230 / 320
第六章
225 ヴラシュに頼んでいたアレ
しおりを挟むギルンの挨拶の翌日、俺はヴラシュに連れられて、ある場所へと向かっていた。
ちなみにギルンは、学力と常識がどの程度なのか判断するため、シャーリーからマンツーマンでテストを受けている。
いきなりシャーリーに任せることになったが、本人がまんざらでもなさそうなので大丈夫だろう。
そんなことを考えながら、ヴラシュと話しながら廊下を歩く。
「そうなんだよね。最近、やけに斥候が多いんだ。やっぱり、以前やってきた人たちの大本が、情報を流したのかもしれないね」
「であれば昨日見たやつも、そうした斥候の一人だったんだろう」
「たぶん、その通りだと思う」
ヴラシュとの話題は、ここ数日でこのダンジョンの周辺に、怪しげな者が増えたことだ。
今のところ裏の城下町に侵入した者はいないらしいが、それも時間の問題かもしれない。
一応はよほどのことがない限り、普通のダンジョンとして対応するみたいだ。
前回のように、俺が直接倒す必要はないらしい。
女王としては現状ダンジョン運営が厳しく、侵入者は逆に来てほしいようだ。
まあ、その原因は俺にあるので、できる限り協力はしようと思う。
昨夜女王に、俺の維持コストが極端に上昇したことについて、追及をされた。
おそらくそれは、俺が沼地のダンジョンで大量のモンスターをカード化したからだろう。
女王はある程度俺の神授スキルについて知っているので、カード化自体を止めようとはしなかった。
けれどもその分、ダンジョンの運営を少しでもいいので手伝ってほしいと、そう懇願されたのである。
そのうちギルンも守護者として、雇う可能性があるかもしれない。
であれば当然、必要なコストもその分上昇する。
なら現状でも厳しいことを考えると、ダンジョンの運営は思ったよりもヤバいのかもしれない。
俺も守護者となった以上、ダンジョンの利益が最大限増えるように協力するべきだろう。
またギルンを連れてきた責任もあるし、今後もカード化を続けることは間違いない。
それに所属しているところが赤字経営で、後々崩壊の危機に瀕したら困ると判断した。
なので俺は女王に手伝うことを了承して、とりあえずは沼地のダンジョンで手に入れた素材等を渡している。
おそらく多少は、ダンジョンの運営費になったことだろう。
そういう訳で、このダンジョンを監視している斥候などは現状放置となり、同時に俺は俺なりに協力をすることになった。
よって次に大量の侵入者がやってきたら、大部分は女王に引き渡すことにしよう。
そうして俺は引き続きヴラシュと会話をしながら、目的地である工房のような場所にやってくる。
この工房は、ヴラシュ専用の部屋のようだ。
部屋は少し散らかっているが、様々な工具や素材などが置いてあった。
ここに来たのは、ヴラシュに頼んでおいたアレを見せてもらうためである。
「ジン君、約束のアレだけど、今呼ぶから待っててね」
「ああ、わかった」
ヴラシュはそう言うと、口笛を吹く。
するとどこからともなく、一体のモンスターがこちらへやってきた。
その見た目は、蜘蛛型のスケルトンという感じである。
背中の髑髏模様が、特徴的だ。
大きさは大玉スイカを半分にして、そこにクモの足をつけたくらいかもしれない。
「ジン君、紹介するね。これが僕が作ったモンスター。【クモドクロ】だよ」
余程の自信作なのか、ヴラシュはキメ顔でそう言った。
そう、俺がお願いしたのは、ヴラシュにある特徴を持ったモンスターを作ってもらう事である。
ヴラシュはガシャドクロを作った経験があり、中々の才能の持ち主だ。
ちなみにこのモンスターを作り出す能力は、ヴラシュの神授スキルである【不死者の友達】と関係があるらしい。
女王と仲良くなったことで、アンデッド系のモンスターを作れるようになったみたいだ。
最初はよく分からない神授スキルだと思ったが、潜在能力はとても高いかもしれない。
「鑑定してもいいか?」
「もちろんだよ! だってこのモンスターは、ジン君のために作ったんだからね!」
「そうか。助かる」
ヴラシュからの了承も得られたので、俺は鑑定を発動した。
種族:クモドクロ
種族特性
【糸生成】【生命探知】【闇属性適性】
【罠感知】【罠発動】【上級罠解除】
【罠作成】【万能修復】【万能製作】
【保管庫】【上級開錠】【身体変化】
【身体操作(中)】【眷属召喚】
【逃走】【隠密】【擬態】
エクストラ
【クリエイトモンスター】
これは凄いな。いや、凄すぎる。
見れば種族特性が、大変なことになっていた。
種族名こそヴラシュが名付けたのかシンプルだが、その実罠関係のスペシャリストという感じだ。
「ふふっ、どう? 凄いでしょ。僕の最高傑作だよ!」
どや顔でヴラシュが高らかにそう言うが、それだけの成果を出したのは事実だった。
「ああ、本当に凄い。いったいどうしたら、ここまでのモンスターが出来上がるんだ?」
俺の神授スキルでは、ここまで理想的なモンスターはまず作れない。
頼んだ要望を、想像以上に実現してくれた。
沼地のダンジョンで斥候ゾンビを手に入れたが、元々罠系モンスターはヴラシュに頼んでいたのである。
なので斥候ゾンビを手に入れたときは、嬉しさもあったが、同時に少し不安もあった。
心境としては、頼んだ商品を偶然手に入れてしまった感じだろうか。
しかしその不安も、杞憂に終わる。
このクモドクロは斥候ゾンビが足元にも及ばないほどに、能力が優れているからだ。
加えて、こんなエクストラスキルも所持している。
名称:クリエイトモンスター
効果
・素材になった物の質などによって、生命力や魔力、身体能力などが上昇する。
・製作者への危害を加えることができなくなる。
・知力を上昇させ、個を確立する。
戦闘系スキルこそないものの、素の能力はかなり高そうだ。
今後、役に立つことは間違いない。
「このクモドクロを制作するにあたって、ルミナリア女王様にも素材をたくさん提供してもらったんだ。僕もそれでつい制作に熱を上げてしまってね。種族特性にあれもこれもと、力技でどんどん追加していったんだよ。
まあ結果として、ガシャドクロの数倍どころではないリキャストタイムが発生したけど、後悔はないよ」
どうやら俺のオーバーレボリューションのように、一度発動すると再使用までかなりの時間が必要になるらしい。
Bランクのガシャドクロの数倍以上となると、いったいどれくらい長く使用できなくなったのだろうか。
それに女王にも、色々素材を出してもらったらしい。
これは思っていた以上に、二人には借りができてしまったな。
「それはすまなかったな。だが、とてもありがたい。しかし俺が本当に貰っても良いのか?」
これほどの傑作だ。ヴラシュとしても渡すのには躊躇があると思い、そう問いかけた。
「もちろんだよ。ジン君に渡したかったから、ここまで頑張れたんだからね。それにルミナリア女王様に渡すということは、この城のダンジョンに登録することになるからね。
登録すると元のモンスターは消滅するし、相応のダンジョンポイントが必要になるみたいなんだ」
「なるほど」
現状ダンジョンの運営が大変な時に、新たなモンスターを登録するのは難しいだろう。
「それに登録したモンスターを召喚できるようにするのもポイントがかかるし、設置条件や維持コストもかかるんだ。
そして何より、登録するということは結果的にこの大陸の支配者の元にも渡るということだからね。そういう意味でも、このクモドクロは登録できないよ」
この大陸の支配者か。宝珠を集めた先に、そいつがいるのかもしれない。
詳しいことについてヴラシュも知らないことは、以前時間があるときに訊いていた。
なので実際に宝珠を集めた先に行ってみなければ、その支配者については分からないままだろう。
そんな情報の少ない状況で、このクモドクロがその支配者に渡るのは大変不味い。
確かに戦闘能力こそ低いが、罠関係は特出している。
他にも材料があれば様々な物を製作できるみたいであり、とても有能だ。
そのクモドクロが相手に量産されれば、攻略難易度は跳ね上がるのは間違いない。
コスト面での問題もあったらしいが、ダンジョンに登録しなかったことには感謝しようと思う。
実際ヴラシュの作ったガシャドクロは、他国への侵攻にも使われていた。
エクストラは登録時に消えたみたいだが、それでもガシャドクロは優秀な個体である。
ガシャドクロを上手く活用しているということは、クモドクロも間違いなく使うはずだろう。
なのでそれを未然に防げたことは、とても大きい。
「それなら、俺が受け取っても問題はなさそうだな。ヴラシュ、改めて言うが、本当に助かる。ありがとう」
「うん! 僕もジン君の助けになれたようで、何よりだよ! このクモドクロのことを、どうかよろしくね!」
「ああ、もちろんだ」
そうして俺は、ヴラシュからクモドクロを受け取るのだった。
151
お気に入りに追加
1,602
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン]
何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?…
たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。
※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける
縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は……
ゆっくりしていってね!!!
※ 現在書き直し慣行中!!!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる