異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第3章 中央高地戦線編

第13話 潜入と待ち伏せと

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 ・・13・・
 アンノウン――後日『召喚系超大型種』の名称が付けられる――の処理を終えて従来型CTも撃破した孝弘達や璃佳達は、自分等が開けた傷口を後方から展開し続けている部隊が広げていた為、一時間に満たない休息を取りつつも甲府中心街への進出作戦の確認をしていた。『理性のある敵』が存在するのが確定しプランに一部変更が出たからだ。
 大体の確認を終えると、璃佳と三人のリーダー格の孝弘は先の戦闘の話をしていた。

「なーんか期待外れっていうか、構えて損したよね。お疲れ、米原少佐」

「ありがとうございます、七条大佐。強そうなのは見た目だけど言いますか、ゾンビ映画に出てくる強そうだけど戦ったら意外とそうでも無いのを思い出しましたね」

「あー、あれかー。言われてみれば確かに似てるかも。――っとまあ私達Sランクやウチの連隊とかAランクならどうとでもなるけど、アレは要警戒だね。戦車砲を二発耐える魔法障壁は脅威だし、斬って分かったけどあの外皮は結構硬い。素の防御力も相当ありそうだから戦闘が終わったら詳細報告だね」

「ええ。小銃じゃまず対抗が難しいですから。数がどれだけ出るかも不明ですし」

「召喚士によるものなら召喚士の数が分かんないといけないからねえ。ま、夜までに甲府中心街への足がかりは作っちゃおう。さすがに丸半日の戦闘は他もそうだけど、ウチの連隊も休息がいるからね」

 璃佳の発言に孝弘は頷く。
 既に作戦が開始されて九時間以上が経過していた。最前面で戦い続けた将兵にはそろそろ疲労の色が出てくる頃で、特に第一特務連隊は魔力を使い続けている。いくら高練度の部隊で魔力が減少してからある程度は白兵戦で戦えるよう訓練している第一特務連隊とて、余程の非常時で無い限りは稼働し続けるのは好ましくない。

 また、戦線の拡大に伴い確保地点の防御強化も必要だ。第一特務連隊や前面部隊、機甲部隊が開けた傷口を後方から続く部隊が残敵掃討と拠点構築を行う。これは作戦当初から進出と並行して行われ、甲府までの距離と拠点数から夜は休息も兼ねて一部部隊を除いてあまり前進しないように決まっていた。

 現時刻は午後三時過ぎ。午後五時過ぎの日没まであと二時間程度であるから、後は璃佳の言うように中心市街地への足がかりを作るくらいであった。なお、孝弘達がいる場所は甲府駅から約二キロ半の地点。中心市街地へ入り込むにはやや遅く、とはいえここから全く動かないには早い時間だった。

「七条大佐、今後はどうしますか」

「そうだねえ。とりあえず今日は甲府工業高校辺りを南北ラインとして周辺の残敵掃討と進出の邪魔になる瓦礫の撤去。流石にいないとは思うけど、民間人の捜索。実は『理性のある敵』が潜んでましたなんてことがあったら、これの撃滅もしくは捕縛。あとは『理性のある敵』が夜襲を仕掛けてくるのなら、拠点構築と警戒ラインの構築かな」

「分かりました。索敵は関が得意とする分野なので話しておきます」

「よろしく。四時になったら若干だけ進みつつ周辺警戒と拠点構築に警戒網の設置に動くから、君達はの勘と経験使っていいからアドバイスもお願いね。ウチの連隊はともかく、この国の軍隊はしょっちゅう戦争してたわけじゃないからさ」

「分かりました」

 孝弘は璃佳と話し合いを終えて解散すると、早速璃佳がしていた話を三人にもした。
 それからは璃佳の指示通り日没までに仕事を果たす。知花は自身の魔力探知魔法を『賢者の瞳』と接続、共有化させた。これが後に効果を発揮することになる。

 ・・Φ・・
 甲府は日没を迎えた。
 ここまでで中央高地方面軍は、南部方面が南アルプス市役所付近まで到達。東部方面は近いところで甲府駅から約一八〇〇メートルまで迫っていた。作戦は順調に推移していたのである。
 ただし日没を迎えたからといって何もしない訳では無い。一時拠点として相応の警戒網は各所で設置され、索敵に長ける能力者によって一般的なレーダーや魔力感知レーダーに加え、彼等はピンポイントレーダーの役目も果たしている。

 時刻は午前零時過ぎ。
 孝弘達は夕食も食べ終え明日に備え、歩哨の兵士達に感謝しつつ戦争前には大学のキャンパスだった建物で早めの睡眠を取っていた。
 早朝から甲府市街地に突入するからと、半数以上の将兵は眠りについているかつき始めた。特に能力者達は睡眠を大切にしている。能力者の自然魔力回復は睡眠が最も効果的だからだ。

 しかし、眠りを妨げる者がいるのが戦場の常。午前一時前。それまでスヤスヤと寝ていた知花はぱちりと目を覚ました。
 彼女はまず孝弘を起こす。

「米原くん」

「ん…………。なんだ……、関」

「ネズミが引っかかったみたい。微弱に感じる程度だから魔力隠蔽しながら来てるんだろうけど、すぐ気づいた」

「敵の場所と数は?」

「甲府工業高校付近。自動車学校方面に向かってる。病院か車両基地に向かうのかな。数は一個小隊程度」

「分かった」

 孝弘はすぐさま目を覚まし戦闘モードに頭を切り替える。水帆と大輝を起こし、四人共何かあってもすぐ動けるようにと寝る前に着替えている為、僅かな時間で武装まで準備し璃佳の所へ向かった。璃佳達の動きも早く、熊川を始めとして情報将校は軒並み揃っていた。ただし茜はいない。対象の追跡を遠く目視出来る位置で単独行動をしていた。

「おっ、早いね。すぐ来てくれて助かるよ」

「関の魔力探知に引っかかったみたいで。もう賢者の瞳とC4I2にも共有されているみたいですね」

「ああ。既に対象に悟られないよう、部隊の一部は動いている。まだ対象が動いているから緩やかな半包囲までだがな。――七条大佐、どうなさいますか」

「『理性のある敵』なら過剰戦力でも良いから高練度能力者をぶつけるべきだね。私と米原少佐達Sランクは確定。ただし川島少佐は今回ゴーレムは動かさないように」

「了解です」

 大輝は短く返答、敬礼する。

「あとは川崎とあいつが選抜した二〇名。向こうが一個小隊ならこっちも同数で。私達が相手の居所を知ってるんだからバレない程度で集まっておけばいいでしょ。まー、もし今掴んでるのが囮でどっかから出てきても、このメンツならなんとかなるし。ってわけで川崎ー」

『うす。なんでしょう』

『今すぐ二〇名選抜して』

『了解しました。想定プランで選抜してたの呼びます』

『よろしく。合流地点は後で送る』

『サー』

「さ、じゃあ私達も動こう。作戦はシンプルに。相手の動きによるけど、法撃を浴びせよう。川を渡る所でやれるはず。一人だけ生かして捕虜にして、後は殺してもよし。出来る限り情報を持ってる奴を残したいけど、まあそれは理想で」

 既に動き始めていた川崎少佐と手短に無線を済ませた璃佳は、作戦を手短に伝えて情報将校に引き続き捕捉と情報収集を命じてから、熊川や孝弘達と共に対象が動いている先、荒川西岸へと向かう。勿論、ほぼ音を立てずに進み、完全な魔力隠蔽をした上で。
 JR中央線を挟んで南側に孝弘達と璃佳、熊川が。北側に川崎少佐が展開していく。
 全員が土手に伏せて、息を潜める。
 孝弘は知花に小声で、

「動きはどうだ?」

「病院と車両基地の間辺りにいるよ。魔力隠蔽レベルを上げてるからレーダーには引っかからないだろうけど、わたしなら掴めるかな」

「分かった。そのまま捕捉を続けてくれ。もうそろそろ目視確認も出来るかもしれないけれどな」

 知花の探知で対象の動きは完全に掴んでいる。川を挟んでいるから互いに目視は出来ないが、距離は僅かに約四〇〇メートル。法撃、銃撃共に射程距離にはある。緊張の時間は少しばかり続く。

 四分後。遂に対象が動き始めた。間もなく荒川を渡ろうとしている。
 対象は東岸に達した。動きは遅く、周囲を警戒しているように見える。荒川の水位はここしばらくの晴天でかなり浅いが、水音はごく僅か。知花が微弱だが魔法が発動していることを探知。極力水音を減らそうとしているのだろう。

(潜入に手馴れているようには思えるけれど、完全には隠せていない。相手の実力がこれだけだと読めないが、過剰な心配はいらないのかもな……。)

 孝弘が心中で潜入・隠密行動だけなら脅威に感じるほどではないと分析する。無論、要素が少なすぎて総合判断は出来ないが。
 対象は川の真ん中まで前進した。やや横に広がっての移動。まとまって行動している。
 近くにいた璃佳がハンドサインをした。自分がやる。大輝は土属性で退路を断てとの指示。その後、総攻撃とも。
 孝弘含め周りにいた者達が頷くと、璃佳はカウントダウンを指で開始。
 五、四、三、二、一、ゼロ。

「『地獄針のむしろ』」

「『土壁監獄プリズン・マッドウォール』」

 璃佳と大輝は隠密性重視の短縮詠唱で魔法を発動する。
 孝弘達が顔を出した瞬間には、対象がいた周辺には漆黒の針が人らしき者達を貫き、土壁は退路を断っていた。
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