復讐の天使 〜盲目の心理捜査官〜

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6. 拡散する策略

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深夜0:40。
いつしか消えた意識が…目覚めた。
(病院か…)
幾つかの擦り傷と軽い打撲。

アレンが庇ったおかげで、大きな怪我はない。
それよりも、心の傷が深かった。

(紗夜…紗夜、どこなんだ、全くもう)

アレンのボヤきが
近付いて来る。

点滴を抜き、起き上がる。
「っつ!」
アレンの重みで、肋骨にヒビが入っていた。

痛みとは裏腹に、いつになく体が軽い。
(なに?この感覚…)
明らかにいつもと違っている。
庇って貰ったとは言え、あの距離の2つの爆発で、この程度で済んだのも奇跡である。

「ここか?ありがとな、早く寝ろよ」

ドアの外にアレンを感じた。
紗夜が見つめる中、そっとドアが開き、頭に包帯を巻いたアレンが現れた。

「アレン」

「紗夜、良かった~。大丈夫か?」

どう見ても、こっちのセリフである💧

「だ、大丈夫よ私は。こんな夜中に何?」
(私のために…しかし…誰と話してた?)

爆発する間際、アレンの助けがなかったら、甚大なダメージを被《こうむ》っていたはずである。

「もう、顔認証の結果が出てるはず。少し気になることもあるから、こんなとこにいる暇はない」

あまりのショックに忘れていた。

「そうねアレン、ありがとう。出ましょう」
埃まみれのバッグとステッキを持ち、靴に履き替えて急ぐ。

「1階の厨房には、裏口があるはずだ」

丁度救急車が到着し、当直の看護師の注意もそちらに向けられていた。

厨房から裏口の鍵を開け、外へ出た。

「アレン、何とか車を」

「分かった、ここにいて下さい」
駆けて行くアレン。

直ぐに車が来て、降りたアレンが助手席のドアを開け、紗夜をエスコートする。

「少し高いから、気を付けて」

アレンも乗り込む。

「早かったわね」

「ま…まぁね💦」

(えっ?ウソっ!まさか…)

「こらっ、待ちなさい❗️」

誰かが走って来る。
慌てて発車するアレン。

真夜中のロスの街を、救急車が疾走する。
(……💧)
とりあえず、何も追求はしない紗夜であった。


~ロス市警本部~

途中の無線からの叫びは、無情にもアレンによって瞬時に引き千切られた。

この行動力に唖然としながらも、頼もしく思えた紗夜。

正面玄関に着いた救急車に、驚いた守衛が飛び出して来る。

「アレン刑事!ど、とうしたんです?」

「緊急なんだ、殺人課のロックを解除してくれ。あと、アレを裏へ」

アレ=救急車であることは間違いない。
「急いでるの、お願いします」

「わ…分かりました」

「紗夜、エレベーターへ」

「始末書で済むかしら?」

「マイシステムの成果次第だな💧」

殺人課のロックは外されていた。
手を引かれてアレンのへ行く。

「よし、電源は切られていない」

セーブモードを解除し、結果を見る。

「やっぱり❗️」

「説明を、アレン!」

「一人は、ジニー・アトキンソン。国防総省本庁舎の海兵隊総司令部、副司令官だ」

「国防総省本庁舎《ペンタゴン》⁉️」

「まだあるぜ、似てると思ったんだよな。あと一人は、防衛長官ドリス・シャルマンの息子だ❗️名前は…ミック・シャルマン隊長」

「47部隊でも隊長を!」

「そういうことになるな。闇に葬られるのは間違いないってわけだ」

「国防総省《ペンタゴン》とは、厄介ね。でも尚更許せない!ロナウドがドリス長官を名指ししたのも当然ね」


軍の最高本部による隠蔽工作。
メリル・ターナーや、ロナウド・ジョンソン、そしてボブ。
決して癒されない痛みに、つい同情心を呼び起こしてしまいそうになる。


突然、アレンの携帯が鳴った。

「ぶぁ~かものぉおおお~❗️」

思わず耳から離すアレン。
静かなオフィスにこだました。

咄嗟の機転で、紗夜が携帯を奪う。

「警部、申し訳ございません。私のせいです」

目一杯の、申し訳ない 演技である。

「あっ…紗夜さんか…いや、しかしな💦」
逆に慌てるニール。

「本っとうに、ごめんなさい警部」
更なる追撃である。

「そうか…いや、それなら、し、仕方ない💧」

まだ謝っただけである。
隣で恐るべし紗夜と思うアレンであった。

「アレンのおかげで、47部隊の秘密と2人が分かりました。詳しくはまた明日報告しますね」

ちゃんとアレンを立てる。

「おお、そうか。でかした!じゃあ明日な」

さっさと電話を切る。
便利な紗夜が欲しいと思うアレン。

「とにかく、今日は帰りましょ。こんな格好だし💦」

入院コーデに、今更気付いた2人。

「じゃあ送ります」

「アレで?🚑。。。」

「まさか💧、車は誰かがホテルから駐車場へ運んでくれてたよ」


病院へ謝罪の電話をしたあと、帰宅した二人であった。




~バージニア州アーリントン郡~

ワシントンD.C.の外郭部に位置する、地上5階、地下2階の五角形のビル。
アメリカ国防総省本庁舎、通称ペンタゴン。

「ヤツの妹はまだ見つからないのか❗️」

「それが、Submarine《サブマリン》のロナウドがバックにいる様で、全く…」

ドリス長官の声に、ビクつくジニー副司令官。

「手段は選ばん、まずはあの邪魔な捜査官を殺れ。お前ならアイツを使えるだろう」

「…分かりました。必ず」

部屋を出たジニー。
自らも忍び寄る死の恐怖に怯えていた。

戦場を教えた後輩兵士、リチャード・ハミルトンへのメールへ、紗夜の写真載せる。

恐怖と同時に、彼の心を蝕《むしば》んでいた罪悪感が、躊躇《ためら》いの間を作る。

(彼女を殺すことに、何の意味が…)

復讐劇が止まる訳ではない。
しかし、長官の命に今更抗う道は無かった。

(許せ…)
送信ボタンを押す。
と、そのタイミングで、携帯が鳴った…。



~ロス市警本部~

当然ながらニールの部屋に呼ばれた2人。
紗夜に呼ばれたジョイスもいた。

怒鳴れないニール。

(紗夜め、なかなかやるな…)

「違うわよ」
座ったまま、ローヒールの踵《かかと》がアレンの靴にめり込む。

「グッ!」堪えるアレン。

「で、何を見つけたんだ?」
訳の分からないまま呼ばれたジョイス。

「昨日の会場で殺やれたのは、47部隊のラパス・チークとカイル・ボブソン。残るは6人。その内2人をアレンが見つけました」

「一人は国防総省《ペンタゴン》にいる、海兵隊総司令部の副司令官、ジニー・アトキンソン」

「何だと⁉️」

「ボス、驚くのはまだ早いですよ。顔認証システムを応用したシステムで、顔の特徴的な部位を比較検索したら、ミック・シャルマン元隊長が浮かび上がりました」

「シャルマンだと!まさか…」

「ジョイス、そのまさかよ。現国防長官ドリス・シャルマンの息子です」

「そんなバカな!ペンタゴンが裏にいると言うのか?」

ニールの表情に絶望感が漂う。

「考えて見てください。ロナウドが名指しまでした理由。調べたところ、長官の息子ミック隊長は、イラクやアフガンで幾つもの勲章🎖を得ていますが、軍内では『Grim Reaperしにがみ』とまで言われてました」

「ヤツの勲章は、大勢の犠牲の上にぶら下がってるってことだ」

「とにかくアレン、分かった以上、まずはジニー副司令官を保護しないと」

「先ほどペンタゴンへ問い合わせましたが、丁度出かけた後でした。当然、個人携帯は教えてもらえません」

「ドリス長官の息子は?」

「これを見てください」

アレンが、ノートPCの映像をモニターに映す。

「これは、D.C.郊外の店や街頭などに設置されているカメラ映像です」

「ヤツか?」
素早くジョイスが見つけ出す。

「この辺りのカメラにいくつも映ってます。そしてそこにあるのがこの邸宅です」

高い柄に囲まれ、厳重な警備体制を敷いた豪邸が、広い敷地の真ん中にあった。

「ドリス長官の邸宅か?」

「間違いありません、奴はここにいる!」

その瞬間、圧倒的な権力の壁が、彼らの前に立ちはだかった。



FBI を持ってしても、国防総省を捜査するには上の判断が必要であり、それには明らかな証拠が不可欠となる。

47部隊の復讐劇は、状況証拠以外に何もない推論である。

「しかしアレン。どうやってこれを?」

「えっ💦この際、そんな事を言ってる場合じゃないでしょう…なぁ紗夜」

「そうね、ハッキングは罪だけど、それは後にして、ついでにD.C.の街から、ジニーを探して!」

「おいおい、紗夜捜査官。警察がハッキングだなんて、始末書じゃ済まんぞ💦」

「ニール警部、これは我々FBI の指示と言うことで、何とかします。アレン刑事、急いで下さい」

ジョイスに言われるまでもなく、すでに取り掛かっていた。

「ペンタゴン寄りに絞りますね」

瞬く間に、モニターに幾つものリアルタイムな映像が映る。

「あなた、犯罪者の方が似合ってるわ」

「おいおい…💧」

頭を抱えるニールをよそに、アレンの指先が、素早い動きでキーを叩き続ける。
ジョイスが必死で画像を見つめる。

「いた❗️」

3人の思念に集中する紗夜。
(また…なに?…この感覚)

3人が見ている状況が鮮明に思い描けた。
と同時に、右の掌に痛みが走る。

「オープンカフェね。時計を気にしている。誰かと待ち合わせを…」

痛みと同時に、嫌な予感がした。

(マズいっ、やられた❗️)

ジニーが顔を上げて、手を振った瞬間。
画像が…消えた。

「アレン、近くの他のカメラを!」

「よしっと、どうだ?」

オープンカフェが爆煙に包まれていた。
しかし…

多くの人々の目は、違うものへ向いていた。

「アレン!」

別のカメラが、その見詰める先を映し出す。
立ち並ぶビルの向こう側。

もくもくと立ち上がる煙。
時折り赤い炎も見えた。
しかも2箇所。

「あの方角は…」

アレンがカメラの現在地を中心に、ワシントンの地図を映す。

「やはり!国防長官の邸宅と、ペンタゴン❗️」

「そんな…ん?」
殺人課の皆が、テレビを見て騒付いていた。
ニールがテレビをつける。

「つい先程、ミサイルの様なものが、国防総省《ペンタゴン》とD.C.郊外のドリス国防長官宅へ撃ち込まれ、ここD.C.の街からも、その煙と炎が確認できます。また、ほぼ同時刻に、市街地にあるオープンカフェでも爆発があったとのことです」

カメラが高い位置から、D.C.郊外の炎と煙を映し出していた。

「まだ声明等は出ていませんが、国内反軍組織であるSubmarineサブマリンによる同時テロの可能性が高いと考えます。私達は、今からペンタゴンへ向かいたいと思います。ワシントンD.C.より、メアリー・フランシスがお伝えしました」

「さすがメアリーだな。昨日のロナウドの発言から、早速ペンタゴンへ乗り込むつもりで動いたか。私は直ぐにD.C.へ向かいます」

ジョイスが紗夜を見る。
この時紗夜は、別のことを考えていた。
(何かが、おかしい…)

「あ、ジョイス、先に行って。私は少し確認したいことがあるから」

「分かった。ニール警部、失礼します」

ジョイスが出て行く。

「ボス、今回はロナウド達の仕業ですね」

その横で内線電話をかける紗夜。
疑問の目で、それを見るアレン。

「はい、テロ対策課です」

「危険物処理班のマーチンをお願いします」

「どうしたんだ、紗夜捜査官?」
ニールも不思議そうに見ていた。


同時テロ。
その言葉に、9.11の記憶が蘇る。
しかもその一つは、再び国防総省《ペンタゴン》である。

「はい、マーチンです」

「紗夜です。急いで昨日回収したダミーの地雷を持って、殺人課のニール警部の部屋へきて」

「紗夜捜査官!入院したんじゃ?」

「私は大丈夫だから、早くお願い」

電話を切る。

「どうゆうつもりなんだ紗夜?」

「ミサイル攻撃は、ロナウド達の仕業で間違いない。でも、カフェの爆発は恐らくあの椅子に仕込まれた地雷。つまりメリル・ターナーの復讐」

また、あの無表情の紗夜がいた。
その違いに気づいて、声が出ない2人。

「爆発する直前、待ち合わせていた誰かを見て、手を振った。あの目は親しい人を見るかの様に緩んでいた」

「そう言われれば…」

「昨夜、私はジニーの経歴を調べたの。彼は海兵隊で一時期、教官を務めていた。丁度モリス・ターナーが海兵隊で訓練してた頃よ」

「まさか、メリル・ターナーはジニー・アトキンソンと顔見知りか?」

「その可能性もある。確かなのは、47部隊のメンバーの情報源は、ジニーよ。訪ねて来たメリルに、彼の罪悪感がそうさせたのだと思う。自分と隊長のことは後回しにして」

「復讐に燃えるメリルに、自分を教えるわけはないか…」

「でもメリルは、それを知っていた」

そこへ、マーチンが来た。

「失礼します」

「ありがとう、マーチン。ダミーの地雷は持ってきた?」

「はい。爆薬は入っていますが、信管が外されていますから、爆発はしません」

「この椅子の上に置いてくれる?それから、ニール警部、チェアーマットを貸して下さい」

何で知ってるんだ?と思いながらも、椅子から外し、紗夜に渡す。

紗夜が、地雷の上にマットをのせ、躊躇《ためら》うことなく座った。

「カチャ」

微かな乾いた金属音を聴いた紗夜。
(同じ音)

一瞬驚く3人。

「音は聞こえましたか?」

「音?なんの?」
一番近くのアレンには、何も聞こえなかった。

「紗夜捜査官、この地雷はリモート機能が組み込まれてて、踏んだ時の音はほとんどありません」

紗夜の優れた聴覚でのみ、聞き取れた音。

「昨日、私はこの音を聴いた」

「聴こえるのか紗夜には?」

「はい。そして、座ったメアリーもこの音を聴いたと言いました」

「あり得ません!そんなこと」

昨日のことが、紗夜の頭の中で、目まぐるしく回想されていた。

(そうか!)

「メアリーは、あの椅子にこれが仕込まれていることを…知っていた。アレン!あなたのシステムで、メリルとメアリーの顔認証を❗️」

「そんな、まさか…」
呟きながらも素早く実行するアレン。

紗夜が、デスクの自分のバッグを持って来た。
まだ一部には土埃が残っている。

「バカな❗️」
アレンが叫んだ。

「当たりみたいね」

整形には限度がある。
かおの個性を示す基本要素の骨格は、年齢にもよるが、下手に手を加えると、復元しようとして、異常を来す可能性があった。

「整合率75%…同一人物だ!」

「そして、これ」

紗夜がバッグの奥に仕込まれていた、小型の盗聴器を取り出した。

「彼女が私に近づいて来たのも、椅子に地雷があることを知らせたのも、全て彼女の計画。そしてメアリーは、私の置き忘れたこのバッグを持ち出してくれた。盗聴器を仕掛けてね」

「メアリーが…メリル。整形してまで」

「今も聞いているはず。そうよね、メリル❗️」

叫んだあと、床に落として踏みつけた。



~ワシントンD.C.~

小さなカフェ。

(さすがは紗夜捜査官。でももう必要ない)

「マスター、サンキュー」

「メアリーさん、頑張って悪の根源をぶちのめしてくれ❗️」

「アハハ。任せておいて!」

そう言って出て行く、メリル・ターナーであった。
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