ネコの涙

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第三章

天敵現る

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~健次の夏休み~

ある日から、ケンジは毎日毎日家にいて、遊んでくれるようになりました。

「夏休み」とか言う、長い休みらしく、おかげで、私は毎日を楽しく過ごしていました。

そんなある夜。

『レイが・・・レイが死んだ!!』

『な、なにっ!』

その声に、炊事場にいたお父さんが私のもとにバタバタと走って来ました。

「整理的な砂遊び」?をしていた私と、お父さんの目が合いました。

(えっ?なに?ボク・・・死んだの?えっ。今※※※したばかりなのに・・・。)

『おとうさん。テレビ、テレビ。もう、なに慌ててんだよ。』

『テレビかぁ・・・。はぁ~。ビックリするじゃないか。晩御飯にあげた刺身が、ちょっと古かったから・・・』

(おいおい。)

どうやら、テレビの中で例の超人が死んだ様です。

やれやれといったところに、電話が鳴り響きました。

『もしもし。峰崎ですが。あっ、ママ?どうしたのですか?・・・・・・はい。・・・・・・はい・・・えっ!! まさか・・・そんな。……分かりました。もちろん伺います。では・・・。』

尋常でない様子でした。

『健次、明日は約束はないか?もしあったら断ってくれ。朝の飛行機で、お父さんと遠いところへ出かけよう。』

『どうしたの?おとうさん。出かけるって、いつまで?レイはどうするの?置いていけないよ。』

『あ…そうか…。レイは飛行機…ムリだな…。』


その夜中、お父さんは眠らずに車を走らせ、朝には目的地へ着いたのです。

長い時間、車の中にいた私は、何だか感覚が変になり、フラフラでした。

健次は、私を手さげバックに入れ、二人と一匹は、その真っ白な建物へと入って行ったのです。

そこは、大きな病院でした。

『健次、お前には黙っていたが、お父さんには、好きな人がいてな・・・』

道中の車の中で、お父さんは、全てをケンジに話しました。

出張で地方へ行くことも度々あり、その先の店で出逢った女性と、愛し合う仲になっていたのでした。

時々電話で楽しそうに話しているお父さんを見て、健次も薄々感じてはいた様子でした。

『だいじょうぶだよ、お父さん。僕は信じてるから。』

それが、ケンジの答えでした。


病室に入ると、包帯を巻いた女性がベッドで眠っていました。

私は、少し開いたチャックの隙間から、その光景を見ていました。

『峰崎さん・・・。』

『ママ。』

その女性は、ベッドにいる女性の勤め先のオーナーでした。

『遠いところをすいません。昨日、運悪く交通事故に合って・・・。彼女には身寄りがなく、あなたしか頼る人はいないものですから。』

『いえ。連絡をありがとうございました。で、容態は?』

『はい。命に別状はありません。ただ・・・』

その時、彼女が目を覚ましました。

『早苗さん!。』

お父さんが近づいて、顔を覗き込みました。

『・・・?』

『早苗さん。大変だったね。心配はいらないよ。私がちゃんと・・・』

『あなたは・・・誰?』

『・・・!?』

彼女は記憶を失っていました。体の方も重症で、少なくとも一年は、ここで寝たきりが続くとのことでした。

『そ…そんな…。』

『峰崎さん…。医者は、恐らく一次的なものだと言っていました。』

お父さんの目から、ジワジワと雫がこぼれてきました。

(あっ、涙・・・。人も悲しいとああなるんだ・・・。)

病室を出てからのお父さんは、ひどくがっかりした様子で、ホテルに着くまで、何も喋ることはありませんでした。


私たちは、お父さんの仕事の都合もあって、次の日にはもう帰ることになりました。

(また、あの車か・・・)

うんざりでした。

帰る前に、「ママ」のところへ寄り道をしました。

『では、峰崎さん。よろしくお願いします。』

『ママ、色々とありがとう。早苗のことを、よろしくお願いします。動かせる様になったら、必ず迎えにきますので。』

『はい。早苗ちゃんは、きっと、良くなりますわ。では・・・。』

「ママ」は、家の奥へ入って行き、一人の少女を連れて出て来ました。

『こんにちは、美樹ちゃん。今日から、おじさんと、このお兄ちゃんと楽しくやろうね。』

(ボクもいるんですけど・・・)

ミキと呼ばれた子は、綺麗な目をした、優しそうな3歳の女の子でした。

ケンジのお父さんが、ミキのお父さんかどうかは分かりませんが、こうして家族が一人増えたのです。


東京に帰って、暫くは、彼女はおとなしくしていましたが、だんだんと、本領を発揮したのです。

私は毎日、ミキから逃げ回る日々でした。捕まったら最後、とんでもないことをされてしまいます。

バシバシ叩かれたり、髭は引っ張られるは、マジックで落書きされるは・・・。

もっとも、ミキは遊んでるつもりです。妙な話ですが、離れ離れになった妹の代わりに、ミキを可愛く思うのでした。

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