12 / 22
11. 再来の危機
しおりを挟む
エレベーターが地下1階の駐車場に着いた。
先程の指紋採取テープを見た豊川。
「ちょっと待て」
「どうかしたの?」
「こりゃあ、二つ指紋があるな」
「安斎さん?」紗夜が問う。
首を振る安斎。(違う)
「てことは…滝川ってことね!」
「安斎さん、彼は?」
「今朝の会議の後、体調が悪いと行って帰りましたけど…彼がまさか?」
今朝から彼の異変に気づいていた紗夜。
「電話を!」
安斎がかける。
「出ません」
「アイ、GPS」
皆んなの携帯に地図が送られて来た。
「この住所は滝川さんの自宅です。嫌な予感がします。急いでください」
ラブの声に慌てて車に乗る。
(教授は気付いていたのね…)
それを見送り、安斎がビルへと戻っていった。
~TERRA~
ラブが皆んなと別れ、TERRAに戻ったのは、全く別の理由であった。
「ティーク、状況はどう?」
「NASAも調べているが、隕石の落下などではないな。街には全く損害が見られない」
南米大陸の西海岸に南北に伸びる国ペルー。
そこにある人口20万人程の街。
ある夜から、その街との通信が途絶えた。
そして、世が明けた街には、誰もいなくなっていたのである。
NASAからの連絡を受け、ラブが率いる機密組織EARTHとティークを派遣したのであった。
過去の悲しい記憶が甦る。
宿敵HEAVENとの戦い。
ペルーにあるナスカの地に散った芽依《メイ》。
何かがまた、始まりを告げていたのである。
~文京区~
滝川宅へ着いた紗夜と昴。
咲と豊川、ヴェロニカは本部へ帰った。
(おかしい…)
家の中に、何の気配も感じられなかった。
玄関前で呼び鈴を押す昴。
滝川の携帯に電話をかける。
すると、中から微かに呼び出し音がした。
「昴!救急車を」
家の横にある廊下の窓ガラスを警棒で割る。
割れた窓から中へ入り、二階へ駆け上がる。
ドアを明けた紗夜の動きが止まる。
(…なぜなの…)
デスクに突っ伏した滝川がいた。
昴が駆け上がって来た。
「そんな!滝川さん!」
既に死後硬直が始まっていた。
「青酸カリ…」デスクにあった瓶を見た。
「これは…遺書? 紗夜さん!」
我に返った紗夜が近寄り、デスクのノートに書き留められた文字を読む。
「私は取り返しのつかない罪を犯しました。あのビルの地下には、殺人鬼が大勢います。あそこを開いてはいけない。興味本意で、私はうっかりその檻の扉を開いてしまいました。あの17人の殺人鬼は、私が解き放ったもの。全て私の責任です。わたしのために、大勢の方が亡くなられた。もう生きてはいけません。死んでお詫びします。すみません。」
「紗夜さん❗️」
「昴これを本部に送って!」
昴がスマホで写真に収め、送信する。
「もしもし、紗夜です。滝川さんは自殺してました。今、その遺書を送りました。私たちは、とんでもないことをしてしまったかもしれません!」
~警視庁捜査本部~
モニターに滝川の遺書が映し出された。
「そんな…大変!私達はさっき、全ての檻を開いてしまった❗️」
富士本が非常事態警報を鳴らす。
「全員に告ぐ、千代田区周辺へ直行しろ!全員銃を携帯、殺人鬼が多数出没する恐れあり❗️」
ラブの通信が割り込む。
「前回の出没場所から推定すると、奴等は下水道か、地下経路から現れたと考えられます。先まわりして、食い止めて!」
モニターに映し出された、ペルーの廃墟に唇を噛み締める。
「ティーク、引き続き捜査を!アイ、千代田区周辺の全ての通信を使って、危険を知らせて。今すぐ丈夫な建物へ逃げる様に呼びかけて❗️
T2、戦闘モード!」
「はいよ❗️」
「私は渋谷へ、T2は港区へ」
「了解!」
T2がスイッチを押すと、別室が開き、あらゆる武器が現れた。
「神さん!」
「ただことじゃねぇな」
「新宿をお願い!また殺人鬼が❗️」
「了解したぜ」
それだけで、十分伝わった。
千代田区周辺の6区にある、あらゆるモニターに通り魔出没注意の掲示が表示された。
そしてアイの放送が流れる。
「複数の危険な通り魔が出没する可能性があります。直ちに丈夫な建物に避難し、鍵をかけてください、繰り返します…」
前回の恐怖を知らない者はいない。
パニックになりながらも、皆んな助け合って、避難を開始する。
店舗はシャッターを下ろし、周囲の人々を中へ誘導していく。
ラブから連絡を貰った高松警視総監も、都内全域の警察官に出動を命じた。
~新宿~
転んだ子供を助けに、サラリーマンが戻る。
と、その間にあるマンホールの蓋が開き、2人の狂人が現れた。
「坊や逃げろ!」
逃げ出す子供に気付いた2人が振り向いた瞬間。
歩道をバイクで走ってきた神の日本刀が一閃。
2人の首が転がった。
「あんた、早くこの子を安全なとこへ!」
そこへ手下が車で駆けつける。
「行け❗️」
「しゃぁー!」
4人がマンホールの穴から下へ降りて行く。
すぐに複数の銃声が響いて来た。
「死ぬなよ」
神の命令で500人余りの兵隊が、新宿の街に繰り出していた。
~港区~
六本木ヒルズがシャッターを下ろし、人々を誘導する。
「皆さん早く中へ、まだまだ入れます」
そのそばの地下店舗から、悲鳴を上げながら女性が出て来る。
その後に、狂人が湧き出るように続く。
手が女性に届く瞬間。
道路を走って来たバイクから跳んだ人影が、狂人の横に着地し、腕を掴む。
大柄な狂人が、T2を見下ろす。
「チビ…って目がきにいらねぇな!」
掴んだ狂人の腕を握り潰す。
それを引き寄せ、渾身のアッパーが、アゴを直撃し、巨体が宙に舞い上がる。
間髪入れず、後ろにいた狂人へ瞬足の回し蹴りがめり込む。
狂人が後ろの者と共に階段を転げ落ちて行く。
「さて、久しぶりだぜ」
地下店舗へと降りて行くT2。
その後に、さっきの1人が落ちて来る。
少し遅れて、首から上が落下して転がった。
T2は、関節や筋肉に埋め込まれたパワーチップで、強大な力を出せるのである。
~東京駅~
突然現れた狂人2人に、弾を打ち込む警察官。
「早く逃げて!」必死で人々を逃がす。
弾が切れ、走り来る狂人に死を覚悟した。
その時である。
警察官の両サイドを走り抜ける巨大。
「うらぁ~❗️」「どすこい~い❗️」
相撲取りの強烈な当たりが、狂人を弾き飛ばしていた。
「しゃがんで!」
背後からの声に、俊敏に対応する2人。
「パン!、パン!」
咲と紗夜の銃が、起き上がる狂人の額を撃ち抜いていた。
「ありがとうございます」
「やるじゃない。国技はさすがね!」
「ごっつぁんです❗️」
「…敬礼は…似合わないかも💧」
~渋谷~
大きな電気店のシャッターに10人程が群がり、中のガラスまで破壊していた。
その真上。
ヘリで屋上に降りたラブが、ビルの壁を駆け下りる。
「ウォォー❗️」
気づいた1人が顔を上げる。
その顔面に反転したラブが着地した。
鈍い音で潰れた狂人。
一瞬離れかけた者達が一斉に襲いかかる。
斬撃一閃。
全ての首に赤い線が生まれて行く。
中に入り込んだ1人が外を見る。
それを見ることなく、伸ばした右手の銃が、そいつの頭を貫く。
(アイ、次)
(右……正面の歩道)
(…気ィ遣わなくていいから💧)
逃げるサラリーマンを追う狂人。
左右に行き交う車に集中するラブ。
不意に銃を上げ、即撃「バシュ❗️」
全6車線を走る車の間を抜ける弾。
「ドサッ」
頭を撃ち抜かれて倒れる標的。
全ての状況が富士本の本部に集まる。
「全員に告ぐ、脅威は去った。ご苦労❗️」
アイの放送が全地区に流れる。
「ご協力をありがとうございました。もう安全です。被害者はありません。お気をつけてお帰りください」
街中のあちこちから歓喜の声が上がる。
互いを讃え、勇気と信頼を喜び合っていた。
~新宿~
「組長!お疲れ様でした」
「おぅ、みんな無事で良かった」
肩を叩く手が寸前で止まる。
「臭っせー❗️こら、近づくんじゃねぇ💦」
「おい、車回せ!、あん?…お前まで!絶対車に乗るなよ、臭ぇ~」
「そんなぁ、神さん…」
「と、とにかくだ、皆んな良くやった!礼は必ずするからな!」
タクシーを捕まえて、立ち去る神であった。
(ラブ様、あなたがこの国を愛する意味がよく分かりました)
(アイ、これが…本当の日本なんだよ)
~京極ビル地下3階~
「やったな、昴」
「はい。でも本当にもう大丈夫なんですか?」
頭と手首に包帯を巻いた、淳一がいた。
「当たり前だろ!血ィ抜かれただけだぜ」
実際のところ、出血量は致死量に達していた淳一。助かったのは奇跡に近かったのである。
ここに来たのは、仕留めた殺人鬼の数と、収容されていた檻の数を確認するためであった。
「さて、帰りますか」
「そうだな、愛しの紗夜ちゃんの元へ❣️」
(キモっ💧)
エレベーターに乗る。
「まさかこの下はないですよね~」
ふざけ半分に押した昴。
「もうあるわけ…な…」
エレベーターが動き出した。
咄嗟にイヤホン型通信機のスイッチを入れる。
「誰かいますか?ビルにまだ下がありました」
警官達は後始末に追われ、本部には警視総監が感謝の訪問に来ていた。
アイとアイを通じて、ラブだけにはその声が届いた。
(まさか…)
「昴さん!ダメ、そこへ行っちゃダメ❗️後1人いるの、アイツが❗️」
「ら…さ………」
(ラブ様、電波が届きません)
(アイ、本部に繋いで!)
~警視庁対策本部~
「では、私はこれで」
警視総監が出ようとした時、緊急連絡網から、ラブの叫びが流れた。
「大至急京極ビルへ!地下4階に、アイツがいる❗️昴さんと淳さんが危険です❗️」
「淳が…なぜ⁉️」
「そんな…昴⁉️」
「地下…4階⁉️」
もう1人の行方不明者。
溝口 清
伝統工芸家の家に生まれ、小さな頃から手先が器用で、刃物の扱いにも長けていた。
厳しい父親の抑圧に、次第に精神を病み、動物を切り刻んでは『作品』を作る様になる。
ふとした興味から、浮浪者を殺害し、『作品』製作中に逮捕された。
千葉刑務所で20年の刑期を終え、その後行方不明であった。
~中央区総合病院~
日本最大の病床数を誇る巨大病院。
各階にナースセンターがあり、万全の医療体制が整っていた。
そこに、異変が起きていた。
機器の異常を告げる警告音が響く。
「えっ、また?」
看護師長5年の島原が、首をひねる。
「佐伯さん、見て来て、私は主治医を」
「はい」
(622号室、小室のおじいさん)
部屋に入る。
「そんな!」
酸素供給量が1.5倍に上がっていた。
「佐伯です、緊急処置を!」
(落ち着かなきゃ)
酸素供給機を一旦止める。
(心拍下がらない、なぜ?)
医師が駆けつけた。
「何だこの数値は!何があった?」
「酸素供給量が1.5倍に」
その時、激しく脈打っていた鼓動が止まった。
「急性心筋梗塞か?いやあり得ない」
「点滴は何を?」
「先生、準備出来ました」
「いつもの安定剤と…?」
「離れて!」
「これ…は違う、待って❗️」
「ドンッ!」「うわっ!」
口、鼻、目、耳、至る穴から血液が流れ出す。
「し、心破裂…」
今日、三人目の死亡が確認された…
~京極ビル地下4階~
エレベーターのドアが開く。
「ドサッ」
瞬間、脳がそれを拒絶する。
が、すぐに機能を取り戻す。
「うわぁ❗️」
それは人の腕であった。
「これは!」
手の甲に、ラブが引っ掻いた跡があり、手首には包帯が巻かれていた。
「京極恒彦!」
「なに!」
「上がりましょう」
昴が地下1階のボタンを押す。
しかし、腕が挟まりドアが閉まらない。
「引っ張れ!」
昴が無我夢中で引っ張る。
しかし、全く動かない。
時間が来てドアがまた開く。
「見てみます」
「バカ、俺が行く!」
淳一がエレベーターから出た。
薄明かりが灯る。
見ると、京極の腕は右半分の胴体に繋がっており、脚はすぐ横の部屋の中へ続いていた。
部屋の前に立った淳一。
その目が驚きに見開かれる。
走り寄る音が聞こえた。
咄嗟《とっさ》に、昴が淳一を突き飛ばす。
腹部に冷たいものを感じた。
そこから生暖かいものが流れ出す。
横を見ると、ソレが目の前に…いた。
無意識に横腹に刺さったナイフを握る腕を掴み、手錠をかけ、片方を自分の腕にかけた。
「逃がさない!」
ふと、ソイツが笑った。
「グフッ!」
腹から抜かれたものはナイフではなく、西洋の短剣に見えた。
「昴❗️」
淳一が叫んだ時には、昴の手首から先が切り落とされていた。
「グぁあぁ❗️」
ソレは、平然とエレベーターに乗り、京極の腕を放り出した。
エレベーターが閉まる。
「昴!しっかりしろ!」
淳一が抱き起す。
血溜まりが通路いっぱいに広がっていた。
「バカ野郎❗️なんでお前が…」
悔しくて涙が止まらない。
「淳さん…良かった無事で」
「大丈夫、大したことねぇ」
絶望的なことは一目瞭然である。
「紗夜さんと…幸せにな………」
「昴ぅー❗️…昴…」
涙がぼたぼた落ちる。
「クッソ野郎め❗️絶対に、ぶっ殺す❗️」
~地下1階~
「あら?教授帰ったのね?」
京極の車がなくなっていた。
「残念」
そう言って、安斎はビルを後にした。
先程の指紋採取テープを見た豊川。
「ちょっと待て」
「どうかしたの?」
「こりゃあ、二つ指紋があるな」
「安斎さん?」紗夜が問う。
首を振る安斎。(違う)
「てことは…滝川ってことね!」
「安斎さん、彼は?」
「今朝の会議の後、体調が悪いと行って帰りましたけど…彼がまさか?」
今朝から彼の異変に気づいていた紗夜。
「電話を!」
安斎がかける。
「出ません」
「アイ、GPS」
皆んなの携帯に地図が送られて来た。
「この住所は滝川さんの自宅です。嫌な予感がします。急いでください」
ラブの声に慌てて車に乗る。
(教授は気付いていたのね…)
それを見送り、安斎がビルへと戻っていった。
~TERRA~
ラブが皆んなと別れ、TERRAに戻ったのは、全く別の理由であった。
「ティーク、状況はどう?」
「NASAも調べているが、隕石の落下などではないな。街には全く損害が見られない」
南米大陸の西海岸に南北に伸びる国ペルー。
そこにある人口20万人程の街。
ある夜から、その街との通信が途絶えた。
そして、世が明けた街には、誰もいなくなっていたのである。
NASAからの連絡を受け、ラブが率いる機密組織EARTHとティークを派遣したのであった。
過去の悲しい記憶が甦る。
宿敵HEAVENとの戦い。
ペルーにあるナスカの地に散った芽依《メイ》。
何かがまた、始まりを告げていたのである。
~文京区~
滝川宅へ着いた紗夜と昴。
咲と豊川、ヴェロニカは本部へ帰った。
(おかしい…)
家の中に、何の気配も感じられなかった。
玄関前で呼び鈴を押す昴。
滝川の携帯に電話をかける。
すると、中から微かに呼び出し音がした。
「昴!救急車を」
家の横にある廊下の窓ガラスを警棒で割る。
割れた窓から中へ入り、二階へ駆け上がる。
ドアを明けた紗夜の動きが止まる。
(…なぜなの…)
デスクに突っ伏した滝川がいた。
昴が駆け上がって来た。
「そんな!滝川さん!」
既に死後硬直が始まっていた。
「青酸カリ…」デスクにあった瓶を見た。
「これは…遺書? 紗夜さん!」
我に返った紗夜が近寄り、デスクのノートに書き留められた文字を読む。
「私は取り返しのつかない罪を犯しました。あのビルの地下には、殺人鬼が大勢います。あそこを開いてはいけない。興味本意で、私はうっかりその檻の扉を開いてしまいました。あの17人の殺人鬼は、私が解き放ったもの。全て私の責任です。わたしのために、大勢の方が亡くなられた。もう生きてはいけません。死んでお詫びします。すみません。」
「紗夜さん❗️」
「昴これを本部に送って!」
昴がスマホで写真に収め、送信する。
「もしもし、紗夜です。滝川さんは自殺してました。今、その遺書を送りました。私たちは、とんでもないことをしてしまったかもしれません!」
~警視庁捜査本部~
モニターに滝川の遺書が映し出された。
「そんな…大変!私達はさっき、全ての檻を開いてしまった❗️」
富士本が非常事態警報を鳴らす。
「全員に告ぐ、千代田区周辺へ直行しろ!全員銃を携帯、殺人鬼が多数出没する恐れあり❗️」
ラブの通信が割り込む。
「前回の出没場所から推定すると、奴等は下水道か、地下経路から現れたと考えられます。先まわりして、食い止めて!」
モニターに映し出された、ペルーの廃墟に唇を噛み締める。
「ティーク、引き続き捜査を!アイ、千代田区周辺の全ての通信を使って、危険を知らせて。今すぐ丈夫な建物へ逃げる様に呼びかけて❗️
T2、戦闘モード!」
「はいよ❗️」
「私は渋谷へ、T2は港区へ」
「了解!」
T2がスイッチを押すと、別室が開き、あらゆる武器が現れた。
「神さん!」
「ただことじゃねぇな」
「新宿をお願い!また殺人鬼が❗️」
「了解したぜ」
それだけで、十分伝わった。
千代田区周辺の6区にある、あらゆるモニターに通り魔出没注意の掲示が表示された。
そしてアイの放送が流れる。
「複数の危険な通り魔が出没する可能性があります。直ちに丈夫な建物に避難し、鍵をかけてください、繰り返します…」
前回の恐怖を知らない者はいない。
パニックになりながらも、皆んな助け合って、避難を開始する。
店舗はシャッターを下ろし、周囲の人々を中へ誘導していく。
ラブから連絡を貰った高松警視総監も、都内全域の警察官に出動を命じた。
~新宿~
転んだ子供を助けに、サラリーマンが戻る。
と、その間にあるマンホールの蓋が開き、2人の狂人が現れた。
「坊や逃げろ!」
逃げ出す子供に気付いた2人が振り向いた瞬間。
歩道をバイクで走ってきた神の日本刀が一閃。
2人の首が転がった。
「あんた、早くこの子を安全なとこへ!」
そこへ手下が車で駆けつける。
「行け❗️」
「しゃぁー!」
4人がマンホールの穴から下へ降りて行く。
すぐに複数の銃声が響いて来た。
「死ぬなよ」
神の命令で500人余りの兵隊が、新宿の街に繰り出していた。
~港区~
六本木ヒルズがシャッターを下ろし、人々を誘導する。
「皆さん早く中へ、まだまだ入れます」
そのそばの地下店舗から、悲鳴を上げながら女性が出て来る。
その後に、狂人が湧き出るように続く。
手が女性に届く瞬間。
道路を走って来たバイクから跳んだ人影が、狂人の横に着地し、腕を掴む。
大柄な狂人が、T2を見下ろす。
「チビ…って目がきにいらねぇな!」
掴んだ狂人の腕を握り潰す。
それを引き寄せ、渾身のアッパーが、アゴを直撃し、巨体が宙に舞い上がる。
間髪入れず、後ろにいた狂人へ瞬足の回し蹴りがめり込む。
狂人が後ろの者と共に階段を転げ落ちて行く。
「さて、久しぶりだぜ」
地下店舗へと降りて行くT2。
その後に、さっきの1人が落ちて来る。
少し遅れて、首から上が落下して転がった。
T2は、関節や筋肉に埋め込まれたパワーチップで、強大な力を出せるのである。
~東京駅~
突然現れた狂人2人に、弾を打ち込む警察官。
「早く逃げて!」必死で人々を逃がす。
弾が切れ、走り来る狂人に死を覚悟した。
その時である。
警察官の両サイドを走り抜ける巨大。
「うらぁ~❗️」「どすこい~い❗️」
相撲取りの強烈な当たりが、狂人を弾き飛ばしていた。
「しゃがんで!」
背後からの声に、俊敏に対応する2人。
「パン!、パン!」
咲と紗夜の銃が、起き上がる狂人の額を撃ち抜いていた。
「ありがとうございます」
「やるじゃない。国技はさすがね!」
「ごっつぁんです❗️」
「…敬礼は…似合わないかも💧」
~渋谷~
大きな電気店のシャッターに10人程が群がり、中のガラスまで破壊していた。
その真上。
ヘリで屋上に降りたラブが、ビルの壁を駆け下りる。
「ウォォー❗️」
気づいた1人が顔を上げる。
その顔面に反転したラブが着地した。
鈍い音で潰れた狂人。
一瞬離れかけた者達が一斉に襲いかかる。
斬撃一閃。
全ての首に赤い線が生まれて行く。
中に入り込んだ1人が外を見る。
それを見ることなく、伸ばした右手の銃が、そいつの頭を貫く。
(アイ、次)
(右……正面の歩道)
(…気ィ遣わなくていいから💧)
逃げるサラリーマンを追う狂人。
左右に行き交う車に集中するラブ。
不意に銃を上げ、即撃「バシュ❗️」
全6車線を走る車の間を抜ける弾。
「ドサッ」
頭を撃ち抜かれて倒れる標的。
全ての状況が富士本の本部に集まる。
「全員に告ぐ、脅威は去った。ご苦労❗️」
アイの放送が全地区に流れる。
「ご協力をありがとうございました。もう安全です。被害者はありません。お気をつけてお帰りください」
街中のあちこちから歓喜の声が上がる。
互いを讃え、勇気と信頼を喜び合っていた。
~新宿~
「組長!お疲れ様でした」
「おぅ、みんな無事で良かった」
肩を叩く手が寸前で止まる。
「臭っせー❗️こら、近づくんじゃねぇ💦」
「おい、車回せ!、あん?…お前まで!絶対車に乗るなよ、臭ぇ~」
「そんなぁ、神さん…」
「と、とにかくだ、皆んな良くやった!礼は必ずするからな!」
タクシーを捕まえて、立ち去る神であった。
(ラブ様、あなたがこの国を愛する意味がよく分かりました)
(アイ、これが…本当の日本なんだよ)
~京極ビル地下3階~
「やったな、昴」
「はい。でも本当にもう大丈夫なんですか?」
頭と手首に包帯を巻いた、淳一がいた。
「当たり前だろ!血ィ抜かれただけだぜ」
実際のところ、出血量は致死量に達していた淳一。助かったのは奇跡に近かったのである。
ここに来たのは、仕留めた殺人鬼の数と、収容されていた檻の数を確認するためであった。
「さて、帰りますか」
「そうだな、愛しの紗夜ちゃんの元へ❣️」
(キモっ💧)
エレベーターに乗る。
「まさかこの下はないですよね~」
ふざけ半分に押した昴。
「もうあるわけ…な…」
エレベーターが動き出した。
咄嗟にイヤホン型通信機のスイッチを入れる。
「誰かいますか?ビルにまだ下がありました」
警官達は後始末に追われ、本部には警視総監が感謝の訪問に来ていた。
アイとアイを通じて、ラブだけにはその声が届いた。
(まさか…)
「昴さん!ダメ、そこへ行っちゃダメ❗️後1人いるの、アイツが❗️」
「ら…さ………」
(ラブ様、電波が届きません)
(アイ、本部に繋いで!)
~警視庁対策本部~
「では、私はこれで」
警視総監が出ようとした時、緊急連絡網から、ラブの叫びが流れた。
「大至急京極ビルへ!地下4階に、アイツがいる❗️昴さんと淳さんが危険です❗️」
「淳が…なぜ⁉️」
「そんな…昴⁉️」
「地下…4階⁉️」
もう1人の行方不明者。
溝口 清
伝統工芸家の家に生まれ、小さな頃から手先が器用で、刃物の扱いにも長けていた。
厳しい父親の抑圧に、次第に精神を病み、動物を切り刻んでは『作品』を作る様になる。
ふとした興味から、浮浪者を殺害し、『作品』製作中に逮捕された。
千葉刑務所で20年の刑期を終え、その後行方不明であった。
~中央区総合病院~
日本最大の病床数を誇る巨大病院。
各階にナースセンターがあり、万全の医療体制が整っていた。
そこに、異変が起きていた。
機器の異常を告げる警告音が響く。
「えっ、また?」
看護師長5年の島原が、首をひねる。
「佐伯さん、見て来て、私は主治医を」
「はい」
(622号室、小室のおじいさん)
部屋に入る。
「そんな!」
酸素供給量が1.5倍に上がっていた。
「佐伯です、緊急処置を!」
(落ち着かなきゃ)
酸素供給機を一旦止める。
(心拍下がらない、なぜ?)
医師が駆けつけた。
「何だこの数値は!何があった?」
「酸素供給量が1.5倍に」
その時、激しく脈打っていた鼓動が止まった。
「急性心筋梗塞か?いやあり得ない」
「点滴は何を?」
「先生、準備出来ました」
「いつもの安定剤と…?」
「離れて!」
「これ…は違う、待って❗️」
「ドンッ!」「うわっ!」
口、鼻、目、耳、至る穴から血液が流れ出す。
「し、心破裂…」
今日、三人目の死亡が確認された…
~京極ビル地下4階~
エレベーターのドアが開く。
「ドサッ」
瞬間、脳がそれを拒絶する。
が、すぐに機能を取り戻す。
「うわぁ❗️」
それは人の腕であった。
「これは!」
手の甲に、ラブが引っ掻いた跡があり、手首には包帯が巻かれていた。
「京極恒彦!」
「なに!」
「上がりましょう」
昴が地下1階のボタンを押す。
しかし、腕が挟まりドアが閉まらない。
「引っ張れ!」
昴が無我夢中で引っ張る。
しかし、全く動かない。
時間が来てドアがまた開く。
「見てみます」
「バカ、俺が行く!」
淳一がエレベーターから出た。
薄明かりが灯る。
見ると、京極の腕は右半分の胴体に繋がっており、脚はすぐ横の部屋の中へ続いていた。
部屋の前に立った淳一。
その目が驚きに見開かれる。
走り寄る音が聞こえた。
咄嗟《とっさ》に、昴が淳一を突き飛ばす。
腹部に冷たいものを感じた。
そこから生暖かいものが流れ出す。
横を見ると、ソレが目の前に…いた。
無意識に横腹に刺さったナイフを握る腕を掴み、手錠をかけ、片方を自分の腕にかけた。
「逃がさない!」
ふと、ソイツが笑った。
「グフッ!」
腹から抜かれたものはナイフではなく、西洋の短剣に見えた。
「昴❗️」
淳一が叫んだ時には、昴の手首から先が切り落とされていた。
「グぁあぁ❗️」
ソレは、平然とエレベーターに乗り、京極の腕を放り出した。
エレベーターが閉まる。
「昴!しっかりしろ!」
淳一が抱き起す。
血溜まりが通路いっぱいに広がっていた。
「バカ野郎❗️なんでお前が…」
悔しくて涙が止まらない。
「淳さん…良かった無事で」
「大丈夫、大したことねぇ」
絶望的なことは一目瞭然である。
「紗夜さんと…幸せにな………」
「昴ぅー❗️…昴…」
涙がぼたぼた落ちる。
「クッソ野郎め❗️絶対に、ぶっ殺す❗️」
~地下1階~
「あら?教授帰ったのね?」
京極の車がなくなっていた。
「残念」
そう言って、安斎はビルを後にした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

幽霊探偵 白峰霊
七鳳
ミステリー
• 目撃情報なし
• 連絡手段なし
• ただし、依頼すれば必ず事件を解決してくれる
都市伝説のように語られるこの探偵——白峰 霊(しらみね れい)。
依頼人も犯人も、「彼は幽霊である」と信じてしまう。
「証拠? あるよ。僕が幽霊であり、君が僕を生きていると証明できないこと。それこそが証拠だ。」
今日も彼は「幽霊探偵」という看板を掲げながら、巧妙な話術と論理で、人々を“幽霊が事件を解決している”と思い込ませる。

カフェ・ノクターンの吸血鬼探偵 ~夜を統べる者は紅茶を嗜む~
メイナ
ミステリー
——夜の帳が降りるとき、静かに目を覚ます探偵がいる。
その男、ノア・アルカード。
彼は 吸血鬼(ヴァンパイア)にして、カフェ『ノクターン』のオーナー兼探偵。
深夜のカフェに訪れるのは、悩みを抱えた者たち——そして、時には「異形の者たち」。
「あなたの望みは? 夜の探偵が叶えてさしあげましょう」
神秘の紅茶を嗜みながら、闇の事件を解き明かす。
無邪気な黒猫獣人の少女 ラム を助手に、今日もまた、静かに事件の幕が上がる——。
🦇 「吸血鬼×探偵×カフェ」ミステリアスで少しビターな物語、開幕!
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる