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19. 最凶の敵
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度重なる悪夢の日々に追われ、肝心な敵の正体と目的を見失っていた警察。
もっとも、あの異常な状況では無理はない。
「警視庁も裏社会のことは知っています。高松が、同じくこの日本の警察を憎む博凛《フーリン》を雇い、理由と目的を知らせた。警視庁を潰す話に彼女が乗らない訳はない。そして、最強の力を持たせるべく、シリアルキラーの意識を彼女に埋め込んだ」
淡々と語るラブの言葉全てに、怒りが込められていることを感じる仲間達。
「出所者を誘拐し、京極を違法な実験に導いたのも高松。プロジェクトとして、警察の動きを監視しつつ混乱させ、本来の目的をカモフラージュした」
「全てが目隠しの為ですって⁉️その為に罪のない大勢の命を奪ったなんて。そんな復讐は認めない❗️」
皆も咲と同じ想いで、怒りの拳を握りしめる。
「誤算だったのは、箔博凛は普通の暗殺者《アサシン》では無かったこと」
「しかし、ヤツは赤い切り裂き魔と同じくロシア語を…」
「ロシアの諜報機関にも加担していたヤツが、ロシア語を話せても不思議じゃない。ヤツの顔…私は忘れてはいない」
アイがモニターに博凛《フーリン》を映す。
ラブと一瞬交わった時のものである。
「あ…あの目だ。この俺が、生まれて初めて恐怖を感じた。あの目だ❗️」
神の恐怖と、不気味な瞳。
背筋にイヤなモノを感じ、思わず身を引く。
「そう、彼女の目を見た神は、あの時、博凛は操られてはいないと見破った。高松と安斎を利用していただけ。きっと安斎は焦ったはず」
あの時の安斎の慌てぶりを思い出した。
「安斎は死んだわ。博凛によって。恐らく高松も死ぬつもりよ。自らの臥城を襲わせてね」
「じゃあ、ヤツは!」
「今夜…必ず、来る❗️」
勝てるのか?
このまま、この国の警察は負けるのか?
湾岸署に次ぎ新宿署までも、たった1人に壊滅させられた事実が、重く深い恐怖となっていた。
「咲さん、紗夜さん、淳一さん、昴さん。貴方たちは、総監を守って!彼を殺させたりしない。絶対にアイツを死なせたりはしないッ❗️」
アクセルを踏み込む。
(絶対に死なせない!)
「ラブさん…は?」
昴が、分かっている答えを待つ。
「ヤツは……私がやる」
いつかは闘う運命であったのかも知れない。
「全て、終わらせる❗️」
その想いは、仲間達に熱く伝わった。
「よし、みんな行くわよ。絶対にアイツを逃がさない!絶対、死なせない❗️」
「神さんも…任せたわ」
こうして。
最後の決戦の時を迎えたのである。
~東京都千代田区~
この国の政界や司法が集結する街、霞ヶ関。
いつもと同じ夜を迎えた。
「桜木さん、ちょっと」
高松が、まだ新人の秘書を呼ぶ。
「今夜はもういい、帰りたまえ」
「いえ、まだ早いので大丈夫です」
「お子さんは確か来年小学生だったね。可愛い時だ。大切に育てるんだよ」
「あ…はぁ…ありがとうございます」
「今日の予定はもうない。こんな年寄りと無駄な時間を過ごすより、たまには早く帰って美味しいものでも食べに連れて行ってあげなさい」
そう言って、内ポケットから封筒を渡す。
受け取った瞬間に、かなりの額だと分かる。
「こんな!いただけません」
予想外連発の極め付けに、慌てる桜木。
「いつも一生懸命尽くしてくれたお礼だ。ハハっ、安心していい。悪い金ではない、私のもう要らないポケットマネーだ」
高松の真面目な性分。
裏金などと無縁なことは、良く分かっていた。
「いいからいいから。実は今日は妻との記念日でね。と言っても、もう何もしてあげられないがね。代わりに君に…って理由じゃいけないかな?ちょっと一人で考えたいこともあるんだ。遠慮しないで、さあさあ、帰りなさい」
そこまで言われると、これ以上無理に断る訳にはいかない。
「分かりました。ありがとうございます。ではまた明日。お先に失礼させていただきます」
深くおじきをして出て行く桜木。
(また明日…か。すまないな)
少しして、騒がしい廊下に気付く。
と、咲達が入って来た。
警備を押し出して鍵をかけた。
「犯行予告でもありましたか?」
いつも通りの落ち着いた態度で問う高松。
「総監、安斎博士がヤツに殺されました」
「そうですか。いよいよですね」
娘の死にも、全く動じる仕草はない。
(我々が知っていることに気付いてる)
紗夜と昴が目を合わしてうなずき合う。
「今夜は私達が、総監を守るわ。絶対に殺させたりしないから!」
(ふっ…死なせもしない…か)
「紗夜さん…?」昴が気付く。
その言葉は、紗夜に語りかけていた。
(君には聞こえているのだよね、紗夜警部)
紗夜が高松を見る。
(君達を失うのは実に惜しい。果たして、護れるかな?君達に)
(高松重久さん。貴方は、ラブの強さを知らない。彼女は絶対に負けたりしない!)
その時である。
この一画を囲む、桜田通り、内堀通り、六本木通りを、数十台の派手な車とバイクが、けたたましい爆音を響かせながら走り回る。
神が集めた暴走族達である。
行手の信号は、全て青から変わらない。
アイがシステムを掌握していた。
仕方なく、警視庁と警察総合庁舎から、大勢が出て来て、騒ぎを収めようと必死に足掻く。
その騒ぎの上空。
飛行服を広げた黒い影が屋上に降り立った。
素早く飛行服を脱ぎ、予《あらかじ》め隠しておいたバッグから、装備を身につける。
強化手榴弾の入った袋を広げる。
と、その動きが止まる。
微かな風切り音に反応し、咄嗟に転がる。
弾薬付きの手刀が手榴弾に突き刺さる。
「ドドーン💣💥💥」
連鎖的に全てが爆発し、屋上に火柱が上がる。
その煙を前に、箔博凛《ハクフーリン》が立ち上がる。
その瞳の先。
煙を挟んで立つ、ラブがいた。
特殊合金繊維の黒い強化スーツ。
博凛《フーリン》がラブへ走る。
同時にラブも走る。
「ガキン!」
クロスした双剣同士がぶつかり合う。
「久しぶりね、博凛《フーリン》」
「ラブ!」
双剣を跳ね上げる2人。
瞬足の蹴りが、右からラブを襲う。
体を捻り、左回転したラブの神速の蹴りが、博凛の蹴りに追いつき、重なる。
蹴りの方向へ右回転し、かわす博凛。
「ビシュッ」「ヒュン!」
博凛の靴先の刃《やいば》が後ろで縛ったラブの髪を切り散らす。
ラブの蹴りが空を切り、かわした博凛の背中に筋跡を残す。
間髪入れず、バク転した博凛の蹴りが、前屈みのラブを天から狙う。
後頭部に当たる瞬間。
高速で前転してかわし、逆にラブの蹴りが着地した博凛を天から襲う。
「ガシッ❗️」
予想外に疾いラブの踵《かかと》を左腕で受け止め、払い落とす様に右に回る。
右手の剣が、着地したラブの足を横に薙《な》ぐ。
「ガキン!」
右手の剣を地に突き立て、その剣を受ける。
止まることなく、左手の剣の突きと共に博凛がラブへ跳ぶ。
左肩を引いて横向き、ギリギリでかわす。
と同時に右足を踏み出し、逆手に握り変えた右手の剣が、かわした剣より上側を走り、すれ違う博凛の首を狙う。
逆手に握り変えた右手の剣を掲げ、空中で半身を右に回してラブの剣を受け流す。
交差した2人が、背中合わせに間を取る。
博凛が走り、ワイヤーを使って階下へ飛ぶ。
同時にラブも真逆の階下へ飛び、屋上へとワイヤーを投げる。
先端の器具が開き、屋上の縁に引っ掛かる。
ガラスの割れる音と時間差から8階と判断し、ワイヤーを止め、ラブも8階の窓を破って着地した。
微かな風切り音。
(3つ)
「シュッ!」
感じたままに、剣を上へ投げ上げ、両手で腰の手刀を放ちつつ、地を蹴り前へ走る。
「キンッ」
手刀同士が2人の間で軽い音を立てて落ちた。
博凛が煙弾を投げ、低姿勢で前へ走る。
煙の中で双剣がラブの足を狙う。
瞬間跳ねてかわしつつ、先に投げた双剣を宙で掴み、前転しながらすれ違う背面を狙う。
かわされた剣を地に突き立て、浮いた体を丸め、ラブの剣へ両足を伸ばす。
「ガキン」
靴底に仕込んだ金属で剣を受け止めた。
背中を向けて着地したラブが、前に転がる。
「ギンっ!」
ラブが着々した地面を双剣が打つ。
その時。
(みんなはどこへ…)
逃げ遅れていた1人が、ラブの後方に現れた。
「ビシュ!」
博凛が短剣を放つ。
(私じゃない、クッ!)
「ギンッ」「タンッ」
1m右横を通る短剣を、下から振り上げたラブの剣が捉え、天井へ突き刺さる。
「早く逃げて❗️」
一瞬の隙。
見逃す相手ではない。
手刀がラブへと飛ぶ。
(避けれない)
「キン!」
危険を承知で、もう片手の剣で払う。
無防備なラブに瞬速の博凛が間合に入る。
瞬時に後方に跳ぶラブ。
(遅れた!)
同じ速さで人蹴り跳んだ博凛の双剣が光る。
「ギン!、バキッ❗️」
右からの剣は、振り下した剣で防ぐ。
左からの剣は引き戻した腕で止めた。
「クッ!」
特殊繊維の戦闘服に剣がめり込み、骨を砕く。
間は与えず、腰を引き至近距離でラブの右足が神速で蹴り上げる。
「ガッ!、グッ!」
浮身防御の博凛の左脇にラブの蹴りが入り、肋骨《ろっこつ》を砕く。
蹴り上げた博凛の身体が壁へ飛ぶ。
「ダンッ!」
止まることはない。
片足が壁に着地し、蹴った勢いでラブへ跳ぶ。
この僅かの間に、剣先を掌にして、砕けた腕に添え、ワイヤーで巻いて固定したラブ。
「死《スー》!(死ね!)」
双剣と拳術の猛攻がラブを襲う。
「キンキンキンキン、ガッ、キンキン、ガッ」
圧《お》されるラブ。
背後に壁が迫る。
(ぜったい…)
軽く跳び上がった双剣が真上から降り落ちる。
「ガキン!」
渾身の力で片剣で受け止めるラブ。
(オマエに…)
その空いたボディに高速の蹴りが来る。
「ドッ!、グッ!」
浮身防御で後に跳びながら受ける。
「ダンッ!、ウグッ…」
壁に背中から激突した。
(クソッ!)
うつむいたラブの右から、両刀を組み合わせた、渾身の一撃が襲う。
(よけきれない)
壁を弾みにし、前へ出るラブ。
インパクトを逸《そ》らす最善の対処である。
「ドスッ❗️、グッ!」
右脇腹の強化スーツに双剣がめり込み、肋骨が数本砕ける。
(なにッ!)
無心だった敵に一点の動揺が走った。
ラブの右手が、剣を持つ博凛《フーリン》の両腕をガッシリ抱えて、飛ばされるのを防ぐ。
……いや、動きを封じた。
「負けない❗️」
「ガッ❗️、ウガッ❗️」
振りかぶったラブの額が、博凛の額に激突し、後ろによろめく。
2人の額から血が滴る。
「いくよ」
ラブの瞳が鋭く光った。
その刹那、高速の斬剣が博凛を襲う。
「ギンギンギンギンギンギンギンギンギン❗️」
必死で受ける博凛。
防御スーツの金属片が飛び散る。
(ク…何故…動ける…これが…ラブか)
「ギンギンギンギンギンギンギン、キンッ❗️」
双剣の一つが折れて飛ぶ。
激打を受ける博凛の腕は、限界を超えていた。
「ウォォォオッ❗️」
「ビュッ…」
ラブの全身全霊を込めた一閃。
「ヴァハッ!」
振り斬らず、剣撃で浮いた博凛を押して走る。
「ヅガァン!、グァッ❗️」
その勢いのまま、壁に打ちつけた。
博凛《フーリン》の力が…尽きた。
「…なぜ…斬らなかった」
ラブの最後の一撃は、裏剣であった。
「オマエには分からない…」
「私は…大勢を殺して来た…私の正義の為に」
「ふざけるな❗️」「ヅガッ❗️」
砕けた腕に巻きつけた刃《やいば》が、博凛の頬をかすめ、壁に突き刺さる。
「警察全てが悪じゃない!その区別くらい、オマエなら分かるはず。なぜ殺した!」
「あ…あれは、私じゃ…ない」
(…まさか?)
「…私でいて、私じゃ…なかった」
「Reincarnation…」
「…私は…ロシア語は…話せない…」
意識が…消えた。
ゆっくり崩れていく、最強の暗殺者《アサシン》。
「私には、私を信じる仲間がいる。だから…オマエは殺さない…それだけだのことだ」
こうして、激しい闘いは幕を引いた。
何故かは分からない。
ラブの頬を、涙が流れ落ちた。
幾つも幾つも流れ落ちる。
「…ぁ…ぁァアアアアー❗️❗️」
哀しい叫びが、夜の東京に響き渡った…
もっとも、あの異常な状況では無理はない。
「警視庁も裏社会のことは知っています。高松が、同じくこの日本の警察を憎む博凛《フーリン》を雇い、理由と目的を知らせた。警視庁を潰す話に彼女が乗らない訳はない。そして、最強の力を持たせるべく、シリアルキラーの意識を彼女に埋め込んだ」
淡々と語るラブの言葉全てに、怒りが込められていることを感じる仲間達。
「出所者を誘拐し、京極を違法な実験に導いたのも高松。プロジェクトとして、警察の動きを監視しつつ混乱させ、本来の目的をカモフラージュした」
「全てが目隠しの為ですって⁉️その為に罪のない大勢の命を奪ったなんて。そんな復讐は認めない❗️」
皆も咲と同じ想いで、怒りの拳を握りしめる。
「誤算だったのは、箔博凛は普通の暗殺者《アサシン》では無かったこと」
「しかし、ヤツは赤い切り裂き魔と同じくロシア語を…」
「ロシアの諜報機関にも加担していたヤツが、ロシア語を話せても不思議じゃない。ヤツの顔…私は忘れてはいない」
アイがモニターに博凛《フーリン》を映す。
ラブと一瞬交わった時のものである。
「あ…あの目だ。この俺が、生まれて初めて恐怖を感じた。あの目だ❗️」
神の恐怖と、不気味な瞳。
背筋にイヤなモノを感じ、思わず身を引く。
「そう、彼女の目を見た神は、あの時、博凛は操られてはいないと見破った。高松と安斎を利用していただけ。きっと安斎は焦ったはず」
あの時の安斎の慌てぶりを思い出した。
「安斎は死んだわ。博凛によって。恐らく高松も死ぬつもりよ。自らの臥城を襲わせてね」
「じゃあ、ヤツは!」
「今夜…必ず、来る❗️」
勝てるのか?
このまま、この国の警察は負けるのか?
湾岸署に次ぎ新宿署までも、たった1人に壊滅させられた事実が、重く深い恐怖となっていた。
「咲さん、紗夜さん、淳一さん、昴さん。貴方たちは、総監を守って!彼を殺させたりしない。絶対にアイツを死なせたりはしないッ❗️」
アクセルを踏み込む。
(絶対に死なせない!)
「ラブさん…は?」
昴が、分かっている答えを待つ。
「ヤツは……私がやる」
いつかは闘う運命であったのかも知れない。
「全て、終わらせる❗️」
その想いは、仲間達に熱く伝わった。
「よし、みんな行くわよ。絶対にアイツを逃がさない!絶対、死なせない❗️」
「神さんも…任せたわ」
こうして。
最後の決戦の時を迎えたのである。
~東京都千代田区~
この国の政界や司法が集結する街、霞ヶ関。
いつもと同じ夜を迎えた。
「桜木さん、ちょっと」
高松が、まだ新人の秘書を呼ぶ。
「今夜はもういい、帰りたまえ」
「いえ、まだ早いので大丈夫です」
「お子さんは確か来年小学生だったね。可愛い時だ。大切に育てるんだよ」
「あ…はぁ…ありがとうございます」
「今日の予定はもうない。こんな年寄りと無駄な時間を過ごすより、たまには早く帰って美味しいものでも食べに連れて行ってあげなさい」
そう言って、内ポケットから封筒を渡す。
受け取った瞬間に、かなりの額だと分かる。
「こんな!いただけません」
予想外連発の極め付けに、慌てる桜木。
「いつも一生懸命尽くしてくれたお礼だ。ハハっ、安心していい。悪い金ではない、私のもう要らないポケットマネーだ」
高松の真面目な性分。
裏金などと無縁なことは、良く分かっていた。
「いいからいいから。実は今日は妻との記念日でね。と言っても、もう何もしてあげられないがね。代わりに君に…って理由じゃいけないかな?ちょっと一人で考えたいこともあるんだ。遠慮しないで、さあさあ、帰りなさい」
そこまで言われると、これ以上無理に断る訳にはいかない。
「分かりました。ありがとうございます。ではまた明日。お先に失礼させていただきます」
深くおじきをして出て行く桜木。
(また明日…か。すまないな)
少しして、騒がしい廊下に気付く。
と、咲達が入って来た。
警備を押し出して鍵をかけた。
「犯行予告でもありましたか?」
いつも通りの落ち着いた態度で問う高松。
「総監、安斎博士がヤツに殺されました」
「そうですか。いよいよですね」
娘の死にも、全く動じる仕草はない。
(我々が知っていることに気付いてる)
紗夜と昴が目を合わしてうなずき合う。
「今夜は私達が、総監を守るわ。絶対に殺させたりしないから!」
(ふっ…死なせもしない…か)
「紗夜さん…?」昴が気付く。
その言葉は、紗夜に語りかけていた。
(君には聞こえているのだよね、紗夜警部)
紗夜が高松を見る。
(君達を失うのは実に惜しい。果たして、護れるかな?君達に)
(高松重久さん。貴方は、ラブの強さを知らない。彼女は絶対に負けたりしない!)
その時である。
この一画を囲む、桜田通り、内堀通り、六本木通りを、数十台の派手な車とバイクが、けたたましい爆音を響かせながら走り回る。
神が集めた暴走族達である。
行手の信号は、全て青から変わらない。
アイがシステムを掌握していた。
仕方なく、警視庁と警察総合庁舎から、大勢が出て来て、騒ぎを収めようと必死に足掻く。
その騒ぎの上空。
飛行服を広げた黒い影が屋上に降り立った。
素早く飛行服を脱ぎ、予《あらかじ》め隠しておいたバッグから、装備を身につける。
強化手榴弾の入った袋を広げる。
と、その動きが止まる。
微かな風切り音に反応し、咄嗟に転がる。
弾薬付きの手刀が手榴弾に突き刺さる。
「ドドーン💣💥💥」
連鎖的に全てが爆発し、屋上に火柱が上がる。
その煙を前に、箔博凛《ハクフーリン》が立ち上がる。
その瞳の先。
煙を挟んで立つ、ラブがいた。
特殊合金繊維の黒い強化スーツ。
博凛《フーリン》がラブへ走る。
同時にラブも走る。
「ガキン!」
クロスした双剣同士がぶつかり合う。
「久しぶりね、博凛《フーリン》」
「ラブ!」
双剣を跳ね上げる2人。
瞬足の蹴りが、右からラブを襲う。
体を捻り、左回転したラブの神速の蹴りが、博凛の蹴りに追いつき、重なる。
蹴りの方向へ右回転し、かわす博凛。
「ビシュッ」「ヒュン!」
博凛の靴先の刃《やいば》が後ろで縛ったラブの髪を切り散らす。
ラブの蹴りが空を切り、かわした博凛の背中に筋跡を残す。
間髪入れず、バク転した博凛の蹴りが、前屈みのラブを天から狙う。
後頭部に当たる瞬間。
高速で前転してかわし、逆にラブの蹴りが着地した博凛を天から襲う。
「ガシッ❗️」
予想外に疾いラブの踵《かかと》を左腕で受け止め、払い落とす様に右に回る。
右手の剣が、着地したラブの足を横に薙《な》ぐ。
「ガキン!」
右手の剣を地に突き立て、その剣を受ける。
止まることなく、左手の剣の突きと共に博凛がラブへ跳ぶ。
左肩を引いて横向き、ギリギリでかわす。
と同時に右足を踏み出し、逆手に握り変えた右手の剣が、かわした剣より上側を走り、すれ違う博凛の首を狙う。
逆手に握り変えた右手の剣を掲げ、空中で半身を右に回してラブの剣を受け流す。
交差した2人が、背中合わせに間を取る。
博凛が走り、ワイヤーを使って階下へ飛ぶ。
同時にラブも真逆の階下へ飛び、屋上へとワイヤーを投げる。
先端の器具が開き、屋上の縁に引っ掛かる。
ガラスの割れる音と時間差から8階と判断し、ワイヤーを止め、ラブも8階の窓を破って着地した。
微かな風切り音。
(3つ)
「シュッ!」
感じたままに、剣を上へ投げ上げ、両手で腰の手刀を放ちつつ、地を蹴り前へ走る。
「キンッ」
手刀同士が2人の間で軽い音を立てて落ちた。
博凛が煙弾を投げ、低姿勢で前へ走る。
煙の中で双剣がラブの足を狙う。
瞬間跳ねてかわしつつ、先に投げた双剣を宙で掴み、前転しながらすれ違う背面を狙う。
かわされた剣を地に突き立て、浮いた体を丸め、ラブの剣へ両足を伸ばす。
「ガキン」
靴底に仕込んだ金属で剣を受け止めた。
背中を向けて着地したラブが、前に転がる。
「ギンっ!」
ラブが着々した地面を双剣が打つ。
その時。
(みんなはどこへ…)
逃げ遅れていた1人が、ラブの後方に現れた。
「ビシュ!」
博凛が短剣を放つ。
(私じゃない、クッ!)
「ギンッ」「タンッ」
1m右横を通る短剣を、下から振り上げたラブの剣が捉え、天井へ突き刺さる。
「早く逃げて❗️」
一瞬の隙。
見逃す相手ではない。
手刀がラブへと飛ぶ。
(避けれない)
「キン!」
危険を承知で、もう片手の剣で払う。
無防備なラブに瞬速の博凛が間合に入る。
瞬時に後方に跳ぶラブ。
(遅れた!)
同じ速さで人蹴り跳んだ博凛の双剣が光る。
「ギン!、バキッ❗️」
右からの剣は、振り下した剣で防ぐ。
左からの剣は引き戻した腕で止めた。
「クッ!」
特殊繊維の戦闘服に剣がめり込み、骨を砕く。
間は与えず、腰を引き至近距離でラブの右足が神速で蹴り上げる。
「ガッ!、グッ!」
浮身防御の博凛の左脇にラブの蹴りが入り、肋骨《ろっこつ》を砕く。
蹴り上げた博凛の身体が壁へ飛ぶ。
「ダンッ!」
止まることはない。
片足が壁に着地し、蹴った勢いでラブへ跳ぶ。
この僅かの間に、剣先を掌にして、砕けた腕に添え、ワイヤーで巻いて固定したラブ。
「死《スー》!(死ね!)」
双剣と拳術の猛攻がラブを襲う。
「キンキンキンキン、ガッ、キンキン、ガッ」
圧《お》されるラブ。
背後に壁が迫る。
(ぜったい…)
軽く跳び上がった双剣が真上から降り落ちる。
「ガキン!」
渾身の力で片剣で受け止めるラブ。
(オマエに…)
その空いたボディに高速の蹴りが来る。
「ドッ!、グッ!」
浮身防御で後に跳びながら受ける。
「ダンッ!、ウグッ…」
壁に背中から激突した。
(クソッ!)
うつむいたラブの右から、両刀を組み合わせた、渾身の一撃が襲う。
(よけきれない)
壁を弾みにし、前へ出るラブ。
インパクトを逸《そ》らす最善の対処である。
「ドスッ❗️、グッ!」
右脇腹の強化スーツに双剣がめり込み、肋骨が数本砕ける。
(なにッ!)
無心だった敵に一点の動揺が走った。
ラブの右手が、剣を持つ博凛《フーリン》の両腕をガッシリ抱えて、飛ばされるのを防ぐ。
……いや、動きを封じた。
「負けない❗️」
「ガッ❗️、ウガッ❗️」
振りかぶったラブの額が、博凛の額に激突し、後ろによろめく。
2人の額から血が滴る。
「いくよ」
ラブの瞳が鋭く光った。
その刹那、高速の斬剣が博凛を襲う。
「ギンギンギンギンギンギンギンギンギン❗️」
必死で受ける博凛。
防御スーツの金属片が飛び散る。
(ク…何故…動ける…これが…ラブか)
「ギンギンギンギンギンギンギン、キンッ❗️」
双剣の一つが折れて飛ぶ。
激打を受ける博凛の腕は、限界を超えていた。
「ウォォォオッ❗️」
「ビュッ…」
ラブの全身全霊を込めた一閃。
「ヴァハッ!」
振り斬らず、剣撃で浮いた博凛を押して走る。
「ヅガァン!、グァッ❗️」
その勢いのまま、壁に打ちつけた。
博凛《フーリン》の力が…尽きた。
「…なぜ…斬らなかった」
ラブの最後の一撃は、裏剣であった。
「オマエには分からない…」
「私は…大勢を殺して来た…私の正義の為に」
「ふざけるな❗️」「ヅガッ❗️」
砕けた腕に巻きつけた刃《やいば》が、博凛の頬をかすめ、壁に突き刺さる。
「警察全てが悪じゃない!その区別くらい、オマエなら分かるはず。なぜ殺した!」
「あ…あれは、私じゃ…ない」
(…まさか?)
「…私でいて、私じゃ…なかった」
「Reincarnation…」
「…私は…ロシア語は…話せない…」
意識が…消えた。
ゆっくり崩れていく、最強の暗殺者《アサシン》。
「私には、私を信じる仲間がいる。だから…オマエは殺さない…それだけだのことだ」
こうして、激しい闘いは幕を引いた。
何故かは分からない。
ラブの頬を、涙が流れ落ちた。
幾つも幾つも流れ落ちる。
「…ぁ…ぁァアアアアー❗️❗️」
哀しい叫びが、夜の東京に響き渡った…
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秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
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伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
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