異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第1章 ハッピーエンドは幻夢の如く

第3話 異変と異形

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 ・・3・・
 小さな丘の頂上にいた四人が見つめる先にあったのは、やや開けた土地の先を突っ切る道路に広がっている多数の自動車。ただしそれらは全て乗り捨てられており無秩序に放置されている。やや先にある小さな道の駅の建物の駐車場でもそれは同じで、合計一〇〇台以上あった。

「帰還したら車がこんなに沢山捨てられているなんて、何の冗談だよ……」

 孝弘は項垂れる。他三人も反応は似たようなものだ。異世界で戦い、誰も欠けずに帰還して、戸籍も無くなってるだろうからこれからどうしたもんかな。家族の所に行ったら亡霊が出たなんて言われるんだろうなと苦笑いしてたつい数十分前が、もう遠く彼方のような、幻想に思えてきてしまう。
 物語なら異世界から帰還したら普通はハッピーエンドで、外伝で後日談が語られるよね。と笑って言っていた知花は体を震わせていた。

 だが、この状況は一体何なのだ。まるでポストアポカリプス世界のような光景が広がっている。ゾンビだとか化け物が出てきていないだけで、明らかにその序章のようなものじゃないか。

 それでも彼等は膝を屈しなかった。既に自分達は甘っちょろい非力な市民ではないし、非常時に騒ぎ混乱する学生でもない。ましてや、自暴自棄になり果てに死にに行くような愚か者でもない。
 だから四人は打ちひしがれる事無く――本心は違うかもしれないが――、戦う者の行動を取った。

「手分けして生存者を探そう。この様子じゃ絶望的かもしれないけれど探そう。もし生存者が見つからなくても何か情報が得られるかもしれないし、保存の効く食べ物や飲み物も見つかるかもしれない。皆、周囲を警戒するように。念の為、魔法障壁マジックバリアも展開しよう」

「分かったわ」

「了解したぜ」

「わたしは周りを警戒しておくね」

「ありがとう知花、頼んだよ」

 四人は手分けして直ぐに生存者の捜索と飲食物を探しにかかる。異常事態になった以上、飲食物の確保は死活問題だ。数日は手に入れられない最悪の可能性も視野に入れておかないといけなくなる。彼等が持っている食べ物や飲み物はこのような事態は想定しているはずもなく、一日分あるかないかであればなおさらである。
 孝弘達はどうか生存者がいますようにと願いつつも絶望的だろうと頭の片隅では思っていた。

 結果は案の定だった。十数分探しても誰一人として見つからない。誰もいない無人だった。見つかったのは水と保存食としても優秀で市販で売っているカロリーバー。それにクッキー類等の菓子類が少しだった。

(見つかった食べ物の近くにあったコンビニのレシートからして、こうなったのはざっと二ヶ月前か……。一体何があったんだ……。道の駅に入れるなら新聞を探した方が情報収集になりそうだな……)

 情報入手の手段がネット中心になって久しい二〇三〇年代では、定期購読で新聞を購入しているのならともかく、その日に新聞を買う人はかつてに比べてかなり減っている。もちろん買う世代などの購入層は少なからずいるから販売はしているが、どうやらこの車の持ち主達は自動車に放置したりはしていなかったようである。
 そうなると、道の駅まで行って雑誌類か新聞類を探すしかないだろう。
 有事において情報が無い事は致命的である。大量の車が乗り捨てられるような異常事態となれば周辺で何かが起きたのは間違いない。だが、その何かが分からないのはあまりにも不気味だった。

(映画や漫画じゃないんだから道の駅に行ったらゾンビが湧いたなんて荒唐無稽だ。って言えた頃が懐かしいよなあ……。異世界に転移させられた身としては、どんなことが起きても信じられないとは言えないか……。だからって地球で起きて欲しくはないんだけど……)

 孝弘はため息をつく。色々と考えるべき事が一気に増えたし、地元に帰るのも一筋縄ではいかなくなった。そもそも静岡でこのような事態になっているということは、比較的距離の近い濃尾平野方面が無事だという保証もなくなる。

 大学の友人は。高校の頃の同級生や後輩は。

 そして家族は……。

 どうして、どうしてこうなった。
 心中では陰鬱な気分が増していく。が、悠長にはしていられない。
 すぐに気持ちを切り替えて一旦三人を集めた方が良いかと孝弘は決めた。
 知花の大声が聞こえたのはその時だった。

「孝弘くん!!    魔法探知マジックレーダーに感あり!!   距離一五〇〇、私から見て十一時から一時方向、わたし達が来た方角!!」

「なんだって!?   全員集結!!   俺の所まで集まって戦闘配置!!   知花、敵の数と速度は!」

「数は約一〇〇!   速度は二種類!   速いのは時速三〇キローラ、じゃなかった時速約三〇キロ!   遅いのが時速約一〇キロ!   目視まで約四〇秒!」

「時速約三〇は人間じゃないぞ……。何が、何が来る……!」

 孝弘はとうとう自分の予想が的中してしまい舌打ちをする。人間の歩行速度程度なら集団で動いている人――だとしても約一〇〇は多いが――ならともかく、知花が探知したのはやや高速で動くナニか。
 異世界から帰還して僅か数時間でこれは無いだろと思いつつも、彼等はすぐに集結。やや視界が開けており、接近する何かへ対処が出来るよう慣れた動作で態勢を整えていく。
 知花の探知では丘の先から何かが現れるのは間もなく。
 そうして彼等の視界に写ったのはあって欲しくないものだった。

「おいおい嘘だろ……。冗談キツイぜ……」

「絶対、地球じゃありえないものじゃない……」

 数百メートル先に現れたヤツら。

 それは異形だった。犬の原型を辛うじて保っているような四足歩行の化け物と、人の形を何とか保っているような化け物。中には人にしては大きいものもいる。
 アルストルムでも見た事がない、類似したものなら多少は覚えがあるが、だとしてもやはりあちらで見たものとは明らかに違うそれら。

 異形の集団が、四人の前に現れたのである。
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