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第七章
269 船のダンジョンからの帰還
しおりを挟む船のダンジョンも無事に攻略してルルリアをカードに戻した俺は、城に帰る前に少し寄り道をすることにした。
といってもそれはギルンの両親、ギーギルとナンナに今後の事を話すためである。
適当な陸地にやって来ると地上に降りて、カオスアーマーを解除した。
召喚転移でも良かったのだが、飛行する経験はあまりなかったため、あえてそのまま移動したのである。
空を飛ぶというのは、結構気分が良いものだ。
ちなみにいつもならこういう時、レフが何らかの反応を示すのだが、今はまだ復活中である。
そう思いながら周囲の警戒のため、適当に今回手に入れたハイレイスを何体か召喚しておく。
種族:ハイレイス
種族特性
【生命探知】【闇属性適性】【闇属性耐性(中)】
【シャドーニードル】【シャドーバインド】
【姿隠し】【ドレインタッチ】
【物理無効】【魔法弱体(中)】
魔法が得意な敵でなければ、大抵は対処できるだろう。
そうして準備も出来たので、ギーギルとナンナを召喚する。
「出てこい!」
「おぉ!?」
「!?」
俺がそう言って召喚すると、二人は驚いたように周囲を見渡す。
そして少しすると召喚されたことに気がつき、俺の前に跪く。
「そんな畏まらなくてもいい。お前らを召喚したのは、ギルンについて話しておこうと思ったからだ。まず今の状況だが――」
俺はギルンの現状や、将来的にどのような道があるのか、また最終的には二人をギルンへ譲渡する事を告げた。
それに対して最初二人は、何も礼ができていないので譲渡については断ってしまう。
だが二人がギルンの事が心配でたまらないというのは、見ているだけで理解できた。
なので俺は、ギルンにカードが譲渡されているだけで、役に立つことを伝える。
いつかギルンが他の大陸へ旅に出るなら、召喚転移でいずれ大陸間の移動を目指す俺にとって、プラスに働くのだ。
仮にこの大陸に残ったとしても、いつか俺がこの大陸に戻ってきたいときに役に立つ。
ヴラシュにもカードは譲渡しているが、譲渡している人数が増えれば、その分片方に何かあったときに対処がしやすくなる。
なので礼をしたいのであれば、譲渡された後にギルンを守る事こそが、俺への礼になるのだ。
その事を言うと二人は感動したように涙を流し、頭を下げた。
加えて神に祈るかのように、両手を組む。
なんだろう。さっきルルリアに言われたことを思い出してしまう。
『ジン様の素晴らしさは、きっと人々の心に届くはずです!』
確か、そんなことを言っていた。
種族はデミゴッドだが、祈られるのはなんだか落ち着かない。
なので二人に感謝はそこそこにしてもらい、またしばらくカードに戻ってもらうことにした。
ギルンには二人がカードになっていることを、内緒にしている。
なので譲渡をするその時まで、二人には待ってもらう。
そうして俺は二人をカードに戻すと、見張りをしていたハイレイスたちも撤収させた。
さて、俺も城へ帰るか。
やることも終えたので、俺は召喚転移を使い、城へと帰還するのだった。
◆
城に帰ると、女王に船のダンジョンを攻略したことを告げる。
「え? も、もう攻略したの? 相変わらず凄いわね……それと、ダンジョンボスの融合ね……これは問題だわ。少し、このダンジョンに何か仕掛けられていないか、確かめる必要がありそうね。
それと、たくさんの素材をありがとう。財宝が消えちゃったのは残念だけど、十分な量だわ。まあ、またジン君のコストが増えてるから、収支的にはマイナスだけどね……」
ダンジョンボスが融合したことについての情報には感謝されたが、またコストが上昇したことについては、そう言われてしまう。
それについては、申し開きは無い。
特にルルリアが増えたことで、一気にコストが上昇したのだと思われる。
反省はしているが、後悔は全くなかった。
ちなみにルルリアのことも報告済みであり、その経緯もあって女王も本心では俺を責めてはいない。
またユグドラシルの果実の事も話したので、一つ女王に譲渡しようかと言ったところ、現状では断られてしまった。
理由はまだ赤い煙の影響下にあるので、完全に俺の配下に加わった時に、改めて考えたいとのこと。
ユグドラシルの果実は女王にも効果があると思ったのだが、そのように女王が判断したのなら、尊重しよう。
俺はそれについて納得をすると、あとは軽く世間話をした。
すると女王とその背後に控えていたエンヴァーグから、レッドアイについての話題が上がる。
「レッドアイって、私の祖父の時代に活躍していた大海賊よね?」
「そうですな。確か技量と知能が高く、顔も良かったことから、巷では大人気だったようですぞ。
しかしある日ぱったりと消息が消えたことから、海の底に住む大型モンスターに襲われたのではないかと、そう噂されていましたな」
どうやらレッドアイは、生前では大人気の海賊船長だったらしい。
それが今やFランクゾンビに成り下がり、ゾンビシャークの餌である。
「ふーん。私は悪党なら、レッドアイよりもベゲゲボズンの方が好みね」
「女王様……悪党は悪党でございますぞ……」
女王はそう言うと、俺の方へと視線を向ける。眼窩の青い灯が、俺を見つめている気がした。
それに気がつかないエンヴァーグは、呆れたようにそう呟く。
「まあどちらにしても、レッドアイはもうおしまいだ。そこまで気にしなくてもいいだろう」
俺はそれにあえて気づかない振りをして、話を逸らした。
「そうね。私もそう思うわ。それで宝珠が全て揃ったみたいだけど、いったいどうするのかしら?」
すると次に女王は、宝珠について問いかけてくる。
実際宝珠は、四つ全てが揃っていた。
塔のダンジョンの赤の宝珠、城のダンジョンの緑の宝珠、沼のダンジョンの黄の宝珠。
そして今回手に入れた、船のダンジョンの青の宝珠だ。
名称:導きの宝珠(船)
説明
・所持していない導きの宝珠の場所を示す。
・全種類の宝珠が揃った時、一つになり新たな場所を示す。
・この宝珠は時間経過と共に修復されていく。
現在はストレージの中に入れているので、何も起きていない。
だが同時に四つを取り出せば、一つになり新たな場所を示すだろう。
それはつまり、赤い煙のいる場所に行く方法が分かることに繋がる。
だがそれについては、まだ行うつもりはなかった。
「現状ではまだ準備不足だ。少なくともこの城の件も含めて、問題が解決されてからになるだろう」
「そう。それなら良かったわ。今すぐ乗り込むと言うのなら、止めていたところだもの」
俺の判断に女王は、安心したようにそう口にする。
俺としても赤い煙と戦う前に、女王をカード化した方が安全だと考えていた。
しかしそのためには、やはり時間とダンジョンポイントが必要になる。
「だから時間があるのなら、ポイントになる素材を集めてきてほしいの。もちろん、カード化は控えてね?」
「……わかった」
「うんうん。よろしい!」
流石に俺も悪いとは思っているので、それには同意した。
現状ダンジョンは全面改装中でもあるので、防衛面からしてもダンジョンポイントはいくらでも欲しいところだろう。
つまりどの道先へと進むためには、大量のダンジョンポイントが必要になる。
加えて俺のダンジョン内でのデメリットを消すためにも、それは急務だ。
なのでしばらくはカード化はできるだけ控え、素材集めに努めよう。
だが、この大陸での最後の戦いが近いのも、また事実だ。
故に俺は俺で、できることをしていこうと思う。
そうして女王への報告を終えた俺は、与えられた客室へと戻るのだった。
全ての宝珠を集め終わった今、残る敵は赤い煙だけである。
そして、ゲヘナデモクレスとの対決も、刻一刻と迫っていた。
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