ねこじゃんけん

心符

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第三章

birthdayの訪問者

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『ただいま~』

1人暮らしのアパートに帰り着いた。

『リン♪リン♪』

タマ子の鈴の音が飛んで来る。


『遅くなってごめんニャ。あ…』

ジョンのおかげで、変な癖がついてしまった。


『お腹空いたニャ~ん』

この甘くて可愛い、文字通りの "猫なで声" に弱い私。


『ごめんごめん。色々あって。』

ジョンの哀愁漂う背中が想い浮かんだ。

『今日はタマ子のバースデーだから、ご馳走食べような』

『ニャ~ん♪』


か…かわゆい(≧∇≦)


ゴロゴロのどを鳴らして、スリスリしてくるタマ子をナデナデしてると、仕事の疲れも癒されてしまうのは事実である。

(ただのネコバカかな? まっ、いいか! さて。)

さっそくパーティーの準備にとりかかった。

準備といっても、無精な男の1人暮らし。

コンビニで買ってきた惣菜を並べるだけのことである。

ものの15分で完了した。


『タマ子、お待たせ』

タマ子は、お行儀良くテーブルの上に座って待っていた。

テーブルに座るのを、行儀良いとは言わないかも知れないが、仕方ない。

いくら非現実な…とは言え、まさか、椅子に腰掛けて、前足でナイフとフォークを…というわけにもいくまい。

テーブルの真ん中には、お皿に載せたふんわりシュークリーム。

タマ子は、ショートケーキは全くだめであったが、このコンビニ限定ふんわりシュークリームだけは、大好きなのである。

それへ、つまようじ並の極小ロウソクを1本立てる。


実は去年のクリスマスには、普通のケーキ用ロウソクを使い、タマ子に吹き消してもらった。

すると、タマ子の長いヒゲや顔の周りの細~い毛がチリヂリになってしまい、治るのに3毛月もかかった。

トラウマにならないか、心配したものである。

タマ子には悪いが、いい勉強をさせてもらったと思う。

皆さんも、ネコに吹き消してもらう時は、極小ロウソク1本をオススメする。


それからもう一つ。


部屋の明かりを暗くして、ロウソクに火を灯す。


『さあタマ子、思い切り吹き消してごらん』

『ニャン♪』

立ち上がり、ゆっくりコンビニ限定ふんわりシュークリームへ近づくタマ子。

この日の為に用意した、バースデーソングが流れ、ムード満点。

『タマ子、いつもありがとう。ハッピーバースデー!!』

その声を合図に、タマ子が一変した。

目を釣り上げ、全身の毛を逆立てる。

次の瞬間。

『フーッ!!』

溜め込まれていたものが、一気にほとばしる様な一閃が、ロウソクを襲う。

              フッ

炎は、見事に吹き消されたのである。


ネコは、その名の通り猫舌である。

熱いものをフーフーできないし、もとより犬とは違い、あまり口で息を吐かないのである。

もちろん、犬もフーフーはしない。
(念のため)

そんな厳しい条件の中、タマ子が編み出したのが、この技? であった。

威嚇する時に見せる、フーとかシャーとかいうアレである。

ご想像できると思うが、ハッピーな風情には向かない技であり、私も最初は、得意げにポーズを決めるタマ子に、リアクションを苦慮したものである。

間違っても、幸せな瞬間をカメラに収めようなどと、考えない方が良いと思う。


パチパチパチパチ♪

その場を盛り戻す気遣いも必要となる。


『ハッピーバースデー、タマ子』


こうして、恐怖の…あ、いや、祝福のセレモニーはクリアした。

そんなこんなで、いよいよプレゼントタイムを迎えた。


『た~ま~子ニャ~ん』

『ニャ…ん』

ちょっと引かれた気がしたが…
気のせいってことにして。

『ほ~ら、お待ちかねの…』

もったいぶりながら、後ろ手に持ったプレゼントを出そうとした時。

『ドン、ドン』

玄関のドアがノックされた。

『な? 誰だこんな夜に。タマ子、ちょっと待っててね』

ブツブツいいながら、玄関へむかう。

『どなた様ですか~?』

ドアの覗き穴から外を伺うが、誰も見当たらない。

『全く!なんだ? イタズラか? よし!』

まだ近くにいるかも知れないと思い、急いでドアを押し開いた。

『ガンっ!!』

『ゥニャ!!』

下の方で声がした。

『何だ?』

慌てて廊下を見ると、大の字にひっくり返ったジョンがいた。

『ジョン!』

『ジョン!じゃニャいニャ! いきなり開けるニャよ!』

膝を払いながら、ゆっくりジョンが立ち上がる。

『な、何やってんだジョン? って言うか、立ち直り早っ! もう来たのか?』

少なくとも、2、3日は姿を見せないであろうと思っていた。

『章タイトルの訪問者って、お前かよ!』

あっ…これはここだけの話で。

『はにほ、ゴヒャゴヒャ言ってるんニャ。いててて』

したたかに鼻を打ったらしい。

赤くなった鼻を押さえて喋るジョン。

『大丈夫か? ぷっ…』

『笑うニャ!』

と言われてもおかしいものは、おかしい。

『悪い悪い。しかし、こんな時間に何の用だ?』

『ニャんの?って、今夜は愛するタマ子のバースデーだニャ』

『確かに』

いつになくモジモジしているジョン。

なかなか可愛いものである。

『せ、拙者も、一緒に祝ってあげたいでござるニャ』

(時代劇か!)

『ニャ~ん♪』

中からタマ子の可愛い声がした。

私の足の間から、見つめ合う二人(2匹)。

『なるほどな…そういうことか。』

『入れておくんニャまし~』

(せめて、武家か庶民かどっちかにしろって!)

ネコのクリクリした目で哀願されて、断れるわけがない。

『しかたないなぁ。まぁ、パーティは大勢の方が楽しいから、いいか。』

『よ…良いでござるか!?』

ダメもとだった様である。

ジョンの目が嬉しそうに輝く。

『あぁ、どうぞいらっしゃい』

『かたじけニャい』

(普通に言えって!)

見ると、タマ子も嬉しそうにしていた。

『さぁ、入って入って…』

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