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第1章 ハッピーエンドは幻夢の如く

第8話 世界の現状

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 ・・8・・
「異なる世界からの侵略者、ですか」

 孝弘は福地少尉の発言に対して、自分達が対敵した異形のバケモノの事を考えれば予想はしていたが、だとしてもそれなりの衝撃は受けていた。
 何せ自分達は異世界から今日帰還したのである。だというのに、数時間もしない内に今度は異世界側が侵略してきたというのだ。
 その相手が果たしてどこの異世界なのか、特に彼等は自分達が救ったアルストルムでない事をこの時から願うのだが、それはまだ福地少尉のあの言葉だけでは分からなかった。

「はい。宣戦布告らしき文面は各国政府に送信されてきました。日本に送られてきたものについては随分とカタコトでしたが読めないことはないもので、他国についても似たような感じではあったと」

「宣戦布告はあったんですね。少なくとも宣戦布告無しで奇襲ではなかったと」

 知花の問いに対して、福地少尉は「宣戦布告は攻撃開始一五分前だったのでほぼ奇襲でしたが、一応は」と返す。
 その中で孝弘はある点だけについてはホッとしていた。日本語だけでなく各国言語で曲がりなりにも宣戦布告が送られてきたからである。

 アルストルムにおいて、日本語話者は孝弘達四人だけでそれ以外の言語は彼等の知る範囲では確認できなかった。英語、仏語、独語やその他言語が使用されていたり古文書としては見つけたことが無かったのである。つまり、アルストルムでは異世界から人を転移させた割には地球言語は無かったのである。

 これらの経験から孝弘は、少なくとも地球へ侵略を行っている異世界の集団はアルストルムでは無いだろうと現時点では判断したのである。それらは様子を見るに他の三人も同様であった。
 安心した孝弘は、肝心の戦況を聞く為に口を開く。

「開戦は二ヶ月前でしたよね。宣戦布告を行ったということは理性がある生命体ですから、自分達が遭遇したバケモノ達とは別に何者かがいるのは分かりましたが、だとするとどこから現れたのですか?」

「世界規模で見れば複数の各所ですが、日本の場合は二箇所に現れました。世界地図と日本地図をお見せしましょう」

 福地少尉は持ってきた資料から世界地図と日本地図をテーブルに広げる。
 日本地図には二つ、世界地図にはバツ印が多数あった。さらにどの地図も薄い赤で塗りつぶされている部分とまだ塗りつぶされていない所があった。

「これは……」

「ひでぇな……」

「二ヶ月でこれですって……?」

「日本でもこれだけで……、世界地図のココ、南アメリカとアフリカは酷いね……」

 孝弘、大輝、水帆、知花の順に世界地図と日本地図を見て反応する。
 彼等が見た世界地図の状況はこうだった。


 ・南アメリカ大陸出現地点:ベネズエラ、ブラジルサン・パウロ州、チリ・サンディアゴ

 ・北アメリカ大陸出現地点:アメリカ合衆国ボストン、同シアトル、メキシコ・ロスチモス

 ・アフリカ大陸出現地点:ケニア、ガーナ、南アフリカ共和国・ポートエリザベス

 ・ヨーロッパ方面出現地点:スウェーデン・ストックホルム、ポルトガル・リスボン、ウクライナ・キエフ

 ・アジア方面出現地点:クウェート、インド・ムンバイ、ベトナム・ホーチミン、中国・マカオ、ロシア・ハバロフスク

 ・オーストラリア大陸方面出現地点:オーストラリア・パース


 福地少尉がテーブルに広げた世界地図に書かれたバツ印は日本を除き全部で一八箇所。世界全州に異世界からの侵略者が現れた事を表していた。侵略された領域も出現地点を中心としてかなり広がっている様に見える。先進国が多く軍事強国が多いヨーロッパ方面やロシアアジア地区、インドでは善戦していそうな様子で、かつてより超大国としての影は薄くなったものの未だに世界トップクラスの軍事力を保有するアメリカもかなり抵抗している。オーストラリアは広大な陸地を活用して戦っているように思える。
 だが、南アメリカ方面は芳しくなさそうでアフリカ方面に至っては悲惨の一言に尽きる様相だった。

「福地少尉……、これだけの地点に侵略者が現れたとなると、一体敵勢力はどれくらいになるんですか……?   機密に触れない範囲で構いません」

「全容は不明です。既にアフリカ方面では連絡途絶となっている国も多く、各戦線の前線とその周辺にいる数しか分かりませんが……、貴方達が対敵したCTと呼ばれるタイプは判明しているだけでも約五〇〇万です。各地から断片的に入る情報から、数が一向に減る気配が無いということから未だに増え続けていると思われます」

「増えているですって……?    という事、出現地点には次元変移系の魔法。今の世界の魔法や魔法科学では実現可能だとしても、投入する魔力と開けられる門の範囲が割に合わなさすぎるアレ……。俗に言う……、『転移門』……?」

 水帆の質問に福地少尉は頷く。

「水帆さんの仰る通り、転移門です。各所に現れた転移門の大きさは多少の差がありますが、左右幅が約二〇〇メートル。高さは約八〇メートルです」

「デカすぎるだろ……」

「そんな大きさだと、例えばだけど大抵の兵器は入ってきちゃうね……」

 大輝と知花の反応も最もだった。
 転移魔法と呼ばれる系統のそれは、魔法の中でも最上位に位置する魔法であり、難度も最高峰と言われている。

 例えば普通の魔法は魔力を注いだ分だけ強力な魔法が行使可能となり、上級魔法を越える特級魔法や今や使われ無さすぎて廃れかけている戦略級魔法が大量の魔力を消費するからこそ戦術までならひっくり返せたのは、それが理由である。

 ところが転移系統の魔法は違う。簡潔に言うと『割に合わない』のである。
 先に述べた魔法が魔力を一〇〇注げば一〇〇かそれに近しい結果をもたらしてくれるのに対し、転移魔法は今の地球世界の魔法技術だと一〇〇注いでも現れる結果は精々が一〇程度。

 このような魔法なので、異世界からの侵略者が超大型の転移門を開けた事自体が地球世界の常識から外れているのである。

「補足ですが、ギリギリ機密に入らない範囲で。転移門周辺には強力な魔法粒子撹乱マジック・ジャミングがある為、軍事衛星で状況は確認不能になっています」

「最悪ですね……」

「はい、孝弘さん。ですから、全容が不明なのです。――さて、話を日本に移しましょう」

 福地少尉の話は世界から日本へと変わる。
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