285 / 320
第七章
SS ブラッドの前日譚
しおりを挟む※時期的には084くらいの話です。
__________
ウルフマン・ブラッドボーンという、転移者がいた。
種族はウェアウルフというBランクモンスターであり、狼男のような容姿をしている。
普段は人化で人に化け、満月の日には力を増す種族だ。
そんなブラッドには、強制決闘という神授スキルがあった。
効果は逃げられないフィールドを作り出し、指定した相手に賭けを強制して決闘を行うものである。
決闘に勝ったものが、賭けの内容を手にすることができるのだ。
一見地味な効果ではあるが、実はとても凶悪な神授スキルである。
何せ賭けの対象には、スキルも含まれていた。
ブラッドはそれにより、相対した悪漢から強撃というスキルを最初に奪い取る。
簡単にスキルを手に入れて強くなったことに、ブラッドは歓喜した。
例え相手が多少のスキルを持っていようとも、Bランクモンスターの素の能力で楽に勝てたことも大きい。
これが普通の人族を選んでいれば、こうはいかなかっただろう。
転移者として、ブラッドは順調なスタートを決める。
けれどもこの強制決闘には、思わぬ落とし穴があった。
なんと奪ったスキルには、元々の持ち主の精神性を僅かに宿していたのである。
それによりブラッドの精神は悪漢の精神性に侵食され、相手から何かを奪う事への抵抗が薄れた。
結果として元々の正義感も合わさり、ブラッドは義賊として、金持ちから金品を奪うことを決めたのである。
しかし潜入の途中で偶然見つかった際に、ブラッドは慌ててケモ仮面と名乗ってしまう。
この時決めたケモ仮面という名称を、ブラッドはなんやかんやで使い続けることになる。
その後は様々な経緯があり、サモナーやテイマーでなくては生きにくいオブール王国を、ブラッドは脱した。
実力があれば平等だという、ラブライア王国に魅力を感じたのだ。
しかしいざラブライア王国に来てみれば、格差社会によって弱者はとことん惨めな生活を送っていた。
なので正義感を滾らせたブラッドは、ここでも義賊ケモ仮面としての活動を始める。
その中で度々、自身に合ったスキルを強制決闘で奪っていく。
またスキル容量のことは、事前に情報収集をしていた事で知っていた。
故にブラッドは、無差別に大量のスキルを奪うことはしなかったのである。
けれどもブラッドがスキルを奪う相手は、その全てが悪人だった。
一つのスキルを奪っても影響は少ないが、塵も積もれば山となる。
次第にブラッドの精神は、悪の精神に侵食されていった。
欲望を押さえるのが難しくなり、英雄願望や性的欲求なども増していく。
しかしその事に、ブラッド自身は気がつかない。
相手が悪人で女と見れば、セクハラ紛いの事を平気でするようになった。
奪った金品も、大部分を懐に入れるようになる。
それでも金品をばら撒く自分に、ブラッドは酔いしれていた。
貧民から絶賛され、誰も自分を捕まえることができない。
ブラッドは正にこのとき、人生の絶頂期にいた。
だがそんなブラッドにも、一つの懸念がある。
それは、ツクロダという人物についてだ。
ブラッドはツクロダが転移者だという事に、気がついていたのである。
民衆の洗脳や、文明レベルに合わない魔道具の数々。そして特徴的な名前。
同じ転移者であるブラッドであれば、容易に気がつくことができた。
問題は、ツクロダが国の上層に喰い込んでいることである。
単なる義賊であるブラッドには、手を出すことが難しい。
故にその時ブラッドは、こんなことを思った。
自分は義賊として金品を配って貧しい思いをしているのに、ツクロダが良い思いをしているのは許せないと。
なおブラッドは懐に入れた金品によって、普通の平民よりも良い生活をしている。
しかしそれを棚に上げ、いや全く気がつかずにそう思ったのだ。
そんな想いを胸に秘めたブラッドは、いつかツクロダをどうにかして成敗したいと考え始める。
そのために義賊として活動しながら、ブラッドは力を蓄え始めた。
だが次第にブラッドは、スキルを奪った悪影響からかムラムラが止まらない。
娼館通いが止められず、通い続けてもそれが収まることはなかった。
このときブラッドは気がついていなかったが、精神的な悪影響が引き金になり、半ば発情期になっていたのである。
故に普段よりも自身と近しい種族である『メス』の匂いに対して、ブラッドは敏感になっていた。
「これは、同族のメスの匂い!」
そしてブラッドは、王都に来ていたジフレを発見したのである。
最初は恰好をつけて、自身を普段より盛っている事に気がつかれないように努力した。
だがジフレの素顔を見た瞬間、ブラッドの中で何かが弾ける。
「……結婚してくれ!」
「絶対無理」
「ぐはっ!?」
思わず結婚を申し込んだブラッド。
しかし即座に拒絶された衝撃により、多少は冷静さを取り戻す。
そうして打倒ツクロダを目指すジフレに手を貸しながら、ブラッドはどうすればジフレを手に入れられるのか、脳内で目まぐるしく思考を巡らせ続けるのであった。
92
お気に入りに追加
1,602
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン]
何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?…
たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。
※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける
縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は……
ゆっくりしていってね!!!
※ 現在書き直し慣行中!!!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる