異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第6章 旧首都・東京奪還前哨戦編

第12話 九十九里の地にもヤツらは現れる

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 ・・10・・
 12月4日
 17時10分
 大網白里市・市街地南東郊外

 地龍を倒し歓喜に包まれるのも束の間、すぐさま都心に向けて進撃していた孝弘達が戦闘を引き続き繰り広げていた頃、九十九里南部方面に上陸した九十九里南部方面軍も奪還領域をさらに広げるため各所で激しい戦闘が行われていた。上陸してから既に半日が経過し、神聖帝国が操るCTもこれに対応して九十九里南部方面に大群を向かわせていたからだ。その数、東金及び九十九里町方面から約三〇〇〇〇。千葉市方面から約五〇〇〇〇であった。

 さて、異世界帰還組の慎吾と同行組のアルトやカレンであるが、三人は千葉市への突破口を開くための部隊である海兵隊一個旅団、魔法軍二個連隊、上陸後速やかに合流を果たした陸軍一個師団と共に大網白里市中心街東部郊外にまでたどり着いていた。

 午後までに自分達と相対したCTは軒並み屠り、当初より僅かに進出予定地への到着は遅れていたものの概ね順調に進めていた彼らであったが、ここに来てその進軍を一時的に止めて迫るCTに対し応戦せざるを得なくなった。流石に約五〇〇〇〇は多かったからである。

 今も三人を含め各部隊はCTに対して凄まじい火力を浴びせ続けていた。

『CT一個連隊相当を撃滅するも再び北西方面よりCT接近!   その数約三〇〇〇!』

『戦車部隊の支援を求む!   前進の準備も出来ない!』

『榴弾砲の支援要請!    座標はこちらから送る!   大型CTの数が多い!    小隊保有火器では対処困難!』

『白子HQより各部隊へ。現在榴弾砲及び野戦砲部隊は東金及び九十九里町方面から迫る敵に対しても対処中であり、これまでのようにすぐの支援は難しい。現在太平洋上の第一機動艦隊にも支援を要請中。魔法軍各部隊、魔力回復薬の服用制限を第三種から第二種に緩和を許可。すまない、CTに対しては魔法軍は心強い火力になる』

『魔法軍第五〇一より白子HQへ。服用制限緩和を了解。元よりこうなることは想定していた。ただし我々を頼られ続けても限界がある。予備兵力の展開もしくは洋上の艦隊からの支援を求む』

『白子HQより魔法軍第五〇一へ。了解。第一機動艦隊とも交渉にあたる』

『白子HQより第一機動艦隊司令部。大網白里方面に向けて電磁投射砲の支援砲撃を求む。大型CTが多い。洋上からの支援が欲しい』

『第一機動艦隊司令部より白子HQ。了解。砲身冷却が完了次第、砲身を大網白里方面指定座標に向ける。支援攻撃開始は…………、約一五〇秒後』

『白子HQより第一機動艦隊司令部へ。了解。支援感謝する』

 あちこちから次々と無線が飛び交う。歩兵部隊だけでは対処が難しければ榴弾砲や野戦砲が、もしくは戦車部隊が。それが難しければ艦載機部隊や艦隊の速射砲またはミサイルが支援にあたる。海上から攻撃地点が近いからこそ出来る芸当だった。

 慎吾はやりとりのいくつかを聞きながら戦況がそろそろこちらの思い通りにはならなくなってきたことを感じ取っていた。

「アルトくん、カレンさん。魔力残量は大丈夫かな?」

「俺はまだ大丈夫です。残量七一パーセント。回復薬の服用は四本。まだ第三種の上限一〇本と比べても問題ないです」

「私も余裕ですー。残量約六七パーセントですけど、服用は三本。あと丸二日戦えますよー」

「カレンさん、丸二日はありえないから安心して」

「はーい。先生はどうですかー?   戦闘スタイルからすると一番消耗してるのではー?」

「僕も大丈夫。残量は約六八パーセント。服用は四本。まだまだ余裕さ」

「なら良かったー」

「さ、また敵が来るよ。引き続きアルトくんは接近してきたCTに対しての近接戦闘を。カレンさんはデカいのを狙って。僕は火線が薄くなっているところの補助を中心に法撃を行う」

「了解です先生」

「了解ですー」

 波と波の僅かな合間に三人は少しだけ話し合うとすぐさま自分の役割分担に移る。

『華蓮中尉、そちらの一一時方向から大型CT三体が接近しています』

「はーい。任せてー!」

 華蓮は近くにいた部隊から支援要請が入り、大型CTのいる方に化合弓を向ける。弓に矢をつがえると、呪文を詠唱。距離延長の術式も織り交ぜて一本ずつ放つ。

「まず一つ。続けて二つ。最後に三つー」

『ターゲット命中。三体とも即死です。支援感謝します!』

「いえいえー。困ったらいつでも呼んでねー」

(まあ、とはいってもこんなに多いとキリが無いけどねー。多少は消耗するけど、一六以上まで増やして射撃した方がいいかも。あと、爆発系もそろそろ使いどころかなあ)

 カレンが放つ矢は魔力で錬成するタイプで詠唱するまで現れないが、彼女は背中に実態矢。つまりはごく普通の矢も装備している。とはいっても普通なのは先端以外で、その先端には魔力反応爆薬が詰まっている物騒極まりないシロモノだが。

 この魔力反応爆薬、カレンのようなAランク以上の魔法能力者が爆薬の制限一杯まで魔力を込めて放つと凶悪なまでの威力を発する。
 どうやら早速使いどころがありそうな雰囲気になっていた。

『何度もすみません、華蓮中尉。距離七〇〇、二時半方向から超大型が接近。迫撃砲部隊は他で対処が難しく』

「はいはーい。魔力反応爆薬矢を使うよー」

『了解!』

「相変わらずでっかいことー。ま、その頭を吹っ飛ばしてあげるけどねー♪」

 カレンは化合弓を超大型に向けるとギリギリまで弓を引き、矢を解き放つ。
 風属性が付与され射程距離の伸びている矢は風切り音を周りに流しながら超大型CTの眼前に迫り、そして。

「どっかーん!」

 超大型CTの頭部が綺麗に消し飛んだ。言うまでもなく即死である。

『命中確認!   お見事です!』

「これくらいなら朝ご飯前だよー」

「ひゅー。相変わらず俺の妹は笑顔でえげつないことするなあ」

 アルトはカレンの様子を数百メートル離れた場所から見ながら口笛を吹く。丁度すり抜けたCTを倒し終え、一息ついていた所だった。

『有都中尉、間もなく距離約三〇〇まで迫るCTの一群が来ます。数は二個小隊相当』

「あれか。了解、対処する。今回はちょっと多いな」

『ギリギリまで近付いてきたら我々も近接戦闘で応戦しますし、魔法軍部隊の中でも近接戦が得意な者がここにはいくらかいます。ただ、有都中尉ほどバッサバッサと倒せる方はあまりいませんので、頼みました』

「おっけー。任された」

 アルトが視線を移した先にいたのはヘルハウンド型と人型で構成される、今やありふれたCT約二個小隊相当。周辺には戦車や装甲車も展開しており機関銃部隊も配置されているから大抵のCTは距離約三〇〇までに打ち倒すことは可能だ。だが撃ち漏らしはいつどこの世界でもあるもので、そうした時に役目を果たすのがアルトのような近接戦闘に長けた兵士達だ。

 大戦前、近接戦闘に長けた彼等は市街戦のそれも局地的な場面や室内戦闘くらいでしか長所を活かすことは出来なかった。しかし神聖帝国が突如として侵攻を開始しCTが大挙して押し寄せてから事情が変わってくる。加えて、神聖帝国軍は魔法こそ地球側と同等あるいは一部では上手とされるものの一般火器は何世代も前のもの。こうなると必然的に活躍の機会が増えたのが近接戦闘に長けた者達。今ではこのように重宝されるにまで至っていたのである。

『二個小隊相当、数が減るも約二〇〇まで接近!    ヘルハウンド型と間もなく接触!』

「相変わらず単調な動きだな。――雷槍よ、その雷を放ち焼き焦がせ!    『雷槍弾サンダーミサイル』!!」

 アルトは槍を振るうと、現れた魔法陣から雷がミサイルのように飛んでいく。ヘルハウンド型にこれを回避する術はなく全弾が命中。あっという間に丸焦げになっていった。

「有都中尉がやってくれたぞ!   残敵に対処!」

「いいねえ!    近接戦組と射撃組が見事に連携して流れ弾が味方に当たるなんてありゃしない!    やっぱ練度に優れた軍は戦いやすい!   なら、俺も負けてらんねえな!」

 二個小隊相当だったCTは有都達の手によってあっという間に減っていき、僅かに残った人型CTも小銃などで駆逐されていく。

『新たにCTの一群が接近!   一個中隊相当!   距離約四〇〇!』

『重機関銃、対応!』

『一〇時方向からのCT対応で厳しいです!   すみません!    軽機軽機関銃の方で対処させます!』

「だったら僕の出番だね。魔弾よ集え、集いて塊となれ。汚らわしきを滅せよ。無型四式、『魔砲発射マジックキャノン』」

 アルトの頭上を越え飛んで行ったのは慎吾が放った無属性弾。だが大きさは七〇ミリの砲弾に相当するものだった。それは新たに接近していた一個中隊相当のCTをほぼ消し飛ばしてみせた。

「たはは、マジかよ先生。この前よりまた腕上げてんじゃん」

 今だけとはいえこれじゃあ俺の出番は少なさそうだな、とアルトは思いつつも口角を少しだけ上げていた。師たる慎吾の本気の一端をまた見られたからであった。

『アルトくん、残敵掃討頼みますよ』

「はい先生!!」

 実のところ慎吾が火力を上げたのは、周辺部隊の火力が残弾を気にして一時的に落ちていたからであり時間を稼ぐ為であったのだが、アルトにとってはそんなことはどうでもいい。先生が周りからさらに尊敬されたら嬉しいだけ。その慎吾に指示をされたのだからアルトはさらに魔法火力を上げにかかった。

 近距離戦はアルトが、中距離から遠距離はカレンが、そして慎吾は戦線を共にする友軍の補助という名の火力投射を続ける。
 後方からの補給は今のところ滞りなく届いており、若干落ちていた火力もすぐに元に戻った。

 とはいえ既に上陸から半日が経過している。そろそろ大網白里中心街を完全に抑えたいのだけどねえ、と慎吾が思っていた時だった。
 急報が入ったのである。

『第一機動艦隊司令部より各部隊へ緊急警報!    銚子方面より高度約二〇〇〇速度約八〇〇で飛行する飛行体の一群、約一二〇を探知!    距離は約一五〇〇〇!    個体名称、『ドラゴン』!!   これより第一機動艦隊はドラゴンを艦隊防空及び艦載機部隊にて対処する!    陸上の諸部隊も最大限警戒されたし!』

「やっぱりこっちでも出てくると思ったよ。マジックジャミングのせいでここまで近付かれないと気付けないとはいえ、さ。しっかし数が一二〇とは随分本気だねえ」

 慎吾は賢者の瞳で共有されているレーダー画面を見てから目線を北の空に向ける。いつものようなにこやかな顔。だがその目は笑っていなかった。
 孝弘達や今川達が戦ったドラゴンの大群。先日はしていいようにやられたが今度はそうはいかない。まるでそう言っているかのように、空のバケモノは九十九里南部の空に迫っていた。
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