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第七章
265 船のダンジョン ㉒
しおりを挟むゾンビシャークは見たところCランクのモンスターだが、シャドーファングという見慣れないスキルを持っていた。
おそらくは、闇属性の希少魔法だと思われる。
その効果は実際に見れば、すぐに判明した。
ゾンビシャークの歯を見ると、小さなシャドーネイルのようなものが、無数に並んでいる。
その歯を用いて、いかだに噛みつき始めた。
また周囲はゾンビシャークに囲まれており、一斉にいかだへと噛みついている。
なるほど。シャドーファングとは自身の歯や牙などを、闇属性でコーティングする魔法なのか。
威力も、かなりありそうである。
顎強化も相まって場合によっては、Bランクのモンスターでもやられるかもしれない。
俺がそんな風に関心をしていると、レッドアイが叫ぶ。
「た、助けてくれぇ! さ、サメだけは嫌だ! サメに喰われるのは、最悪の処刑方法だろうがぁ! てめえには、人の心ってものがねえのかよぉ!」
「お前のようなやつに、割ける人の心は無いな」
「こ、この人でなし――ぎゃぁああ!?」
するとダンジョンであるいかだを破壊できないと判断したのか、ゾンビシャークが直接乗り込んでくる。
腹ばいで蛇のように高速で動く姿は、かなりの迫力だ。
そしてそのままレッドアイは噛みつかれるようにして捕まり、海の中へと連れ込まれた。
結果水面には、レッドアイの血や残骸が浮かび上がってくる。
まさにホラー映画の光景、そのものだった。
それとゾンビシャークはダンジョンのモンスターじゃないから、普通にレッドアイを攻撃できたみたいだな。
またレッドアイ自身も、いかだの外に出られるみたいだ。
おそらくいかだから数メートルは、ダンジョンの範囲なのかもしれない。
俺がそう思っていると、レッドアイが復活する。
「た、助けてくれぇ! 本当にサメだけはダメなんだよぉ! 謝る! これまでの事は全て謝る! だから助け――!」
そして俺に助けを求めるが、別のゾンビシャークによって再び攫われてしまった。
当然レッドアイが助かる道は無く、死亡してからまた復活を遂げる。
「死にだぐねぇよぉ!」
そう言ってマストに縋りつくようにして、登り始めた。
だがゾンビシャークがそれを許すことはなく、跳躍するとレッドアイを捕らえてしまう。
それからもレッドアイは死亡と復活を繰り返し、ゾンビシャークに喰われ続ける。
ゾンビシャークもレッドアイが無限に復活することに気がついたのか、周囲から離れる様子は一切ない。
またゾンビシャークが満足することは、おそらくないだろう。
なぜならゾンビシャークの体にはゾンビらしく、欠損が多数あるからだ。
加えて胃にも穴が開いているのか、食べた先から流れ出てくる。
だがそれでも構わず喰い続けるのは、食欲という本能に囚われているからかもしれない。
なんだかこのゾンビシャークが、この大陸で一番ゾンビらしい生き方をしている気がした。
そして気がつけば、いかだの周辺には多くのゾンビシャークが集まり始める。
血肉が胃の穴を通り欠損部位から海へと流れ出た結果、それが更なるゾンビシャークを呼び寄せたのだろう。
正にゾンビシャークのお祭りだ。
ちなみに俺は端っこの方にいるゾンビシャークをこっそり倒しては、カード化している。
レッドアイというエサがあるからか、どんどん集まってくるので多少減らしても問題はなかった。
気がつけばレッドアイなど放っておいて、俺はゾンビシャークのカード化に勤しむ。
その結果として、ゾンビシャークのカードが50枚ほど集まった。
水がある場所以外では活動が制限されるので、こんなもので良いだろう。
また他の海洋系のモンスターは、本能的にここを危険だと判断したのか一匹も見かけなかった。
今回は諦めて、また別の機会に海洋系のモンスターを手に入れようと思う。
そうしてカードの収集も終えた俺は、再びレッドアイの様子を見に戻る。
「お願いしますお願いしますおねぎゃぁああ!!」
俺を見つけてそんな懇願をしてきたが、ゾンビシャークにまた引きずり込まれていった。
それとゾンビシャークたちは、ダンジョンコアには興味が無さそうである。
であれば、ダンジョンコアが破壊される可能性は低いだろう。
加えてこれほどのゾンビシャークがいては、侵入者も余程のことが無ければ、このいかだには到達できないと思われる。
もしかしたら本当に、レッドアイは永遠に喰われ続ける地獄が続くのかもしれない。
流石に少しかわいそうに思えたが、少なくとも今はこのままにしておこう。
俺がこの大陸を離れる時に覚えていたら、助けるかどうかを考えることにする。
忘れてしまった時は、まあ諦めてもらおう。
それこそ、神に祈ってくれ。
「もうお前に用はない。これから大変だと思うが、まあ頑張れよ」
俺はそう言うと、わざとゆっくりその場から飛行しながら離れていく。
「この悪魔が! 創造神様の天罰が落ちろ――ぎぎゃぁ!」
すると最後に、そんな罵声が飛んでくる。
だがそれに対して、俺が振り返ることはなかった。
◆
それからかなり離れた海上まで移動すると、俺はそこでルルリアを召喚する。
「出てこい」
「ギャァアアア!」
種族:リヴァイド・オブ・コラプス(ルルリア)
種族特性
【水闇属性適性】【水闇音属性耐性(大)】
【呪毒の命肉】【呪毒攻撃付与】
【魔音師】【崩壊の歌声】【カースソング】
【ダークプール】【ソナー】【巨躯恵体】
【状態異常耐性(大)】【自己崩壊】
エクストラ
【ダンジョンボス】
【コラプスモンスター】
スキル
【歌上手】【泳ぎ上手】【剣適性】
【スラッシュ】【サークルスラッシュ】
【ウォーターシールド】【レインニードル】
【ウォーターランス】【上級鑑定妨害】
すると召喚直後から、暴れるように体を動かし始めた。
だがカード化したからか、俺に危害を加えてくる様子はない。
暴走状態でも、多少は効果があるみたいだ。
しかしコラプスモンスターの効果で個が崩壊していることに変わりなく、自我のようなものは感じられない。
まずはとりあえず、自己崩壊の効果を改めて確認してみよう。
名称:自己崩壊
効果
・生命力と魔力が一定量を下回った場合、肉体は灰へと崩れ去る。
・継続して生命力と魔力が消費され続けていく。
・あらゆる回復効果を受け付けなくなる。
・暴走状態となる。
・全ての基礎能力が増加する。
・全てのスキル効果が僅かに上昇する。
やはりネックなのは、暴走状態と回復効果が受けられないことだよな。
ただ一応カード召喚術が神授スキルであるからか、カード状態での回復はできている。
現にカード化したら、生命力と魔力が完全回復していた。
なので、回復手段が無いわけではない。それに、繋がりから魔力の供給は可能なようだ。
これはおそらく、回復系の魔法やアイテムとは、根本的に少し違うからかもしれない。
それに灰になっても、時間が経てば復活できる。
なのでそれよりも問題なのは、暴走状態の方だ。
たぶんこの暴走状態は、簡単に解けるものではない。
試しにアロマを召喚して、ミックスアロマを使ってみる。
「きゅいいぃ!」
「ギャアアア!」
だが結果は当然のように、ダメ。
ミックスアロマの精神改善(小)も、回復と見なされたようだ。
ただ【状態異常耐性(小)】は適応されたみたいなので、バフ自体は問題ないみたいである。
俺はアロマをカードに戻すと、次に繋がりを通じて命令を出してみた。
『暴れるな!』
「ギャァ……」
するとルルリアの動きが一瞬ピクリと止むと、小刻みに動き出す。そして十数秒後には、再び暴れ出してしまう。
ふむ。命令を聞かないわけではないのか。なら、別の命令も出してみよう。
『上空にウォーターランスだ!』
「ギャアアッ!」
繋がりからそう命じると、ルルリアは上空へとウォーターランスを発動させた。
よし、これらなら戦闘でも使えるな。
暴走状態だとしても、その度合いが命令を聞かないほどではないのは幸いだった。
そして俺は次に、こんなことを試してみる。
『ルルリア。今俺は、お前の心に問いかけている。自我が少しでもあるなら、返事をしろ!』
俺がそんな言葉を、繋がりから問いかけてみた。
ダメもとでの問いかけだが、果たして……。
俺が返事を待っていると、かすかに何かが聞こえてくる。
『わ、わたし……は……』
何と極わずかだが、ルルリアの心の声が聞こえてきた。
なので俺はこれを逃すかと、更に問いかける。
『何か言いたいことがあるなら言ってくれ! できる限り叶えるぞ!』
俺がそう言うと、ルルリアからある願いが口に出された。
『ち……』
『ち?』
『乳当て……が……ほしい……』
そんな言葉が、聞こえてくる。
「乳当て? あぁ、そういうことか。ルルリアお前、普通に丸出しだもんな……」
怪獣のような大きさのルルリアは、その胸もまた巨大だった。
それが丸出しとなっており、僅かにウェーブのかかった青い髪で先端が隠れている程度である。
正直俺は特に気にしてはいなかったが、最初に訴えてくるほど、ルルリアにとっては恥ずかしかったのかもしれない。
けれども同時に、それが言えるくらいの自我が残っていることに対して、俺は希望を見出すのだった。
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