異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第6章 旧首都・東京奪還前哨戦編

第5話 異世界帰還おじさんと同行組の双子兄妹

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 ・・4・・
 12月4日
 午前4時前
 太平洋・九十九里浜近海
 第1機動艦隊前衛部・泉州級揚陸艦一番艦『泉州』上甲板

 二〇三六年も残すところ一ヶ月を切り、東北以南にも本格的な冬が訪れるようになった一二月四日。関東近辺の太平洋上とはいえ、洋上には冬風が吹いていることもあって寒い。気温は四度。コートを着込んでいないと辛い温度だ。

 その中で第一機動艦隊所属海軍軍人の面々だけで無く、揚陸艦や輸送艦、民間から徴発されたフェリーなどに乗っている陸・海兵隊・魔法軍の将兵達も忙しなく動いている。
 それもそのはず。つい先程から九十九里浜南部方面上陸作戦に先立って上陸ポイント近郊への攻撃――上陸前準備爆撃――が始まったからだ。

 冬となってまだまだ暗い闇夜の中、戦闘機が空高くおかへ向かって飛んでいき、攻撃ヘリはそれよりも低く、しかし今現在飛んでいく物体の針路と被らないよう飛んでいく。

 今挙げたのは人が乗っている兵器だ。勿論人が乗っていない兵器も海から陸にかけて向かっている。

 管制機に操作されて戦闘機と同様の役目を果たしに行く無人攻撃機。

 巡洋艦や駆逐艦から射出されるミサイル。同じく巡洋艦や駆逐艦に固定搭載されている一二七ミリ単装速射砲。もしくは魔法科学式一二〇ミリ雷属性利用電磁投射砲。これらが上陸地点からやや先にいるCTを無差別に吹き飛ばしていく。

 その光景を甲板から見ている男が一人いた。四〇代初頭くらいで髪の毛は少し短め。魔法軍の軍服は着ているが、もしスーツを着ていたら街中ならば埋もれてしまいそうな目立たない外見。この場にいるのが場違いなのでは無いかと思える地味な中年男性だった。

「いやぁ、凄いなあ。で凄まじい法撃とか見てきたけど、その比じゃないよこれ。それでも二時間じゃやや不足だって言うんだから恐ろしいもんだよね」

 やや低音の声から覇気はあまり感じられない。スーツを着て記者の腕章をしていた方がまだ似合う男性は素人じみた感想を口に出す。

 ただし一つだけ明らかに違和感を抱く単語が一つあった。
 それは『向こう側』。すなわち彼が、璃佳が言っていた帰還組の一人、鳴海慎吾なるみしんごである。
 彼は孝弘達と同様に帰還者である。とある事故に巻き込まれ孝弘達とは別の異世界に転移したいわゆる転移組である。彼は魔法能力者であったものの、大した能力は持たず適正も微妙であった為魔法軍人にはならなかった。
 異世界ではこれまで過労働気味だった事もあってのんびり過ごそうとしていたらいつの間にか孝弘達と同じように世界の危機に巻き込まれるようになり、なんだかんだとボヤきつつも世界を救ったのである。

 その彼は異世界を救った後に帰還を選択。向こう側の世界が転移魔法の再開発に二年の時間を要した為多少異世界滞在歴が長引いたものの、合計八年の滞在で日本に帰還。比較的早い段階で政府の帰還組調査チームに発見され、四年が経過して今に至るといった具合だった。

「今でも本当はのんびり過ごしたかったんだけどねえ。まさかこっちでも戦争が起きて、しかも異世界からの侵略者だとは思わないよなあ」

 自身の武装である身長と同じくらいの魔法長杖をトントンと甲板に軽く叩きながら、鳴海は独りごちる。
 そうしていると、後ろから声がした。

「先生、こんなところにいたんですか」

「もうー、先生はいっつもふらっと出るんだからぁ」

 聞こえた声の一つは男性のそれ。もう一つは女性の声だった。
 鳴海は振り返ると見知った顔がいた。ただし格好は鳴海と同じ軍服である。

「おや、アルトくんにカレンさん」

「ここにいるだろうと思ってましたけど、正解でしたね」

「アルトと先生はどこにいるんだろうと言ってたんですよー。でも、昔からよく夜風に当たっていたから上だろうって予想、当たりでしたねー」

「さすが双子。やっぱり息ぴったりだね」

「当然ですよ」

「ふふーん。当たり前ですー」

 彼がアルトにカレンと呼んだ二人は、外見の要素としては鳴海と真逆だった。

 アルトと呼んだ男性は二〇代初頭くらい。ドラマや映画に出てきそうなまさにイケメンといった感じで頭髪はやや暗めの茶髪。アジア系の顔立ちに近いが、鼻立ちが高くスッキリと印象を受ける。身長も鳴海に比べ一回り高い一八五センチ。顔立ちも相まって街中にいたら多くの女性が振り返るだろう。

 カレンと呼ばれた女性も二〇代初頭くらい。こちらもアルトと同じく映画やドラマに出てきそうな美女といった感じである。ただしまだ美少女の頃の様子も残していた。身長は一六五センチ以上と日本人女性の平均身長よりやや高め。髪の毛はセミロングで色はアルトと同じ暗めの茶色。体型はスレンダー寄りだが、胸部の膨らみはそれなりにあり水帆よりやや小さめといったくらいだろうか。やや間延びした喋り方も特徴の一つだろう。

 さて、この二人だが帰還者ではあるもののかなり特殊なタイプである。というのも、地球世界の住人ではない。元異世界側の住人で、鳴海の帰還に際して一緒に来た同行組である。
 よって二人の鳴海有都なるみアルト鳴海華蓮なるみカレンという名は日本で取得した戸籍の名であり、本名は違う。有都の本名はアルト・ルドルボード・クレンシュルト。華蓮の本名はカレン・ルドルボード・クレンシュルト。異世界側の一地域を治める小貴族の双子で、とある事件で没落後に鳴海に拾われ彼に師事。才能を開花させて鳴海と共に世界を救った後に身寄りがないからと一緒に日本にやってきたから、双子の場合は名が二つあるのだ。

「さーて、二人とも。迎えに来てくれて早速ですがプチ授業だよ。陸の方をご覧なさい」

「うっわ、すっげえ。こっちに来てから三年間で定期的に軍の訓練には参加してましたけど、非公式レベルとは訳が違いますね。訓練と実戦じゃまるで違うから当たり前ですけど」

「これが現代兵器。いつ見ても格が違いますよねー。戦闘機にヘリに無人機。ばんばーんって砲撃してるのが速射砲でしたっけー?   それであの音が違うのがレールガン?    雷属性魔法を応用した魔法科学、すっごいなー」

「あれでも攻撃としては前哨戦だけどねえ。ある意味で本番だけど、本チャンは僕達上陸軍。僕も軍の知識は素人だから詳しいことはあまり言えないけれど、上陸部隊が少しでも戦いやすくなるようにと準備攻撃をしているそうだ」

「これで準備攻撃。文明レベルの違いだよなあ」

「ほんとにねー。私達は元々貴族で学問の下地があったし、先生に向こうでずっと勉強を教えて貰ってたからこっちに来てからのギャップは少なかったけれど、科学力と魔法科学力については段違い。あの魔法科学レールガンなんて数基あったら小国一つは滅ぶんじゃないかなー」

「だろうね。でも、あいにく侵略者は艦載レールガンだけじゃどうにもならない。その結果が今ってとこだね」

「政府の調査チームと先生のおかげでこっちの高校に通えて、ちょっと落ち着いたら夢の大学生活!   って思ってたんだけどなあ」

「そーそー。神聖帝国とかっていう訳の分からない人達とCTなんてバケモノのせいでこれだもん。平和が一番なのにねー」

 有都と華蓮は心底残念そうに言う。

 鳴海が帰還して四年、つまり双子がこの世界に根を下ろすと決めて四年が経つ。命の恩人で最早家族同然の鳴海と生活を共にしている二人は、元々の学問習得に加えて鳴海が家庭教師をしていたこともあって中学レベルの勉強はあっさり修了しており、帰還からやや経ってから去年までの三年間で高校を卒業。諸々の準備や調整を経て来年からは大学に通おうと思っていた所に本大戦が始まってしまい、その夢はお預けどころか無くなってしまう危機となってしまった。残念そうにするのも無理はないだろう。

「それについては首がちぎれる勢いで同意だね。せっかく帰還したんだから平和に暮らしたかったけど、この世界が訳の分からないヨソモンに侵略されちゃ元も子もないからね。君らが安心して安全に暮らせる生活を取り戻すためにも、おじさん頑張らなきゃな」

「先生だけじゃないですよ。俺も頑張ります」

「わたしもわたしもー。先生のためにも、アルトのためにも。それに、この世界で出来た友達のためにもね」

「いい目をしているよ、二人とも。じゃ、その為にも作戦の確認を改めてしていこう。何せ、僕達の役目は特殊だからね」

『はいっ!!    先生!!』

 日本魔法軍中央即応連隊派遣分隊、鳴海慎吾特任大尉。鳴海有都特任中尉。鳴海華蓮特任中尉。非公認ながらもA+ランク――限りなくSランクに近い――の三人。
 異世界においては歴戦の猛者である彼等は、この世界では初となる戦場に立つこととなるのであった。
 上陸開始まで、あと一時間のことだった。
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