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12. シリアルキラー
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夜の東京。
久しぶりの雨が激しさを増していく。
(アイ、信号を!)
雨を跳ね飛ばし、ラブのバイクが走る。
行く先々の信号を、アイが青に変えていく。
時速250キロ。
大粒の雨粒が鉛の玉の様にぶつかる。
最短時間で京極ビルにたどり着いたラブ。
駐車場のゲートに向けて、バイクに搭載の小型ミサイルを撃ち込む。
「ドドーンッ💥」
そのままバイクでエレベーターホールの自動ドアを突き破る。
アイが、警報装置を無効にしていた。
地下4階を押す。
(早く!間に合って!)
エレベーターが開いた。
「淳さん❗️」
「ラブさん…昴が…昴が」
「心臓止まってからどれくらい?」
「昴…俺なんかのために…」
「バシッ❗️」淳一の頬を平手打ちする。
「シッカリしなさい❗️」
「心臓止まって、どれくらい?」
「た…多分10分ぐらいです」
「まだ間に合う!」
持って来た医療キットを開く。
「淳さん、傷口を力一杯押さえてて!」
止血帯で手首の上を縛る。
そして、管の付いた針を自分の手の甲の血管にさし、針から血が出るのを確認して、昴のズボンを下げ、足の付け根の血管に針を刺した。
(ラブ様、それは…)
(分かってるわ。でも、死なせない!)
キットから医療用電気ショック機を取り出し、口で昴のシャツと肌着を食い破る。
「淳さん離れて!」
「バシン❗️」
胸に耳を当てる。
「…トクン…トクン…」動き出した!
「頑張って昴!」
淳一が唖然とする中、昴の顔色が戻って来る。
ラブの意識が霞む。
その時、救命隊と仲間達がエレベーターから出てきた。
針を外すラブ。
キットから出した袋に、切り落とされた手を入れて、隊員に渡す。
「TERRAの医療機関へ!」
「分かりました」
隊員が腹部の傷をみて驚く。
出血は止まり、組織が再生を始めていた。
「淳!」紗夜が抱き締める。
「ラブさん!」
ラブの体が咲の胸に沈んだ。
「紗夜、淳を。豊川さん、ヴェロニカさん、ここを調べて。ラブさんは私が」
まだ完治してない腕で、ラブを抱き上げる。
(なんて軽いの…こんな体で…)
一度途絶えた神崎昴の運命。
それが、新しい道へ進み始めた瞬間であった。
それは、ラブと共に、強大な脅威と戦う運命の始まりを意味していた。
「紗夜、すまねぇ。俺のせいで…クソッ!」
「淳は刑事として、間違ってはいないわ」
「あのモンスターを解き放っちまった」
淳一の心の中に残った恐怖を感じる紗夜。
「アレは人間の目じゃねぇ、悪魔だ」
「大丈夫、必ず捕まえて見せる!」
淳の体を抱き締める。
彼の心が少し安らぐのを…感じた。
~東京練馬区~
豊かな緑が残る江古田の森公園。
マンション、アパートが立ち並ぶ居住地。
その一角に立つ真っ白で小さなビル。
薄暗い部屋に2人はいた。
「順調な様だな」
「はい、あと少しです」
笑みを含んだ声が答える。
壁に掛かった東京都23区の地図。
幾つかの赤いピン📌が指し示めされていた。
「決行は?」
「この数日中には」
うなずいて部屋を出て行く。
残された目が、ある一点を見つめていた。
~警視庁対策本部~
危機を乗り越えた朝。
まだ脅威が去ったわけではない。
「では、合同対策会議を始める。報告を」
富士本がいつもの様に始める。
(今日は、何事もなければいいが…)
「まず、京極恒彦教授についてですが、昨夜当人所有のビル地下4階に於いて、遺体で発見されました」
紗夜が報告を始めた。
無残な写真が映される。
「犯人は、先日の行方不明者リストの中の最後の1人、溝口清《みぞぐちきよし》で間違いないと考えます」
メインモニターに写真と資料が映る。
「こいつに間違いねぇ。ただ…確かにこいつ何だか…アレは別人だった」
「どうゆう事だ、淳一?」
「まず、目の色は黒じゃなく銀色で、外国語を呟いてやがった」
「私も聴きました!」
サブスクリーンに、神崎昴がリモート参加して来た。
「昴、もう大丈夫なのか?」
富士本だけでなく全員が驚く。
「はい。もう傷も塞がりましたし、この手も元に戻るとのことです」
切り離された手が、持ち主の体に戻っていた。
昴が指を少し動かしてみせる。
「顔は確かに溝口でしたが、淳さんの言う通り、目は銀色で、西部訛《せいぶなま》りのある英語を呟いてました」
「『第14号:連続死体解体遺棄事件』のシリアルキラーね」
咲が断定する。
「鑑識の結果、京極の体は、腰骨まで半身を切り裂かれ、その肋骨《ろっこつ》の太い部分だけ持ち去られていた」
豊川が、とても人のものとは思えない、半身の写真を映す。
また数人が、トイレへと出て行く。
「ブレインフィールドの解体職人。アメリカウィスコンシン州で9人を殺害し、解体したシリアルキラーですわ」
ヴェロニカが写真を映す。
「白黒写真じゃよく分からないけど、目の色は確かに黒よりかなり薄いわね」
「咲さん、私は学生の頃、ミネソタ州に留学していたので、西部独特の発音が分かるんです」
「よし、溝口清を全国に指名手配しろ。何としても次の殺人を止めるんだ!」
これで未解決の連続殺人鬼2人が、全国に公開されたのである。
「話を戻します。京極ビルには、地下に秘密の階がありました。まず、地下3階がこれです」
紗夜が幾つかの分割した写真を示した。
「京極は、拉致した出所者達を、このフロアの檻に監禁していました。檻の数は地下3階に100、地下4階には、更に大きく頑丈な檻が2つありました。その内、地下3階にある31の檻は、使われた形跡はありません。」
騒つく捜査員たち。
「目的は何だね?」
「それは私から。この地下3階と4階のフロアは、元々は京極専用の資料庫だった様でございます。あちこちに、沢山の棚が設置されていた痕跡がございました。檻が作られたのは、金具類の錆び具合から、この1年以内。恐らくは、警視庁との合同プロジェクトの話を聞いて、改装したものと考えられます」
「では、警視庁が作らせて、拉致にも関与していると言うのか?」
騒めきが大きくなる。
「いえ、殺人鬼が脱走した時の高松警視総監殿の驚きと、積極的な対応に疑わしいところはありません」
紗夜は彼の真理を読み取っていた。
「では、あれは京極が自らの考えで行ったことと言うことだな」
「はい。間違って欲しくないのは、彼は本当に犯罪者の真理や行動を分析しようとしていた、と言うことです」
「彼には悪意は無かったと?」
「はい。彼の取った方法は、決して許されないことではありますが、警察の期待に応える為には、生の犯罪者の心理や行動を、分析する必要があったのだと思われます」
「俺からも一つ。彼の車から、強い安定剤の成分がいくつか検出された。あれは恐らく、地下4階に特別隔離していた者を、抑える目的で作ったものと考えられる。」
豊川が一瞬、咲を見る。
「彼の車のドライブレコーダーを辿ると、山梨に秘密の製薬施設が見つかった。…それから…」
珍しく豊川が間を置く。
「どうしました、豊川さん?」
紗夜はその心中に、悲しみと哀れみを感じた。
「彼にとって最後の夜、安定剤を作り、戻る途中…」
ドライブレコーダーの映像が流れる。
夜遅くの都内の映像。
不意に左から、女性が乗った自転車が現れ、急停車した。
「そ、そんな⁉️」
咲と紗夜が同時に声を出した。
静止した画像の中で振り向いた女性。
「な…七海…」
(これでも七海頑張ったんだから…)
咲の脳裏に、あの七海の言葉が響いた。
「おそらく、この時に、助手席に置いていた安定剤が落下し、幾つかの容器から薬品が溢《こぼ》れたものと考えられる」
「だから、シリアルキラー化した溝口に効き目が弱くなり、殺害された」
紗夜が呟く。
「もし…もし京極が生きていたら、強力なシリアルキラーがもっと増えて、大惨事が起こることを七海は知っていた。だから、京極の運命に干渉して、それを止めたのね。…七海のやりそうなことだわ……」
涙を堪える咲。
「あの檻でございますが、普段は真っ暗。時折、殺人に関するあらゆる動画や写真をモニターで繰り返し流していた様でございます」
その映像が再生される。
「どうやら、例の緑の体内薬物は、こういった抑圧と暗闇、そして殺人映像の環境下で、必然的に生まれて来るようだ。2回目の脱走で殺人鬼化した52人の全員から、微量に検出された」
「その影響と個人の精神状態がシンクロした場合に、完全なシリアルキラーが生まれるのかもしれませんね」
昴の言葉に何か変化を感じている紗夜。
咲、富士本も同じであった。
再び怪異の世界が漂う本部。
それをヴェロニカが現実に引き戻す。
「皆様お気づきになりましたか?」
上手い切り出しで意識を変える。
「京極ビルの檻は102。その内31は使用されておりませんでした。つまりは京極様が監禁しておられたのは71人でございます」
「全てが京極の殺人鬼ではないですね」
やはり、昴のキレが素早い。
「どうゆうことなの、昴?」
咲が敢えて昴に振る。
「地下3階から逃げ出した殺人鬼は、最初17人、次に52人。地下4階は溝口清と荒木士郎のシリアルキラー。つまり京極が拉致した出所者は71人です」
「チェスボードキラーと、ヘルスケアキラーがいない!」
紗夜が強調した。
「確かに…2人がいたのは旧地下鉄の詰所と廃ビルだったわね」
「そう言えば、緑川洋子の目撃情報は全くなくなりましたね」
昴の言う通り、あの廃ビル捜査後、一件の情報も来ていなかったのである。
「さすがに、アジトを潰されちゃ、動けねぇんじゃないか?」
「皆様は、シリアルキラーの意味を、ご理解出来ていない様でございますわね。彼らは心理的な欲求のもと、定期的に殺人を繰り返すものでございます。捕まることへの恐れで、その欲求を抑えることはできないのです」
「ある種の快楽的な中毒と同じね」
富士本の携帯が鳴った。
スピーカーホンに切り替える。
「ラブさん、どうされました?」
「都内の監視カメラを確認していて、京極の車を見つけました。マップを送りますので、よろしくお願いします」
「紗夜、淳、現場へ。他の者は周辺の聞き込みと監視を、解放されたヤツは、必ずすぐに犯行を起こすと思うわ。絶対に止めるわよ❗️」
「はい❗️」
「俺はもう少し、シリアルキラーを調べてみるか。何か掴めるかもしれん」
「豊川さん、TERRAの医療開発研究部門が協力します。地下の連絡通路から遺体を機密理に搬入してください」
「そんなものあんのか?」
「前回の事件以降に、警視庁と作りました」
「了解。助かるぜ」
通話を切るラブ。
「昴さん、あなたには伝えておかなきゃならない、大切なことがあるの」
ラブはTERRA内にある、昴の病室にいた。
「何となく分かります。私はあの時…死んだ。それをラブさんが生き返らせた」
「私の一存で、昴さんの命を引き止めてしまったの。ごめんなさい」
「助けてくれたのに、謝らないでくださいよ。
私はまだまだ死にたくはありませんから」
ラブが昴の繋がれた手を握り締める。
条件反射的に握り返す昴。
「あれ?まさか!」
起き上がり、手首の包帯を解く。
僅かに線状の跡はあったが、ほぼその機能が回復していた。
「私の血をかなりの量輸血した効果よ」
「私の治癒力は、今の人類より数十倍高いの。昴にも私の特殊能力の幾つかが与えられたのよ。例えば」
(聞こえるわよね)
(は…はい)
(どんなに離れていても、マザーシステムAIを通じて、想いを共有できるの)
「凄い!もしかして私もラブさんみたいに強くなってたりもします?」
余りに純粋な目に、逆に驚くラブ。
「あ…ある程度はね💦。その素質は備わってるはず。だけど訓練が必要よ。無茶しちゃだめ」
「訓練かぁ、ラブ師匠!鍛えて下さい❗️」
どうやら昴には、いらない心配であった💧
ともかく、ラブ側の見方が1人増えたことには、変わりないのであった。
久しぶりの雨が激しさを増していく。
(アイ、信号を!)
雨を跳ね飛ばし、ラブのバイクが走る。
行く先々の信号を、アイが青に変えていく。
時速250キロ。
大粒の雨粒が鉛の玉の様にぶつかる。
最短時間で京極ビルにたどり着いたラブ。
駐車場のゲートに向けて、バイクに搭載の小型ミサイルを撃ち込む。
「ドドーンッ💥」
そのままバイクでエレベーターホールの自動ドアを突き破る。
アイが、警報装置を無効にしていた。
地下4階を押す。
(早く!間に合って!)
エレベーターが開いた。
「淳さん❗️」
「ラブさん…昴が…昴が」
「心臓止まってからどれくらい?」
「昴…俺なんかのために…」
「バシッ❗️」淳一の頬を平手打ちする。
「シッカリしなさい❗️」
「心臓止まって、どれくらい?」
「た…多分10分ぐらいです」
「まだ間に合う!」
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「淳さん、傷口を力一杯押さえてて!」
止血帯で手首の上を縛る。
そして、管の付いた針を自分の手の甲の血管にさし、針から血が出るのを確認して、昴のズボンを下げ、足の付け根の血管に針を刺した。
(ラブ様、それは…)
(分かってるわ。でも、死なせない!)
キットから医療用電気ショック機を取り出し、口で昴のシャツと肌着を食い破る。
「淳さん離れて!」
「バシン❗️」
胸に耳を当てる。
「…トクン…トクン…」動き出した!
「頑張って昴!」
淳一が唖然とする中、昴の顔色が戻って来る。
ラブの意識が霞む。
その時、救命隊と仲間達がエレベーターから出てきた。
針を外すラブ。
キットから出した袋に、切り落とされた手を入れて、隊員に渡す。
「TERRAの医療機関へ!」
「分かりました」
隊員が腹部の傷をみて驚く。
出血は止まり、組織が再生を始めていた。
「淳!」紗夜が抱き締める。
「ラブさん!」
ラブの体が咲の胸に沈んだ。
「紗夜、淳を。豊川さん、ヴェロニカさん、ここを調べて。ラブさんは私が」
まだ完治してない腕で、ラブを抱き上げる。
(なんて軽いの…こんな体で…)
一度途絶えた神崎昴の運命。
それが、新しい道へ進み始めた瞬間であった。
それは、ラブと共に、強大な脅威と戦う運命の始まりを意味していた。
「紗夜、すまねぇ。俺のせいで…クソッ!」
「淳は刑事として、間違ってはいないわ」
「あのモンスターを解き放っちまった」
淳一の心の中に残った恐怖を感じる紗夜。
「アレは人間の目じゃねぇ、悪魔だ」
「大丈夫、必ず捕まえて見せる!」
淳の体を抱き締める。
彼の心が少し安らぐのを…感じた。
~東京練馬区~
豊かな緑が残る江古田の森公園。
マンション、アパートが立ち並ぶ居住地。
その一角に立つ真っ白で小さなビル。
薄暗い部屋に2人はいた。
「順調な様だな」
「はい、あと少しです」
笑みを含んだ声が答える。
壁に掛かった東京都23区の地図。
幾つかの赤いピン📌が指し示めされていた。
「決行は?」
「この数日中には」
うなずいて部屋を出て行く。
残された目が、ある一点を見つめていた。
~警視庁対策本部~
危機を乗り越えた朝。
まだ脅威が去ったわけではない。
「では、合同対策会議を始める。報告を」
富士本がいつもの様に始める。
(今日は、何事もなければいいが…)
「まず、京極恒彦教授についてですが、昨夜当人所有のビル地下4階に於いて、遺体で発見されました」
紗夜が報告を始めた。
無残な写真が映される。
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メインモニターに写真と資料が映る。
「こいつに間違いねぇ。ただ…確かにこいつ何だか…アレは別人だった」
「どうゆう事だ、淳一?」
「まず、目の色は黒じゃなく銀色で、外国語を呟いてやがった」
「私も聴きました!」
サブスクリーンに、神崎昴がリモート参加して来た。
「昴、もう大丈夫なのか?」
富士本だけでなく全員が驚く。
「はい。もう傷も塞がりましたし、この手も元に戻るとのことです」
切り離された手が、持ち主の体に戻っていた。
昴が指を少し動かしてみせる。
「顔は確かに溝口でしたが、淳さんの言う通り、目は銀色で、西部訛《せいぶなま》りのある英語を呟いてました」
「『第14号:連続死体解体遺棄事件』のシリアルキラーね」
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「鑑識の結果、京極の体は、腰骨まで半身を切り裂かれ、その肋骨《ろっこつ》の太い部分だけ持ち去られていた」
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「目的は何だね?」
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「では、警視庁が作らせて、拉致にも関与していると言うのか?」
騒めきが大きくなる。
「いえ、殺人鬼が脱走した時の高松警視総監殿の驚きと、積極的な対応に疑わしいところはありません」
紗夜は彼の真理を読み取っていた。
「では、あれは京極が自らの考えで行ったことと言うことだな」
「はい。間違って欲しくないのは、彼は本当に犯罪者の真理や行動を分析しようとしていた、と言うことです」
「彼には悪意は無かったと?」
「はい。彼の取った方法は、決して許されないことではありますが、警察の期待に応える為には、生の犯罪者の心理や行動を、分析する必要があったのだと思われます」
「俺からも一つ。彼の車から、強い安定剤の成分がいくつか検出された。あれは恐らく、地下4階に特別隔離していた者を、抑える目的で作ったものと考えられる。」
豊川が一瞬、咲を見る。
「彼の車のドライブレコーダーを辿ると、山梨に秘密の製薬施設が見つかった。…それから…」
珍しく豊川が間を置く。
「どうしました、豊川さん?」
紗夜はその心中に、悲しみと哀れみを感じた。
「彼にとって最後の夜、安定剤を作り、戻る途中…」
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不意に左から、女性が乗った自転車が現れ、急停車した。
「そ、そんな⁉️」
咲と紗夜が同時に声を出した。
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「な…七海…」
(これでも七海頑張ったんだから…)
咲の脳裏に、あの七海の言葉が響いた。
「おそらく、この時に、助手席に置いていた安定剤が落下し、幾つかの容器から薬品が溢《こぼ》れたものと考えられる」
「だから、シリアルキラー化した溝口に効き目が弱くなり、殺害された」
紗夜が呟く。
「もし…もし京極が生きていたら、強力なシリアルキラーがもっと増えて、大惨事が起こることを七海は知っていた。だから、京極の運命に干渉して、それを止めたのね。…七海のやりそうなことだわ……」
涙を堪える咲。
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その映像が再生される。
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「その影響と個人の精神状態がシンクロした場合に、完全なシリアルキラーが生まれるのかもしれませんね」
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それをヴェロニカが現実に引き戻す。
「皆様お気づきになりましたか?」
上手い切り出しで意識を変える。
「京極ビルの檻は102。その内31は使用されておりませんでした。つまりは京極様が監禁しておられたのは71人でございます」
「全てが京極の殺人鬼ではないですね」
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咲が敢えて昴に振る。
「地下3階から逃げ出した殺人鬼は、最初17人、次に52人。地下4階は溝口清と荒木士郎のシリアルキラー。つまり京極が拉致した出所者は71人です」
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紗夜が強調した。
「確かに…2人がいたのは旧地下鉄の詰所と廃ビルだったわね」
「そう言えば、緑川洋子の目撃情報は全くなくなりましたね」
昴の言う通り、あの廃ビル捜査後、一件の情報も来ていなかったのである。
「さすがに、アジトを潰されちゃ、動けねぇんじゃないか?」
「皆様は、シリアルキラーの意味を、ご理解出来ていない様でございますわね。彼らは心理的な欲求のもと、定期的に殺人を繰り返すものでございます。捕まることへの恐れで、その欲求を抑えることはできないのです」
「ある種の快楽的な中毒と同じね」
富士本の携帯が鳴った。
スピーカーホンに切り替える。
「ラブさん、どうされました?」
「都内の監視カメラを確認していて、京極の車を見つけました。マップを送りますので、よろしくお願いします」
「紗夜、淳、現場へ。他の者は周辺の聞き込みと監視を、解放されたヤツは、必ずすぐに犯行を起こすと思うわ。絶対に止めるわよ❗️」
「はい❗️」
「俺はもう少し、シリアルキラーを調べてみるか。何か掴めるかもしれん」
「豊川さん、TERRAの医療開発研究部門が協力します。地下の連絡通路から遺体を機密理に搬入してください」
「そんなものあんのか?」
「前回の事件以降に、警視庁と作りました」
「了解。助かるぜ」
通話を切るラブ。
「昴さん、あなたには伝えておかなきゃならない、大切なことがあるの」
ラブはTERRA内にある、昴の病室にいた。
「何となく分かります。私はあの時…死んだ。それをラブさんが生き返らせた」
「私の一存で、昴さんの命を引き止めてしまったの。ごめんなさい」
「助けてくれたのに、謝らないでくださいよ。
私はまだまだ死にたくはありませんから」
ラブが昴の繋がれた手を握り締める。
条件反射的に握り返す昴。
「あれ?まさか!」
起き上がり、手首の包帯を解く。
僅かに線状の跡はあったが、ほぼその機能が回復していた。
「私の血をかなりの量輸血した効果よ」
「私の治癒力は、今の人類より数十倍高いの。昴にも私の特殊能力の幾つかが与えられたのよ。例えば」
(聞こえるわよね)
(は…はい)
(どんなに離れていても、マザーシステムAIを通じて、想いを共有できるの)
「凄い!もしかして私もラブさんみたいに強くなってたりもします?」
余りに純粋な目に、逆に驚くラブ。
「あ…ある程度はね💦。その素質は備わってるはず。だけど訓練が必要よ。無茶しちゃだめ」
「訓練かぁ、ラブ師匠!鍛えて下さい❗️」
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