復讐の天使 〜盲目の心理捜査官〜

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4. 第47部隊

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~ロス市警本部~

マーガレットから託された、アメリカ軍アフガン派遣、第47部隊の謎。
メールには、部隊の写真が添付されていた。

これで捜査は大きく前進するかと思ったが、そうはならなかった。

死んだ6人は、確かに写真にいた。
残りは9人。

「国防総省は、こんな状況にあっても、47部隊の隊員情報は明かせないってのかよ」

「ああ、それどころか、47部隊の存在すら否定している」

事態の深刻さを考慮し、FBIでの紗夜の相棒、ジョイス・ニールセンが参画していた。

「ジョイス、あなたは海兵隊出身よね?軍の中で犯す重大な過ちって、何が考えられる?」

「色々な過ちはあるが…一般人や、降伏した敵を意図的に殺害することが、実例としてはある。知ってる限りでは、軍法会議にかけられて終わりだがな」

「戦時下では、意図的かどうかは微妙ね」

「顔認証で現役軍人にはヒットなし。退役軍人は各州法でも守られてるしな、彼女が命と引き換えにくれた写真も、役に立たないか。参りましたな」

唇を噛み締める紗夜に気づくボブ。

「しかし、今犯行を続けているヤツらは、47部隊の情報を完全に掴んでるんだよな?何か方法はあるんだろう」

ボスのニールは、明日に迫った追悼式に焦っていた。

「軍のシステムにハッキングするか、或いは軍の中に、それも上層部に協力者がいるか…」

「今回の手口は、全てあの地雷によるもの。その執着心から見て、動機は怨恨と見て間違いない」

プロファイリングも手掛けるジョイス。
その冷静な分析と推察力はFBIでも有名である。

「わざわざ現物を盗み出してまでやるんだ、よほどの執着心だよな」

(ん?)ジョイスが何かを掴んだ。

「アレン刑事、つまり…あの地雷で殺された事への恨み。つまり、アフガンの現地で死んだ者。さらに、その恨みを抱いているのは、あの地の者ではなく、おそらくアメリカにいる者」

「ジョイス、それよ!マーガレットが無意味なものを渡すはずはないわ!」

紗夜は、ずっとあの写真の意味するもの、それを考えていたのである。

「どうゆうことだね、紗夜?」

「ボブ…もしかしたらだけど、既に亡くなっている隊員はいないかしら?」

「なるほど、殉職なら公開されてるはずだな」

「アレン!」

「ちょっと待ってくださいよ…」
アレンはシステム関係に強く、許されるなら、ハッキングさえできる程の能力を持っていた。

「紗夜、1人ヒットしました❗️」

モニターに映し出す。

「モリス・ターナー、新任でアフガンへ行き、作戦中に戦死となっています。…おかしいな」

「なにが?」

「紗夜、戦死の場合は普通、爆撃でとか銃撃によりなどの理由が記録されるんだよ。それに、この時期の東部パンジシール州は、唯一タリバンに制圧されなかった地域だ」

「確か、対ソ連時代に設置したあの数十万個の地雷に守られていたとか…だったな」

ボブは、アフガン戦争について、歴史を含め調べていた。



全く見えなかった謎の影が、見え始めていた。

「アレン、モリス・ターナーの情報を!」

「今やってます」

(まさか…な)

「ジョイス、いいから話してみて」

「君に隠し事は無理だったな。まさか…だが、戦地であの地雷で殉職したとして、その部隊を恨むとしたら…」

に、殺された」

「何ッ⁉️」

紗夜の言葉の響きは、それ程にショッキングなものであった。

「そんなことが、あの結束の固い部隊で?」

「部隊の結束は、共に助け合い戦う中で生まれるもの。それは、新しいメンバーでも、戦地経験がある者なら最初から無意識にできる絆だ。だが…新任者にはキツイ現実が待っている。海兵隊でも同じだ。それをみんな乗り越えて、初めて真の仲間になれる」

「俺たちが、新人をオモチャにしたり、邪魔者扱いしてふざける様なものか」

「大きく違うのは…それが、生死を懸けた戦地だと言うことだ」

「命を左右する戦場だからこそ、新人は邪魔になる。硬い絆に入るのは、楽じゃないわね」

見えない目で、写真を見つめる紗夜には、いたぶられる彼の姿が想像できた。

「モリスの両親は、ケンタッキーの田舎だな。彼の住所はシスコだが、3年前だからもうないだろう。おっと、彼には当時大学生の妹がいるな。メリル・ターナー…か、国内にいて結婚でもしてなければ…っと、いたぜ。ワシントンD.C.だ。」

「ジョイス、両親の方をお願い。私はここに残って、やり遂げるわ」

「了解。紗夜を頼みます」

「こちらこそ」

出て行くジョイスを見送りながら、紗夜にはまだ、マーガレットの真意が分からないでいた。

「よし、アレン、紗夜さんとD.C.へ。ボブは念の為、シスコのアパートへ行ってくれ」

「了解、ボス。何とか今夜には戻ります」

国内線で、片道5時間のフライトであった。

「明日の追悼式は、サンタモニカの退役軍人記念碑がある、オーシャンアベニューでしたね」

「ああ、市警を総動員して、地雷の調査と監視をしているところだ、こっちは任せてさっさと行って来い」

2人が出て行く。

「では、私も」

「あ、ボブ、お前に何か届いてたぞ。ロス市警にボブって名は多いからな、各分署を巡ってやっとここの番らしい」

小包を受け取る。

「送信者は…と、グリフィスパークG.C.…あぁ、最初の現場か。そう言えば、名刺を渡して無かったな💧」

中には、駐車場の監視カメラ映像と書いたビデオテープが入っていた。

(そう言えば…)


こうして、捜査の筋道はほぼ決まった。
未だ見えない敵を相手に。



~ワシントンD.C.~

14:30
荷物待ちをする紗夜とアレン。
紗夜の携帯のアラームが鳴った。
サッと手を出し、触れた手提げバッグを掴む。

「なるほどね、そう言う仕組みか…」

何の目印もない紗夜のバッグ。
忘れないように、必死で覚えていたアレンであった💧

直ぐに彼のバッグも来た。

「よっと!」
キャスター付の中型ケース。

「日帰りよアレン。何を持って来たのよ」

「色々必要かもって…こんなになりました💦」

到着ロビーへ向かう。
すると…

「紗夜さん、アレンさん!」

2人を見て、叫ぶ男性がいた。
彼のもとへ行く2人。

「ご苦労様です。市警のマット・スポークマンです。ロス市警から連絡があり、迎えに来ました。こちらへ」

「助かります」

(あのボスが?珍しい…紗夜がいるからか?)
おじきする横で、アレンが心の中でボヤく。

駐車場に停めてある車に乗り込む。

「パトカーではないのね?」

「あ、ええ。目立たない方が良いかと」

「確かに。容疑者を捕まえに行く訳じゃないから、パトカーじゃ迷惑だよな」

空港を出て、ワシントンD.C.の街へと向かう。

「メリル・ターナーのマンションですね?」

マットが確認する。

「よしっと。ああ、アーリントンの553だ。まだ引っ越してはないようだな」

アレンがノートPCを開き、D.C.のアドレスサイトで確認した。
固定の電話は登録されていない。

「ロスは大変そうですね?」

「ほんとだよ。西海岸は退役軍人が多く集まっているからな」

「酷い話だ。国に忠実な元兵士を狙うなんて」

(この車…)

「どうした、紗夜?」

「いえ、運転がお上手だと思って」

「おいおい、それは俺への当て付けか?」

「着きましたよ」
脇道から、高層マンションの駐車場へ停めた。

運転手側の後部座席にいた紗夜。
マットより少し早く降りて、態勢を崩す。

「おっとっと。大丈夫ですか?紗夜捜査官」

思わずマットの体に抱きついて、転ばずにすんだ紗夜。

「ごめんなさい。フライトの後はバランス感覚がおかしくなるんです」

(ほんとに見えないんだな…)

「シッカリしてくださいよ紗夜」

(……)

「確か…10階の107号室だったな」

エレベーターで10階に着く。
マットが扉を押さえ、最後に続いた。

「ここかぁ」

アレンが呼び鈴を押す。

(鳴ってはいる…でも気配はない)

「まだ表札は付いたままだが…」

「留守ね」
二度目の呼び鈴より早く、紗夜が告げる。

紗夜のステッキが、ドアの前の廊下とドアポストを探る。

「郵便物がないから、住んではいる様だな」

アレンがドアノブに手を掛けた。

(あれ?空いてるぞ)
それをいた紗夜。

携帯を取り出す。
「ごめんなさい、シスコへ行ったボブからよ」

少し離れようとして、ドアノブを回したアレンにぶつかる。

「おいおい紗夜、何やってんだ」

そのまま押し出す様にドアから離す。

「電話するから、ボスだと思って出て」
小声で伝えた。
直ぐにアレンにかける。

「ボブ、こっちは今着いたとこよ」

アレンの携帯が鳴る。
もちろん紗夜からである。

「あ、ボス。今着きました」
マットに、すまなそうな仕草をする。

「彼は市警じゃない、殺し屋よ」
押し殺した紗夜の声。

「なんだ、そんな心配いらないっすよボス」
息の合った名演技である。

「分かったわ、ボブ。私は今から入るけど、歳なんだから、もうしないでよ。では」

電話を切り、ステッキで探りながらドアノブを見つける。

バッグを肩に掛けながら、留め金を外す。

「アレン、入るわよ」

(無意識か…さすがね)
このドタバタの状況に、無感情のマット。

「おじゃましま~す」
バッグを抱え、前屈みになりながら、右手は中の銃を掴んでいた。

携帯をしまい、アレンが続く。

「何これ⁉️」

部屋の中は酷く荒らされていた。
叫んだ紗夜に、見えるはずはない。
驚く振りをして、バッグを落とし奥へ入る。

「キュ…」

金属が擦れる微かな音。
紗夜の聴覚は聞き逃さない。

「いてッ!」
バッグにつまづいてアレンが転ぶ。

その不意の動作に、一瞬彼が遅れた。
「パンッ❗️」

マットのその乱れた思念を、紗夜の銃弾が撃ち抜いていた。

サイレンサー付の銃を構えたまま、後ろに倒れるマット。

「アレン!私を連れて直ぐに逃げて❗️」

バッグを拾って起き上がり、紗夜の手を掴み、外へ出る。

(…!)
「エレベーターが来る、押して!」

丁度、空のエレベーターが降りて来て開いた。
直ぐに乗り込み、1階を押す。

「ふぅ!危なかったぁ~」

「信じてくれて助かったわ、アレン」

「俺もおかしいとは思ってたんだよな。あのボスが、そんな気を遣うわけないし」

エレベーターが開く。
(何よ、この女💦)

買い物帰りの女性の目が驚く。
軽く会釈して、表通りへ急ぐ2人。
直ぐにタクシーを捕まえて、乗り込んだ。

「ハァ~殺られるかと思ったわ💦」

「紗夜のおかげで助かったよ。FBIっていつもこんなのか?」

「まさか。…まぁ…たまにはあるけど💧」

「なぜ気付いた?心の声が聞こえたのか?」

「逆よ。エレベーターからは全く無意識。ありえないくらい。それに、警察があんな高級車は使わない」

恐るべし紗夜、と思ったアレン。

「まてよ…あのヨロめいたのもわざとか?」

「当たり前じゃない。彼の銃を確認しただけ。あのグリップの特徴はベレッタ」

「殺し屋の定番だな。しかし…凄いな紗夜」

「運転手さん、ダラスへ急いで」
そう言って、タクシー代の倍額を渡す。

「えっ?おい紗夜、ナショナル空港で往復買ってるぜ」

「私達の動きは読まれてる。狙われたいの?」

(はいはい。わかりました!)
ふてくされた気分でノートPCを開くアレン。

「パタン」
それを閉じる紗夜。

「キャンセルしたら、バレてしまうわ」

「分かったよ、全く。しかしD.C.まで来て、メリルの部屋は調べなくてもいいのか?」

「プロがあれだけ探した後に、何か見つかると思うの?」

「……💧」

(しかし…どうして?)
凹むアレンより、その方が気がかりであった。




~ロサンゼルス~

23:00
カリフォルニア、サンタモニカの夜は長い。
特にオーシャンアベニュー地区は、人気の観光地であり、遅くまで賑やかである。

その一角。
退役軍人記念碑を中心に、厳重な警備体制が敷かれていた。

「ボス、戻りました」

「お、ご苦労。その様子じゃ、収穫なしか」

「はい、残念ながら。彼女のマンションは、何者かに荒らされてました」

「それより、ボス…」

「あら、ボブ。そっちもやはりもう…」
アレンの言葉を遮る紗夜。

「あ…あぁ、とっくに別の住人がいたよ」

(…動揺?何かあった?)
紗夜がその心理に集中する。

「ところで、グリフィスからのプレゼントはどうだったんだ、ボブ?」

(グリフィス?あの地雷の…)

「手掛かりになるものは何も。ただのゴミだったよ、全く。今頃になって」

「ニール警部、今日は疲れたので、帰ります」

「ああ、明日は大変な1日になるからな、ゆっくり休んでくれ」

「でね…」
「アレン、送ってくれる?」
また、露骨に遮る紗夜。

2人には見えない様にウィンクを送った。

「し、仕方ないなぁ。じゃあボス、無理しないでくださいよ。本番前に倒れない様に」

紗夜に急かされ、車へと向かう。
そして、アレンが喋るより早く携帯を見せる。

「ジョイスが送って来たわ。サラマンダーって呼ばれてる凄腕の殺し屋よ。D.C.じゃ、警察沙汰にもならなかったみたい」

「なんだって!真っ昼間にマンションで人が撃たれて死んだんだぜ?D.C.ってそんな街か?」

「分かるでしょ」

車に乗り込みながら、紗夜は気になっていた。

「上層部が動いてるってことか」

「ヤツを雇うってことは、そうゆうことね。報酬は少なくとも数百万ドルって噂よ」

「マジかよ💦」
血の気が引くアレン。

「それよりアレン、グリフィスからのプレゼントって何?」

「グリフィス?ん……あっ!そう言えば、ボブがゴルフ場の奴に、駐車場の監視カメラ映像を頼んでた様な…」

「直ぐに署に戻って❗️」

こういう時の紗夜は絶対である。
だいぶ彼女に慣れて来たアレンであった。


飛ばして、30分でロス市警本部へ着いた。

「今日のゴミは?」

「ごみ?…はいはい。こっちですよ、全く」

署の裏にあるゴミ収集場所へ案内した。
何色かのゴミ袋が積んである。

「この色は?」

「最近分別がうるさくて、どの部署が出したか分かる様になってるんです」
(色…見えてるのか?)

「殺人課は?」

「黒です。何を探すんですか?」

(2人はグルではない様ね)
「グリフィスの設備は新しい?」

「いや、かなり錆れてますね。広すぎて資金が回らないんじゃないかな」

(とすると…)
「監視カメラは…ビデオテープね、探して!」

「ボブさんが、何も無かったって…」

「あれは嘘よ…見てないか、或いは…」

「隠したって言うんですか⁉️ボブさんが?」

「それを確かめるのよ!」

紗夜も彼の誠実で優しい人柄は分かっていた。
それは間違いない。
だが、あれが嘘である事も間違いなかった。



渋々探すアレン。
暫くして…

「ありました!」
アレンが、1本のビデオテープをかざす。

「アレン、あなたデッキ持ってる?」

「えっ?…あ、はい。ありますけど…」

「行きましょ!」

「えぇ~⁉️今からですか?」

「彼女がいるわけでもないし、散らかっててもいいから、いくわよ!」

「そ…そこは読まないで下さいよ💦」

「…ごめんなさい、つい…💧」


マシンガンの様な、アレンの愚痴を聞きながら、マンションに着いた。

鍵を開けるなり、まっしぐらにテレビへ向かう紗夜。

「ちょ、ちょっと、紗夜~💦」

「大丈夫、脱いだ下着ぐらい片付けなさいなんて思ってないから」

「思ってるじゃないですか~❗️」

「それより、リモコンは?」

「はい…」(ブツブツ…)

「確か、キャディーは雇ってなくて、キャディーバッグは無くなっていたのよね?」

「はい…」(ブツブツ…)

「ブツブツうるさい❗️悪かったわよ、ごめんなさい。でも重要なのよ!時間は?」

「もう0時過ぎました」

「あのね…💧」

「冗談ですよ、爆発は12:30頃です」

「駐車場まで、歩くと何分?」

「多分…20分くらいかな」

「この辺りか…」

無言で寄り添って、テレビ画面に集中する。
0時過ぎの静けさに2人っきり。
さすがの紗夜も気にはなる。

アレンの激しい鼓動を感じる。
(マズいかも…?)

と、その時。
「紗夜、あれ❗️」

少し巻き戻して、止める。
紗夜がいつもとは違う携帯で写真を撮った。

バッグから、薄いノートPCを出し、携帯のメモリーカードを差し込んで読み込ます。

「画像処理ソフトですか!凄い」

「NASAが開発し、FBIでも使っているものよ」

鮮明になった画像で、キャリーバッグのある部分を拡大する。

「これは…血ね」

「それに、パターだけありません」

「プレートNo.の称号をお願い」
テープを16倍で早送りする紗夜。

「ありました!これって…」

夜になり、駐車場からは車は全て消えた。

「紗夜…」

画面を見せるアレン。

「ロナウド・ジョンソン❗️」

2人共に驚きは隠せない。
アメリカTOP 10に入る大富豪。
それと共に、悪い噂もある危険人物であった。
その正体は謎のままである。

「ボブが隠したのは彼!」

(しかし…なぜ?)

徐々に見えて来る意外な影。
だが、まだ一つとして真相と目的には辿り着けてはいない。

大きな策略が、その裏で着実に進められていることなど、知る由《よし》も無かった。

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