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5. サンタモニカの炎
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退役軍人追悼式典、当日。
西海岸の朝は、影から始まる。
沖の方から煌めく海があらわれ、東からの日差しが、浜辺まで伸びる影を描いていく。
穏やかな朝。
(…さや。。。z zZ)
(…なんか…おもたい…朝か…)
寝ぼけたまま胸の重さに、ふと手をやる。
(なんだろぅ…)
ソファーに仰向けで寝てしまった紗夜。
胸の上にあるものの感触を確かめる。
(ん~ん…さや…)
(ん?………っな⁉️)
「きゃァァアアアー⁉️」
静かな朝に、響き渡る紗夜の叫び❗️
「ドガッ!」
「うわっあ!」「ドンっ!」
急に頭を突き上げられ、蹴り飛ばされたアレンが床に落ちる。
「いてて…」
「何で!あなたがいるのよ~❗️」
アレンの部屋である。
「イッテ~。あっ、おはようございます」
まだ事態が飲み込めていないアレン。
「おはようじゃないでしょ!なんであなたがいるの⁉️」
「何でって、ここ俺の部屋だから…」
「えっ?……」(そう言えば…)
明らかにホテルの部屋とは違う感覚。
…記憶が戻った。
昨夜、ソファーに座り、お互いのPCで調べている内に、すっかり眠ってしまった2人。
「俺は…床で寝たのか…しかし頭痛ぇ」
(気づいてない!…よ、良かった。はぁ…)
「って、のんびりしてられないわ!アレン、ホテルへ送って❗️」
「はぁ?今からか?」
「今、直ぐよ❗️」
結局、アレンの準備が終わるのを待ち、それからホテルへ戻った紗夜。
急いでシャワーを浴び、支度を整える。
ふと…久しぶりぐっすり眠れた事に気づく。
胸の重みを思い出して、一人で赤面した。
「…お待たせ、アレン」
「はいはい、急ぎますよ!全くもう」
まだ痛む頭をなでながら、署へ向かう。
覚えのない痛みと眠気で、不機嫌なアレン。
それでも何とか朝礼に間に合った。
「おっと、お二人揃ってご出勤かぁ」
「うるさいッ💦」
冷やかしに焦るアレン。
「あら~何だか顔が赤いぞ、捜査官様」
「ち、違います💦」
サングラスでは、白い肌の赤面は隠せない。
それを楽しんでる余裕がないニール。
緊張した面持ちで前に立つ。
「みんな、今日は退役軍人追悼式だ。空いているものは、所轄と連携して警備と警戒にあたってくれ。知っての通り、連続爆破殺人が続いている。また、反戦デモもあるかも知れん。ロス市警の威信にかけて、皆んな頼むぞ!」
「はい!」
部屋に戻りながら、ニールが紗夜を見て手招きした。
「全く、分かるわけ…ええ~💦」
ニール警部の真意を確かめていた紗夜には、彼の思念が届いていた。
既にフロアの配置は覚えている。
普通にニールの後を追い、部屋へ入る紗夜。
(実は見えているとか?)
疑いたくなるのも分かる。
ドアは閉めなかった。
「何してるアレン!早く来い」
そこまで読んでいたのである。
ドアを閉めるアレン。
ソファーで向かい合う。
「警部は、派兵の経験がありますか?あるいは身内にアフガンへ派兵した方がいますか?」
座るなり、唐突に紗夜が始めた。
「いや、経験はないし、身内にもいない」
「では…ボブ刑事はどうですか?」
紗夜の醒めた雰囲気に、口を挟めないアレン。
ニールに、一瞬の間が生まれた。
それを感じ取り、考えていた推論を問う。
「息子を…失ったとか?」
ニールの驚きは、アレンでさえ感じた。
暫く無表情の紗夜を見つめ、深呼吸一つ。
「アフガニスタンで、一人息子を失っている」
「5年前のサーチスバレイの悲劇…ね」
「ど…どうしてそれを⁉️」
昨夜、紗夜はある人物を調べていて、その記事に辿りついていたのである。
「ロナウド・ジョンソン。彼の息子も、その犠牲者でした。そして、ロナウドの車が、グリフィスパークの駐車場に映っていました。ボブが捨てたビデオテープです」
「なんだとッ⁉️」
驚きのあまり、立ち上がるニール。
アレンは固まり、立ち上がれなかった。
明らかな証拠隠滅の事実。
それがこの事態に、新しい真実への道を示したのである。
サーチスバレイの悲劇。
四方を丘陵に囲まれた平地に、反タリバン派の村があり、彼らを守るためにアメリカの一部隊が派兵された。
戦略のない無謀な派兵。
俗に言う決死隊である。
数名が生き延びたと言われたが、詳細やその事実は軍により隠ぺいされたのである。
「生き延びた兵士が一人、その事実を報道社へ伝えたけど、国防総省は認めず、その兵士も行方不明のまま」
「酷いな…兵士は使い捨ての駒かよ!」
「47部隊で、死んだモリス・ターナー。その真相も闇に葬られた…はずだった」
紗夜がノートPCを取り出し、アレンがプロジェクターに繋ぐ。
さらに、一台の携帯を取り出し、PCに繋いだ。
開くと写真が映し出される。
「俺と紗夜じゃないか。誰のだそれ?」
「D.C.で私達を襲った殺し屋が持ってたもの」
彼に寄り掛かった時に、スーツのポケットから抜きとっていた。
「空港で車に乗った時、アイツがこれを開き、バックミラーを動かした後、閉じて右のポケットに入れた」
「そう言えば、ヤツが動かすバックミラーで、目が合ったな。それを音で分かってたのか?」
「あの時、この写真で私達を確認したのよ。ヤツが唯一、心を開いた瞬間だった」
無感情だった男が作った隙。
「しかし、パスワードもかけないとは間抜けな殺し屋だな」
「必要ないからよ。私達を確認して殺した後は、海辺にでも捨てる。それだけの道具」
集中している紗夜に表情はなく、異様な怖さすら感じたアレンとニール。
「あの部屋の匂いは、かなりの間締め切っていた匂い。それなのに、私達が行くタイミングで現れた」
映像を見ていたニールが気付く。
「この写真は、ここで撮られたものだ!」
「確かに❗️…まさか」
「ボブが撮り、奴に送った」「ギュッ」
握りしめた拳が、革手袋の音を立てる。
「ボス!ボブは?」
「そう言えば…見ないな今朝は…」
「勘のいい彼よ、昨日私達が署に戻って、テープを見つける事ぐらい読まれてるわ。彼はもう、ここには現れない」
(はぁ…)
ニールの心から、深い溜め息が聞こえた。
「まさか…あのボブが内通者だったとは…」
(もしかして…)
アレンが紗夜を見た。
「私がここに来た本当の理由は、内通者を見つけるためよ」
そもそもFBIが、市警に入ること事態、内務調査以外にはないのである。
沈黙。
それぞれが、それぞれの思いで、真実を噛み締めていた。
「軍に対するテロ活動が増加する中、私達FBIは、Submarineという組織の存在を掴んだ。しかし、常に先手を打たれ、尻尾すら捕まえられない。そしてその原因が、警察組織からの情報漏洩であることが分かった。さらにその背後に大きな敵がいることも」
「ロナウド・ジョンソンか!」
大富豪でありながら、その正体は怪しいヴェールに包まれていた。
「既に数名の内通者は捕まえた。最後に残ったのが、このロサンゼルス。ビバリーヒルズには、ヤツの豪邸がある地」
「しかし、47部隊とヤツのテロ工作じゃ、規模が違うだろう?」
「恐らく、利用されているだけ。必ずもっと大きな目的があるはず。それを止めるためにも、この地雷での復讐劇を止めないと…」
「確かに…そうだな。47部隊の復讐は恐らく、部隊に殺されたモリスの妹、メリル・ターナーによるものと見て間違いないだろう。だが、彼女一人でこんな犯行ができるわけはない」
ニールとアレンの複雑な心境が、紗夜の心を締め付ける。
「ボブは本当に優しくていい人よ。軍の悪事を許す訳にはいかない。でも、だからと言って、軍と言う絆で繋がった多くの兵士は、国のために、いえ世界の為に命をかける人達なの。アレン、あのマーガレットが、悪人だと思う?」
誓いを破り、手榴弾で自爆した彼女。
とても悪人とは程遠い、清い人間であった。
「それを許す訳にはいかない!」
「わかったよ紗夜。ボブは深い悲しみの中で、ヤツに唆《そそのか》され、本当の正義を見失ってしまった。俺がこの手で捕まえる❗️」
デスクの電話が鳴った。
「ボス、もうすぐ式典が始まります。空港に今エアフォースワンが着きました」
「分かった、今からすぐに行く」
受話器を置き、決意を決める。
「このことは、皆んなには秘密だ。あとは紗夜捜査官、アレン。頼んだぞ!」
「FBIの応援も夜のパーティーには着きます」
「奴らの好きにはさせません!」
深く頷《うなず》き、ニールは式典へ向かう。
「私…とんだ勘違いをしていたかもしれない」
その矛盾に、ふと気が付いた紗夜。
「メリル・ターナーの部屋を荒らしたのは、奴らじゃなく、軍よ!」
「メリルが、Submarineと同じ目的なら、そう言うことになるな」
「Angelは、組織じゃなく、彼女そのもの❗️」
「しかし…軍は何を探してたのか…」
(…もしかしたら)
「アレン、人を探す為に、写真と何が必要?」
「なま…え…かな?ありきたりだけど」
「マーガレットがくれた写真…あれは、そう言うことよ❗️」
「メリルの存在を知らせたんじゃ?」
「あの写真は、殺されたモリスも持っていたはず、国防総省へハッキングしなくても、メリルは名前が分かった。モリスは写真に隊員の名前を書いて、妹のメリルに送ったのよ❗️」
「なるほど!残りの7人も、メリルは既に掴んでるってことになるな」
「更に、あそこまでして探したい理由。秘密を守りたい理由。きっと47部隊には、軍か国の有力者、もしくはその息子がいるってわけね」
「それなら分かるかも!」
アレンが、自前のノートPCに、幾つかのハードウェアを繋ぎ、写真を取り込む。
「もし親子なら、顔の相似ポイントが多く見つかるはずなんだ。これは、それを見つける為に俺が作ったソフト。これに、現役の国防総省の幹部の写真を自動検索して入れてっと。後は待つだけ」
ソフトが目まぐるしく作動し始める。
「時間は?」
「この人数と小さな写真じゃ、細かく見なきゃならないから、かなりかかるけど、該当者がいれば必ず出る!とりあえず、警備に行こう。パーティーが終わった頃には、結果がでてるよ」
「あなた、FBIに来ない?」
「ムリムリ、俺はあんな堅苦しい世界はムリ」
「残念だわ。じゃあ私達は、パーティー会場を確認しましょ」
当面の課題は、今夜を無事乗り切り、あわよくば犯人確保であった。
そう甘く考えていた2人であった。
~オーシャンアベニュー~
ホテル シャングリラ。
昼間の式典は物々しい警備態勢の甲斐あってか、何事もなく無事に済んだ。
テレビでは、あのメアリー・フランシスが、生中継で式典を伝えていた。
彼女は報道陣で唯一、パーティーにも招待されていたのである。
戦地での命懸けのリポートで、軍からの信用もあり、一方では、生の戦禍中継に視聴者の指示も厚かった。
「ボス、お疲れ様です」
「ああ、アレンか。心臓に悪いよ全く」
疲れた顔で、ニールが入って来た。
白のタキシードが、何とか疲れを隠していた。
「お疲れ様です警部」
振り向くと、ジョイスにエスコートされた、ドレス姿の紗夜がいた。
サングラスはなく、開いた瞳孔をカモフラージュする特殊なコンタクトを付け、手袋は薄手でレース付きの白いものに変わっていた。
「紗夜…本当に紗夜か?」
大胆に肩を出し、背中は腰まで露出していた。
目のやり場に困るアレンとニール。
「これは、紗夜さんじゃないか!」
「バーン大統領!」「大統領💦」
ニールとアレンの驚きが伝わって来た。
「いやいや、美しい。やはり、FBIにはもったいないな。ハウスへ来ないか?君がいてくれたら心強い」
「とんでもございません、大統領。私は今も任務中の下っ端ですから」
「先日、私の友人のラブさんに会ってな、彼女も君の事を気にしていたよ。私を凶弾から救った二人目の女性だからね君は。一度会ってみたいと言っていたが、君とならウマが合うかもしれないね」
「ラブさんって、あの大スターのトーイ・ラブさんですか?彼女も大統領を…」
「大統領、そろそろお時間です」
伝えたシークレットサービスの目が、邪魔そうに紗夜を一瞥《いちべつ》した。
「分かった。では、パーティーだ、楽しんでいってくれ…といっても任務じゃ、仕方ないか」
笑顔でシークレットサービスに護られながら、所定のテーブルへと向かって行った。
「生の大統領なんて初めて見たよ」
「アレン、紗夜捜査官、私は少し疲れたので、少し外れて休んで来るよ……ん?」
「分かりました。お疲れ様です」
アレンのボスを気遣う優しさが分かった。
しかし、その前のニールの違和感が気になる。
「どうされました、警部?」
(…気のせいか? はぁ…心配しすぎだな)
ニールが心身共に疲れ果ててるのは、心を読むまでも無く分かった。
実際、眠れない夜を過ごしての今日である。
ニールが去って直ぐ。
「もしかして、紗夜捜査官ですか?」
振り向くと、ロスポストのメアリー・フランシスがいた。
「大統領を救った英雄が、ロス市警とご一緒とは…テロの予告でも?」
「いえ、予告はありません。念の為です」
そこへ丁度、国防長官が通りかかる。
「あっ、ドリス長官…」
その隙に、紗夜がジョイスに尋ねた。
「会場の椅子は大丈夫よね?」
「ああ、開場寸前に、全て新しいものに入れ替えさせたから大丈夫だろう」
(やはり、ニールの思い過ごし…か)
時間が来た。
館内放送が流れる。
「皆様、本日は歴史ある当ホテル シャングリラへようこそ。お時間となりましたので、皆さまお席にご着席ください」
(確か…椅子も探知機で確認してた…)
会場に着いた紗夜とアレンは、一通りのチェックを終えてから、着替え用の部屋へと入った。
その際に、金属探知機を持った数名の市警が、椅子や床の確認をしていたのを見ていた。
(…まさか!)
「ジョイス、取り替えた椅子のチェックは?」
「取り寄せたばかりの新品だったから、特に確認はしてないが…時間も無かったしな」
嫌な予感がした。
「あ~ボイスレコーダーくらいあればな~。携帯も没収されたし。紗夜捜査官、私達も座りましょ」
そう言って、そばのテーブルの椅子に腰掛けたメアリー。
「カチャ」
紗夜の耳が、乾いた金属音を聴き取った。
座ったメアリーが硬直している。
「さ…紗夜捜査官…今、椅子から音が…した」
その瞬間。
オーシャンアベニューの風景を写していた大きなモニターに、ノイズが入った。
「Don't move❗️」
(動かないで❗️)
騒然とする場内に、紗夜の叫びが響く。
「There is a mine in the chair!」
(椅子に地雷があります!)
「ジョイス、爆弾処理班を!メアリー、そのままじっとしてて」
モニターが点いた。
「お集まりの皆さん、彼女の言う通り、その椅子には地雷が埋め込まれている。この地雷で何人のアメリカ兵がやられたことか」
(盗聴器…カメラは?)
紗夜が監視カメラを確認する。
モニターには、アフガニスタンやイラクでの戦闘映像が流れていた。
「無意味な派兵、無理な作戦で、アフガニスタンでは2000名以上の兵士が、我が国のためでなく、他国のため、或いは軍や政府のために死んだ」
「アレン、発信元と声紋分析はFBIに任せて、顔認証で47部隊の者がいないか調べて」
「紗夜捜査官、私は後でいいから、他の人を」
「分かりました、頑張って動かないで」
(さすが戦地経験者、落ち着いてる)
とは言え、広い部屋に500名程の人数。
無作為、或いは大多数が標的なら、全員の救出は絶望的である。
爆弾処理班が、金属探知機で調査を始める。
その一人を捕まえ、メアリーの椅子を調べた。
(クッ…ダメか)
「やはり地雷が?」
不安げに見上げるメアリー。
「地雷かは特定出来ないけど、何かあるのは間違いありません。とにかく動かないで」
「皆さんは、無謀な作戦で死んだ…いや、軍に殺された者が大勢いる事を知っているか?真実は全て軍や政府が闇に葬り、ヤツらは今も平然と生きている。ですよね、ドリス国防長官?」
視線が集まる。
知らない話に驚く大統領。
無言で目を細めるドリス。
紗夜のもとへジョイスが来た。
「ダメだ、幾つものサーバを経由してハッキングし、制御も不能だ。切るしかないか…」
「今は刺激しないで慎重に。それに、座っている皆んなには、静寂よりはマシよ。監視カメラはあそことあそこの二つ。動いてないから、恐らく会場を監視してはいない。大丈夫な人から、ゆっくり退場させて」
メアリーの元へ若い爆弾処理員が来た。
「ロス市警のマーチンです。あなたの大ファンなんです。安心してください、必ず私が助けます」
紗夜もバッグを床に置いて、椅子の裏や周りを覗き込む。
「シートを横から切って行くしかないわね。マーチン、あなた経験は?」
「親父《おやじ》が軍人で、色々な地雷を教わりました。訓練は万全です。やってみます」
(不安は…ないわね、よし)
彼の冷静な心理を確認した。
そこへ、アレンが駆けて来た。
直ぐに立ち上がり、アレンの口を手で塞ぐ。
「アレン、あっちで」
ジャーナリストには聞かれたくなかった。
「紗夜、見つけました。2人いる」
アレンが会場の写真で、対象を指さす。
(あっ💦そうだった…)
「大丈夫、分かったわ」
アレンがイメージした配置を読んだ紗夜。
要人優先のため、退役軍人のテーブルはまだまだである。
(彼らが主役じゃないの❗️)
仕方のないことではあるが、実情を知っている紗夜には歯痒かった。
あちこちで、解除作業が始まっている。
(もし今リモートで押されたら…)
最悪のイメージが脳裏を過《よ》ぎる。
その頃…
テーブルを一つ挟んで、ラパス・チークとカイル・ボブソンは向かい合っていた。
座った瞬間に背筋に感じた違和感。
見つめ合う2人のこめかみから、汗が伝う。
(ラパス…)
(カイル…)戦場が産んだ絆。
それに気付いた紗夜。
(ダメ…そんなことダメ)
「アレン、あの2人は覚悟しているわ。このままじゃ…」
ロナウドの大量殺戮テロか、メリルの47部隊への復讐か?あるいは両方?
決めるには何も根拠が無く、重たい決意。
と、その時。
「こ、これは!」
メアリーの地雷を解除していたマーチン。
「メアリーさん、これはダミーです!」
「ダミー?」
「早く外へ!」
メアリーの手を引いてマーチンが走り出す。
それを見て紗夜は確信した。
「ラパス❗️カイル❗️」
響き渡るその声に、2人が振り向く。
「47部隊が消えちゃいけない❗️」
(な、なぜ知っているんだ…)
思わず2人の決心が揺らぐ。
「他の人達は外へ!早く!」
適当に近くにいた一人を突き飛ばした。
「うわぁあ❗️」
頭を抱える中年の男性。
鎮まり返る場内。
爆発は…起こらなかった。
「ダミーだ、みんな逃げろ!」
パニックになりながらも、軍関連の者が多く、全員が退席するのに、さほどの時間は要しなかった。
座っているのは47部隊の2人となる。
「ラパスさん、カイルさん。落ち着いてください。あなた達まで死んじゃいけない!」
「き…君は誰だ?なぜ名前と部隊のことを?」
「もうたくさん❗️もう死んで欲しくない❗️」
ありったけの想いを叫んだ。
2人の深く苦しい思念が紗夜の胸に刺さる。
(ダメ…)
「ダメよ❗️」
その想いは虚しく、2人がうなずく。
「紗夜、危ない❗️」
カイルが紗夜を抱きしめて伏せる。
「ドドーンッ💥💥」「ガシャーン💥」
天井パネルが崩れ落ち、爆風に窓ガラスが吹き飛ぶ。
少しして、静けさが戻って来る。
しかし、土埃と爆煙で何も見えない。
「紗夜…」「アレン…」
立ち尽くすジョイスとニール。
すると、煙の中に人影が見えた。
頭から血を流しながらも、紗夜を抱き上げたアレンが歩いて来る。
「救護班、早くッ❗️」
ニールの声に現場が動き出す。
タンカで運ばれる2人。
「紗夜捜査官。また君に救われたよ」
「大…統領」
ゆっくりうなずくバーン大統領。
その横からメアリーが現れた。
「紗夜捜査官、これを」
紗夜のバッグであった。
避難する際に、紗夜が置き忘れたバッグを掴んでいた。
「ありがとう…」
運ばれる2人に盛大な拍手が送られる。
(結局…救えなかった…クっ!)
その悔しさに。
あの2人の心情と今迄の苦しみに。
涙が溢れ出して止まらなかった。
こうして、波乱の式典は終幕した。
2人の心に熱い炎を燃やして🔥
西海岸の朝は、影から始まる。
沖の方から煌めく海があらわれ、東からの日差しが、浜辺まで伸びる影を描いていく。
穏やかな朝。
(…さや。。。z zZ)
(…なんか…おもたい…朝か…)
寝ぼけたまま胸の重さに、ふと手をやる。
(なんだろぅ…)
ソファーに仰向けで寝てしまった紗夜。
胸の上にあるものの感触を確かめる。
(ん~ん…さや…)
(ん?………っな⁉️)
「きゃァァアアアー⁉️」
静かな朝に、響き渡る紗夜の叫び❗️
「ドガッ!」
「うわっあ!」「ドンっ!」
急に頭を突き上げられ、蹴り飛ばされたアレンが床に落ちる。
「いてて…」
「何で!あなたがいるのよ~❗️」
アレンの部屋である。
「イッテ~。あっ、おはようございます」
まだ事態が飲み込めていないアレン。
「おはようじゃないでしょ!なんであなたがいるの⁉️」
「何でって、ここ俺の部屋だから…」
「えっ?……」(そう言えば…)
明らかにホテルの部屋とは違う感覚。
…記憶が戻った。
昨夜、ソファーに座り、お互いのPCで調べている内に、すっかり眠ってしまった2人。
「俺は…床で寝たのか…しかし頭痛ぇ」
(気づいてない!…よ、良かった。はぁ…)
「って、のんびりしてられないわ!アレン、ホテルへ送って❗️」
「はぁ?今からか?」
「今、直ぐよ❗️」
結局、アレンの準備が終わるのを待ち、それからホテルへ戻った紗夜。
急いでシャワーを浴び、支度を整える。
ふと…久しぶりぐっすり眠れた事に気づく。
胸の重みを思い出して、一人で赤面した。
「…お待たせ、アレン」
「はいはい、急ぎますよ!全くもう」
まだ痛む頭をなでながら、署へ向かう。
覚えのない痛みと眠気で、不機嫌なアレン。
それでも何とか朝礼に間に合った。
「おっと、お二人揃ってご出勤かぁ」
「うるさいッ💦」
冷やかしに焦るアレン。
「あら~何だか顔が赤いぞ、捜査官様」
「ち、違います💦」
サングラスでは、白い肌の赤面は隠せない。
それを楽しんでる余裕がないニール。
緊張した面持ちで前に立つ。
「みんな、今日は退役軍人追悼式だ。空いているものは、所轄と連携して警備と警戒にあたってくれ。知っての通り、連続爆破殺人が続いている。また、反戦デモもあるかも知れん。ロス市警の威信にかけて、皆んな頼むぞ!」
「はい!」
部屋に戻りながら、ニールが紗夜を見て手招きした。
「全く、分かるわけ…ええ~💦」
ニール警部の真意を確かめていた紗夜には、彼の思念が届いていた。
既にフロアの配置は覚えている。
普通にニールの後を追い、部屋へ入る紗夜。
(実は見えているとか?)
疑いたくなるのも分かる。
ドアは閉めなかった。
「何してるアレン!早く来い」
そこまで読んでいたのである。
ドアを閉めるアレン。
ソファーで向かい合う。
「警部は、派兵の経験がありますか?あるいは身内にアフガンへ派兵した方がいますか?」
座るなり、唐突に紗夜が始めた。
「いや、経験はないし、身内にもいない」
「では…ボブ刑事はどうですか?」
紗夜の醒めた雰囲気に、口を挟めないアレン。
ニールに、一瞬の間が生まれた。
それを感じ取り、考えていた推論を問う。
「息子を…失ったとか?」
ニールの驚きは、アレンでさえ感じた。
暫く無表情の紗夜を見つめ、深呼吸一つ。
「アフガニスタンで、一人息子を失っている」
「5年前のサーチスバレイの悲劇…ね」
「ど…どうしてそれを⁉️」
昨夜、紗夜はある人物を調べていて、その記事に辿りついていたのである。
「ロナウド・ジョンソン。彼の息子も、その犠牲者でした。そして、ロナウドの車が、グリフィスパークの駐車場に映っていました。ボブが捨てたビデオテープです」
「なんだとッ⁉️」
驚きのあまり、立ち上がるニール。
アレンは固まり、立ち上がれなかった。
明らかな証拠隠滅の事実。
それがこの事態に、新しい真実への道を示したのである。
サーチスバレイの悲劇。
四方を丘陵に囲まれた平地に、反タリバン派の村があり、彼らを守るためにアメリカの一部隊が派兵された。
戦略のない無謀な派兵。
俗に言う決死隊である。
数名が生き延びたと言われたが、詳細やその事実は軍により隠ぺいされたのである。
「生き延びた兵士が一人、その事実を報道社へ伝えたけど、国防総省は認めず、その兵士も行方不明のまま」
「酷いな…兵士は使い捨ての駒かよ!」
「47部隊で、死んだモリス・ターナー。その真相も闇に葬られた…はずだった」
紗夜がノートPCを取り出し、アレンがプロジェクターに繋ぐ。
さらに、一台の携帯を取り出し、PCに繋いだ。
開くと写真が映し出される。
「俺と紗夜じゃないか。誰のだそれ?」
「D.C.で私達を襲った殺し屋が持ってたもの」
彼に寄り掛かった時に、スーツのポケットから抜きとっていた。
「空港で車に乗った時、アイツがこれを開き、バックミラーを動かした後、閉じて右のポケットに入れた」
「そう言えば、ヤツが動かすバックミラーで、目が合ったな。それを音で分かってたのか?」
「あの時、この写真で私達を確認したのよ。ヤツが唯一、心を開いた瞬間だった」
無感情だった男が作った隙。
「しかし、パスワードもかけないとは間抜けな殺し屋だな」
「必要ないからよ。私達を確認して殺した後は、海辺にでも捨てる。それだけの道具」
集中している紗夜に表情はなく、異様な怖さすら感じたアレンとニール。
「あの部屋の匂いは、かなりの間締め切っていた匂い。それなのに、私達が行くタイミングで現れた」
映像を見ていたニールが気付く。
「この写真は、ここで撮られたものだ!」
「確かに❗️…まさか」
「ボブが撮り、奴に送った」「ギュッ」
握りしめた拳が、革手袋の音を立てる。
「ボス!ボブは?」
「そう言えば…見ないな今朝は…」
「勘のいい彼よ、昨日私達が署に戻って、テープを見つける事ぐらい読まれてるわ。彼はもう、ここには現れない」
(はぁ…)
ニールの心から、深い溜め息が聞こえた。
「まさか…あのボブが内通者だったとは…」
(もしかして…)
アレンが紗夜を見た。
「私がここに来た本当の理由は、内通者を見つけるためよ」
そもそもFBIが、市警に入ること事態、内務調査以外にはないのである。
沈黙。
それぞれが、それぞれの思いで、真実を噛み締めていた。
「軍に対するテロ活動が増加する中、私達FBIは、Submarineという組織の存在を掴んだ。しかし、常に先手を打たれ、尻尾すら捕まえられない。そしてその原因が、警察組織からの情報漏洩であることが分かった。さらにその背後に大きな敵がいることも」
「ロナウド・ジョンソンか!」
大富豪でありながら、その正体は怪しいヴェールに包まれていた。
「既に数名の内通者は捕まえた。最後に残ったのが、このロサンゼルス。ビバリーヒルズには、ヤツの豪邸がある地」
「しかし、47部隊とヤツのテロ工作じゃ、規模が違うだろう?」
「恐らく、利用されているだけ。必ずもっと大きな目的があるはず。それを止めるためにも、この地雷での復讐劇を止めないと…」
「確かに…そうだな。47部隊の復讐は恐らく、部隊に殺されたモリスの妹、メリル・ターナーによるものと見て間違いないだろう。だが、彼女一人でこんな犯行ができるわけはない」
ニールとアレンの複雑な心境が、紗夜の心を締め付ける。
「ボブは本当に優しくていい人よ。軍の悪事を許す訳にはいかない。でも、だからと言って、軍と言う絆で繋がった多くの兵士は、国のために、いえ世界の為に命をかける人達なの。アレン、あのマーガレットが、悪人だと思う?」
誓いを破り、手榴弾で自爆した彼女。
とても悪人とは程遠い、清い人間であった。
「それを許す訳にはいかない!」
「わかったよ紗夜。ボブは深い悲しみの中で、ヤツに唆《そそのか》され、本当の正義を見失ってしまった。俺がこの手で捕まえる❗️」
デスクの電話が鳴った。
「ボス、もうすぐ式典が始まります。空港に今エアフォースワンが着きました」
「分かった、今からすぐに行く」
受話器を置き、決意を決める。
「このことは、皆んなには秘密だ。あとは紗夜捜査官、アレン。頼んだぞ!」
「FBIの応援も夜のパーティーには着きます」
「奴らの好きにはさせません!」
深く頷《うなず》き、ニールは式典へ向かう。
「私…とんだ勘違いをしていたかもしれない」
その矛盾に、ふと気が付いた紗夜。
「メリル・ターナーの部屋を荒らしたのは、奴らじゃなく、軍よ!」
「メリルが、Submarineと同じ目的なら、そう言うことになるな」
「Angelは、組織じゃなく、彼女そのもの❗️」
「しかし…軍は何を探してたのか…」
(…もしかしたら)
「アレン、人を探す為に、写真と何が必要?」
「なま…え…かな?ありきたりだけど」
「マーガレットがくれた写真…あれは、そう言うことよ❗️」
「メリルの存在を知らせたんじゃ?」
「あの写真は、殺されたモリスも持っていたはず、国防総省へハッキングしなくても、メリルは名前が分かった。モリスは写真に隊員の名前を書いて、妹のメリルに送ったのよ❗️」
「なるほど!残りの7人も、メリルは既に掴んでるってことになるな」
「更に、あそこまでして探したい理由。秘密を守りたい理由。きっと47部隊には、軍か国の有力者、もしくはその息子がいるってわけね」
「それなら分かるかも!」
アレンが、自前のノートPCに、幾つかのハードウェアを繋ぎ、写真を取り込む。
「もし親子なら、顔の相似ポイントが多く見つかるはずなんだ。これは、それを見つける為に俺が作ったソフト。これに、現役の国防総省の幹部の写真を自動検索して入れてっと。後は待つだけ」
ソフトが目まぐるしく作動し始める。
「時間は?」
「この人数と小さな写真じゃ、細かく見なきゃならないから、かなりかかるけど、該当者がいれば必ず出る!とりあえず、警備に行こう。パーティーが終わった頃には、結果がでてるよ」
「あなた、FBIに来ない?」
「ムリムリ、俺はあんな堅苦しい世界はムリ」
「残念だわ。じゃあ私達は、パーティー会場を確認しましょ」
当面の課題は、今夜を無事乗り切り、あわよくば犯人確保であった。
そう甘く考えていた2人であった。
~オーシャンアベニュー~
ホテル シャングリラ。
昼間の式典は物々しい警備態勢の甲斐あってか、何事もなく無事に済んだ。
テレビでは、あのメアリー・フランシスが、生中継で式典を伝えていた。
彼女は報道陣で唯一、パーティーにも招待されていたのである。
戦地での命懸けのリポートで、軍からの信用もあり、一方では、生の戦禍中継に視聴者の指示も厚かった。
「ボス、お疲れ様です」
「ああ、アレンか。心臓に悪いよ全く」
疲れた顔で、ニールが入って来た。
白のタキシードが、何とか疲れを隠していた。
「お疲れ様です警部」
振り向くと、ジョイスにエスコートされた、ドレス姿の紗夜がいた。
サングラスはなく、開いた瞳孔をカモフラージュする特殊なコンタクトを付け、手袋は薄手でレース付きの白いものに変わっていた。
「紗夜…本当に紗夜か?」
大胆に肩を出し、背中は腰まで露出していた。
目のやり場に困るアレンとニール。
「これは、紗夜さんじゃないか!」
「バーン大統領!」「大統領💦」
ニールとアレンの驚きが伝わって来た。
「いやいや、美しい。やはり、FBIにはもったいないな。ハウスへ来ないか?君がいてくれたら心強い」
「とんでもございません、大統領。私は今も任務中の下っ端ですから」
「先日、私の友人のラブさんに会ってな、彼女も君の事を気にしていたよ。私を凶弾から救った二人目の女性だからね君は。一度会ってみたいと言っていたが、君とならウマが合うかもしれないね」
「ラブさんって、あの大スターのトーイ・ラブさんですか?彼女も大統領を…」
「大統領、そろそろお時間です」
伝えたシークレットサービスの目が、邪魔そうに紗夜を一瞥《いちべつ》した。
「分かった。では、パーティーだ、楽しんでいってくれ…といっても任務じゃ、仕方ないか」
笑顔でシークレットサービスに護られながら、所定のテーブルへと向かって行った。
「生の大統領なんて初めて見たよ」
「アレン、紗夜捜査官、私は少し疲れたので、少し外れて休んで来るよ……ん?」
「分かりました。お疲れ様です」
アレンのボスを気遣う優しさが分かった。
しかし、その前のニールの違和感が気になる。
「どうされました、警部?」
(…気のせいか? はぁ…心配しすぎだな)
ニールが心身共に疲れ果ててるのは、心を読むまでも無く分かった。
実際、眠れない夜を過ごしての今日である。
ニールが去って直ぐ。
「もしかして、紗夜捜査官ですか?」
振り向くと、ロスポストのメアリー・フランシスがいた。
「大統領を救った英雄が、ロス市警とご一緒とは…テロの予告でも?」
「いえ、予告はありません。念の為です」
そこへ丁度、国防長官が通りかかる。
「あっ、ドリス長官…」
その隙に、紗夜がジョイスに尋ねた。
「会場の椅子は大丈夫よね?」
「ああ、開場寸前に、全て新しいものに入れ替えさせたから大丈夫だろう」
(やはり、ニールの思い過ごし…か)
時間が来た。
館内放送が流れる。
「皆様、本日は歴史ある当ホテル シャングリラへようこそ。お時間となりましたので、皆さまお席にご着席ください」
(確か…椅子も探知機で確認してた…)
会場に着いた紗夜とアレンは、一通りのチェックを終えてから、着替え用の部屋へと入った。
その際に、金属探知機を持った数名の市警が、椅子や床の確認をしていたのを見ていた。
(…まさか!)
「ジョイス、取り替えた椅子のチェックは?」
「取り寄せたばかりの新品だったから、特に確認はしてないが…時間も無かったしな」
嫌な予感がした。
「あ~ボイスレコーダーくらいあればな~。携帯も没収されたし。紗夜捜査官、私達も座りましょ」
そう言って、そばのテーブルの椅子に腰掛けたメアリー。
「カチャ」
紗夜の耳が、乾いた金属音を聴き取った。
座ったメアリーが硬直している。
「さ…紗夜捜査官…今、椅子から音が…した」
その瞬間。
オーシャンアベニューの風景を写していた大きなモニターに、ノイズが入った。
「Don't move❗️」
(動かないで❗️)
騒然とする場内に、紗夜の叫びが響く。
「There is a mine in the chair!」
(椅子に地雷があります!)
「ジョイス、爆弾処理班を!メアリー、そのままじっとしてて」
モニターが点いた。
「お集まりの皆さん、彼女の言う通り、その椅子には地雷が埋め込まれている。この地雷で何人のアメリカ兵がやられたことか」
(盗聴器…カメラは?)
紗夜が監視カメラを確認する。
モニターには、アフガニスタンやイラクでの戦闘映像が流れていた。
「無意味な派兵、無理な作戦で、アフガニスタンでは2000名以上の兵士が、我が国のためでなく、他国のため、或いは軍や政府のために死んだ」
「アレン、発信元と声紋分析はFBIに任せて、顔認証で47部隊の者がいないか調べて」
「紗夜捜査官、私は後でいいから、他の人を」
「分かりました、頑張って動かないで」
(さすが戦地経験者、落ち着いてる)
とは言え、広い部屋に500名程の人数。
無作為、或いは大多数が標的なら、全員の救出は絶望的である。
爆弾処理班が、金属探知機で調査を始める。
その一人を捕まえ、メアリーの椅子を調べた。
(クッ…ダメか)
「やはり地雷が?」
不安げに見上げるメアリー。
「地雷かは特定出来ないけど、何かあるのは間違いありません。とにかく動かないで」
「皆さんは、無謀な作戦で死んだ…いや、軍に殺された者が大勢いる事を知っているか?真実は全て軍や政府が闇に葬り、ヤツらは今も平然と生きている。ですよね、ドリス国防長官?」
視線が集まる。
知らない話に驚く大統領。
無言で目を細めるドリス。
紗夜のもとへジョイスが来た。
「ダメだ、幾つものサーバを経由してハッキングし、制御も不能だ。切るしかないか…」
「今は刺激しないで慎重に。それに、座っている皆んなには、静寂よりはマシよ。監視カメラはあそことあそこの二つ。動いてないから、恐らく会場を監視してはいない。大丈夫な人から、ゆっくり退場させて」
メアリーの元へ若い爆弾処理員が来た。
「ロス市警のマーチンです。あなたの大ファンなんです。安心してください、必ず私が助けます」
紗夜もバッグを床に置いて、椅子の裏や周りを覗き込む。
「シートを横から切って行くしかないわね。マーチン、あなた経験は?」
「親父《おやじ》が軍人で、色々な地雷を教わりました。訓練は万全です。やってみます」
(不安は…ないわね、よし)
彼の冷静な心理を確認した。
そこへ、アレンが駆けて来た。
直ぐに立ち上がり、アレンの口を手で塞ぐ。
「アレン、あっちで」
ジャーナリストには聞かれたくなかった。
「紗夜、見つけました。2人いる」
アレンが会場の写真で、対象を指さす。
(あっ💦そうだった…)
「大丈夫、分かったわ」
アレンがイメージした配置を読んだ紗夜。
要人優先のため、退役軍人のテーブルはまだまだである。
(彼らが主役じゃないの❗️)
仕方のないことではあるが、実情を知っている紗夜には歯痒かった。
あちこちで、解除作業が始まっている。
(もし今リモートで押されたら…)
最悪のイメージが脳裏を過《よ》ぎる。
その頃…
テーブルを一つ挟んで、ラパス・チークとカイル・ボブソンは向かい合っていた。
座った瞬間に背筋に感じた違和感。
見つめ合う2人のこめかみから、汗が伝う。
(ラパス…)
(カイル…)戦場が産んだ絆。
それに気付いた紗夜。
(ダメ…そんなことダメ)
「アレン、あの2人は覚悟しているわ。このままじゃ…」
ロナウドの大量殺戮テロか、メリルの47部隊への復讐か?あるいは両方?
決めるには何も根拠が無く、重たい決意。
と、その時。
「こ、これは!」
メアリーの地雷を解除していたマーチン。
「メアリーさん、これはダミーです!」
「ダミー?」
「早く外へ!」
メアリーの手を引いてマーチンが走り出す。
それを見て紗夜は確信した。
「ラパス❗️カイル❗️」
響き渡るその声に、2人が振り向く。
「47部隊が消えちゃいけない❗️」
(な、なぜ知っているんだ…)
思わず2人の決心が揺らぐ。
「他の人達は外へ!早く!」
適当に近くにいた一人を突き飛ばした。
「うわぁあ❗️」
頭を抱える中年の男性。
鎮まり返る場内。
爆発は…起こらなかった。
「ダミーだ、みんな逃げろ!」
パニックになりながらも、軍関連の者が多く、全員が退席するのに、さほどの時間は要しなかった。
座っているのは47部隊の2人となる。
「ラパスさん、カイルさん。落ち着いてください。あなた達まで死んじゃいけない!」
「き…君は誰だ?なぜ名前と部隊のことを?」
「もうたくさん❗️もう死んで欲しくない❗️」
ありったけの想いを叫んだ。
2人の深く苦しい思念が紗夜の胸に刺さる。
(ダメ…)
「ダメよ❗️」
その想いは虚しく、2人がうなずく。
「紗夜、危ない❗️」
カイルが紗夜を抱きしめて伏せる。
「ドドーンッ💥💥」「ガシャーン💥」
天井パネルが崩れ落ち、爆風に窓ガラスが吹き飛ぶ。
少しして、静けさが戻って来る。
しかし、土埃と爆煙で何も見えない。
「紗夜…」「アレン…」
立ち尽くすジョイスとニール。
すると、煙の中に人影が見えた。
頭から血を流しながらも、紗夜を抱き上げたアレンが歩いて来る。
「救護班、早くッ❗️」
ニールの声に現場が動き出す。
タンカで運ばれる2人。
「紗夜捜査官。また君に救われたよ」
「大…統領」
ゆっくりうなずくバーン大統領。
その横からメアリーが現れた。
「紗夜捜査官、これを」
紗夜のバッグであった。
避難する際に、紗夜が置き忘れたバッグを掴んでいた。
「ありがとう…」
運ばれる2人に盛大な拍手が送られる。
(結局…救えなかった…クっ!)
その悔しさに。
あの2人の心情と今迄の苦しみに。
涙が溢れ出して止まらなかった。
こうして、波乱の式典は終幕した。
2人の心に熱い炎を燃やして🔥
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