倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~

乃神レンガ

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第六章

209 沼地のダンジョン ⑦

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「待たせたか?」
「い、いえ。こちらが早く来ただけですので、気にしないでください。それと紹介いたしますが、こちらは私の妻であるナンナです」

 そう言ってギーギルは、妻のナンナを紹介してきた。

「ナンナと申します。このたびは物々交換に応じて頂き、誠にありがとうございます」

 見た目通りおっとりした口調で、ナンナは笑みを浮かべて頭を下げる。

 そう言えば、俺も名乗ってはいなかったな。

「俺はジンという。こいつは相棒のレフだ」
「にゃ~ん!」

 ナンナの挨拶に呼応して、俺も名乗っておく。

 レフも元気に鳴き声を上げた。

 そうして挨拶も終わり、俺たちは予定通り物々交換を始める。

 ストレージから大きなシートを取り出し、その上に置いていく。

 生鮮食品や香辛料はもちろんのこと、消耗品や衣服に加えて医療品、他にも細々としたものを出した。

 それらはギーギルたちにとって大変貴重なものであるらしく、目を輝かせている。

 またナンナはプリミナの衣服に喜び、自身の身体に合わせていた。

 幸い身長や体型は近そうなので、着ることが出来そうである。

 それとギーギルに武器類はないのかとたずねられたが、生憎あいにく持っていない。

 武器や防具は、そのほとんどを女王に差し出していた。

 加えて持っている物も、いずれ使うかもしれないと保管しているものになる。

 なので、これを物々交換する気は無かった。

 物々交換に応じたものは、あくまでも必要の無い物である。

 けれどもギーギルの持つボロボロの剣を見て、俺は次の提案をした。

「よければその剣、直そうか? 他に壊れている物があれば、修復するぞ?」
「ほ、本当ですか!? ぜ、是非お願いします!」

 するとギーギルは警戒心も無く、腰の剣を俺に差し出してくる。

 会ったばかりの人間によく渡せると思ったが、これだけの物を物々交換したことで、相当感謝されたんだろうな。

 それにこのダンジョンを出れないということは、食事はゾンビフロッグやゾンビヴェルスだったのだろう。

 塩分も、ゾンビ系の血をすすっていたのかもしれない。

 他には、地面に生えた僅かな草花をんでいたのだろうか?

 なんだかそう考えると、この感謝のしようにも納得できる。

 そう思いつつ俺は生活魔法の修復で、ギーギルの剣を直した。

 元々は質のよさそうな剣だが、長年酷使し続けたことで自動修復機能も衰えてたようである。

「お、おお! あ、ありがとうございます!」
「別に構わない。他に何かあれば、直すぞ?」
「であれば、お願いできますでしょうか? ナンナ。出してくれ」
「はい。これらを、お願いいたします」

 ギーギルに声をかけられたナンナは、収納系スキルから様々な物を取り出す。

 出された物は、破損した装備品や道具など多岐に渡る。

 俺はそれを一つずつ手にとっては、修復していった。

「こんなものか」
「本当にありがとうございます。これで、狩りがかなり楽になります」
「す、素晴らしい魔力量ですね……。私も魔法使いなので、今のがどれだけ大変なのかがよく分かります」

 ギーギルは純粋に感謝を口にして、ナンナはその消費された魔力量に驚いているみたいだ。

 そういえば忘れていたが、俺は偽装のエクストラで魔力量を隠している。

 世の中には、魔力感知というスキルを所持する者がいるからだ。

 そうした者たちからすると、俺は大変目立つ。

 現状俺の魔力総量は、おそらく一般人の数百倍、いや数千倍どころではないだろう。

 なので、偽装でどうにかそれを隠しているのが現状だ。

 しかしそれでも、発動したスキルの消費魔力量までは隠せない。

 優秀な者であれば、その使用した魔力量も見極められるだろう。

 そう考えるとこのナンナという女性は、かなり高度な魔力感知技術を持っていることになる。

 こんな大陸のこんなダンジョンで生活しているんだ。まあギーギルもそうだが、ナンナも優秀なのだろう。

 そうして修復作業も終わり、俺はダンジョンの素材などを代わりに受け取った。

 素材などはナンナが収納系スキルにしまっており、それを取り出した形である。

 正直モンスターの素材にはあまり興味がないので、帰ったら女王に差し出そうと思う。

 あとは、この沼地のダンジョンの情報も教えてもらった。

 そこには浅層の情報もあり、やはりルーラーモスキートには近づかない方がいいらしい。

 あれはランクこそCくらいだが、数と状態異常が大変厄介のようだ。

 戦っても割に合わないので、無視して中層に移動するのが正解とのこと。

 まあ、既に倒してしまったのだが。

 それを話すと、二人はとても驚いていた。

 加えて浅層で活動するのがだいぶ楽になったと、感謝される。

 そして次にこの中層だが、エリアボスはやはりキャリアンイーターというようだ。

 これについては、カード化したロットキャリアに訊いていたので問題ない。

 そのキャリアンイーターだが、絶対に近づいてはいけないらしい。

 エリアボスにもかかわらず、その強さはそこらのダンジョンボスよりも強いとのこと。

 流石にボーンドラゴンよりは弱い気がするが、それだけ強力なモンスターなのだろう。

 確かキャリアンイーターは、腐肉を吸収することで僅かに強化されるんだったか。

 だとすると長い年月をかけて吸収を続けているとすれば、その強さもダンジョンボス級になるかもしれない。

 幸いキャリアンイーターは移動することがなく、縄張りに入らなければ基本的に危険は無いという。

 教えてもらった場所も、ロットキャリアから訊いた場所と一致している。

 ちなみにキャリアンイーターは、巨大な無数の食虫植物と、つるの固まりのような見た目らしい。

 見ればすぐに分かると言っていた。

 それと二人は中層の中で、一番気をつけなければいけない存在について言及をする。

「この中層では数こそ凄く少ないのですが、スワンプマンというCランクのモンスターがいるのです。こいつには、決して隙を見せてはいけません」
「ええ、強さ自体はそれほどじゃないのですけど、大変厄介なスキルを持っているのです」

 スワンプマン……それはギーギルの種族名に表示されていたものだが……。

 正直、それを俺に聞かせてもいいのか? 

 そんなことを思いつつも、俺は黙って話を聞く。

「実はスワンプマンというモンスターには、成り代わりというスキルがあるのです。死後十分以内にしか発動できないものですが、一度発動すればその者の全てを奪う凶悪なスキルのようです」
「容姿、記憶、スキル、種族に至るまで、全てその者と同じになるらしいの。だから、スワンプマンは生者の死ぬ瞬間を、今か今かと狙っているのよ」

 それって、つまり……。

 俺はその話を聞いて、思わずギーギルを見てしまう。

 もしかしてギーギルは、スワンプマンというモンスターに成り代わられているのだろうか?

 それに鑑定こそしていないものの、ナンナも怪しく感じる。

 だがそこで疑問なのが、どうしてそんな重大な事を俺に話す?

 もし成り代わっているのだとしたら、それは決して知られてはいけない事実だろう。

 物々交換のお礼に話すとしても、流石に無理がある。

 その事実は、通常なら墓場まで隠し通さなければいけないことだろう。

 しかしその事を話す二人の表情は、真剣そのものだ。

 まるで自分たちは、スワンプマンというモンスターではないと思っているような……。

「だからこの中層では、死だけは何としてでも回避しなければいけないのです。でなければ、死後に全てを乗っ取られてしまいます」
「だから私たちも、スワンプマンだけには気をつけているの。スワンプマンの隠密能力は非常に高いから、気をつけてね」

 俺を心配する気持ちは、本心のようだった。

 そこに、一切の嘘はない。

 だからこそ、俺は気がついた。

 そうか、スワンプマンが成り代わると、スワンプマンだったという事実を忘れるのか。

 ゆえに二人は、スワンプマンに対して酷く警戒をしている。

 記憶も奪うと言っていたことから、二人は変わらず人族として生きているのだろう。

 だが流石に、違和感がある。

 ダンジョンを出れない呪いの事や、見た目以上の実年齢についてだ。

 しかしそれは、二人がスワンプマンということならある程度の説明がつく。

 成り代わったとしても、ダンジョンのモンスターということに変わりないのだろう。

 それ故に、ダンジョンからは出られない。

 通常のモンスターは、階層の移動ができないのだ。

 けれども成り代わったことでバグでも起きたのか、階層間の移動はできるらしい。

 だがそれでも、中層に戻って来なければいけない気持ちになると言っていた。

 つまり、中途半端にダンジョンモンスターとしての誓約も残っているのだろう。

 またダンジョンのモンスターは、食事や睡眠の必要がない。

 できない訳ではないが、しなくても生きてはいける。

 加えてダンジョンのモンスターは、老いることはない。

 それによってステータス上の年齢は上昇しているが、見た目に変化がないのだろう。

 ナンナは妻といっていたし、長いこと一緒だと思われる。

 それで見た目も若々しいとなれば、彼女もスワンプマンという可能性が非常に高い。

 であれば二人はこの中層で死亡して、スワンプマンに成り代わられたのだろう。

 その事実に辿り着いてしまったが、俺としてはそれを突くつもりはない。

 もしかしたら、二人は薄々自分たちの状況に気がついており、それでも気づかない振りをしている可能性もある。

 それをわざわざ追求しても、面倒な事にしかならないだろう。

 加えて、二人は善人だ。成り代わられたとしても、それは変わらない。

 であれば、俺の対応は決まったも同然だ。

「ああ、情報に感謝する。俺もスワンプマンには気をつけよう」

 俺は二人の忠告に対して、そう返事をするのだった。

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