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4. 第47部隊
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~ロス市警本部~
マーガレットから託された、アメリカ軍アフガン派遣、第47部隊の謎。
メールには、部隊の写真が添付されていた。
これで捜査は大きく前進するかと思ったが、そうはならなかった。
死んだ6人は、確かに写真にいた。
残りは9人。
「国防総省は、こんな状況にあっても、47部隊の隊員情報は明かせないってのかよ」
「ああ、それどころか、47部隊の存在すら否定している」
事態の深刻さを考慮し、FBIでの紗夜の相棒、ジョイス・ニールセンが参画していた。
「ジョイス、あなたは海兵隊出身よね?軍の中で犯す重大な過ちって、何が考えられる?」
「色々な過ちはあるが…一般人や、降伏した敵を意図的に殺害することが、実例としてはある。知ってる限りでは、軍法会議にかけられて終わりだがな」
「戦時下では、意図的かどうかは微妙ね」
「顔認証で現役軍人にはヒットなし。退役軍人は各州法でも守られてるしな、彼女が命と引き換えにくれた写真も、役に立たないか。参りましたな」
唇を噛み締める紗夜に気づくボブ。
「しかし、今犯行を続けているヤツらは、47部隊の情報を完全に掴んでるんだよな?何か方法はあるんだろう」
ボスのニールは、明日に迫った追悼式に焦っていた。
「軍のシステムにハッキングするか、或いは軍の中に、それも上層部に協力者がいるか…」
「今回の手口は、全てあの地雷によるもの。その執着心から見て、動機は怨恨と見て間違いない」
プロファイリングも手掛けるジョイス。
その冷静な分析と推察力はFBIでも有名である。
「わざわざ現物を盗み出してまでやるんだ、よほどの執着心だよな」
(ん?)ジョイスが何かを掴んだ。
「アレン刑事、つまり…あの地雷で殺された事への恨み。つまり、アフガンの現地で死んだ者。さらに、その恨みを抱いているのは、あの地の者ではなく、おそらくアメリカにいる者」
「ジョイス、それよ!マーガレットが無意味なものを渡すはずはないわ!」
紗夜は、ずっとあの写真の意味するもの、それを考えていたのである。
「どうゆうことだね、紗夜?」
「ボブ…もしかしたらだけど、既に亡くなっている隊員はいないかしら?」
「なるほど、殉職なら公開されてるはずだな」
「アレン!」
「ちょっと待ってくださいよ…」
アレンはシステム関係に強く、許されるなら、ハッキングさえできる程の能力を持っていた。
「紗夜、1人ヒットしました❗️」
モニターに映し出す。
「モリス・ターナー、新任でアフガンへ行き、作戦中に戦死となっています。…おかしいな」
「なにが?」
「紗夜、戦死の場合は普通、爆撃でとか銃撃によりなどの理由が記録されるんだよ。それに、この時期の東部パンジシール州は、唯一タリバンに制圧されなかった地域だ」
「確か、対ソ連時代に設置したあの数十万個の地雷に守られていたとか…だったな」
ボブは、アフガン戦争について、歴史を含め調べていた。
全く見えなかった謎の影が、見え始めていた。
「アレン、モリス・ターナーの情報を!」
「今やってます」
(まさか…な)
「ジョイス、いいから話してみて」
「君に隠し事は無理だったな。まさか…だが、戦地であの地雷で殉職したとして、その部隊を恨むとしたら…」
「なかまに、殺された」
「何ッ⁉️」
紗夜の言葉の響きは、それ程にショッキングなものであった。
「そんなことが、あの結束の固い部隊で?」
「部隊の結束は、共に助け合い戦う中で生まれるもの。それは、新しいメンバーでも、戦地経験がある者なら最初から無意識にできる絆だ。だが…新任者にはキツイ現実が待っている。海兵隊でも同じだ。それをみんな乗り越えて、初めて真の仲間になれる」
「俺たちが、新人をオモチャにしたり、邪魔者扱いしてふざける様なものか」
「大きく違うのは…それが、生死を懸けた戦地だと言うことだ」
「命を左右する戦場だからこそ、新人は邪魔になる。硬い絆に入るのは、楽じゃないわね」
見えない目で、写真を見つめる紗夜には、いたぶられる彼の姿が想像できた。
「モリスの両親は、ケンタッキーの田舎だな。彼の住所はシスコだが、3年前だからもうないだろう。おっと、彼には当時大学生の妹がいるな。メリル・ターナー…か、国内にいて結婚でもしてなければ…っと、いたぜ。ワシントンD.C.だ。」
「ジョイス、両親の方をお願い。私はここに残って、やり遂げるわ」
「了解。紗夜を頼みます」
「こちらこそ」
出て行くジョイスを見送りながら、紗夜にはまだ、マーガレットの真意が分からないでいた。
「よし、アレン、紗夜さんとD.C.へ。ボブは念の為、シスコのアパートへ行ってくれ」
「了解、ボス。何とか今夜には戻ります」
国内線で、片道5時間のフライトであった。
「明日の追悼式は、サンタモニカの退役軍人記念碑がある、オーシャンアベニューでしたね」
「ああ、市警を総動員して、地雷の調査と監視をしているところだ、こっちは任せてさっさと行って来い」
2人が出て行く。
「では、私も」
「あ、ボブ、お前に何か届いてたぞ。ロス市警にボブって名は多いからな、各分署を巡ってやっとここの番らしい」
小包を受け取る。
「送信者は…と、グリフィスパークG.C.…あぁ、最初の現場か。そう言えば、名刺を渡して無かったな💧」
中には、駐車場の監視カメラ映像と書いたビデオテープが入っていた。
(そう言えば…)
こうして、捜査の筋道はほぼ決まった。
未だ見えない敵を相手に。
~ワシントンD.C.~
14:30
荷物待ちをする紗夜とアレン。
紗夜の携帯のアラームが鳴った。
サッと手を出し、触れた手提げバッグを掴む。
「なるほどね、そう言う仕組みか…」
何の目印もない紗夜のバッグ。
忘れないように、必死で覚えていたアレンであった💧
直ぐに彼のバッグも来た。
「よっと!」
キャスター付の中型ケース。
「日帰りよアレン。何を持って来たのよ」
「色々必要かもって…こんなになりました💦」
到着ロビーへ向かう。
すると…
「紗夜さん、アレンさん!」
2人を見て、叫ぶ男性がいた。
彼のもとへ行く2人。
「ご苦労様です。市警のマット・スポークマンです。ロス市警から連絡があり、迎えに来ました。こちらへ」
「助かります」
(あのボスが?珍しい…紗夜がいるからか?)
おじきする横で、アレンが心の中でボヤく。
駐車場に停めてある車に乗り込む。
「パトカーではないのね?」
「あ、ええ。目立たない方が良いかと」
「確かに。容疑者を捕まえに行く訳じゃないから、パトカーじゃ迷惑だよな」
空港を出て、ワシントンD.C.の街へと向かう。
「メリル・ターナーのマンションですね?」
マットが確認する。
「よしっと。ああ、アーリントンの553だ。まだ引っ越してはないようだな」
アレンがノートPCを開き、D.C.のアドレスサイトで確認した。
固定の電話は登録されていない。
「ロスは大変そうですね?」
「ほんとだよ。西海岸は退役軍人が多く集まっているからな」
「酷い話だ。国に忠実な元兵士を狙うなんて」
(この車…)
「どうした、紗夜?」
「いえ、運転がお上手だと思って」
「おいおい、それは俺への当て付けか?」
「着きましたよ」
脇道から、高層マンションの駐車場へ停めた。
運転手側の後部座席にいた紗夜。
マットより少し早く降りて、態勢を崩す。
「おっとっと。大丈夫ですか?紗夜捜査官」
思わずマットの体に抱きついて、転ばずにすんだ紗夜。
「ごめんなさい。フライトの後はバランス感覚がおかしくなるんです」
(ほんとに見えないんだな…)
「シッカリしてくださいよ紗夜」
(……)
「確か…10階の107号室だったな」
エレベーターで10階に着く。
マットが扉を押さえ、最後に続いた。
「ここかぁ」
アレンが呼び鈴を押す。
(鳴ってはいる…でも気配はない)
「まだ表札は付いたままだが…」
「留守ね」
二度目の呼び鈴より早く、紗夜が告げる。
紗夜のステッキが、ドアの前の廊下とドアポストを探る。
「郵便物がないから、住んではいる様だな」
アレンがドアノブに手を掛けた。
(あれ?空いてるぞ)
それを聞いた紗夜。
携帯を取り出す。
「ごめんなさい、シスコへ行ったボブからよ」
少し離れようとして、ドアノブを回したアレンにぶつかる。
「おいおい紗夜、何やってんだ」
そのまま押し出す様にドアから離す。
「電話するから、ボスだと思って出て」
小声で伝えた。
直ぐにアレンにかける。
「ボブ、こっちは今着いたとこよ」
アレンの携帯が鳴る。
もちろん紗夜からである。
「あ、ボス。今着きました」
マットに、すまなそうな仕草をする。
「彼は市警じゃない、殺し屋よ」
押し殺した紗夜の声。
「なんだ、そんな心配いらないっすよボス」
息の合った名演技である。
「分かったわ、ボブ。私は今から入るけど、歳なんだから、もう転んだりしないでよ。では」
電話を切り、ステッキで探りながらドアノブを見つける。
バッグを肩に掛けながら、留め金を外す。
「アレン、入るわよ」
(無意識か…さすがね)
このドタバタの状況に、無感情のマット。
「おじゃましま~す」
バッグを抱え、前屈みになりながら、右手は中の銃を掴んでいた。
携帯をしまい、アレンが続く。
「何これ⁉️」
部屋の中は酷く荒らされていた。
叫んだ紗夜に、見えるはずはない。
驚く振りをして、バッグを落とし奥へ入る。
「キュ…」
金属が擦れる微かな音。
紗夜の聴覚は聞き逃さない。
「いてッ!」
バッグにつまづいてアレンが転ぶ。
その不意の動作に、一瞬彼が遅れた。
「パンッ❗️」
マットのその乱れた思念を、紗夜の銃弾が撃ち抜いていた。
サイレンサー付の銃を構えたまま、後ろに倒れるマット。
「アレン!私を連れて直ぐに逃げて❗️」
バッグを拾って起き上がり、紗夜の手を掴み、外へ出る。
(…!)
「エレベーターが来る、押して!」
丁度、空のエレベーターが降りて来て開いた。
直ぐに乗り込み、1階を押す。
「ふぅ!危なかったぁ~」
「信じてくれて助かったわ、アレン」
「俺もおかしいとは思ってたんだよな。あのボスが、そんな気を遣うわけないし」
エレベーターが開く。
(何よ、この女💦)
買い物帰りの女性の目が驚く。
軽く会釈して、表通りへ急ぐ2人。
直ぐにタクシーを捕まえて、乗り込んだ。
「ハァ~殺られるかと思ったわ💦」
「紗夜のおかげで助かったよ。FBIっていつもこんなのか?」
「まさか。…まぁ…たまにはあるけど💧」
「なぜ気付いた?心の声が聞こえたのか?」
「逆よ。エレベーターからは全く無意識。ありえないくらい。それに、警察があんな高級車は使わない」
恐るべし紗夜、と思ったアレン。
「まてよ…あのヨロめいたのもわざとか?」
「当たり前じゃない。彼の銃を確認しただけ。あのグリップの特徴はベレッタ」
「殺し屋の定番だな。しかし…凄いな紗夜」
「運転手さん、ダラスへ急いで」
そう言って、タクシー代の倍額を渡す。
「えっ?おい紗夜、ナショナル空港で往復買ってるぜ」
「私達の動きは読まれてる。狙われたいの?」
(はいはい。わかりました!)
ふてくされた気分でノートPCを開くアレン。
「パタン」
それを閉じる紗夜。
「キャンセルしたら、バレてしまうわ」
「分かったよ、全く。しかしD.C.まで来て、メリルの部屋は調べなくてもいいのか?」
「プロがあれだけ探した後に、何か見つかると思うの?」
「……💧」
(しかし…どうして?)
凹むアレンより、その方が気がかりであった。
~ロサンゼルス~
23:00
カリフォルニア、サンタモニカの夜は長い。
特にオーシャンアベニュー地区は、人気の観光地であり、遅くまで賑やかである。
その一角。
退役軍人記念碑を中心に、厳重な警備体制が敷かれていた。
「ボス、戻りました」
「お、ご苦労。その様子じゃ、収穫なしか」
「はい、残念ながら。彼女のマンションは、何者かに荒らされてました」
「それより、ボス…」
「あら、ボブ。そっちもやはりもう…」
アレンの言葉を遮る紗夜。
「あ…あぁ、とっくに別の住人がいたよ」
(…動揺?何かあった?)
紗夜がその心理に集中する。
「ところで、グリフィスからのプレゼントはどうだったんだ、ボブ?」
(グリフィス?あの地雷の…)
「手掛かりになるものは何も。ただのゴミだったよ、全く。今頃になって」
「ニール警部、今日は疲れたので、帰ります」
「ああ、明日は大変な1日になるからな、ゆっくり休んでくれ」
「でね…」
「アレン、送ってくれる?」
また、露骨に遮る紗夜。
2人には見えない様にウィンクを送った。
「し、仕方ないなぁ。じゃあボス、無理しないでくださいよ。本番前に倒れない様に」
紗夜に急かされ、車へと向かう。
そして、アレンが喋るより早く携帯を見せる。
「ジョイスが送って来たわ。サラマンダーって呼ばれてる凄腕の殺し屋よ。D.C.じゃ、警察沙汰にもならなかったみたい」
「なんだって!真っ昼間にマンションで人が撃たれて死んだんだぜ?D.C.ってそんな街か?」
「分かるでしょ」
車に乗り込みながら、紗夜は気になっていた。
「上層部が動いてるってことか」
「ヤツを雇うってことは、そうゆうことね。報酬は少なくとも数百万ドルって噂よ」
「マジかよ💦」
血の気が引くアレン。
「それよりアレン、グリフィスからのプレゼントって何?」
「グリフィス?ん……あっ!そう言えば、ボブがゴルフ場の奴に、駐車場の監視カメラ映像を頼んでた様な…」
「直ぐに署に戻って❗️」
こういう時の紗夜は絶対である。
だいぶ彼女に慣れて来たアレンであった。
飛ばして、30分でロス市警本部へ着いた。
「今日のゴミは?」
「ごみ?…はいはい。こっちですよ、全く」
署の裏にあるゴミ収集場所へ案内した。
何色かのゴミ袋が積んである。
「この色は?」
「最近分別がうるさくて、どの部署が出したか分かる様になってるんです」
(色…見えてるのか?)
「殺人課は?」
「黒です。何を探すんですか?」
(2人はグルではない様ね)
「グリフィスの設備は新しい?」
「いや、かなり錆れてますね。広すぎて資金が回らないんじゃないかな」
(とすると…)
「監視カメラは…ビデオテープね、探して!」
「ボブさんが、何も無かったって…」
「あれは嘘よ…見てないか、或いは…」
「隠したって言うんですか⁉️ボブさんが?」
「それを確かめるのよ!」
紗夜も彼の誠実で優しい人柄は分かっていた。
それは間違いない。
だが、あれが嘘である事も間違いなかった。
渋々探すアレン。
暫くして…
「ありました!」
アレンが、1本のビデオテープをかざす。
「アレン、あなたデッキ持ってる?」
「えっ?…あ、はい。ありますけど…」
「行きましょ!」
「えぇ~⁉️今からですか?」
「彼女がいるわけでもないし、散らかっててもいいから、いくわよ!」
「そ…そこは読まないで下さいよ💦」
「…ごめんなさい、つい…💧」
マシンガンの様な、アレンの愚痴を聞きながら、マンションに着いた。
鍵を開けるなり、まっしぐらにテレビへ向かう紗夜。
「ちょ、ちょっと、紗夜~💦」
「大丈夫、脱いだ下着ぐらい片付けなさいなんて思ってないから」
「思ってるじゃないですか~❗️」
「それより、リモコンは?」
「はい…」(ブツブツ…)
「確か、キャディーは雇ってなくて、キャディーバッグは無くなっていたのよね?」
「はい…」(ブツブツ…)
「ブツブツうるさい❗️悪かったわよ、ごめんなさい。でも重要なのよ!時間は?」
「もう0時過ぎました」
「あのね…💧」
「冗談ですよ、爆発は12:30頃です」
「駐車場まで、歩くと何分?」
「多分…20分くらいかな」
「この辺りか…」
無言で寄り添って、テレビ画面に集中する。
0時過ぎの静けさに2人っきり。
さすがの紗夜も気にはなる。
アレンの激しい鼓動を感じる。
(マズいかも…?)
と、その時。
「紗夜、あれ❗️」
少し巻き戻して、止める。
紗夜がいつもとは違う携帯で写真を撮った。
バッグから、薄いノートPCを出し、携帯のメモリーカードを差し込んで読み込ます。
「画像処理ソフトですか!凄い」
「NASAが開発し、FBIでも使っているものよ」
鮮明になった画像で、キャリーバッグのある部分を拡大する。
「これは…血ね」
「それに、パターだけありません」
「プレートNo.の称号をお願い」
テープを16倍で早送りする紗夜。
「ありました!これって…」
夜になり、駐車場からは車は全て消えた。
「紗夜…」
画面を見せるアレン。
「ロナウド・ジョンソン❗️」
2人共に驚きは隠せない。
アメリカTOP 10に入る大富豪。
それと共に、悪い噂もある危険人物であった。
その正体は謎のままである。
「ボブが隠したのは彼!」
(しかし…なぜ?)
徐々に見えて来る意外な影。
だが、まだ一つとして真相と目的には辿り着けてはいない。
大きな策略が、その裏で着実に進められていることなど、知る由《よし》も無かった。
マーガレットから託された、アメリカ軍アフガン派遣、第47部隊の謎。
メールには、部隊の写真が添付されていた。
これで捜査は大きく前進するかと思ったが、そうはならなかった。
死んだ6人は、確かに写真にいた。
残りは9人。
「国防総省は、こんな状況にあっても、47部隊の隊員情報は明かせないってのかよ」
「ああ、それどころか、47部隊の存在すら否定している」
事態の深刻さを考慮し、FBIでの紗夜の相棒、ジョイス・ニールセンが参画していた。
「ジョイス、あなたは海兵隊出身よね?軍の中で犯す重大な過ちって、何が考えられる?」
「色々な過ちはあるが…一般人や、降伏した敵を意図的に殺害することが、実例としてはある。知ってる限りでは、軍法会議にかけられて終わりだがな」
「戦時下では、意図的かどうかは微妙ね」
「顔認証で現役軍人にはヒットなし。退役軍人は各州法でも守られてるしな、彼女が命と引き換えにくれた写真も、役に立たないか。参りましたな」
唇を噛み締める紗夜に気づくボブ。
「しかし、今犯行を続けているヤツらは、47部隊の情報を完全に掴んでるんだよな?何か方法はあるんだろう」
ボスのニールは、明日に迫った追悼式に焦っていた。
「軍のシステムにハッキングするか、或いは軍の中に、それも上層部に協力者がいるか…」
「今回の手口は、全てあの地雷によるもの。その執着心から見て、動機は怨恨と見て間違いない」
プロファイリングも手掛けるジョイス。
その冷静な分析と推察力はFBIでも有名である。
「わざわざ現物を盗み出してまでやるんだ、よほどの執着心だよな」
(ん?)ジョイスが何かを掴んだ。
「アレン刑事、つまり…あの地雷で殺された事への恨み。つまり、アフガンの現地で死んだ者。さらに、その恨みを抱いているのは、あの地の者ではなく、おそらくアメリカにいる者」
「ジョイス、それよ!マーガレットが無意味なものを渡すはずはないわ!」
紗夜は、ずっとあの写真の意味するもの、それを考えていたのである。
「どうゆうことだね、紗夜?」
「ボブ…もしかしたらだけど、既に亡くなっている隊員はいないかしら?」
「なるほど、殉職なら公開されてるはずだな」
「アレン!」
「ちょっと待ってくださいよ…」
アレンはシステム関係に強く、許されるなら、ハッキングさえできる程の能力を持っていた。
「紗夜、1人ヒットしました❗️」
モニターに映し出す。
「モリス・ターナー、新任でアフガンへ行き、作戦中に戦死となっています。…おかしいな」
「なにが?」
「紗夜、戦死の場合は普通、爆撃でとか銃撃によりなどの理由が記録されるんだよ。それに、この時期の東部パンジシール州は、唯一タリバンに制圧されなかった地域だ」
「確か、対ソ連時代に設置したあの数十万個の地雷に守られていたとか…だったな」
ボブは、アフガン戦争について、歴史を含め調べていた。
全く見えなかった謎の影が、見え始めていた。
「アレン、モリス・ターナーの情報を!」
「今やってます」
(まさか…な)
「ジョイス、いいから話してみて」
「君に隠し事は無理だったな。まさか…だが、戦地であの地雷で殉職したとして、その部隊を恨むとしたら…」
「なかまに、殺された」
「何ッ⁉️」
紗夜の言葉の響きは、それ程にショッキングなものであった。
「そんなことが、あの結束の固い部隊で?」
「部隊の結束は、共に助け合い戦う中で生まれるもの。それは、新しいメンバーでも、戦地経験がある者なら最初から無意識にできる絆だ。だが…新任者にはキツイ現実が待っている。海兵隊でも同じだ。それをみんな乗り越えて、初めて真の仲間になれる」
「俺たちが、新人をオモチャにしたり、邪魔者扱いしてふざける様なものか」
「大きく違うのは…それが、生死を懸けた戦地だと言うことだ」
「命を左右する戦場だからこそ、新人は邪魔になる。硬い絆に入るのは、楽じゃないわね」
見えない目で、写真を見つめる紗夜には、いたぶられる彼の姿が想像できた。
「モリスの両親は、ケンタッキーの田舎だな。彼の住所はシスコだが、3年前だからもうないだろう。おっと、彼には当時大学生の妹がいるな。メリル・ターナー…か、国内にいて結婚でもしてなければ…っと、いたぜ。ワシントンD.C.だ。」
「ジョイス、両親の方をお願い。私はここに残って、やり遂げるわ」
「了解。紗夜を頼みます」
「こちらこそ」
出て行くジョイスを見送りながら、紗夜にはまだ、マーガレットの真意が分からないでいた。
「よし、アレン、紗夜さんとD.C.へ。ボブは念の為、シスコのアパートへ行ってくれ」
「了解、ボス。何とか今夜には戻ります」
国内線で、片道5時間のフライトであった。
「明日の追悼式は、サンタモニカの退役軍人記念碑がある、オーシャンアベニューでしたね」
「ああ、市警を総動員して、地雷の調査と監視をしているところだ、こっちは任せてさっさと行って来い」
2人が出て行く。
「では、私も」
「あ、ボブ、お前に何か届いてたぞ。ロス市警にボブって名は多いからな、各分署を巡ってやっとここの番らしい」
小包を受け取る。
「送信者は…と、グリフィスパークG.C.…あぁ、最初の現場か。そう言えば、名刺を渡して無かったな💧」
中には、駐車場の監視カメラ映像と書いたビデオテープが入っていた。
(そう言えば…)
こうして、捜査の筋道はほぼ決まった。
未だ見えない敵を相手に。
~ワシントンD.C.~
14:30
荷物待ちをする紗夜とアレン。
紗夜の携帯のアラームが鳴った。
サッと手を出し、触れた手提げバッグを掴む。
「なるほどね、そう言う仕組みか…」
何の目印もない紗夜のバッグ。
忘れないように、必死で覚えていたアレンであった💧
直ぐに彼のバッグも来た。
「よっと!」
キャスター付の中型ケース。
「日帰りよアレン。何を持って来たのよ」
「色々必要かもって…こんなになりました💦」
到着ロビーへ向かう。
すると…
「紗夜さん、アレンさん!」
2人を見て、叫ぶ男性がいた。
彼のもとへ行く2人。
「ご苦労様です。市警のマット・スポークマンです。ロス市警から連絡があり、迎えに来ました。こちらへ」
「助かります」
(あのボスが?珍しい…紗夜がいるからか?)
おじきする横で、アレンが心の中でボヤく。
駐車場に停めてある車に乗り込む。
「パトカーではないのね?」
「あ、ええ。目立たない方が良いかと」
「確かに。容疑者を捕まえに行く訳じゃないから、パトカーじゃ迷惑だよな」
空港を出て、ワシントンD.C.の街へと向かう。
「メリル・ターナーのマンションですね?」
マットが確認する。
「よしっと。ああ、アーリントンの553だ。まだ引っ越してはないようだな」
アレンがノートPCを開き、D.C.のアドレスサイトで確認した。
固定の電話は登録されていない。
「ロスは大変そうですね?」
「ほんとだよ。西海岸は退役軍人が多く集まっているからな」
「酷い話だ。国に忠実な元兵士を狙うなんて」
(この車…)
「どうした、紗夜?」
「いえ、運転がお上手だと思って」
「おいおい、それは俺への当て付けか?」
「着きましたよ」
脇道から、高層マンションの駐車場へ停めた。
運転手側の後部座席にいた紗夜。
マットより少し早く降りて、態勢を崩す。
「おっとっと。大丈夫ですか?紗夜捜査官」
思わずマットの体に抱きついて、転ばずにすんだ紗夜。
「ごめんなさい。フライトの後はバランス感覚がおかしくなるんです」
(ほんとに見えないんだな…)
「シッカリしてくださいよ紗夜」
(……)
「確か…10階の107号室だったな」
エレベーターで10階に着く。
マットが扉を押さえ、最後に続いた。
「ここかぁ」
アレンが呼び鈴を押す。
(鳴ってはいる…でも気配はない)
「まだ表札は付いたままだが…」
「留守ね」
二度目の呼び鈴より早く、紗夜が告げる。
紗夜のステッキが、ドアの前の廊下とドアポストを探る。
「郵便物がないから、住んではいる様だな」
アレンがドアノブに手を掛けた。
(あれ?空いてるぞ)
それを聞いた紗夜。
携帯を取り出す。
「ごめんなさい、シスコへ行ったボブからよ」
少し離れようとして、ドアノブを回したアレンにぶつかる。
「おいおい紗夜、何やってんだ」
そのまま押し出す様にドアから離す。
「電話するから、ボスだと思って出て」
小声で伝えた。
直ぐにアレンにかける。
「ボブ、こっちは今着いたとこよ」
アレンの携帯が鳴る。
もちろん紗夜からである。
「あ、ボス。今着きました」
マットに、すまなそうな仕草をする。
「彼は市警じゃない、殺し屋よ」
押し殺した紗夜の声。
「なんだ、そんな心配いらないっすよボス」
息の合った名演技である。
「分かったわ、ボブ。私は今から入るけど、歳なんだから、もう転んだりしないでよ。では」
電話を切り、ステッキで探りながらドアノブを見つける。
バッグを肩に掛けながら、留め金を外す。
「アレン、入るわよ」
(無意識か…さすがね)
このドタバタの状況に、無感情のマット。
「おじゃましま~す」
バッグを抱え、前屈みになりながら、右手は中の銃を掴んでいた。
携帯をしまい、アレンが続く。
「何これ⁉️」
部屋の中は酷く荒らされていた。
叫んだ紗夜に、見えるはずはない。
驚く振りをして、バッグを落とし奥へ入る。
「キュ…」
金属が擦れる微かな音。
紗夜の聴覚は聞き逃さない。
「いてッ!」
バッグにつまづいてアレンが転ぶ。
その不意の動作に、一瞬彼が遅れた。
「パンッ❗️」
マットのその乱れた思念を、紗夜の銃弾が撃ち抜いていた。
サイレンサー付の銃を構えたまま、後ろに倒れるマット。
「アレン!私を連れて直ぐに逃げて❗️」
バッグを拾って起き上がり、紗夜の手を掴み、外へ出る。
(…!)
「エレベーターが来る、押して!」
丁度、空のエレベーターが降りて来て開いた。
直ぐに乗り込み、1階を押す。
「ふぅ!危なかったぁ~」
「信じてくれて助かったわ、アレン」
「俺もおかしいとは思ってたんだよな。あのボスが、そんな気を遣うわけないし」
エレベーターが開く。
(何よ、この女💦)
買い物帰りの女性の目が驚く。
軽く会釈して、表通りへ急ぐ2人。
直ぐにタクシーを捕まえて、乗り込んだ。
「ハァ~殺られるかと思ったわ💦」
「紗夜のおかげで助かったよ。FBIっていつもこんなのか?」
「まさか。…まぁ…たまにはあるけど💧」
「なぜ気付いた?心の声が聞こえたのか?」
「逆よ。エレベーターからは全く無意識。ありえないくらい。それに、警察があんな高級車は使わない」
恐るべし紗夜、と思ったアレン。
「まてよ…あのヨロめいたのもわざとか?」
「当たり前じゃない。彼の銃を確認しただけ。あのグリップの特徴はベレッタ」
「殺し屋の定番だな。しかし…凄いな紗夜」
「運転手さん、ダラスへ急いで」
そう言って、タクシー代の倍額を渡す。
「えっ?おい紗夜、ナショナル空港で往復買ってるぜ」
「私達の動きは読まれてる。狙われたいの?」
(はいはい。わかりました!)
ふてくされた気分でノートPCを開くアレン。
「パタン」
それを閉じる紗夜。
「キャンセルしたら、バレてしまうわ」
「分かったよ、全く。しかしD.C.まで来て、メリルの部屋は調べなくてもいいのか?」
「プロがあれだけ探した後に、何か見つかると思うの?」
「……💧」
(しかし…どうして?)
凹むアレンより、その方が気がかりであった。
~ロサンゼルス~
23:00
カリフォルニア、サンタモニカの夜は長い。
特にオーシャンアベニュー地区は、人気の観光地であり、遅くまで賑やかである。
その一角。
退役軍人記念碑を中心に、厳重な警備体制が敷かれていた。
「ボス、戻りました」
「お、ご苦労。その様子じゃ、収穫なしか」
「はい、残念ながら。彼女のマンションは、何者かに荒らされてました」
「それより、ボス…」
「あら、ボブ。そっちもやはりもう…」
アレンの言葉を遮る紗夜。
「あ…あぁ、とっくに別の住人がいたよ」
(…動揺?何かあった?)
紗夜がその心理に集中する。
「ところで、グリフィスからのプレゼントはどうだったんだ、ボブ?」
(グリフィス?あの地雷の…)
「手掛かりになるものは何も。ただのゴミだったよ、全く。今頃になって」
「ニール警部、今日は疲れたので、帰ります」
「ああ、明日は大変な1日になるからな、ゆっくり休んでくれ」
「でね…」
「アレン、送ってくれる?」
また、露骨に遮る紗夜。
2人には見えない様にウィンクを送った。
「し、仕方ないなぁ。じゃあボス、無理しないでくださいよ。本番前に倒れない様に」
紗夜に急かされ、車へと向かう。
そして、アレンが喋るより早く携帯を見せる。
「ジョイスが送って来たわ。サラマンダーって呼ばれてる凄腕の殺し屋よ。D.C.じゃ、警察沙汰にもならなかったみたい」
「なんだって!真っ昼間にマンションで人が撃たれて死んだんだぜ?D.C.ってそんな街か?」
「分かるでしょ」
車に乗り込みながら、紗夜は気になっていた。
「上層部が動いてるってことか」
「ヤツを雇うってことは、そうゆうことね。報酬は少なくとも数百万ドルって噂よ」
「マジかよ💦」
血の気が引くアレン。
「それよりアレン、グリフィスからのプレゼントって何?」
「グリフィス?ん……あっ!そう言えば、ボブがゴルフ場の奴に、駐車場の監視カメラ映像を頼んでた様な…」
「直ぐに署に戻って❗️」
こういう時の紗夜は絶対である。
だいぶ彼女に慣れて来たアレンであった。
飛ばして、30分でロス市警本部へ着いた。
「今日のゴミは?」
「ごみ?…はいはい。こっちですよ、全く」
署の裏にあるゴミ収集場所へ案内した。
何色かのゴミ袋が積んである。
「この色は?」
「最近分別がうるさくて、どの部署が出したか分かる様になってるんです」
(色…見えてるのか?)
「殺人課は?」
「黒です。何を探すんですか?」
(2人はグルではない様ね)
「グリフィスの設備は新しい?」
「いや、かなり錆れてますね。広すぎて資金が回らないんじゃないかな」
(とすると…)
「監視カメラは…ビデオテープね、探して!」
「ボブさんが、何も無かったって…」
「あれは嘘よ…見てないか、或いは…」
「隠したって言うんですか⁉️ボブさんが?」
「それを確かめるのよ!」
紗夜も彼の誠実で優しい人柄は分かっていた。
それは間違いない。
だが、あれが嘘である事も間違いなかった。
渋々探すアレン。
暫くして…
「ありました!」
アレンが、1本のビデオテープをかざす。
「アレン、あなたデッキ持ってる?」
「えっ?…あ、はい。ありますけど…」
「行きましょ!」
「えぇ~⁉️今からですか?」
「彼女がいるわけでもないし、散らかっててもいいから、いくわよ!」
「そ…そこは読まないで下さいよ💦」
「…ごめんなさい、つい…💧」
マシンガンの様な、アレンの愚痴を聞きながら、マンションに着いた。
鍵を開けるなり、まっしぐらにテレビへ向かう紗夜。
「ちょ、ちょっと、紗夜~💦」
「大丈夫、脱いだ下着ぐらい片付けなさいなんて思ってないから」
「思ってるじゃないですか~❗️」
「それより、リモコンは?」
「はい…」(ブツブツ…)
「確か、キャディーは雇ってなくて、キャディーバッグは無くなっていたのよね?」
「はい…」(ブツブツ…)
「ブツブツうるさい❗️悪かったわよ、ごめんなさい。でも重要なのよ!時間は?」
「もう0時過ぎました」
「あのね…💧」
「冗談ですよ、爆発は12:30頃です」
「駐車場まで、歩くと何分?」
「多分…20分くらいかな」
「この辺りか…」
無言で寄り添って、テレビ画面に集中する。
0時過ぎの静けさに2人っきり。
さすがの紗夜も気にはなる。
アレンの激しい鼓動を感じる。
(マズいかも…?)
と、その時。
「紗夜、あれ❗️」
少し巻き戻して、止める。
紗夜がいつもとは違う携帯で写真を撮った。
バッグから、薄いノートPCを出し、携帯のメモリーカードを差し込んで読み込ます。
「画像処理ソフトですか!凄い」
「NASAが開発し、FBIでも使っているものよ」
鮮明になった画像で、キャリーバッグのある部分を拡大する。
「これは…血ね」
「それに、パターだけありません」
「プレートNo.の称号をお願い」
テープを16倍で早送りする紗夜。
「ありました!これって…」
夜になり、駐車場からは車は全て消えた。
「紗夜…」
画面を見せるアレン。
「ロナウド・ジョンソン❗️」
2人共に驚きは隠せない。
アメリカTOP 10に入る大富豪。
それと共に、悪い噂もある危険人物であった。
その正体は謎のままである。
「ボブが隠したのは彼!」
(しかし…なぜ?)
徐々に見えて来る意外な影。
だが、まだ一つとして真相と目的には辿り着けてはいない。
大きな策略が、その裏で着実に進められていることなど、知る由《よし》も無かった。
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