ねこじゃんけん

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第五章

たま子の陰謀

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『あんたには、謝らなきゃならないニャ』

すまなそうに、少し頭を下げるジョン。

『ネコじゃんけんなんて、本当はニャいんニャ』

『えっ?』

タマ子のことかと思っていた私には、意外な告白であった。

『ジョン!』

タマ子の声が動揺している。

『いいんニャ。こんないい人を騙して掴んだ幸せニャんて、一生後悔しちゃうニャ』

『どういうことだ、ジョン?』

大きく深呼吸するジョン。

『今夜オレは、あんたを待ち伏せてたんニャ。そして、ありもしないネコじゃんけんを挑んだんニャ』

『勝ち目はないと知っててか?』

『そうニャ。ネコの手じゃグーとパーしかニャいと、あんたはすぐに分かる。』

『当たり前だ、そして、パーとグーは見え見えなこともな』

『でもニャ、あんたは正直でいい人な上に、大のネコ好きニャ。ネコ相手の見え見えの勝負に、あっさり勝ったりはしないニャ。まして、グーとパーしかニャい勝負に、チョキなんてあり得ないはず。オレはパーしか出せないと考えたあんたは、当然パーで、オレが諦めてドローになるのを待つ。』

見事に読まれていた。

『で、まずはワザと負けたのか?』

『んニャ。本当にずっとパーしかださニャいあんたを見てて、ニャんだか、ここんとこが熱くなっちまってニャ』

ジョンが、自分の胸に手をあてる。

『いずれは、負けるつもりだったニャ。でもあれは、うっかり気を抜いてしまったんニャ』

『じゃ、あれは悔し涙じゃ…』

『ニャい。何故か知らニャいが、自然に出てしまったんニャ。ネコの世界にいて、あんなことは初めて感じたニャ』

しみじみ語るジョン。

このジョンの計画…いや、恐らくは、タマ子の計画であろう。

ジョンが、私のことを、こんなに理解している訳がない。

タマ子は、賢いネコ…なのである。

自分で言ったセリフを思い出した。


『つまり…』

『そう、あのネコじゃんけんは、あんたに必ずパーを出させるための布石ニャ』


やられた。

だが、不思議と腹は立たなかった。

それどころか、この後に及んで、告白したジョンに、感動すらしている自分が嬉しく思えたのである。

心の触れ合いが少なくなった世の中で、大切なものを思い出した気がした。

(まさか、ネコに気づかされるとはな…)


不安そうに見つめるタマ子。

もうすっかり、私は二人のことを許していたが、一つだけ、拭えない心配があった。


『負けたよ。』

『んニャ?』

『ジョン、お前のことは、良くわかった。お前も私に負けないくらい真面目なネコだな』

『…』

何度見ても、照れるネコは可愛い。


『だが、この寒空だ。慣れてるお前はいいが、タマ子には辛すぎるんじゃないか?』

瞬間、ジョンとタマ子の目が合った。

(ん?)

『お父ニャン』

『な、なんだ?』

『その通りでござるニャ』

(また変な風になってるぞ~!)

『我輩も…』

(我輩も出てきやがった!)

『堅気(かたぎ)のタマ子の体ニャ、渡世人(とせいにん)の生活(くらし)は無理ニャ(にゃ)』

(ふりがななしで、普通に言えって! 『ニャ』にはいらんだろう!)


『そこで…、お父ニャンに提案があるんニャ』


『て、提案?』

もう一度、タマ子の方を見るジョン。

『さっさと言っちゃいなさい!』

タマ子の目は、そう見えた。

『お…、オレが、この家に入る…ってのは、どうかニャ?』

点になった自分の目を、鏡で見ようかと思った。

『な…、なんだって!』

『あ、んニャ! 図々しいのは承知の上で、どうかお願いでござるニャ。自分の食べる分は、自分でニャんとかするし、掃除、洗濯、皿洗いニャんでもするニャ。』

『いやいや、ちょっと待て。…ってことは、つまりだな…』

『ムコ養子よ』

タマ子が言う。

『えっ? それは、つまり…』

『あ~んもう! マスオさんよ!!』


私はサザ○さんの大ファンである。

『オレは、苗字が変わってもいいニャ。ニャんニャら、名前もマスオでいいニャ。』

『いや、名前はいい。どう見てもマスオって顔じゃないし』

ネコである。

『だいたい、苗字なんかないだろ!』


(そうか。なぜそれに気づかなかったのか!)

鳴らしかけた指を、慌てて隠す。

『だ…めかニャ? ニャっぱり』

私の顔を覗き込む。

『ま、まぁ…そうだな。そうまで言うなら、しかたないか』

人間とは、めんどくさい生き物である。

内心では、しかたないどころか、万歳三唱の大騒ぎであった。

『ニャ!?  ここに来ていいってことかニャ?』

ジョンの目が、まん丸に輝く。


…やっぱりネコは可愛い。


『ネコの一匹ぐらい、食わせられない貧乏人に見えるか? 人をバカにするんじゃない。だが、洗濯はやめてくれよ、お前の毛玉だらけになりそうだからな』


『タマ子!』

弾んだ声で、タマ子へ振り向くジョン。

『ほらね。上出来よ、ジョン』

タマ子がウィンク。

『上出来…って、まさか今のも全部!?  ジョン!』

『はて?』

両手を広げ、得意のしょうがないポーズをとるジョン。

『タマ子!』

部屋を出ようとしたタマ子を呼び止める。

『ニャ~に、今夜は寒いから、私はもう寝るニャ。お腹の子に障るといけニャいから』


『ニャ! ニャに~!?』 × 2

私とジョンの叫びのハーモニーを後ろに、タマ子のしなやかな尻尾が、隣りの部屋へと消えていった。

『ジョン!』

『んニャ? 聞いてないニャ!』

ジョンの慌て様から、どうやら、本当っぽい。

『お父ニャン。ネコ一匹追加では、すまなくニャったでござるニャ』

『ニャ…って…。まぁ、な、何とかなるさ!』

ムコ養子に加え、いきなり孫か!

もうやけくそではあったが、理想とするどこかの家族に近づいた気がして、喜ばしく思えた。

(でも、ハゲないようには、注意せねば…。さて)

『ジョン、子供の名前は、私がつけてやるからな』

『ンニャ! オレの子は、自分で名付けるニャ』

『いや、家主である私がつけるべきだ』

何がべきか?

『ンニャ、オレがつけるニャ!』

私には、つけなきゃならない名前があった。

『じゃあ…勝負だジョン!』

『よし! 勝負だニャ!』

人もネコも、男とはこんなもんである。

『ちなみにニャ』

ジョンが両手をだす。

『ホイ、ホイ、ホイ、ホイ』

軽々と、爪が出たり隠れたりするではないか!

『なーーーにぃ~!!』

困ったことになった。

『勝負は、フェアじゃニャきゃニャ。いくニャ!』

『うっ…。くそ~! えぇい、やってやる!』

人がネコに負けるもんか!


『ニャ~んけ~ん…』



こうして、我が家に新しい家族が増え、春には三匹の子ネコが生まれた。

二匹の女の子は、ジョンが名付け、もう一匹の男の子を、私が名付けたのであった。

            ~ Nyappy  end ~
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