで到達。いよいよ新宿が大抵の兵器の射程圏内にまで近づいたのである。
 その孝弘達は練馬方面からやってきた璃佳達と合流。都心突入作戦に備え、孝弘達四人と連隊の大隊長クラス――熊川は他部隊との折衝中で離席中――と作戦会議を始めようとしていた。

 ・・Φ・・
 12月4日
 午後8時40分
 中野区中野駅北付近
 第一特務連隊・臨時前線移動司令部


「米原少佐、地龍の件はご苦労だったね。よくやってくれたよ。特に川島少佐の土人形将軍には助けられたって現場各所から改めて感謝の意が届けられてるよ」

「はっ。ありがとうございます。不測の事態ではありましたが、大輝のお陰で、水帆や知花の連携、各部隊の支援もあり難なく倒せました」

「連中にとって地龍は都心侵攻を阻む為のカードの一つだったろうけど、見事打ち砕いてくれた。危うく計画が狂うところだったらしいから、上もスケジュールを変えずに奪還作戦を続けられるって喜んでたよ。その証拠が今の音だ。都心突入準備砲撃だね」

 璃佳が都心方面を指さすと同時に聞こえてきたのは、榴弾砲の砲音。数十分前から開始されている都心方面突入準備砲撃だ。
 今から一時間半ほど前のことだ。先発して東中野まで進んでいる陸軍と海兵隊の部隊がマジックジャミング装置を破壊。それによって都心の一部ではあるがレーダーで状況を見透せるようになった。状況把握が出来るようになったのは、池袋から目黒に至るまでの山手線西側、その内側三キロまでだ。ここは装置が破壊されるまでジャミングによってどうなっているかが分からず、敵がどれだけいるかも当然分からなかった。

 しかしジャミング装置を破壊したことによりこの地点にいる敵情が判明。そこにはCTはさほど多くなく、理性のある敵たる神聖帝国軍が配置されている事が分かった。

 そこで上層部はかねてより実施予定だった都心突入準備砲撃を開始を命令。六条千有莉がもたらした情報では民間人などが捕らえられている地点は未だマジックジャミング装置の効果範囲内であることを知っているため、敵のいる箇所へ片っ端から砲撃を行う面制圧砲撃を行うことにしたのであった。

「だいぶド派手に陸軍と海兵隊はやってますね」

「そりゃ念願の都心突入だからね。私達突入部隊が出来るだけ戦いやすくなるよう、準備砲撃用に取っておいた砲弾をありったけ叩き込んでる最中さ。だから私達も、任務を果たさないとね」

「はっ。はい。必ず任務を達成します。まだ、民間人が取り残されているのですから」

 孝弘の力強い言葉に璃佳は頷く。
 ちょうどこのやり取りを終えた頃、連隊大隊長の三人が到着する。孝弘と璃佳が話していた間は少し離れたところにいた水帆と知花も、二人がいる所に戻ってくる。大輝は先の召喚に伴う魔力消耗もあり、少し離れた所で休息し魔力回復中だった。いくら大輝とはいえ、土人形将軍クラスの召喚ともなれば消耗がやや激しかったのである。

「よし、川島少佐以外は集まったね。んじゃ、ここから先の作戦について説明しよう。関少佐は後でこれから話す作戦について川島少佐に説明しておいて」

「はっ。了解しました」

「よろしく。さて、早速作戦を伝えるよ。今回私達第一特務連隊に割り振られた作戦は二つ。一つ目は東中野方面から新宿に突入し、都心奪還における最前線拠点とする新宿及び原宿方面の確保。その後、一気に突っ切って東京駅方面へと向かう。理由は作戦の二つ目、民間人が捕らえられていると思われる東京駅地下部及び日比谷公園方面での救出作戦を実行するからだ。これは六条のお嬢様がトラウマを抱えながらも話してくれた、ダイヤモンド以上の価値がある情報の一つだね。ここに囚われている民間人は必ず救い出したい。どれだけ生き残っているかは関わらず、ね」

 璃佳が語気を強めて言った民間人救出作戦こそが、第一特務連隊にとって本領発揮の作戦であり、第一特務連隊しか出来ない作戦でもある。

 第一特務に与えられた作戦の一つ目、新宿突入と新宿及び原宿周辺の確保は〇四三〇に作戦開始。陸・海兵隊・魔法・空軍共同で行われる。マジックジャミングが無くなった地域については突入前まで徹底的に攻勢準備砲撃が行われ、その間に襲いかかる敵部隊――CTと神聖帝国軍どちらであっても――も迎撃するが、未だマジックジャミングの効果範囲内については無人偵察機で砲撃しても問題無く敵部隊がいる地点と判定された箇所のみを砲撃とするに留まる。

 これが終わり突入開始時刻を迎えると、陸軍機甲部隊及び第一特務含む魔法軍精鋭部隊を前面の盾としつつ陸・海兵隊・魔法軍の三軍は一挙に侵攻を開始。陸軍回転翼機部隊と空軍部隊の支援のもと、都心部市街戦を行いつつ拠点を確保。防衛線構築も同時並行で行う。これが一つ目のおおよその流れだ。

「一つ目の作戦、東中野からの新宿突入、新宿及び原宿周辺の確保は第一大隊が機甲部隊と共に地上を、フェアル使用の第二大隊は陸軍ヘリ部隊と共同で上空を、第三大隊は第一と第二のサポートを担当。速やかに作戦目標を達成するように」

「第一大隊、了解です」

「第二大隊、了解しました」

「第三大隊了解っす。いつも通りのフォーメーションですね」

「こういう時こそ一番慣れた形を取るのがいいからね。ちなみに米原少佐達四人はこの段階においては私と共に行動してもらう。救出作戦までは君達の魔力を温存しておきたいから、サポートに回って。関少佐はちょっと負担がかかるかも。情報面の補助をお願い」

「了解しました。索敵等は任せてください」

「よろしくね。――さて。肝心要の作戦二つ目、民間人救出作戦については情報系など非戦闘部隊を除く連隊戦力を丸ごと投入する形になる。米原少佐達も作戦二つ目の時点で私のいる本部中隊から外れて行動してもよし。四人の判断に任せる。私達第一特務は新宿を確保して補給を行った後、空軍の無人機や戦闘機部隊の支援のもとで目標である東京駅・日比谷公園方面を強襲。目標付近にいる敵部隊を撃滅しつつ、民間人救助を行う。私達が作戦を行っているタイミングで友軍主力部隊が来てくれるから彼等が作った支配域を救出した民間人の搬出ルートにする。ただし、全てが上手く行くとは限らない。東京駅や日比谷公園周辺はマジックジャミングの圏内だからね。こちらが見える範囲の敵の動きから、中を推定するしかない」

 作戦の二つ目、民間人救出作戦はルートだけならばシンプルなものだった。

 賢者の瞳を通してAR画面に映されていた進出路を示す矢印は、新宿・原宿方面から信濃町・四谷、永田町・霞ヶ関を経て、東京駅・日比谷公園へ。となっている。距離にしてわずか六キロ半。
 しかし、この六キロ半の行程がすんなり進めるはずもなく。

「七条大佐、質問です」

「何かな、川崎少佐」

「救出作戦を行う東京駅・日比谷公園方面ですが、ここ、敵本拠の一つと推定される皇居付近の真ん前ですよね……?   敵軍に関する情報はありますか?」

「無いわけじゃないけど、あんまりにも大雑把ってとこかな。川崎少佐も知っての通り、マジックジャミングで軍事衛星は使えない、レーダー各種は使えない。現場に着いた時に目視や魔力探知で初めて確認出来る状況だから、なんとも言えない。無人偵察機もマジックジャミングの影響であんまり圏域内奥まで入ると制御がほぼ効かなくなるからギリギリまで使えないし、有人機はもっての外。このあたりはいつもと変わんないね」

「了解しました。戦争突入以来のいつも通り、ぶっつけ本番ですね」

「悪いけどそうなるね。頼んだよ」

「はっ」

「自分も質問いいでしょうか」

「どうぞ、高富少佐」

「フェアルでの飛行にあたって上空を攻撃する敵性体の状況を把握しておきたいのですが、最新でどれだけ分析が出来ていますでしょうか」

「ほぼ不明だね。ただし、神聖帝国軍司令部が畏れ多くも皇居に構えやがっているとするなら、救出作戦の際に迎撃される可能性がある。神聖帝国軍の技術水準からして、対空砲火はあまり無いと考えられるけれど、法撃による対空砲火は十分に考えられる。また、連中もバカじゃないだろうからエンザリアCTが多数配置されている可能性もある。少なくとも、私ならそうする」

「了解しました。エンザリアCTの法撃に対しては、従来の対処方針で行動致します」

「それで構わないよ」

「あたしも質問いいっすか?」

「もちろん」

「ありがとうございます。第三大隊は基本的に第一、第二の支援に回るんすけど、救出作戦の際には民間人の護衛も担当します。民間人の推定人数は約二〇〇から約五〇〇。数にバラけがあるのは仕方ないっすけど、実数次第じゃあたし達の大隊だけだと手が足りなくなる恐れがあるんすよね……」

「それについては救助後ルートを確保してくれる陸軍機甲部隊と随伴部隊、海兵隊から精鋭を引っこ抜いて出してくれるから安心して。あと、川島少佐がゴーレム出してくれるって。将軍は厳しいけど、ノーマルなら問題ないってさ。ただし、敵の数によってはどうなるかは分からない。柔軟に対応してとしか言えないかな。命令は逐次出すけど、いつものように第三全部を長浜少佐の判断に任せるよ」

「了解っす。救出作戦となるといつもよりキツそうっすからね。なるべくベストを尽くすようにします」

「お願いね。――米原少佐達は質問はある?」

「自分はありません」

「私も特に。作戦書にあるように動きます」

「わたしも特には」

「了解。君達はSランク故に特に救出作戦では使い倒される立場になるから覚悟しててね。ランク相応の活躍を期待してる。ま、それはもちろん私も当てはまるわけだ。大佐だろうと連隊長だろうと、Sランクだからそりゃもうね」

 四人と同じくSランクの璃佳はこの場にいる者達の緊張感を和らげる為にも、ニコッと明るく笑う。張り詰めていた空気が、良い意味で少し和らいだように璃佳を除く全員が感じた。
 その璃佳も次の言葉を発する前には顔を引きしめ、全員を見回す。

「明朝、東京都心奪還作戦は始まる。私達が剣となり都心侵攻の先駆けとなり、私達が未だ囚われたままの民間人を救う。作戦の成否は私達にかかっている。皆の健闘を祈る。そして、全員生きて、東京に国旗を掲げよう」

『はっっ!!』

 都心奪還作戦は、もう目の前にまで迫っていた。
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