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第七章
SS バーニングライノスの使役者
しおりを挟む※時期的には115くらいの話です。
__________
オブール王国には、王国召喚士団と呼ばれる組織がある。
紫色のローブを身につけた、サモナーとテイマーの集団だ。
王国召喚士団は子供たちの憧れの職業であり、幼い頃は多くの子供が夢に見る。
だが当然その壁は高く、多くの者が挫折を味わうのもまた当たり前のことだった。
また王国召喚士団には、サモナー部隊とテイマー部隊の二つに分かれている。
名目上は平等だが、実際にはサモナーの方が幅を利かせていた。
けれども共に実力は国でも最上位に位置していることもあり、お互いに認め合っているのもまた事実である。
そんな組織の頂点にいるのが、王国召喚士団団長の”ラジール・エンルーブ”だった。
なお慣例的に副団長は、サモナーとテイマーそれぞれから取っている。
これは極端に、サモナーとテイマーの力関係が崩れないためだった。
ちなみにラジールはサモナーであり、伯爵家の当主でもある。
領地は代官に任せており、自身は常に王都にいた。
またラジールの領地には、かの有名なダガルマウンテンがある。
代々その土地を治めており、ダガルマウンテンも管理してきた。
故に当然、その頂上にいるバーニングライノスも知っている。
そしてラジールの相棒は、そのバーニングライノスだった。
このバーニングライノスは、歴代の当主たちがどうにか使役できないかと、長年悩み続けた末に、ようやく使役できたモンスターである。
それはエンルーブ伯爵家の英雄譚として、語り継がれていた。
といっても実際にはダガルマウンテンの大噴火時に、偶然瀕死に近いバーニングライノスを発見できただけに過ぎない。
それでも激戦の末に、なんとか使役に成功したのだ。
エンルーブ伯爵家のごく限られた者のみに、この事実は知らされている。
そのことを当然知っているラジールは、気を引き締めてバーニングライノスと接してきた。
結果としてバーニングライノスを前当主の父から引き継いでも、上手く制御することに成功している。
それによりラジールは、王国召喚士団の団長にまで上り詰めたのだ。
当初はやっかみも受けていたが、ラジールはそれを実力で見返してきた傑物である。
その名はもちろん、ドラゴルーラ王国とラブライア王国の両国にも轟いていた。
またラジールは大陸の現役三大サモナーの一人として、数えられている。
ちなみに残り二人は、共にドラゴルーラ王国に所属していた。
ラブライア王国は、その成り立ちからしてサモナーとテイマーが少ない。
故に実力者も限られており、両国から数歩遅れている。
話を戻すが、ラジールは三大サモナーの一人であるため、もちろん実力は非常に高い。
オブール杯はもちろん優勝経験があり、国の垣根を超えて行われる大会では、当然総大将を任せられている。
そんなラジールは国の代表としても、大活躍をしていた。
相手国の選手にも、Aランクのモンスターを使役する者はいる。
だがバーニングライノスは、Aランクのモンスターの中でも抜きんでていた。
特に制限された空間内での戦いでは、とても有利である。
鈍足だが耐久面に優れ、攻撃系スキルの威力は破格のものだ。
故に、負けることの方が少ない。
けれども、そんなバーニングライノスもかなりの高齢だ。
高ランクモンスターの寿命は、人族よりも遥かに長い。
しかしダンジョンに属しているモンスターでない場合、モンスターは当然歳をとっていく。
長いことダガルマウンテンの頂点に、このバーニングライノスは君臨していた。
その時点でかなりの歳をとっており、使役後はエンルーブ伯爵家の歴代当主に何代にもわたって仕えてきたのである。
まだ数十年くらいは問題ないが、いずれ衰えから戦闘が厳しくなっていくのは、目に見えていた。
故にラジールは数年に渡り準備をして、新たなバーニングライノスの使役を構想している。
もちろん使役させるのは、次期当主である息子だ。
そのために、息子を厳しく育てている。
歳をとっているとはいえ、スキルを充実させたバーニングライノスの方が強い。
火山の大噴火を予測できない以上、賭けに出るしかなかった。
けれどもこのとき、ラジールは知らない。
ジンによって、ダガルマウンテンのバーニングライノスが使役されることなど。
王国の法によって、自領にいるダンジョンと野生のモンスターを使役することを、不当に阻んではいけないというものがあった。
これは過去に一部の貴族がモンスターを占領した結果、テイマーとサモナーの質が大幅に低下したことに起因している。
また大量のモンスターが溢れ出し、未曽有の大災害へと発展した。
故にラジールはこのことを知ったとき、泣き寝入りをするしかできない。
モンスターとは基本的に、早い者勝ちなのだ。
であれば、次の個体を狙うしかない。
しかしダンジョンとは違い、外で高ランクのボス級モンスターが発生するには、長い年月がかかる。
つまり、次のバーニングライノスが発生するよりも前に、使役している個体が老死する可能性が高いのだ。
いつもならダガルマウンテンに入山した冒険者の足取りは掴みやすいのだが、今回ばかりは全く見つからない。
もし使役した者が見つかるのであれば、娘と結婚してもらい、そのまま当主の座を譲ってもよかった。
エンルーブ伯爵家にとって、バーニングライノスとはそれくらい重要なのである。
故にラジールは、血眼になって探し続けた。
そうして紆余曲折があり、ジンという存在に辿り着く。
だがハパンナ子爵に直接訊けば、既にそのジンという人物はいないという。
加えて国境門を通っており、既にこの大陸から去ったことも知る。
それによって、ラジールは一気に老けてしまった。
なので王国召喚士団団長も辞めようと考えていたのだが、後に国を揺るがす大事件が起きてしまう。
結果として辞めるタイミングを失うのだが、それはまた別のお話である。
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