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第六章
226 ヴラシュへのお礼
しおりを挟む「これで今日から、このクモドクロはジン君のものだよ」
クモドクロの所有権を、ヴラシュから譲渡される。
譲渡方法はヴラシュから小さな黒い光が現れ、それが俺の中に移動するというシンプルなものだった。
譲渡が完了すると、クモドクロとの繋がりができる。
それはカード召喚術の繋がりとは、また別のものだった。
しかし俺としては、クモドクロをカード化しておきたい。
そう思いクモドクロにカードになる事を受け入れるように言ってみると、すんなりとカード化に成功した。
「クモドクロ、ゲットだ」
「にゃにゃん!」
そしてついいつもの癖で、俺はカードを手に入れて声を上げる。
ヴラシュはそれを微笑ましく、見守っていた。
「直接目の前で見ると、凄いね。モンスターがカードになってしまうのは、なんとも不思議な感じだよ」
また俺のカード召喚術を見て、ヴラシュは子供のように目を輝かせる。
ならクモドクロの礼に、俺からも何かカードを渡しておくか。
元々カードを渡そうと思っていたので、ちょうどいい。
であれば、それ相応のモンスターがいいだろう。
クモドクロは多彩だが、戦闘能力が低いことを考えると、おそらくBランクだと思われる。
それとヴラシュの神授スキルを考えると、渡すのはアンデッド系がいいだろう。
だがBランクでもヴラシュが作ったガシャドクロをあげても仕方がないし、ネクロオルトロスは若干アンデッド系からは外れる。
だからといって、Aランクまでは流石に渡せない。
ならばクモドクロよりランク下の個体を、複数体でどうだろうか?
それなら、悪くはないだろう。
俺は空間から四枚のカードを取り出すと、ヴラシュに差し出す。
「クモドクロの礼だ。受け取ってくれ」
「え? いいのかい? わぁ、実は僕もカードが少し欲しかったんだ。ありがとう!」
ヴラシュは俺からカードを受け取ると、宝物を手に入れたようにはしゃいだ。
ちなみに昔とは違い、今では簡単にカードの譲渡ができるようになっている。
これも、長い間使い続けたことによる成長だろう。
「一応譲渡できているか確認したいから、召喚してみてくれ」
「う、うん! しょ、召喚!」
するとヴラシュの声と共に、四枚のカードからそれぞれモンスターが召喚される。
「「「「ヴぁ~」」」」」
現れたのは、四体のゾンビ。
だが、普通のゾンビではない。
斥候ゾンビを含めた、あのユニーク個体である。
Dランクのハイゾンビ二体に加えて、Cランクのゾンビソーサラーと、ゾンビアコライトだ。
これでもモンスター交換のレートを考えたら、俺の方が得をしているだろう。
また俺は沼地のダンジョンで手に入れたことと、ステータスの内容をヴラシュに教える。
「――そんな感じで、色々と役に立つはずだ」
「なるほど。それは凄いね! ありがとう! 大事にさせてもらうよ!」
ヴラシュは四体のゾンビに満足したようであり、とても嬉しそうだった。
満足してくれたようで、何よりである。
女王にもいずれ、何かモンスターを渡そうと思う。
一応エンヴァーグとシャーリーにも、譲渡するつもりだ。
あとは先のことになるが、ギルンにはギーギルとナンナを渡すつもりである。
俺に忠誠を誓ってくれたとはいえ、やはり息子のことが心配だろう。
優秀そうな配下ではあるが、まあ仕方がない。
その分ギルンには、いずれ何らかの形で俺の役に立ってもらおう。
◆
あれからヴラシュと別れた俺は、表の城下町へと来ていた。
理由は物々交換によって不足した物を、購入するためである。
一応配下になったギーギルとナンナから渡した物を回収可能だが、配下の所有物を奪う気はない。
それにいずれギルンの元にいくなら、あっても損はないだろう。
ただ腐りやすい物に関しては、考える必要はあるかもしれない。
だが果たして、カード化した状態の配下が収納した物は、腐るのだろうか?
その点が気になるので、時間があるとき二人を召喚して話し合うことにしよう。
また二人を召喚する場所は、万が一を考えて俺が城を離れた時にすることにした。
ここでギルンと遭遇してしまえば、色々と台無しになってしまうかもしれない。
そんなことを考えながらも、俺は買い物を無事に終える。
さて、ひとまずやることは、一段落したな。
他にやるべきことは、あっただろうか?
そんな風に何かないかと、頭を悩ませる。
すると一つ、あることを思いついた。
そういえば以前、幻憶のメダルというのを貰ったんだったな。
名称:幻憶のメダル
説明
古き記憶の幻へと、所有者を導く。
青い宝石が埋め込まれた手のひらサイズのメダルであり、ローブのポケットに入れてある。
今のところ、導かれる様子はない。
だが気になることも事実なので、俺はもう一度あのスラム街に行ってみることにした。
レフを連れて、一度目と同じように路地裏を進んでいく。
そうして俺は、見覚えのある広場にやってきた。
「いないな……」
「にゃぁん」
しかし広場には幼い頃の女王はおろか、子供たちの姿もない。
また周辺をしばらく探索したが、結局何も起きなかった。
ふむ。やはりその時が来るまで、待てということだろうか?
それか導かれるための場所が、他にあるのかもしれない。
前者であれば待つだけでいいが、後者だった場合このままだとせっかくの機会を失うかもしれないな。
であれば表の城下町や表の城の中を、少し探索したほうが良いかもしれない。
最後の宝珠も手に入れたいが、どのみちギルンを連れてきた手前、数日はいた方がいいだろう。
まあ現状シャーリーに加えて、エンヴァーグも何やら教えようとしているので、俺がいなくても大丈夫だとは思うが。
ちなみに女王の護衛はモンスターを渡したことで、ヴラシュもできるようになった。
ダンジョンで生み出されたモンスターは表の城には入れたくないようだが、ヴラシュの作ったモンスターや、カード化したモンスターは別にいいらしい。
女王には謎の基準があるみたいだが、まあ色々と理由があるのだろう。
今は気にしていても、仕方がない。
そういう訳でエンヴァーグも、女王の側を少しの間離れることができるようになった。
またヴラシュとしても、女王と一緒にいられる時間が増えたのでwin-win関係となっている。
ヴラシュはこの機会を活かして、上手く女王と親密になれるのだろうか?
俺からすれば、まあ頑張れとしか言いようがない。
そんなことを考えながら、俺はまず表の城下町をぶらつく。
表の城下町は相変わらず賑やかであり、様々な人が行き来している。
加えて多くの屋台が並んでいるからか、香ばしい匂いが漂ってきていた。
「にゃにゃ!」
「わかったわかった」
また途中屋台にある食べ物をレフにねだられながら、半ば表の城下町を楽しみながら進んだ。
レフは見た目こそ猫だが、その中身はモンスターである。
本来猫に与えてはいけない食べ物も、レフにはあまり関係ない。
今も旨そうに、タレのかかった味の濃さそうな肉を貪っている。
それを横目に、俺も一口。
「旨いな」
甘じょっぱいタレが、何とも食欲をそそる。
一応なんの肉でタレはどのような物なのか、屋台の店主に訊いてみた。
だがやはりNPCのように、決まった台詞しか返さない。
「うちの串焼きは最高だろ? これは代々受け継がれた、秘伝のタレなんだ!」
何度か訊いたが、秘伝のタレという事しか分からなかった。
肉については、全く分からない。
食感としては、鳥だろうか? もしかしたら、カエル系の可能性もある。
まあ詳しいことは、気にしなくてもいいだろう。
旨いことには、違いない。
そんな事がありつつも、俺が次にやってきたのは冒険者ギルドである。
この表の城下町にも、冒険者ギルドが存在していた。
中には冒険者らしき人物がいくつもおり、受付嬢も当然いる。
掲示板には依頼も張られており、見ればゴブリンやホーンラビットの討伐依頼などがあった。
おそらくこれは形だけであり、実際に受けても依頼を熟すことはできない感じだろう。
これには少々残念だったが、仕方がない。
しかしそれよりも、他に気にするべきことがある。
「これは、どう見ても誘われているよな」
「にゃん」
明らかにおかしいので後回しにしていたが、冒険者ギルド内の中央には、楕円に渦巻く謎の空間があった。
まるで、どこかに繋がっている謎のゲートにも見える。
だとすればそれは当然、幻憶のメダルに導かれているとしか思えない。
現にメダルも、うっすらと光っている。
これは、行くしかなさそうだな。
「よし、行くぞ」
「にゃにゃん!」
俺はレフに一声かけると、念のためレフを抱える。
そして楕円に渦巻く謎の空間へと、一歩足を踏み入れるのだった。
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