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第5章 関東平野西部奪還編
第6話 白ローブとの再会と戦闘
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・・6・・
『目標無人機から視認。甲府の時のヤツだね。よりにもよって、このタイミングで出てくるなんてね』
無線から聞こえる璃佳の声は、焦りは無いものの厄介なのが出てきやがったという感情が混じっていた。
目の前に現れた白ローブは、捕虜への尋問でも謎が多い人物である。だが、以前のようにまるで謎ではない。
眼前の白ローブが皇帝直属の精鋭部隊で、捕虜の情報通りならば最低でもAランク以上の第一特務のような高練度揃いの集団である事は璃佳や孝弘達は知っていたのである。
「推定A+以上の白ローブです。今回は片手剣も持っています。ヘリと一緒に帰投するわけにはいきませんでした」
『仕方ないよ。米原少佐、五分から一〇分持ちこたえて相手をその場に留まらせて。空軍の無人攻撃機を出す。私も部下を連れて行くから』
「了解」
璃佳は自分も向かうことを孝弘に伝える。
白ローブだけなら孝弘達三人で対処出来るだろう。だが、周辺にはCTもいる。今は何故か数百メートル向こうから孝弘達の方へ動こうとはしていないが、いつ向かってくるかは分からない。いくら孝弘達でも白ローブを相手にしながら有象無象のCTを相手にするのはやや分が悪かった。
幸い、千有莉を乗せたヘリは安全圏に離れつつある。孝弘はCTが大挙して押し寄せて来た時の作戦も頭で組み立つつ、白ローブを睨んだ。
「話ハ終ワッタか? マア、ワタシがココニイル理由が無くナッテしまってドウシタモノかと思ってイルノダガナ」
「理由? あぁ、女の子の事ね。残念だったわね。おあいにくさま、少しどころかだいぶ遅かったわよ?」
「ミタイダナ。ソコの女の言う通リダ。ダガ、ノコノコと帰るワケニモイカンノデナ。ソコの二人ガイルのは良くないし、ドウセ女、お前も強いノダロウ? 戦イタクないのだが、仕方あるマイ」
ため息をついた白ローブは瞬間、加速魔法を用いて瞬時に距離を詰めてきた。恐らく事前に発動準備をしていたのだろう。孝弘は甲府の時には分からなかった点ではあるものの、帰還後からこれまでで一番強い相手だと改めて認識をした。
ただし、視える範囲だ。孝弘は短縮詠唱で魔法障壁を多重展開する。並行して二丁の魔法拳銃に魔力を再充填。白ローブが攻撃後の反撃に備える。
「反則ジミタ魔力壁ダナ。が、難攻不落デハあるマイテ」
「ちっ、ほぼ割ってみせるか」
白ローブが持っていた片手剣は持ち手や装飾部に宝石がいくつか散りばめられており、明らかに魔法剣だった。威力が増幅されているのだろう、孝弘の魔法障壁ですら一枚を残して全壊するレベル。彼は久しぶりに冷や汗を一筋垂らした。今までと違う、油断ならない相手だと。
しかし孝弘は全く怖気付いていなかった。
「ショット」
彼はバックステップで白ローブとの距離を開けて銃弾を三発放つ。敵の魔法障壁によって防がれるのは織り込み済みで、さらに三発。しかしローブ男の魔法障壁は二割残っていた。
(魔法障壁の硬度もかなりある。精鋭部隊の名は伊達では無いか。けど、こっちは俺だけじゃない)
孝弘がさらに牽制で三発放つと、流石に白ローブも一度下がり間を取ろうとする。
それを見逃さなかったのが、水帆と茜だった。
「貫け、『雷撃』」
水帆が放った雷属性魔法は残り二枚に加えて一枚を再展開させたローブ男の魔法障壁を全壊させ、そこへ茜の追撃が入る。
「妖刀、『黄泉送』じゃ。とくと味わえ、小童」
孝弘の攻撃中に仄暗い覇気を漂わせた日本刀を顕現させた茜は、白ローブの眼前に迫ると刀を縦に振り下ろす。
「ヌゥゥ!!」
「ちぃ、よう耐えるの」
「手がシビレそうだ。が、ヤレンことハ無いっ!」
「ほう、押し返すとはのう!」
白ローブ男は茜の斬撃を受け止め、逆に弾き返し空いた左手で初級ながらも連発して火属性魔法を放つ。茜は魔法障壁で魔法を防ぐと一度やや距離を置いた。
その間にも孝弘と水帆は次の攻撃に移っていた。水帆は近接戦だと不利になる相手と判断して後方からの攻撃役に。孝弘は茜が超近接戦に移行したことで自身が得意な近中距離戦へと変える。
「棘よ穿て。『暴風棘』」
「属性変更。風属性弾発射」
孝弘は白ローブから見て三時方向から、水帆は四時方向から同時に法撃と射撃を行う。
「開ケた場ダト厄介ダ」
白ローブ男は焦りの滲む口調で言うものの、器用に魔法障壁をそれぞれの方に向けて防ぐ。ほぼ全壊だったがノーダメージ。さらに追撃を加えた茜の斬撃を魔法片手剣で受けきる。
(魔法障壁の再展開速度が早い。硬度も計算に入れると)
(これはA+じゃないわね。もしかしたら)
(我が主と同等、Sランクもありうるかもしれんの)
三人とも二分程度の戦闘で気付いていた。前回の戦闘では時間が極めて短かった為に大雑把なデータしか取れていなかったというのもあるが、A+の見積もりを甘く感じたのである。
推定Sランク。ジリジリと自分達が押しつつも白ローブは魔法障壁を展開し続け、未だかすり傷程度しか負わず、ごく僅かな隙を見つけては反撃を行う。
白ローブには疲労の色が滲んできていたが、Sランクの二人とSランク相当の茜を相手にしてこの状況に持ち込んでいるのだから、只者では無かった。
三人が戦闘を繰り広げる中で、あまり良くない報告が入った。
『悪い孝弘、水帆、茜! こっちのCTが多くて動けねえ! アラート部隊の半数はこっちに来て貰わねえと持たなくなりそうだ!』
『いつまでも戦う訳にはいかないから私達も数が減ったタイミングでそっちに向かいたいのだけど、あとちょっとの間はいけないかも!』
「了解。こっちで対処する」
「私達の近くにいたCTのいくつかはそっちに向かってるものね。こっちも来始めたけど、なんとかしてみせるわ」
『すまん!』
『三人ともごめん!』
孝弘達の付近にいたCTの動きに変化があった。半数以上は大輝や知花達がいる方に向かい、自分達の方にも向かい始めたのだ。数はそう多くないが、白ローブを相手にしながらだと若干だが苦しくなるかもしれない。
三人の魔力残量にはまだ余裕があるが、なるべく早く援軍が来てくれるとありがたいと感じ始めていた。
「私が雑魚を抑えるしか無さそうね。孝弘」
「茜と二人でローブ男を相手にする。頼んだ。ただし余剰火力があればこっちにも振り向けてくれ」
「了解」
二人は無線でやり取りを終わらせると作戦を変えた。ローブ男もそれには気付いているだろうが、孝弘と茜による間髪入れずの攻撃で水帆に攻撃を差し向ける余裕は無かった。
「二対一にナッタナ?」
「それがどうした」
「抜かしおるのお。じゃったら、儂らの内どちらかを地に伏してみせぃ! 狐火よ、ヤツを燃やせ!」
疲労が濃くなってきたものの挑発を送る余裕はまだあるローブ男へ向けて、茜は狐火を襲わせる。ローブ男は全ての狐火を斬ってみせると、接近した孝弘に牽制の火属性法撃を与える。
(キリがない。援軍はレーダーを見るにあと二分か……。拳銃が持たなくなるかもしれないけれど出力を上げるしか、無いか)
孝弘は巧みなステップで全て回避すると、二回目のマガジン交換を終えた二丁の魔法拳銃に送り込む魔力を一段と強めた。ミシッ、と嫌な音が聞こえてきたが、この際だからと気にしない事にした。
「ハイチャージ、無属性弾、ショット!」
「グゥ!!」
茜の斬撃を弾き返したところへ、孝弘は一気に五発、純粋な魔力の暴力を叩き込んだ。
それでようやく白ローブの魔法障壁を全破壊し、内一発は男の左肩を掠めたのである。
「茜!」
「承知!!」
水帆が接近してきたCTを派手に吹き飛ばす中で、茜は脚に力を入れて一気に距離を詰める。
「薙ぎ払えぃ!!」
「ヌガァァァ!!!!」
たったこの間で白ローブは一枚だけ魔法障壁を再展開させるも、全破壊。風の力を纏わせた刃は男を強く吹き飛ばす。男は瓦礫と化した雑居ビルの残骸に身体を突っ込ませることになった。
「追撃だ、ここでお前を殺す」
孝弘は白ローブ男が吹き飛ばされた方向に向けて、ハイチャージさせた魔法の銃弾を数発放った。
だが、しかし。
「アーアー、モウ。派手にヤラレちゃっテー。『鉄壁ノ盾』」
「なっ!?」
突如として瓦礫の右方向から現れたのは声は女性の低めな声で小柄な人間だった。顔つきは男と言うべきなのか女というべきなのか迷うが整った顔立ちは間違いない感じだった。格好は同じく装飾が派手な白ローブ。腰には片手剣を据え、手には魔法短杖を持っていた。
小柄な白ローブは、突然現れると防御魔法で孝弘の魔法銃弾を半壊であるものの防いでみせる。
(クソッ、新手か!)
「ウッソぉ。ボクの盾が半壊だって? 癪ダナァ。――『多重漆黒弾』」
(おいおい!? 上級魔法を極短縮詠唱だって!?)
孝弘は乱入者の魔法に驚愕しながらも、何発か銃弾を撃ち込んで相殺しつつ抜けてきた闇の球を魔法障壁で防ぐ。
(マジかよ。威力があまり落ちていない。新手もSランク相当か……?)
乱入者は上級魔法を極めて短縮した詠唱で発動させてみせたのだ。これを行えるのは余程の魔法熟練者くらい。威力からして上級クラスにしてはやや落ちているが、極短縮詠唱だから発動速度が異常である。この時点で最精鋭たる要素を完璧に満たしている小柄の白ローブは、大まかな推測とはいえSランクと判断してもおかしくは無いものだった。
流石にシャレにならなくなってきた。救出作戦のはずが、とんでもない事になってしまったと孝弘は痛感せざるを得なかった。
「エー、スッゴク短くシタけどそれも器用に防ぐノ? オ前、スゴイね!」
「黙れ小僧。『頭を垂れよ』」
「イッテェ!! チョット何スンノサ!!」
「ちっ。コレを防ぎおったか」
茜は隙丸出しの小柄な白ローブだったから発動可能かつ効果ありと見込んで呪言を放つが、小柄の白ローブは強く顔を顰めたものの術式抵抗してみせた。
水帆は火力を振り向けたかったが、CTを相手にしており乱入者には法撃は出来たとしてもあの新手ローブに効果を与えられるレベルまで叩き込めると思えず断念する。
孝弘達の状況有利、決着かと思われた盤上を再び元に戻した、新たな乱入者。
多量の魔力消費もやむ無しか、と孝弘が決意しようとした時だった。
『茜、米原少佐、離れて』
無線から聞こえてきたのは璃佳の声。二人が離れた直後に飛来したのは、無人攻撃機六機による数発のミサイルだった。狙いは小柄な白ローブ。丁度白ローブ男を魔法で強引に瓦礫から出したところで、機械仕掛けの槍かよー。と愚痴りながら回避した。
『三人共、緊急離脱。五秒で』
「りょ、了解!!」
孝弘が上を向くと夜中の暗闇にも関わらずそこだけ夜を超えた黒が広がっていた。
その正体は一人しかいない。璃佳だ。孝弘は璃佳が向かっていることは知っていたし、直前までレーダーでどこにいたのかも知っている。
けど、いつの間に。それに、あの魔力量はなんなんだ。凄すぎる。
五秒という短い指定時間で回避する中で、孝弘は舌を巻く。
漆黒は広がる。
「地に這いつくばってろ、クソガキ」
璃佳の静かな、しかし強い罵倒。そして。
「『重力完全喪失』」
「チョ、ソレはイクラナンでも、マズ――」
璃佳が放った重力操作系上級闇属性魔法『重力完全喪失』は小柄の白ローブ周辺二十数メートルの重力を喪失させ、建造物は圧壊。押し潰される。アスファルトも崩れ、地面もは崩壊したかのようにくだけていった。
さらに追い討ちとして、無人攻撃機六機のウェポンベイに残っているミサイル全てを発射。瓦礫の山がさらに砕ける事となった。
『三人共、今の内に離脱! 高崎少佐は茜を抱きかかえて飛んで!』
「はい!」
出来れば敵の死亡確認をしたいところだがそれは難しかった。
孝弘は恐らくあの様子だと死んでない可能性がありそうだと感じていたし、攻撃した璃佳自身も手応えが薄かったから死んでいないと思っている。
しかし、今は作戦外もいいところである現状地点から離脱するのが先決であるし、邪魔になるCTが増えている。あいにくその余裕がない状態だった。
三人は璃佳の命令通り現場をフェアルで急速離脱。新たな白ローブは謎に包まれたままという消化不良のような状態ではあるが、一旦戦闘は区切りとなる。また、作戦自体は最重要救出対象である六条千有莉の救出は成功するも同伴者は全員死亡というやや苦い形で終わったのだった。
『目標無人機から視認。甲府の時のヤツだね。よりにもよって、このタイミングで出てくるなんてね』
無線から聞こえる璃佳の声は、焦りは無いものの厄介なのが出てきやがったという感情が混じっていた。
目の前に現れた白ローブは、捕虜への尋問でも謎が多い人物である。だが、以前のようにまるで謎ではない。
眼前の白ローブが皇帝直属の精鋭部隊で、捕虜の情報通りならば最低でもAランク以上の第一特務のような高練度揃いの集団である事は璃佳や孝弘達は知っていたのである。
「推定A+以上の白ローブです。今回は片手剣も持っています。ヘリと一緒に帰投するわけにはいきませんでした」
『仕方ないよ。米原少佐、五分から一〇分持ちこたえて相手をその場に留まらせて。空軍の無人攻撃機を出す。私も部下を連れて行くから』
「了解」
璃佳は自分も向かうことを孝弘に伝える。
白ローブだけなら孝弘達三人で対処出来るだろう。だが、周辺にはCTもいる。今は何故か数百メートル向こうから孝弘達の方へ動こうとはしていないが、いつ向かってくるかは分からない。いくら孝弘達でも白ローブを相手にしながら有象無象のCTを相手にするのはやや分が悪かった。
幸い、千有莉を乗せたヘリは安全圏に離れつつある。孝弘はCTが大挙して押し寄せて来た時の作戦も頭で組み立つつ、白ローブを睨んだ。
「話ハ終ワッタか? マア、ワタシがココニイル理由が無くナッテしまってドウシタモノかと思ってイルノダガナ」
「理由? あぁ、女の子の事ね。残念だったわね。おあいにくさま、少しどころかだいぶ遅かったわよ?」
「ミタイダナ。ソコの女の言う通リダ。ダガ、ノコノコと帰るワケニモイカンノデナ。ソコの二人ガイルのは良くないし、ドウセ女、お前も強いノダロウ? 戦イタクないのだが、仕方あるマイ」
ため息をついた白ローブは瞬間、加速魔法を用いて瞬時に距離を詰めてきた。恐らく事前に発動準備をしていたのだろう。孝弘は甲府の時には分からなかった点ではあるものの、帰還後からこれまでで一番強い相手だと改めて認識をした。
ただし、視える範囲だ。孝弘は短縮詠唱で魔法障壁を多重展開する。並行して二丁の魔法拳銃に魔力を再充填。白ローブが攻撃後の反撃に備える。
「反則ジミタ魔力壁ダナ。が、難攻不落デハあるマイテ」
「ちっ、ほぼ割ってみせるか」
白ローブが持っていた片手剣は持ち手や装飾部に宝石がいくつか散りばめられており、明らかに魔法剣だった。威力が増幅されているのだろう、孝弘の魔法障壁ですら一枚を残して全壊するレベル。彼は久しぶりに冷や汗を一筋垂らした。今までと違う、油断ならない相手だと。
しかし孝弘は全く怖気付いていなかった。
「ショット」
彼はバックステップで白ローブとの距離を開けて銃弾を三発放つ。敵の魔法障壁によって防がれるのは織り込み済みで、さらに三発。しかしローブ男の魔法障壁は二割残っていた。
(魔法障壁の硬度もかなりある。精鋭部隊の名は伊達では無いか。けど、こっちは俺だけじゃない)
孝弘がさらに牽制で三発放つと、流石に白ローブも一度下がり間を取ろうとする。
それを見逃さなかったのが、水帆と茜だった。
「貫け、『雷撃』」
水帆が放った雷属性魔法は残り二枚に加えて一枚を再展開させたローブ男の魔法障壁を全壊させ、そこへ茜の追撃が入る。
「妖刀、『黄泉送』じゃ。とくと味わえ、小童」
孝弘の攻撃中に仄暗い覇気を漂わせた日本刀を顕現させた茜は、白ローブの眼前に迫ると刀を縦に振り下ろす。
「ヌゥゥ!!」
「ちぃ、よう耐えるの」
「手がシビレそうだ。が、ヤレンことハ無いっ!」
「ほう、押し返すとはのう!」
白ローブ男は茜の斬撃を受け止め、逆に弾き返し空いた左手で初級ながらも連発して火属性魔法を放つ。茜は魔法障壁で魔法を防ぐと一度やや距離を置いた。
その間にも孝弘と水帆は次の攻撃に移っていた。水帆は近接戦だと不利になる相手と判断して後方からの攻撃役に。孝弘は茜が超近接戦に移行したことで自身が得意な近中距離戦へと変える。
「棘よ穿て。『暴風棘』」
「属性変更。風属性弾発射」
孝弘は白ローブから見て三時方向から、水帆は四時方向から同時に法撃と射撃を行う。
「開ケた場ダト厄介ダ」
白ローブ男は焦りの滲む口調で言うものの、器用に魔法障壁をそれぞれの方に向けて防ぐ。ほぼ全壊だったがノーダメージ。さらに追撃を加えた茜の斬撃を魔法片手剣で受けきる。
(魔法障壁の再展開速度が早い。硬度も計算に入れると)
(これはA+じゃないわね。もしかしたら)
(我が主と同等、Sランクもありうるかもしれんの)
三人とも二分程度の戦闘で気付いていた。前回の戦闘では時間が極めて短かった為に大雑把なデータしか取れていなかったというのもあるが、A+の見積もりを甘く感じたのである。
推定Sランク。ジリジリと自分達が押しつつも白ローブは魔法障壁を展開し続け、未だかすり傷程度しか負わず、ごく僅かな隙を見つけては反撃を行う。
白ローブには疲労の色が滲んできていたが、Sランクの二人とSランク相当の茜を相手にしてこの状況に持ち込んでいるのだから、只者では無かった。
三人が戦闘を繰り広げる中で、あまり良くない報告が入った。
『悪い孝弘、水帆、茜! こっちのCTが多くて動けねえ! アラート部隊の半数はこっちに来て貰わねえと持たなくなりそうだ!』
『いつまでも戦う訳にはいかないから私達も数が減ったタイミングでそっちに向かいたいのだけど、あとちょっとの間はいけないかも!』
「了解。こっちで対処する」
「私達の近くにいたCTのいくつかはそっちに向かってるものね。こっちも来始めたけど、なんとかしてみせるわ」
『すまん!』
『三人ともごめん!』
孝弘達の付近にいたCTの動きに変化があった。半数以上は大輝や知花達がいる方に向かい、自分達の方にも向かい始めたのだ。数はそう多くないが、白ローブを相手にしながらだと若干だが苦しくなるかもしれない。
三人の魔力残量にはまだ余裕があるが、なるべく早く援軍が来てくれるとありがたいと感じ始めていた。
「私が雑魚を抑えるしか無さそうね。孝弘」
「茜と二人でローブ男を相手にする。頼んだ。ただし余剰火力があればこっちにも振り向けてくれ」
「了解」
二人は無線でやり取りを終わらせると作戦を変えた。ローブ男もそれには気付いているだろうが、孝弘と茜による間髪入れずの攻撃で水帆に攻撃を差し向ける余裕は無かった。
「二対一にナッタナ?」
「それがどうした」
「抜かしおるのお。じゃったら、儂らの内どちらかを地に伏してみせぃ! 狐火よ、ヤツを燃やせ!」
疲労が濃くなってきたものの挑発を送る余裕はまだあるローブ男へ向けて、茜は狐火を襲わせる。ローブ男は全ての狐火を斬ってみせると、接近した孝弘に牽制の火属性法撃を与える。
(キリがない。援軍はレーダーを見るにあと二分か……。拳銃が持たなくなるかもしれないけれど出力を上げるしか、無いか)
孝弘は巧みなステップで全て回避すると、二回目のマガジン交換を終えた二丁の魔法拳銃に送り込む魔力を一段と強めた。ミシッ、と嫌な音が聞こえてきたが、この際だからと気にしない事にした。
「ハイチャージ、無属性弾、ショット!」
「グゥ!!」
茜の斬撃を弾き返したところへ、孝弘は一気に五発、純粋な魔力の暴力を叩き込んだ。
それでようやく白ローブの魔法障壁を全破壊し、内一発は男の左肩を掠めたのである。
「茜!」
「承知!!」
水帆が接近してきたCTを派手に吹き飛ばす中で、茜は脚に力を入れて一気に距離を詰める。
「薙ぎ払えぃ!!」
「ヌガァァァ!!!!」
たったこの間で白ローブは一枚だけ魔法障壁を再展開させるも、全破壊。風の力を纏わせた刃は男を強く吹き飛ばす。男は瓦礫と化した雑居ビルの残骸に身体を突っ込ませることになった。
「追撃だ、ここでお前を殺す」
孝弘は白ローブ男が吹き飛ばされた方向に向けて、ハイチャージさせた魔法の銃弾を数発放った。
だが、しかし。
「アーアー、モウ。派手にヤラレちゃっテー。『鉄壁ノ盾』」
「なっ!?」
突如として瓦礫の右方向から現れたのは声は女性の低めな声で小柄な人間だった。顔つきは男と言うべきなのか女というべきなのか迷うが整った顔立ちは間違いない感じだった。格好は同じく装飾が派手な白ローブ。腰には片手剣を据え、手には魔法短杖を持っていた。
小柄な白ローブは、突然現れると防御魔法で孝弘の魔法銃弾を半壊であるものの防いでみせる。
(クソッ、新手か!)
「ウッソぉ。ボクの盾が半壊だって? 癪ダナァ。――『多重漆黒弾』」
(おいおい!? 上級魔法を極短縮詠唱だって!?)
孝弘は乱入者の魔法に驚愕しながらも、何発か銃弾を撃ち込んで相殺しつつ抜けてきた闇の球を魔法障壁で防ぐ。
(マジかよ。威力があまり落ちていない。新手もSランク相当か……?)
乱入者は上級魔法を極めて短縮した詠唱で発動させてみせたのだ。これを行えるのは余程の魔法熟練者くらい。威力からして上級クラスにしてはやや落ちているが、極短縮詠唱だから発動速度が異常である。この時点で最精鋭たる要素を完璧に満たしている小柄の白ローブは、大まかな推測とはいえSランクと判断してもおかしくは無いものだった。
流石にシャレにならなくなってきた。救出作戦のはずが、とんでもない事になってしまったと孝弘は痛感せざるを得なかった。
「エー、スッゴク短くシタけどそれも器用に防ぐノ? オ前、スゴイね!」
「黙れ小僧。『頭を垂れよ』」
「イッテェ!! チョット何スンノサ!!」
「ちっ。コレを防ぎおったか」
茜は隙丸出しの小柄な白ローブだったから発動可能かつ効果ありと見込んで呪言を放つが、小柄の白ローブは強く顔を顰めたものの術式抵抗してみせた。
水帆は火力を振り向けたかったが、CTを相手にしており乱入者には法撃は出来たとしてもあの新手ローブに効果を与えられるレベルまで叩き込めると思えず断念する。
孝弘達の状況有利、決着かと思われた盤上を再び元に戻した、新たな乱入者。
多量の魔力消費もやむ無しか、と孝弘が決意しようとした時だった。
『茜、米原少佐、離れて』
無線から聞こえてきたのは璃佳の声。二人が離れた直後に飛来したのは、無人攻撃機六機による数発のミサイルだった。狙いは小柄な白ローブ。丁度白ローブ男を魔法で強引に瓦礫から出したところで、機械仕掛けの槍かよー。と愚痴りながら回避した。
『三人共、緊急離脱。五秒で』
「りょ、了解!!」
孝弘が上を向くと夜中の暗闇にも関わらずそこだけ夜を超えた黒が広がっていた。
その正体は一人しかいない。璃佳だ。孝弘は璃佳が向かっていることは知っていたし、直前までレーダーでどこにいたのかも知っている。
けど、いつの間に。それに、あの魔力量はなんなんだ。凄すぎる。
五秒という短い指定時間で回避する中で、孝弘は舌を巻く。
漆黒は広がる。
「地に這いつくばってろ、クソガキ」
璃佳の静かな、しかし強い罵倒。そして。
「『重力完全喪失』」
「チョ、ソレはイクラナンでも、マズ――」
璃佳が放った重力操作系上級闇属性魔法『重力完全喪失』は小柄の白ローブ周辺二十数メートルの重力を喪失させ、建造物は圧壊。押し潰される。アスファルトも崩れ、地面もは崩壊したかのようにくだけていった。
さらに追い討ちとして、無人攻撃機六機のウェポンベイに残っているミサイル全てを発射。瓦礫の山がさらに砕ける事となった。
『三人共、今の内に離脱! 高崎少佐は茜を抱きかかえて飛んで!』
「はい!」
出来れば敵の死亡確認をしたいところだがそれは難しかった。
孝弘は恐らくあの様子だと死んでない可能性がありそうだと感じていたし、攻撃した璃佳自身も手応えが薄かったから死んでいないと思っている。
しかし、今は作戦外もいいところである現状地点から離脱するのが先決であるし、邪魔になるCTが増えている。あいにくその余裕がない状態だった。
三人は璃佳の命令通り現場をフェアルで急速離脱。新たな白ローブは謎に包まれたままという消化不良のような状態ではあるが、一旦戦闘は区切りとなる。また、作戦自体は最重要救出対象である六条千有莉の救出は成功するも同伴者は全員死亡というやや苦い形で終わったのだった。
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たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR
ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。
だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。
無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。
人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。
だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。
自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。
殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。
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