異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第4章 関東平野橋頭堡構築編

第1話 北海道からの完全撤退を前に駆けつけるは

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 ・・1・・
 10月18日
 午後1時半過ぎ
 函館市北部・函館最終防衛線

 孝弘達のいる中央高地方面軍が甲府方面奪還作戦で勝利を収めた頃、北海道南部の函館市では作戦が最終局面を迎えていた。

『北海道撤退作戦』

 戦争突入から間もなく三ヶ月が経過しようとしているが、よく踏ん張っていた北海道方面の日本軍も遂に限界を迎えようとしていた。

 北海道防衛を司る陸軍三個師団、海兵隊一個師団、魔法軍一個師団及び北の守護者『北方特務戦闘団』で構成される北方方面統合軍は、一人でも多くの避難民を本土に逃がそうと海軍と連携して奮闘していたが、CTはその兵力が尽きることを知らず徐々に押されていたのである。
 本土は関東地方を中心にもう一箇所門が開いたことで手一杯。期待していた程の援軍は得られておらず、ギリギリでやりくりしていた。

 しかし、それも一〇月を迎えた時点で悲観的な予測が現実を帯びることとなる。
 北海道からの完全撤退。道民及び観光客の避難完了率は一〇月一日時点で八割。恐らく二〇日前後には全完了しているのではないかと分かった時点で軍も撤退しようとなったのである。
 旭川は既に落ち、札幌も最早風前の灯火。であるのならば道南以外の兵力は先行して本土に移し、後は道南展開の兵力で最後の避難民を本土に送れば軍も本土へ。
 作戦は速やかに裁可され、大阪に移転した軍中央統合本部も許可が出た。
 北方方面統合軍は、中央からゴーサインが出た時点で用意していたプランを即発動。道南以外の残存兵力約一五〇〇〇を本土へ送った。

 そして、一〇月一九日。
 道南展開兵力約五〇〇〇(陸軍二〇〇〇、海兵隊二〇〇〇、北方特務戦闘団約一〇〇〇)は、最後の避難民を輸送する輸送艦及びフェリーからCTを守る為に激戦を続けていた。


 ・・Φ・・
 「蓼科たてしな中佐!   国道二二八号線の防衛ライン突破されました!   これ以上の戦線維持は困難です!」

 「クソッ、やはり持たなかったか!   避難民のフネはどうだ!?」

 「全員乗せたと報告あり!   先程出港!   次は我々を乗せる輸送艦だけです!」

 「そいつは良い報告だ!   民間人が全員避難出来たんならそれでいい!   もうちっと踏ん張るだけだ!」

『北方特務戦闘団』団長、蓼科大吾たてしなだいご中佐は聞きたかった報告を受け取って、余裕が無いなかで久しぶりに笑みを見せる。民間人を乗せた船が出るまでは絶対死守命令が出ていたが、出港したのならばそれも間もなく解除されるからだ。
 しかし、今の状況では後退するのも難しかった。

 「エネミーレポート!」

 「道南方面の敵想定兵力約一〇〇〇〇〇以上!   最先鋒は戦闘団司令部まであと三キロです!」

 「多すぎて反攻する気にもならねえな……。三〇分持たせろ!   そしたら撤退だ!    トラップを撒きながら函館港に向かう!   友軍支援はどうだ?」

 「沖合の海軍一個艦隊、第四次対地攻撃実施中!   艦載機部隊による第三次攻撃はあと一〇分で到着!   三沢の空軍からも第三次攻撃として一個飛行大隊の支援あり!」

 「ありがてえ!   何がなんでも持たせろ!   五稜郭まで迫られるのは俺達が撤退する頃だぞ!」

『了解!!』

 蓼科は部下達を鼓舞激励するが、いかんせん多勢に無勢。海軍や空軍の支援はあるものの、すぐに戦闘団の移動司令部付近まで迫られてしまう。

 「彼我の距離、一〇〇〇切りました!」

 「各中隊単位統制銃撃!    魔力装填後射撃に移れ!」

 「了解!」

 蓼科は各中隊に命令を出し、自分のいる本部中隊にも魔法銃射撃の準備をする。彼自身、A+ランクの魔法能力者であるから多少の時間は稼げる。生きて帰るつもりだが、場合によっては己の魔法能力を十分に発揮した上で戦死する覚悟はとうに出来ていた。
 部下もそれは同じ。避難民全員を逃すことにはほぼ成功したのだから、大戦果。あとは生き残るだけで俄然士気は高いが、生きて帰れる保証が無いのは元々。残りの力を全て振り絞るつもりだった。

 「距離八〇〇!」

 「七〇〇で撃て!   火属性爆発系!   広散布射撃!」

 ヘルハウンド型が先行し、大型、人型と続く。距離七〇〇になるのはあっという間だった。

 「各隊、撃てェ!!」

 本部中隊含め戦闘団本部付近にいた約四〇〇の将兵は統制魔法銃射撃を行う。
 ほぼ同時に行われた陸軍の砲撃と機関銃撃、海兵隊の攻撃と共に高密度の火線が生まれた。

 着弾の音は凄まじかった。数多の小型CTは肉塊と化して吹き飛び、大型CTも絶命する。
 二度、三度、四度、五度と、統制魔法銃射撃が行われる。その度にCTは肉をばら撒く。
 それでもバケモノは数が減らなかった。

 「ヘルハウンド型距離四五〇!」

 「各個射撃または法撃へ移行!   今のうちに陸さんと海兵隊さんを下げさせろ!   あそこあたりずっと出ずっぱりだろ!?」

『馬鹿言わんでくださいよ、戦闘団長。陸はまだまだやれますって。――機関銃どんどんぶっぱなせ!   銃身が焼けついても構わん!   どうせ捨ておく!』

『海兵隊も後退は選ばねえぞ!   なあ、てめえら!!』

『応っっ!!    撤退なんてクソくらえだ!!』

 「ったく、バカヤロウ共め……!   だが感謝する!」

 まだ余裕のある戦闘団で陸と海兵隊を支えるつもりだったが、どうやらどっちも後退するつもりはないらしい。蓼科は悪態をつきつつも、表情は嬉しそうだった。
 攻撃は続く。CTを寄せつけず、距離二〇〇に詰まっても彼等は逃げない。近接戦闘上等の構えである。
 距離は一五〇へ。大型CTがその体躯に相応しく壁に見える頃だった。

 「フレンドリーレポート入りました!    七時方向より数二五〇!   二手に分かれ、そのうち一〇〇がこちらへ向かっています!」

 「援軍だぁ!?   救いの神かよってとこだが、こんな時に来るたぁどこの大バカ野郎だ!」

『大バカ野郎こと、ウェストウィザード只今参上!    間に合って良かったですよっとぉ!   各員、目標ロック!』

『ロック完了!』

『てぇ!!』

 無線を送ってきた主は澄んだ声音の女性だった。地上の彼等が上を見上げると、そこにいたのはフェアルで空を舞う約一〇〇の精鋭達。中心にいたのはセミロングの黒髪の女性だった。
 その彼女が発射命令を出すと地上に刺さったのは、無属性爆発系。純粋な魔力の暴力がCTを襲った。
 それだけでは無い。

『風よるえ、魔術の暴力を。風よ切り刻め、鋭利えいりな刃を研ぎ澄まして。風よ、罪在つみありしバケモノを罰せよ。祖国を守らんが為に。風神が力の一端はワタシに宿る。顕現けんげんせよ、『風神刃大乱舞ゴッド・オブ・ザ・ウィンズ』』

 緑白色りょくはくしょくに輝く巨大な魔法陣が現れた。
 魔法陣から射出されたのは数えきれない程の風の刃。神がバケモノへ裁きを与えんが如く、風刃は大量のCTを切り刻んでいく。
 大魔法が終わってから、中心から直径二キロには血と肉しか残っていなかった。
 その大魔法とは風属性戦術級魔法、『風神刃大乱舞』。これをたった一人で行使可能な人物を、蓼科は一人しか知らなかった。

 「西方特殊作戦大隊の『大風塵の魔術師』!   今川中佐か!」

 上空約五〇〇メートルにいるから蓼科が賢者の瞳を使って視点ズームをすると、セミロングの女性、西方特殊作戦大隊大隊長・今川月子いまがわつきこ中佐は手をヒラヒラと振っていた。目鼻立ちの整った、モデルにいそうな美人だと蓼科は感じる。何度か見た事のある人物だが、以前から思っていたし今もそう思っていた。

『そのとーり!!    青森から大阪へ帰還命令が出かけてたんですけど、そっちの窮状きゅうじょうを知りましてね。近いからいいでしょって中央に掛け合って、来たんです!   いやぁ、ホント間に合って良かったですよ!』

 「あんたら命の恩人だよ!   感謝する!」

 ニコニコとした表情を向ける彼女に対して、北方特務戦闘団だけではなく、戦闘を続けながら陸や海兵隊の軍人からも大歓声が上がる。西方特殊作戦大隊の隊員達は手を振りながら攻撃を続けていた。

『お気になさらず!   大隊戦闘員で援護しますから、後退を!   避難民輸送船団は既に沖合に向かってて、もうすぐ貴方達を乗せる船も港に着きますから、さぁさぁ早く下がって!   多少は戦って貰いますけど、私達と空軍で援護しますので!』

 「恩に着る!   各部隊後退開始!    事前の作戦通りトラップを撒きながら下がれ!   トラップマーキングは忘れるなよ!」

『はっ!!』

 新たな友軍の登場により、消耗していた北方特務戦闘団は下がり始めた。
 この頃にはさらに追加で空軍の援護部隊が続々と駆けつける。西方特殊作戦大隊の隊員達は圧倒的な力を見せつけ、地上部隊を支援する。

 「撤退戦はあまり好きじゃないですけど、友軍の為です。大隊総員、戦争の時間です。さぁさぁさぁさぁ、宴を開きますよ!   バケモノ共に魔法と火薬のプレゼントをばら撒きましょう!」

『サー、イエッサー!!』
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