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第六章
210 沼地のダンジョン ⑧
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それから深層についての情報も教えてもらったが、詳しい内容は深層に行ってから改めて思い出すことにする。
ちなみに深層について話す二人は、どこかぎこちなかった。
おそらく、深層で何かあったのだろう。
それが成り代わった前なのか、その後なのかは不明である。
また深層については、そこまで詳しくはないみたいだ。
深層には、あまり行かないらしい。
そうしてこのダンジョンの情報も得られたので、物々交換も無事に終了する。
もちろん、俺も外の情報などを話せる範囲で伝えた。
城の事は話さなかったが小規模国境門が乱立しており、他国の者が多く紛れ込んでいることは教えている。
「このたびは、本当にありがとうございました」
「これで、しばらくはやっていけます」
二人はしきりに頭を下げて、お礼を口にした。
「気にしないでくれ。こちらも得られるものはあった」
モンスターの素材についてはそこまで必要なかったが、情報は有用だったのは事実である。
特にスワンプマンについて知れたことは、とても価値のあることだ。
中層をそれなりに探索したが、まだ見かけてはいない。
だとすれば教えてもらった通り、スワンプマンは数が少なく希少なモンスターなのだろう。
人に成り代わる特殊なスキルを持っているみたいだし、これはどうにかして手に入れたいところだ。
生者の死ぬ時を待っているのだとすれば、もしかしてこの周辺にもいるのだろうか?
スワンプマンがアンデッドかどうかは不明だが、少し探してみよう。
何となくそう思い、俺は生命感知の範囲をどんどん広げていく。
「ん?」
するとかなり微弱だが、少し離れた岩の上に何かがいることを感知した。
「どうかしましたか?」
俺の異変を感じ取ったのか、ギーギルがそう声をかけてくる。
「いや、あの岩の上に何かいるみたいでな。もしかしたら、例のスワンプマンかもしれない」
視線だけを向けて、俺はギーギルにその場所を教えた。
だがその言葉を聞いた途端、ギーギルが慌てだす。
「ま、待ってください。あれは違います! そこにいるのは、スワンプマンではありません!」
「ん? それはどういうことだ?」
俺は訝しむように、ギーギルを見つめる。
ギーギルは俺との関係が悪化するのを恐れてか、冷や汗を流しながら弁解を始めた。
「じ、実はあの岩の上にいるのは、私たちの息子なのです。一人残すのは危なく、かといってこの取引での万が一のことを考えて、近くに潜ませていたのです。決して、ジンさんと敵対しようとしたわけではございません」
どうやら、あの岩の上にいるのはギーギルの息子らしい。
嘘は言っていないことは感じられたので、事実だろう。
まあ、言っていることは理解できる。
一人だと危険だろうし、物々交換に応じたとはいえ、俺の本性は分からない。
大事な息子を隠すのは、万が一のことを考えれば当然のことだろう。
「別に構わない。俺がギーギルと同じ立場でも、おそらくそうしたかもしれない」
「あ、ありがとうございます」
俺の言葉に心底ホッとしたようで、ギーギルとナンナは安堵した表情をする。
しかし息子か……。スワンプマンに成り代わった二人でも、子供を作れるのか。
それもダンジョンに多少なりとも、支配されているのにもかかわらず。
あとは成り代わられる前に、ダンジョンへ息子を連れてきていたのだろうか?
少し、その息子が気になるな。
「どうせなら、その息子を紹介してくれないか? 別にどうこうする気はない。ただ挨拶をしてくてな」
「……わ、分りました。少々お待ちください。ただ息子は私たち以外の人と会うのは初めてなので、その点はご容赦をお願いいたします」
「ああ、もちろんだ」
ギーギルは多少迷った素振りを見せたが、そう言って息子と会うことを了承してくれた。
そうしてギーギルが息子のいる岩まで迎えに行き、連れて戻ってくる。
ギーギルの息子は、十代後半くらいの青年だった。
見た目が二十代後半のギーギルの息子にしては大きいが、実年齢からすれば妥当な歳だろう。
また身長は180cmほどであり、短い茶髪と青い瞳。それと筋肉質な体をしている。
腰には茶色い腰巻――聞いた話ではゾンビフロッグの皮らしい――を身につけていた。
野性的な雰囲気ではあるものの、俺を見ると幼い少年のように純粋な笑みを浮かべる。
「ワーシはギルンってんだ。よろしくな!」
ワーシ? なんだかアンクみたいな言い方だな。
そんなことを思いつつ、俺も挨拶をする。
「俺はジンという。こっちは相棒のレフだ」
「にゃん!」
「!? な、なんだそいつ! うまそうだな!」
「にゃっ!?」
するとギルンはレフを指さして、そう言った。
レフは本能的な危機感を覚えたのか、俺の後ろへとそそくさと隠れる。
「こ、こらギルン! この子は食べ物ではない。ジンさんの家族だぞ!」
「へ? そうなのか? そ、それはごめんな」
あまりな発言に、ギーギルがギルンを叱った。
ギルンの反応からするに、悪気は無かったのだろう。
生まれた時からこのダンジョンにいるとするならば、猫を見るのは初めてだと思われる。
家族以外は敵か食料かだとすれば、その反応も仕方がない。
「いや。悪気が無いなら別にいい」
「……にゃ」
レフは完全に警戒してしまったのか、短く鳴いて俺の足元から出てこなかった。
「本当に申し訳ございません。息子は生まれも育ちもこのダンジョンでして、常識が少々欠けているのです。
もちろん教育はしているのですが、どうにもここだと限界がありまして……それに自分のことを『ワーシ』というのも、息子なりのこだわりがあるみたいです……」
やはり、そんな感じなのか。
人称のこだわりは、他人との接点が皆無だからだろうか?
「そうなんですよね。おそらく私と旦那が自身のことを『私』と呼んでいることを、自分なりにオリジナリティを出して、真似をしているのだと思います」
「なるほど」
少し不思議だが、そうした理由があるなら気にしないでおこう。
「それよりジンっていったか? 外から来たんだろ! 話を聞かせてくれよ! 本当はすぐにでも話したかったけど、パパが隠れていろっていうから我慢していたんだ!」
「っ! ギルン! ジンさんと呼びなさい! それと、ここではお父さんと呼ぶんだ。ママのことも、お母さんだぞ」
「へ? あ、あれか? 初めて会った人には礼儀正しくってやつか?」
「そうだ!」
別に呼び捨てでも構わないが、よその教育に口を挟むのは止めておこう。
ギルンにとって俺は初めての他人だろうし、ここで俺が軽く許可をしてしまえば、後々別の他人と会ったときに面倒なことになるかもしれない。
にしても、この図体と年齢で父親をパパ呼びか。
まあ、他に関わる人がいなければ、大きくなっても使い続けるものなのかもしれない。
「えっと、ジンさん? 外の話を聞かせてください?」
「ああ、構わないぞ」
「おお! 本当か! ありがとな!」
「!?」
するとギルンがそう言って、俺をハグしてくる。
邪という感じは無く、まるで家族にするような抱擁だった。
「こ、こら! やめなさい!」
「え?」
そしてギーギルが慌てたように、ギルンを引きはがす。
「ご、ごめんなさい。息子に悪気はないの。女性がいきなり男に抱きしめられたら嫌よね。本当にごめんなさい」
ん? 女性? もしかして、女だと思われているのか?
「いや、変な感じじゃなかったし、大丈夫だ。それと、俺は男だ」
「へ? だ、男性だったのね。綺麗な顔をしているし、お洋服も融通してくれたから女性だと勘違いしていたわ」
なるほど。プリミナの衣服を持っていたから、勘違いしたのか。
だとすれば今俺は、女性ものの服を持ち歩く男だと、そう思われていることになる。
変な勘違いをされたら困るので、訂正をしておこう。
「あれは、以前パーティを組んでいた女性のものだ。色々理由があって、収納スキルに入れっぱなしになっていたに過ぎない。その女性とも今後会えるとも限らないから、俺にとってはやり場に困っていたんだ」
「そうだったのね。でも、男性……少し残念ね」
ナンナは小さくそう呟いたが、俺の耳には届いていた。
もしかして同性の人物と話ができると、少し期待していたのだろうか?
俺がそう思っていると、話を聞いていたギルンが爆弾発言をする。
「え? 男? なあ男って、赤ちゃん産めるのか? 産めるなら、ジンさんワーシの赤ちゃんを産んでくれよ!」
「は?」
ちなみに深層について話す二人は、どこかぎこちなかった。
おそらく、深層で何かあったのだろう。
それが成り代わった前なのか、その後なのかは不明である。
また深層については、そこまで詳しくはないみたいだ。
深層には、あまり行かないらしい。
そうしてこのダンジョンの情報も得られたので、物々交換も無事に終了する。
もちろん、俺も外の情報などを話せる範囲で伝えた。
城の事は話さなかったが小規模国境門が乱立しており、他国の者が多く紛れ込んでいることは教えている。
「このたびは、本当にありがとうございました」
「これで、しばらくはやっていけます」
二人はしきりに頭を下げて、お礼を口にした。
「気にしないでくれ。こちらも得られるものはあった」
モンスターの素材についてはそこまで必要なかったが、情報は有用だったのは事実である。
特にスワンプマンについて知れたことは、とても価値のあることだ。
中層をそれなりに探索したが、まだ見かけてはいない。
だとすれば教えてもらった通り、スワンプマンは数が少なく希少なモンスターなのだろう。
人に成り代わる特殊なスキルを持っているみたいだし、これはどうにかして手に入れたいところだ。
生者の死ぬ時を待っているのだとすれば、もしかしてこの周辺にもいるのだろうか?
スワンプマンがアンデッドかどうかは不明だが、少し探してみよう。
何となくそう思い、俺は生命感知の範囲をどんどん広げていく。
「ん?」
するとかなり微弱だが、少し離れた岩の上に何かがいることを感知した。
「どうかしましたか?」
俺の異変を感じ取ったのか、ギーギルがそう声をかけてくる。
「いや、あの岩の上に何かいるみたいでな。もしかしたら、例のスワンプマンかもしれない」
視線だけを向けて、俺はギーギルにその場所を教えた。
だがその言葉を聞いた途端、ギーギルが慌てだす。
「ま、待ってください。あれは違います! そこにいるのは、スワンプマンではありません!」
「ん? それはどういうことだ?」
俺は訝しむように、ギーギルを見つめる。
ギーギルは俺との関係が悪化するのを恐れてか、冷や汗を流しながら弁解を始めた。
「じ、実はあの岩の上にいるのは、私たちの息子なのです。一人残すのは危なく、かといってこの取引での万が一のことを考えて、近くに潜ませていたのです。決して、ジンさんと敵対しようとしたわけではございません」
どうやら、あの岩の上にいるのはギーギルの息子らしい。
嘘は言っていないことは感じられたので、事実だろう。
まあ、言っていることは理解できる。
一人だと危険だろうし、物々交換に応じたとはいえ、俺の本性は分からない。
大事な息子を隠すのは、万が一のことを考えれば当然のことだろう。
「別に構わない。俺がギーギルと同じ立場でも、おそらくそうしたかもしれない」
「あ、ありがとうございます」
俺の言葉に心底ホッとしたようで、ギーギルとナンナは安堵した表情をする。
しかし息子か……。スワンプマンに成り代わった二人でも、子供を作れるのか。
それもダンジョンに多少なりとも、支配されているのにもかかわらず。
あとは成り代わられる前に、ダンジョンへ息子を連れてきていたのだろうか?
少し、その息子が気になるな。
「どうせなら、その息子を紹介してくれないか? 別にどうこうする気はない。ただ挨拶をしてくてな」
「……わ、分りました。少々お待ちください。ただ息子は私たち以外の人と会うのは初めてなので、その点はご容赦をお願いいたします」
「ああ、もちろんだ」
ギーギルは多少迷った素振りを見せたが、そう言って息子と会うことを了承してくれた。
そうしてギーギルが息子のいる岩まで迎えに行き、連れて戻ってくる。
ギーギルの息子は、十代後半くらいの青年だった。
見た目が二十代後半のギーギルの息子にしては大きいが、実年齢からすれば妥当な歳だろう。
また身長は180cmほどであり、短い茶髪と青い瞳。それと筋肉質な体をしている。
腰には茶色い腰巻――聞いた話ではゾンビフロッグの皮らしい――を身につけていた。
野性的な雰囲気ではあるものの、俺を見ると幼い少年のように純粋な笑みを浮かべる。
「ワーシはギルンってんだ。よろしくな!」
ワーシ? なんだかアンクみたいな言い方だな。
そんなことを思いつつ、俺も挨拶をする。
「俺はジンという。こっちは相棒のレフだ」
「にゃん!」
「!? な、なんだそいつ! うまそうだな!」
「にゃっ!?」
するとギルンはレフを指さして、そう言った。
レフは本能的な危機感を覚えたのか、俺の後ろへとそそくさと隠れる。
「こ、こらギルン! この子は食べ物ではない。ジンさんの家族だぞ!」
「へ? そうなのか? そ、それはごめんな」
あまりな発言に、ギーギルがギルンを叱った。
ギルンの反応からするに、悪気は無かったのだろう。
生まれた時からこのダンジョンにいるとするならば、猫を見るのは初めてだと思われる。
家族以外は敵か食料かだとすれば、その反応も仕方がない。
「いや。悪気が無いなら別にいい」
「……にゃ」
レフは完全に警戒してしまったのか、短く鳴いて俺の足元から出てこなかった。
「本当に申し訳ございません。息子は生まれも育ちもこのダンジョンでして、常識が少々欠けているのです。
もちろん教育はしているのですが、どうにもここだと限界がありまして……それに自分のことを『ワーシ』というのも、息子なりのこだわりがあるみたいです……」
やはり、そんな感じなのか。
人称のこだわりは、他人との接点が皆無だからだろうか?
「そうなんですよね。おそらく私と旦那が自身のことを『私』と呼んでいることを、自分なりにオリジナリティを出して、真似をしているのだと思います」
「なるほど」
少し不思議だが、そうした理由があるなら気にしないでおこう。
「それよりジンっていったか? 外から来たんだろ! 話を聞かせてくれよ! 本当はすぐにでも話したかったけど、パパが隠れていろっていうから我慢していたんだ!」
「っ! ギルン! ジンさんと呼びなさい! それと、ここではお父さんと呼ぶんだ。ママのことも、お母さんだぞ」
「へ? あ、あれか? 初めて会った人には礼儀正しくってやつか?」
「そうだ!」
別に呼び捨てでも構わないが、よその教育に口を挟むのは止めておこう。
ギルンにとって俺は初めての他人だろうし、ここで俺が軽く許可をしてしまえば、後々別の他人と会ったときに面倒なことになるかもしれない。
にしても、この図体と年齢で父親をパパ呼びか。
まあ、他に関わる人がいなければ、大きくなっても使い続けるものなのかもしれない。
「えっと、ジンさん? 外の話を聞かせてください?」
「ああ、構わないぞ」
「おお! 本当か! ありがとな!」
「!?」
するとギルンがそう言って、俺をハグしてくる。
邪という感じは無く、まるで家族にするような抱擁だった。
「こ、こら! やめなさい!」
「え?」
そしてギーギルが慌てたように、ギルンを引きはがす。
「ご、ごめんなさい。息子に悪気はないの。女性がいきなり男に抱きしめられたら嫌よね。本当にごめんなさい」
ん? 女性? もしかして、女だと思われているのか?
「いや、変な感じじゃなかったし、大丈夫だ。それと、俺は男だ」
「へ? だ、男性だったのね。綺麗な顔をしているし、お洋服も融通してくれたから女性だと勘違いしていたわ」
なるほど。プリミナの衣服を持っていたから、勘違いしたのか。
だとすれば今俺は、女性ものの服を持ち歩く男だと、そう思われていることになる。
変な勘違いをされたら困るので、訂正をしておこう。
「あれは、以前パーティを組んでいた女性のものだ。色々理由があって、収納スキルに入れっぱなしになっていたに過ぎない。その女性とも今後会えるとも限らないから、俺にとってはやり場に困っていたんだ」
「そうだったのね。でも、男性……少し残念ね」
ナンナは小さくそう呟いたが、俺の耳には届いていた。
もしかして同性の人物と話ができると、少し期待していたのだろうか?
俺がそう思っていると、話を聞いていたギルンが爆弾発言をする。
「え? 男? なあ男って、赤ちゃん産めるのか? 産めるなら、ジンさんワーシの赤ちゃんを産んでくれよ!」
「は?」
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