異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

文字の大きさ
上 下
56 / 250
第4章 関東平野橋頭堡構築編

第13話 隊長格への尋問

しおりを挟む
 ・・13・・
 マジックジャミング装置は知花が既にある程度の目星をつけられていたから、そう苦もせず発見された。
 見つかった装置は機械仕掛けではなく直径五〇センチの水晶型で、まるで古典的な占い師が使うようなものであった。
 装置が破壊されると、各方面から複数の探知方式が回復し八王子市街周辺が見渡せるようになった報告が入る。
 敵を見通す視界を取り戻し、陸空魔法軍本来の万全な連携を使えるようになった各部隊の侵攻スピードは早まっていく。

 昼過ぎになると八王子中心市街地を奪還。さらに北進して北八王子駅周辺や豊田駅周辺まで進出していく。
 南部方面についても高尾や片倉方面から八王子みなみの駅周辺まで進出し、CTを駆逐していった結果、東京工科大学から東に位置している北野台等も確保するに至った。
 ただし、南部方面については確保であって完全に制圧した訳では無い。この辺りは住宅が多数集まっているいわゆるニュータウンと呼ばれる密集住宅街で、家の中に入り込んでいたCTまで対処するとなると時間がかかるからだ。

 これらを虱潰しらみつぶしのようにCTを探索・撃破するとなると時間がかかる為、CTがいた周辺を区画ごと吹き飛ばすか焼くかせざるを得ず、部隊の休息上必要とされる場合を除いて奪還作戦時に爆撃を逃れた住宅も破壊されることとなってしまう。作戦の為であり仕方がない事であるし、そもそも持ち主が一家丸ごと死亡しているケースも多い。将兵に余計な負担をかけない為に、そして犠牲を減らす為にはやむを得ないことであった。

 さて、このように夕方までには八王子市街周辺まで進出し翌日には日野方面の進出や相模原方面への進出も現実的になった各部隊。その中で孝弘達は朝の激戦や昼過ぎまでの戦闘に参加していた事もあり、以降は八王子駅周辺で魔力回復を兼ねた休憩を取りながら味方の後方支援を行っていた。
 特務連隊自体も一部の部隊を除いて八王子中心市街地周辺の警備や大休憩を行うなどしており、朝の激しい戦闘の参加者は互いを労いあっていた。

 ただ、連隊指揮官たる七条璃佳はその場にはおらず、別の場所にいた。捕虜の軽度封印をしておりこの解除は彼女しか出来ないこと。部隊指揮官の高級将校として捕虜の尋問を行う必要があったからだ。
 そして、璃佳は自分がいる高尾の前線司令部付近にとある人物を呼んでいた。孝弘である。

『軽度封印対象尋問の為、四人を代表して米原少佐は仮尋問施設へ向かわれたし。特務連隊長・七条璃佳』

 璃佳からこの通信を受け取った孝弘は三人にこの旨を伝えた上で、たまたま近くにおり司令部付近に行く軽装甲車両に同乗して向かうことにした。
 道中ではまさか富士と甲府の英雄が同乗を頼んでくると思わなかった。万が一があったとしても俺達は絶対死にませんね。等と言った冗談を交わしながら、あれこれと雑談をしている内に高尾駅付近にある、臨時司令部施設になっている高層ビル――わざと爆撃をせずに残していた。初日にCT掃討済み。――に到着した。

「ありがとう。助かったよ」

「とんでもない。家族に自慢出来ますよ。逆にサインまで貰ってしまって、ありがとうございました」

「まさか自分がサインを書く立場になるとは思わなかったけどね。皆、今日からも気をつけて」

『はっ!』

 孝弘は同乗していた兵士達に礼を言うと、すぐそこにある司令部施設ビルへ歩く。
 入口には孝弘を呼び出した人物である璃佳と、副官の熊川がいた。

「急な呼び出しになって申し訳なかったね、米原少佐」

「いえ、大丈夫です。内容が内容でしたし、自分も対象については気になっていたので」

「君ならそう言うと思ったよ。じゃ、早速向かおうか。仮設尋問室は地下にあるから」

「はっ」

 司令部施設前に立っている歩哨の敬礼を受けて答礼した三人は司令部施設内に入る。作戦二日目ながらビルの中は司令部としての体裁を整えつつあり、多くの将兵が屋内を忙しそうに行き交っていた。
 途中、孝弘は二人と会った時に気になっていたことを質問する。

「七条大佐。茜の姿が見えないのですが、召喚解除されましたか?」

「まあね。彼女の召喚ランクだと私の魔力でも三日以上の維持はきつくってね。召喚時に魔力を一番消費することを踏まえても、そろそろ解除しとこうかなって」

「なるほど。いくら七条大佐でも、戦術級ともなれば相応に消費するわけですね」

「私だって人間だからね。その私だって、君達の事は大概だと思ってるよ。特に高崎少佐。砲兵隊も真っ青の魔法火力なんて、人の域超えてると思うんだけどなあ」

「ははは……。自分も水帆の保有魔力と効率運用は桁違いだと思いますよ」

「やはりあちらでの経験か?」

「ええ、熊川少佐。こっちじゃ絶対に経験出来なかった戦場にかなりいましたから」

「そうじゃなきゃ説明がつかないだろうな。魔法は使えば使うほど効率運用が可能になる。見たところ相当手馴れていたし、不要な詠唱部分をカットもしていた。戦時じゃ無ければ教導隊から教官職を熱望されてたろうさ。勿論、君含めた三人もだが」

「ありがとうございます。戦時でなければ良かったのですが、仕方ありませんね」

 思わず本音が出た孝弘だったが、熊川も璃佳も咎めはしなかった。
 話を変えた方がいいと感じたのか、璃佳は本題を切り出すことにした。

「米原少佐、今から尋問する相手は私達が交戦した近衛部隊の隊長格。それは知ってるよね?」

「はい。簡易情報を大体は目を通しました。先に尋問をされていたとのことですが、何かめぼしい情報は手に入りましたか?」

「微妙、かな」

 璃佳は芳しく無さそうな表情をしていた。どうやら簡単に口を割ってはくれていなかったらしい。

「喋ってくれたのは、名前と所属。それに階級。あっちにも捕虜になったら喋るなって規則があるのかもね。ちなみに私達の階級でいうと大尉って事までは分かった。けど、近衛騎士団に関する情報もあんまりかなあ。このまま遅々として進まないのであれば、自白剤や魔法自白剤の投与の必要があるかもね」

「なかなかに口が硬いようですね。本人の言葉通りなら近衛ですし、ペラペラ喋らない辺り訓練されているのかもしれません」

「だろうね。逆に人類側の方が捕虜になった時に喋っているかどうかの方が心配かも。あっちに言語解析機能機器や魔法があればの話だけどさ」

「日本軍もですが、各国軍でも敵に捕縛された例がごく少数ながらあるようですね。CTと交戦する事がほとんどですから数える程しかありませんが、現に我々が理性のある敵と度々接触している以上、想定される事態ではありますが」

「上は生存を絶望視しているのもやむ無しって所だね。恐らく理性のある敵が本司令部機能を持った上でまとまった数でいるのは前線から奥の方だし」

「今はまだ救出作戦が出来る段階ではありませんからね……」

「そゆこと」

 自分達が少数ながらも敵と交戦し捕虜を得ているのと同じように、敵側に人類側の将兵が捕縛されている情報はここ一ヶ月で手に入るようになっていた。敵の捕虜から得た情報ではなく情報解析の結果であることがほとんどだが、その点も一定以上の階級者であればほぼ知っている事実であった。

「ああ、そうだ。もうちょっとしたら尋問室に着くから先に伝えておくけど、今回の対象は君達のアレ|《アルストルム》とはほぼ無関係だと思うよ。他の捕虜からも情報が無いのもあるけどね。ただ、隊長格がほとんど話さないから確定とは言えない。今回の尋問はカメラ無しだし、私と熊川の他に人はいない。安心して」

「ありがとうございます」

 三人がいくつかの話をしているうちに地下区画にある尋問室――元はただの小さい倉庫室だった部屋――に到着する。

「お待ちしておりました、大佐」

「ご苦労様。ここから先は知っての通りだから」

「はっ」

 歩哨の兵士と短くやり取りをすると、三人は尋問室に入る。
 ドアが閉められ、高度な防音魔法を熊川が施した。
 孝弘の目の前にいたのは朝に交戦したばかりの、顔を俯かせている隊長格だった。戦闘時は軽鎧で体格等が分かりづらかったが、こうして目の前でみると意外と普通の人間だった。髪の毛はくすんだ金髪。軍人として鍛えているのもあるのか、がっしりとした体格ではあった。ただし、俯いているせいなのかほりょになったせいなのか、意気消沈としている事で随分と小さくも見えていた。

「…………マタ新シイ尋問者カ。誰ガ来テモ話サナイゾ」

「その手の尋問じゃないから安心しなよ。ま、そのまま口を割らないっていうならこっちも手段があるから覚悟しておくことだね」

「拷問カ。野蛮ナドトハ言ワン。我ラモ戦争デアレバ当タリ前ニスル」

「あっそ。さ、米原少佐」

「はっ」

 璃佳が孝弘の苗字を口にしたが、隊長格は反応しなかった。この時点で孝弘は隊長格がアルストルムとは無関係である可能性が高いと考えた。無論、知っていたとして表情に出していない可能性も皆無とは思っていなかったが。
 孝弘は椅子に座ると、口を開く。アルストルムでも何回か尋問は経験した事があるが、今回はあえて威圧的にはしないことにした。

「今回尋問を担当する米原だ。何でもいいから話してくれる事を期待するよ」

「…………フン」

 孝弘による尋問が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

処理中です...