9 / 250
第1章 ハッピーエンドは幻夢の如く
第8話 世界の現状
しおりを挟む
・・8・・
「異なる世界からの侵略者、ですか」
孝弘は福地少尉の発言に対して、自分達が対敵した異形のバケモノの事を考えれば予想はしていたが、だとしてもそれなりの衝撃は受けていた。
何せ自分達は異世界から今日帰還したのである。だというのに、数時間もしない内に今度は異世界側が侵略してきたというのだ。
その相手が果たしてどこの異世界なのか、特に彼等は自分達が救ったアルストルムでない事をこの時から願うのだが、それはまだ福地少尉のあの言葉だけでは分からなかった。
「はい。宣戦布告らしき文面は各国政府に送信されてきました。日本に送られてきたものについては随分とカタコトでしたが読めないことはないもので、他国についても似たような感じではあったと」
「宣戦布告はあったんですね。少なくとも宣戦布告無しで奇襲ではなかったと」
知花の問いに対して、福地少尉は「宣戦布告は攻撃開始一五分前だったのでほぼ奇襲でしたが、一応は」と返す。
その中で孝弘はある点だけについてはホッとしていた。日本語だけでなく各国言語で曲がりなりにも宣戦布告が送られてきたからである。
アルストルムにおいて、日本語話者は孝弘達四人だけでそれ以外の言語は彼等の知る範囲では確認できなかった。英語、仏語、独語やその他言語が使用されていたり古文書としては見つけたことが無かったのである。つまり、アルストルムでは異世界から人を転移させた割には地球言語は無かったのである。
これらの経験から孝弘は、少なくとも地球へ侵略を行っている異世界の集団はアルストルムでは無いだろうと現時点では判断したのである。それらは様子を見るに他の三人も同様であった。
安心した孝弘は、肝心の戦況を聞く為に口を開く。
「開戦は二ヶ月前でしたよね。宣戦布告を行ったということは理性がある生命体ですから、自分達が遭遇したバケモノ達とは別に何者かがいるのは分かりましたが、だとするとどこから現れたのですか?」
「世界規模で見れば複数の各所ですが、日本の場合は二箇所に現れました。世界地図と日本地図をお見せしましょう」
福地少尉は持ってきた資料から世界地図と日本地図をテーブルに広げる。
日本地図には二つ、世界地図にはバツ印が多数あった。さらにどの地図も薄い赤で塗りつぶされている部分とまだ塗りつぶされていない所があった。
「これは……」
「ひでぇな……」
「二ヶ月でこれですって……?」
「日本でもこれだけで……、世界地図のココ、南アメリカとアフリカは酷いね……」
孝弘、大輝、水帆、知花の順に世界地図と日本地図を見て反応する。
彼等が見た世界地図の状況はこうだった。
・南アメリカ大陸出現地点:ベネズエラ、ブラジルサン・パウロ州、チリ・サンディアゴ
・北アメリカ大陸出現地点:アメリカ合衆国ボストン、同シアトル、メキシコ・ロスチモス
・アフリカ大陸出現地点:ケニア、ガーナ、南アフリカ共和国・ポートエリザベス
・ヨーロッパ方面出現地点:スウェーデン・ストックホルム、ポルトガル・リスボン、ウクライナ・キエフ
・アジア方面出現地点:クウェート、インド・ムンバイ、ベトナム・ホーチミン、中国・マカオ、ロシア・ハバロフスク
・オーストラリア大陸方面出現地点:オーストラリア・パース
福地少尉がテーブルに広げた世界地図に書かれたバツ印は日本を除き全部で一八箇所。世界全州に異世界からの侵略者が現れた事を表していた。侵略された領域も出現地点を中心としてかなり広がっている様に見える。先進国が多く軍事強国が多いヨーロッパ方面やロシアアジア地区、インドでは善戦していそうな様子で、かつてより超大国としての影は薄くなったものの未だに世界トップクラスの軍事力を保有するアメリカもかなり抵抗している。オーストラリアは広大な陸地を活用して戦っているように思える。
だが、南アメリカ方面は芳しくなさそうでアフリカ方面に至っては悲惨の一言に尽きる様相だった。
「福地少尉……、これだけの地点に侵略者が現れたとなると、一体敵勢力はどれくらいになるんですか……? 機密に触れない範囲で構いません」
「全容は不明です。既にアフリカ方面では連絡途絶となっている国も多く、各戦線の前線とその周辺にいる数しか分かりませんが……、貴方達が対敵したCTと呼ばれるタイプは判明しているだけでも約五〇〇万です。各地から断片的に入る情報から、数が一向に減る気配が無いということから未だに増え続けていると思われます」
「増えているですって……? という事、出現地点には次元変移系の魔法。今の世界の魔法や魔法科学では実現可能だとしても、投入する魔力と開けられる門の範囲が割に合わなさすぎるアレ……。俗に言う……、『転移門』……?」
水帆の質問に福地少尉は頷く。
「水帆さんの仰る通り、転移門です。各所に現れた転移門の大きさは多少の差がありますが、左右幅が約二〇〇メートル。高さは約八〇メートルです」
「デカすぎるだろ……」
「そんな大きさだと、例えばだけど大抵の兵器は入ってきちゃうね……」
大輝と知花の反応も最もだった。
転移魔法と呼ばれる系統のそれは、魔法の中でも最上位に位置する魔法であり、難度も最高峰と言われている。
例えば普通の魔法は魔力を注いだ分だけ強力な魔法が行使可能となり、上級魔法を越える特級魔法や今や使われ無さすぎて廃れかけている戦略級魔法が大量の魔力を消費するからこそ戦術までならひっくり返せたのは、それが理由である。
ところが転移系統の魔法は違う。簡潔に言うと『割に合わない』のである。
先に述べた魔法が魔力を一〇〇注げば一〇〇かそれに近しい結果をもたらしてくれるのに対し、転移魔法は今の地球世界の魔法技術だと一〇〇注いでも現れる結果は精々が一〇程度。
このような魔法なので、異世界からの侵略者が超大型の転移門を開けた事自体が地球世界の常識から外れているのである。
「補足ですが、ギリギリ機密に入らない範囲で。転移門周辺には強力な魔法粒子撹乱がある為、軍事衛星で状況は確認不能になっています」
「最悪ですね……」
「はい、孝弘さん。ですから、全容が不明なのです。――さて、話を日本に移しましょう」
福地少尉の話は世界から日本へと変わる。
「異なる世界からの侵略者、ですか」
孝弘は福地少尉の発言に対して、自分達が対敵した異形のバケモノの事を考えれば予想はしていたが、だとしてもそれなりの衝撃は受けていた。
何せ自分達は異世界から今日帰還したのである。だというのに、数時間もしない内に今度は異世界側が侵略してきたというのだ。
その相手が果たしてどこの異世界なのか、特に彼等は自分達が救ったアルストルムでない事をこの時から願うのだが、それはまだ福地少尉のあの言葉だけでは分からなかった。
「はい。宣戦布告らしき文面は各国政府に送信されてきました。日本に送られてきたものについては随分とカタコトでしたが読めないことはないもので、他国についても似たような感じではあったと」
「宣戦布告はあったんですね。少なくとも宣戦布告無しで奇襲ではなかったと」
知花の問いに対して、福地少尉は「宣戦布告は攻撃開始一五分前だったのでほぼ奇襲でしたが、一応は」と返す。
その中で孝弘はある点だけについてはホッとしていた。日本語だけでなく各国言語で曲がりなりにも宣戦布告が送られてきたからである。
アルストルムにおいて、日本語話者は孝弘達四人だけでそれ以外の言語は彼等の知る範囲では確認できなかった。英語、仏語、独語やその他言語が使用されていたり古文書としては見つけたことが無かったのである。つまり、アルストルムでは異世界から人を転移させた割には地球言語は無かったのである。
これらの経験から孝弘は、少なくとも地球へ侵略を行っている異世界の集団はアルストルムでは無いだろうと現時点では判断したのである。それらは様子を見るに他の三人も同様であった。
安心した孝弘は、肝心の戦況を聞く為に口を開く。
「開戦は二ヶ月前でしたよね。宣戦布告を行ったということは理性がある生命体ですから、自分達が遭遇したバケモノ達とは別に何者かがいるのは分かりましたが、だとするとどこから現れたのですか?」
「世界規模で見れば複数の各所ですが、日本の場合は二箇所に現れました。世界地図と日本地図をお見せしましょう」
福地少尉は持ってきた資料から世界地図と日本地図をテーブルに広げる。
日本地図には二つ、世界地図にはバツ印が多数あった。さらにどの地図も薄い赤で塗りつぶされている部分とまだ塗りつぶされていない所があった。
「これは……」
「ひでぇな……」
「二ヶ月でこれですって……?」
「日本でもこれだけで……、世界地図のココ、南アメリカとアフリカは酷いね……」
孝弘、大輝、水帆、知花の順に世界地図と日本地図を見て反応する。
彼等が見た世界地図の状況はこうだった。
・南アメリカ大陸出現地点:ベネズエラ、ブラジルサン・パウロ州、チリ・サンディアゴ
・北アメリカ大陸出現地点:アメリカ合衆国ボストン、同シアトル、メキシコ・ロスチモス
・アフリカ大陸出現地点:ケニア、ガーナ、南アフリカ共和国・ポートエリザベス
・ヨーロッパ方面出現地点:スウェーデン・ストックホルム、ポルトガル・リスボン、ウクライナ・キエフ
・アジア方面出現地点:クウェート、インド・ムンバイ、ベトナム・ホーチミン、中国・マカオ、ロシア・ハバロフスク
・オーストラリア大陸方面出現地点:オーストラリア・パース
福地少尉がテーブルに広げた世界地図に書かれたバツ印は日本を除き全部で一八箇所。世界全州に異世界からの侵略者が現れた事を表していた。侵略された領域も出現地点を中心としてかなり広がっている様に見える。先進国が多く軍事強国が多いヨーロッパ方面やロシアアジア地区、インドでは善戦していそうな様子で、かつてより超大国としての影は薄くなったものの未だに世界トップクラスの軍事力を保有するアメリカもかなり抵抗している。オーストラリアは広大な陸地を活用して戦っているように思える。
だが、南アメリカ方面は芳しくなさそうでアフリカ方面に至っては悲惨の一言に尽きる様相だった。
「福地少尉……、これだけの地点に侵略者が現れたとなると、一体敵勢力はどれくらいになるんですか……? 機密に触れない範囲で構いません」
「全容は不明です。既にアフリカ方面では連絡途絶となっている国も多く、各戦線の前線とその周辺にいる数しか分かりませんが……、貴方達が対敵したCTと呼ばれるタイプは判明しているだけでも約五〇〇万です。各地から断片的に入る情報から、数が一向に減る気配が無いということから未だに増え続けていると思われます」
「増えているですって……? という事、出現地点には次元変移系の魔法。今の世界の魔法や魔法科学では実現可能だとしても、投入する魔力と開けられる門の範囲が割に合わなさすぎるアレ……。俗に言う……、『転移門』……?」
水帆の質問に福地少尉は頷く。
「水帆さんの仰る通り、転移門です。各所に現れた転移門の大きさは多少の差がありますが、左右幅が約二〇〇メートル。高さは約八〇メートルです」
「デカすぎるだろ……」
「そんな大きさだと、例えばだけど大抵の兵器は入ってきちゃうね……」
大輝と知花の反応も最もだった。
転移魔法と呼ばれる系統のそれは、魔法の中でも最上位に位置する魔法であり、難度も最高峰と言われている。
例えば普通の魔法は魔力を注いだ分だけ強力な魔法が行使可能となり、上級魔法を越える特級魔法や今や使われ無さすぎて廃れかけている戦略級魔法が大量の魔力を消費するからこそ戦術までならひっくり返せたのは、それが理由である。
ところが転移系統の魔法は違う。簡潔に言うと『割に合わない』のである。
先に述べた魔法が魔力を一〇〇注げば一〇〇かそれに近しい結果をもたらしてくれるのに対し、転移魔法は今の地球世界の魔法技術だと一〇〇注いでも現れる結果は精々が一〇程度。
このような魔法なので、異世界からの侵略者が超大型の転移門を開けた事自体が地球世界の常識から外れているのである。
「補足ですが、ギリギリ機密に入らない範囲で。転移門周辺には強力な魔法粒子撹乱がある為、軍事衛星で状況は確認不能になっています」
「最悪ですね……」
「はい、孝弘さん。ですから、全容が不明なのです。――さて、話を日本に移しましょう」
福地少尉の話は世界から日本へと変わる。
22
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR
ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。
だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。
無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。
人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。
だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。
自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。
殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる