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3. 戦場の絆

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~サウスパーク~

22:00
ウェストストリート沿いのバー、フィッシュ。
店内には女性客が1人だけである。

携帯が鳴る。
着信メールを見て、腰を上げた。

「マスター帰るわ、おやすみ~」

「オゥ、またな」

空のグラスを片付ける。

酔った足取りで店を出た彼女。
店の看板が消える。

向かいに、グランド・ホープ・パークのバス停があった。

この時間、車の数は少ない。
フラフラと通りを渡る。

公園のベンチに無造作にバッグを置く。
ドサッっと崩れる様に座ってバスを待つ。

暫くは携帯をいじっていたが…
疲れていたのか、飲み過ぎたのか、座ったままうなだれて、眠ってしまった。

その様を、少し離れた茂みから見ていた男。
慎重に、物音一つ立てずに近づく。

ゆっくりバッグを持ち上げ、慣れた仕草で、中身が鳴らない様に手を添える。

5mほど離れ、じっくり周りを確認した。
そして、サッと走り去出す。

公園の出口に差し掛かった時…

「カチッ」(しまっ…)
乾いた金属音に絶望感さえ間に合わなかった。

「ドーン💥」

静かな通りに、爆音が響いたのである。

消えていた通りの店の明かりが点いていく。
誰かが通報し、遠くから幾つものサイレンの音が近づいて来た。




22:30
パトカーが集まり、辺りは騒然とした雰囲気に一変していた。

「紗夜さん、お疲れ様です」

エスコートするつもりのアレンの手を、軽い会釈で断り、現場へ向かう。

(チッ、FBIには変わりないか。おっと!読まれたかな💦)

焦るアレン。

「ボブ刑事、状況を教えて下さい」

「今回は微妙だな。公園の出口で、地面とアスファルトの境い目に近い。地雷かどうかは鑑識班の結果次第だ」

「そうですか…監視カメラは?」

「公園にはなく…通り沿いの店ぐらいだな」

その声に、期待はできないことを知る。
通りを見渡す紗夜。
そのが、ある違和感を捉えた。

「向かいの通りに空き地はありますか?」

「はぁ?…い、いやこの通りは小さな飲食店が多くて、空き地はないが…それが?」

「この騒ぎの中、明かりが付いてない店が一軒ありますね」

「あぁ、あれはソルトがやってるバーだ」

「アレン刑事のお知り合いですか?」

「いいヤツですよ。まだ若いのに、最初のアフガン派兵で足をやっちまって、今はオヤジさんが残した店を継いでるんです」

「退役軍人なのですね……ん?」
話しながら通りへ向かう紗夜の足が止まった。

首を傾けながら、ベンチに座る。
(この匂い…)

「どこか具合でも?」

「あ、いえ、大丈夫です。店へ」

立ち上がり、左右も確認せずに通りを渡る。

「さ、紗夜さん、危ないですよ!」
慌てて後を追うアレンとボブ。

「ご心配なく、車は分かりますので」

驚きを通り越して、呆れる2人。

「しかし、なぜこの店なんだね?」

「爆発騒ぎで、どの店も明かりがついているのに、無関心はおかしいかと。それに、退役軍人なら、尚更気になるはず。休みで誰もいないのでしょうか?」

「なるほどね、確かにな。今日は定休日じゃないし、彼はここの2階に住んでますから」

そう言って、アレンがシャッターを叩く。
紗夜が何かを感じて首を僅かに傾ける。

それを見逃さないボブ。
(またか…ベンチの時も)

「ソルト!俺だ、アレンだ、ちょっと協力してくれないか?」

2階の明かりがつき、少ししてシャッターが開いた。

「アレンさん、どうかしましたか?」

(声が大きい…)

ふと、紗夜を見て驚くソルト。

(そうなるよな~夜中にサングラスじゃ💧)

「ソルトさん、失礼ですが貴方耳が…」
わざと大きめの声で話す紗夜。

「ああ、爆音でやられて、あまり良く聞こえないんだ」

「中に入ってもよろしいでしょうか?」

「あ、ああもちろん、どうぞ」

中へ入る3人。
(お酒の匂い…無理か)

「紗夜さん、彼は爆発に気付かなかっただけですよ。ねぇボブさん?」

「ん?…あ、ああ、そうかもな」

シャッターを叩く音と爆音。
どちらが大きいかを考えていたボブ。
ましてや、爆音に過敏なはずの彼である。

「ソルト、今夜は何時に閉めたんだ?」

「10時くらいかな、多分」

「じゃあ見て無いな。監視カメラの映像は?」

「ああ、あれね。一応付けちゃあいるが、形だけだよ。内緒だけどな」

この間ボブは、ひたすら紗夜を見ていた。

「協力ありがとうございました。もし何か気がついたことがあったら、連絡してください」

名刺を渡す紗夜。
「あ、間違えました、こちらが新しいので」
渡してからすぐに取り替えた。

「分かりました。ご苦労様です」

こうして店を出た。
車に乗る。

「直ぐに出して」

しゃべりかけようとしたアレンが、車を出す。

「アレン刑事、ホテルまでお願いしても?」

それを言うつもりだった。
「いいですよ、紗夜さん」

「それで?紗夜さんどうだったかね?」

「どうって、ボブさ…」

「彼は、怪しいです」

「どこが❗️」
遮られてばかりで、少しイラついたアレン。

「だよな。私もそう思うよ」

「ボブさんまで!」

「アレン刑事、彼は爆発を知らないはずなのに、事件のことを一言も聞きませんでした」

「そういうことだ。彼は知っているんだよ」

「それから、監視カメラは動いてました。私は目の代わりに、他の感覚が人より敏感なので、動作音が聞こえました。」

「ボブ刑事、念のためこれを」

名刺を小さなビニル袋に入れて渡す。

「指紋採るためだったんですか!」

「そうです。ボブ刑事、暫く誰か監視に付けてください」

「分かった。明日から誰かを回してもらうよ」

「アレン刑事、彼に悪意は感じませんでした。善人です。安心してください」

ホテルに着いた。

「では、また明日お願いします」

「ああ、紗夜さん。これからは、ボブとアレンで。堅苦しいのは気持ち悪い」

「アハッ!では、こちらも紗夜で。」
ドアを閉め、振り返らずにホテルへ入る。

「ボブ、笑うこともあるんですね彼女」

「おい、お前は、さんぐらい付けろ!」

「あっ、つい…すみません💦」

(さすがに凄いな。心理捜査官、紗夜…か)

感心すると共に、ベンチでの挙動が気になるボブであった。



~ビバリーヒルズ~

緩やかな斜面に、映画スターや著名人の高級住宅が立ち並ぶ。

ハバマ産の葉巻を加え、ゆったりとしたソファーに座る。

その周りには、沢山のモニターや最新IT機器が並んでいた。

携帯が鳴る。

「どうした」

「昨日、察が来ました。暫くは出入りに注意してください」

「いつもすまない。サングラスをした盲目の女はいたか?」

「あ、はい。いましたが…彼女が何か?」

「いや、何でもない。協力を感謝するよ」

通話を切る。
葉巻を置いて、パソコンからメールを送った。

(目障りなヤツめ)



~ロサンゼルス チャイナタウン~

ロス市警本部に集まったあと、FBIの情報から、ある退役軍人を訪ねて来た3人。

「今朝のボス、気合い入ってましたね~」

「そりゃあそうだ、追悼式まであと3日。まだ何も掴めてないんだからな」

退役軍人を見つけるのは楽ではない。
国の指令で任務を果たした彼等。

しかし、イラクやアフガンにおける無差別な報復攻撃や、一般人を犠牲にしての要人暗殺は、国民の許容範囲を超えていたのである。

孤独感と迫害。
非難の的となった兵士達。
その所在や名前は、国防総省に守られ、FBIでも情報入手は出来なかった。

「不思議な国ですね。9.11の後は、報復攻撃を指示していた国民が、命懸けでそれを実行した兵士を非難するなんて」

「日本では分からないでしょうな。この国には多くの人種がいて、民主主義を通している。あの戦争は、長引き過ぎたんですよ。今じゃ、何のために、あんな遠くでタリバンと戦っているのやら」

「ところでボブ…さん、昨日のことは、何か分かったんですか?」

「使われたのは、やはりあの地雷だ。ただ…破片には土がついて無かった。代わりに、溶けた布やプラスチックが見つかったよ」

「身元は、ヘンリー・ブライト。やはりアフガンの帰還兵で、路上生活をされてた様です」

「英雄のはずが、路上生活だって!全く」

「それからな、遺体の状態から、地雷は足で踏んだのではなく、抱えていた様なんだよ」

「はぁ⁉️」
アレンが信じられずに叫ぶ。

「やはり…あのベンチに誰かがいた」

「紗夜、それが昨日の疑問か?」

「はい。あのベンチに微かに匂いが残っていました。嗅いだことのない匂いが。おそらく、バス停のそばのベンチに座り、待っている内に眠ってしまった」

「その眠った人のバッグか何かを、ヘンリーは盗んだってわけか」

「なるほど…いやいや、待ってくださいよ!バッグに地雷なんか持ち歩かないでしょう?」

当然なご指摘である。

「ハメられた…ってことか」

「はい。ヘンリーは、酔っ払いから盗みを働いていた。それを狙って罠を仕掛けられたんだわ。あの通りで、アルコールがある店は」

「ソルトのバー❗️」

「あの店の監視カメラに、そいつが映っているってことだな」

「鑑識結果が出れば、分かること…はっ!ボブ、あの店には?」

「今朝から2人張り付いてるが…まさか⁉️」

慌てて無線を取る。

「ジム!アッガス!ボブだ、いるか⁉️」

「ど、どうしたんです、ボブさん?」

「ジムか…良かった。変わりはないか?」
ホッとしたのも束の間。

「さっき宅配が来たから、念の為に、今アッガスが確認に…」

「ダメ!直ぐに引き戻して、彼が危ない❗️」

「わ、分かりましたよ、全く。呼びも…」

「ドガーンッ💥❗️」

「おい、ジム!ジム!応答しろ❗️」

大きな爆音と共に、無線が切れた。

「本部へ、ボブだ!大至急、ウェストストリートのバー、フィッシュへ救急車と応援を!ジムとアッガスがやられた!」

「そ、そんな…」

「クソッ❗️」「バンッ!」
紗夜が後部座席のドアを叩いた。

「私が行ったから…」

歯を噛み締めて悔しがる紗夜であった。

ソルトの店は、跡形もなく吹き飛び、中にいた彼と、警官のアッガスは即死。
飛ばされたジムは、奇跡的に軽症で済んだ。

沈痛な面持ちで、チャイナタウンのアパートのドアをノックするボブ。

「ロス市警のボブだ。悪いが、少し話を聞かせてくれないか?」

暫く待つ。

「留守か?」

「いえ、います」
紗夜が呟いた途端、ドアのロックが解除され、ドアチェーンが付いたまま、少し開いた。

「マーガレット・ハンセンさんですね?調査にご協力をお願いします」

サングラスを外して、紗夜が覗き込む。
女性である紗夜に、安心したのか、チェーンが外れ、ドアが開いた。

(なんて孤独感…こんなに恐れて)

紗夜の頭に、耐えられないほどの苦しみが、流れ込んできた。

その様子に気づいたボブ。

「安心してください。我々は味方だ。今、君達退役軍人の命が狙われているのは知ってるね?」

「…はい」

「私達は、それを止めたいんだよ。何でもいい。知っていることが有れば、教えてほしい。頼む」

優しい口調で、誠意的に話すボブ。

「すみません。仲間のことは…言えない。それが…同じ戦場で戦った者の誓いだから」

3人には、それ以上、彼女を問い詰めることはできなかった。

「マーガレットさん、分かりました。でももし、その大切な仲間達を救いたいなら、連絡ください。このままじゃ良くない。私は…こんなことをしてる奴らを、絶対に許さない❗️理由は何であれ、絶対に許すわけにはいかない❗️」

いつになく、強い口調の紗夜。

紗夜の名刺を握りしめ、座り込んだ彼女の膝に、幾つもの涙が滴り落ちていた。

ボブが2人にあいずを送る。
そして、そっとドアを閉めた。

車に乗るまで、3人は無言であった。
目の当たりにした彼等の苦しみ。
それは、あまりに哀しいものであった。

車に乗り込んだ。

「マーガレットは、重要な何かを知っています。だからこそ、酷く怯えていました」

「紗夜、顔色が良くない。少し休め」

そのボブの声は、届いてなかった。

「次は、私。きっと…次は私…仕方ない…」

「バシッ❗️」

「ボブさん!なにするんですか❗️」

トランス状態の紗夜を、ボブの張り手が救い出した。

「…私。」

「紗夜、彼女の心に入り過ぎてはいかん!シッカリするんだ」

その時、紗夜の携帯が鳴った。

「メール?」

「紗夜、これは❗️」

マーガレットからのメールであった。


「ありがとう。おかげで決心が着きました。私達、アフガン派兵47部隊は、大きな過ちを犯しました。お願いします。後のみんなを救ってあげてください。私は誓いを破ってしまった。仲間のもとへ行きます。ありがとう」

「そんな、まさか❗️」

慌てて車を降りたその瞬間。

「ドドーン💥❗️」

彼女の部屋が…爆発した。


呆然とする3人。

「ちがう…違うよマーガレット…死んだら意味ないじゃない。死んでしまったら負けじゃない❗️私はあなたも、みんな助けたかったんだよ❗️ァアアアー❗️」

心の底から叫んだ。
地に座り込んだ紗夜を抱きしめるボブ。

ボブにしがみついた紗夜。
今まで殺してきた感情を全て吐き出し、思い切り泣いて泣いて泣き叫んだ。

(絶対、許さない❗️)
アレンの心にも、熱い焔が燃え上っていた🔥
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