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第六章
200 幼い頃の女王
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「よく分かったな。俺の名はベゲゲボズン。さあ、かかってくるがいい」
俺はストレージから木の棒を取り出すと、そう言って構える。
「言われなくても! くらえぇえ!」
挑発に乗った幼い頃の女王が、声を上げて俺へと斬りかかってきた。
だがそれを軽くいなし、攻撃をやり過ごす。
周囲の子供たちは、見守っているだけで襲い掛かってくる様子はない。
「ふっ、そんなものか? その程度の力では、臣民は守れないぞ?」
「くっ、流石はベゲゲボズン、強い。けど、私は負けない! これならどうだ! ウィンド!」
すると幼い頃の女王が、左手の平を向けてウィンドの魔法を放ってくる。
一般人なら、立っているのも難しい風量だ。
当然俺には効かないが、そこはごっこ遊び。わざとやられたふりをして、後方へと吹っ飛ぶ。
「ぐぁああ!?」
「やった! チャンスだ! くらええ!!」
そして追い打ちとばかりに、倒れた俺の胴体へと棒を振り下ろす。
子供にしては、中々の威力である。それに、遠慮というものを感じられない。
もし仮に攻撃を受けたのが一般人であれば、多少の怪我は避けられないだろう。
「ぐはっ……や、やられた……」
とりあえずそう言って、俺はガクッと頭を下げる。
「にゃ、にゃぁ……」
すると俺の隣までやってきたレフが、ひっくり返って同じようにやられたふりをした。
「伝説のSランク冒険者であるこの魔法剣士ルミナが、悪の魔獣使いゲべべボズンを討ち取ったぞ! 正義はなされた! ふははは!」
幼い頃の女王は棒を天へと掲げると、勝どきを上げて高笑いをする。
よし、この辺でいいだろう。
他の子供たちに気持ちよく演説しているのか、こちらに意識が向いていない。
俺とレフはその隙に立ち上がると、その場からゆっくりと立ち去ろうとする。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
だがその時、幼い頃のシャーリーと思われる少女が、心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫だ。気にしないでくれ」
「にゃぁ」
「で、ですが……あの、これよろしければどうぞ」
そう返事をする俺に対し、シャーリーが軟膏のような物を差し出してくる。
ここで受け取らないのは、逆に失礼か。
「助かる」
「い、いえ。悪いのはこちらですから」
そう考えた俺は、軟膏を受け取った。
無事に受け取ってくれたことに安堵したのか、幼い頃のシャーリーがニコリと笑みを浮かべる。
そして俺に頭を一度下げると、幼い頃の女王の元へと駆けていった。
今のやり取りを思うと幼い頃のシャーリーは、色々と苦労していたんだろうな。
女王のやんちゃぶりにも驚いたが、これは俺の心の中にしまっておこう。
おそらくこれは、女王にとっても知られたくない羞恥の部分だと思われる。
今も空き地にある木箱の上に乗り、他の子供たちへと何やら自慢げに話をしていた。
もうこちらには興味が無いみたいなので、この辺で撤退しよう。
俺が、そう思った時だった。
「やっとみつけた。ここにいたのか」
「あっ! お兄様!」
その声の方へと視線を向けると、金髪碧眼の美男子が現れる。
服装は見るからに高価なものであり、背後には複数の兵士を連れていた。
その美男子を見つけると、幼い頃の女王が嬉しそうに声を上げて駆けだす。
どうやらあの美男子は、幼い頃の女王の兄のようだ。
「また冒険者ごっこか?」
「うん! 今日はね、悪の魔獣使いベゲゲボズンを倒したんだよ!」
「ベゲゲボズン?」
「そう、あれ!」
すると幼い頃の女王が、俺の方を指さす。
「これは……そこの者、妹がすまないことをした」
「いえ、大したことではないので、気にしないでください」
女王の兄ということは、王族である。
一応言葉遣いには気をつけて、謝罪を受け入れる。
「そうはいかない。これを彼に」
「はっ」
美男子は兵士の一人に何かを渡すと、俺へと運ばせた。
「こちらを」
「はあ、ありがとうございます」
兵士の男から手渡されたのは、青い宝石の埋め込まれたメダルである。
不思議な事に、受け取っても二重取りが発動しなかった。
俺は思わず、鑑定を発動させる。
名称:幻憶のメダル
説明
古き記憶の幻へと、所有者を導く。
なんとも、意味深な説明だった。
二重取りが発動しなかったのは、二つあっても仕方が無い物だと判断されたのだろう。
その効果を確認した後、俺は美男子へと視線を戻す。
「僕の名前はアルハイド・フォン・ルベニア。どうか、覚えていてほしい」
するとタイミングを計っていたのか、目と目が合った瞬間に美男子がアルハイドと名乗る。
そしてアルハイドは用が済んだのか、幼い頃の女王の手を引いて静かに去っていく。
兵士と幼い頃のシャーリーも、それについていった。
気がつけば、女王と一緒に遊んでいた子供たちの姿も無い。
幻のように、いや幻である彼らは、まるで煙のように消えてしまった。
俺の手には、青い宝石が埋め込まれた手のひらサイズのメダルだけが残る。
また幼い頃のシャーリーに貰った軟膏も、消えずに残っていた。
ちなみにこの軟膏は、傷口などに塗る普通の軟膏のようである。
これは、単なる女王の思い出を再現したものではないのだろうな。
思えば幼い頃の女王は、受け答えがはっきりしていた気がする。
そこら辺のNPC染みた人々とは、全く違う。
加えて、最後に現れたアルハイドと名乗った男。その名前には、覚えがあった。
確か守護者の契約をする前に、エンヴァーグが出していた名前である。
国宝などを奪っていった人物らしいと記憶しているが、印象が一致しない。
今話をした印象だと、妹思いの心優しき兄に見えた。
もしかしたら裏の顔があるのかもしれないが、それはどうにも腑に落ちない。
このメダルを見ていると、何だかそんな気がしてくる。
またわざわざ最後にフルネームで名乗るのは、少し不自然だ。
妹の遊びで怪我をさせたとしても、王族が見知らぬ相手にフルネームで名乗るものだろうか?
それよりも、俺に名前を知ってもらいたかっただけに思えてしまう。
このメダルの説明には、『古き記憶の幻へと、所持者を導く』とある。
説明から推測するに、俺は誘われているのだろう。
過去に何かがあり、それを俺に知ってほしいのだと思われる。
だとすればアルハイドは、果たして女王が作った幻なのだろうか?
何となく、違う気がする。
いったいあのアルハイドという人物は、何者なんだ?
これについては、女王に話すべきか悩むところでもある。
いや、こうした方法で俺にメダルを渡したという事は、秘密にしてほしいのかもしれない。
女王に話した瞬間にダメになる事だった場合、取り返しがつかないことになる。
それに女王には、色々と誓約のようなものがあった。
たとえば宝珠を集めた先にいる存在について、一切話せない事がそれにあたる。
また国がダンジョンに至るまでの経緯も、何だかんだで聞けてはいない。
話し合いをしている時も、その内容を避けていた気がする。
だとすればアルハイドとの出会いは、女王が話せない内容を知ることができる可能性があるのではないだろうか?
であればなおさら、女王にメダルのことは言わない方がいいだろう。
ストレージに入れた場合効果を発揮するか分からないので、俺はメダルをローブの内ポケットに入れておく。
ブラックヴァイパーのローブは、斥候向きだったのか意外とポケットが多いのだ。
これまで使わなかったが、今回役に立った。
あとはヴラシュやエンヴァーグたちに話すかだが、これもやめておこう。
しばらくは、様子を見ることにする。
このメダルに導かれて行けばこの国の事や、大陸の謎について知ることができるかもしれない。
思わぬところで、重要なアイテムを手に入れてしまった。
俺はそう思いながら、レフを連れてその場を去る。
念のためアルハイドたちが消えた方に進んでみたが、特に何も起きなかった。
今は、その時ではないということだろう。
そうして散歩もほどほどに、俺は表の城へと帰るのであった。
__________
200話を突破しました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
引き続き、執筆を頑張ります。
<m(__)m>
俺はストレージから木の棒を取り出すと、そう言って構える。
「言われなくても! くらえぇえ!」
挑発に乗った幼い頃の女王が、声を上げて俺へと斬りかかってきた。
だがそれを軽くいなし、攻撃をやり過ごす。
周囲の子供たちは、見守っているだけで襲い掛かってくる様子はない。
「ふっ、そんなものか? その程度の力では、臣民は守れないぞ?」
「くっ、流石はベゲゲボズン、強い。けど、私は負けない! これならどうだ! ウィンド!」
すると幼い頃の女王が、左手の平を向けてウィンドの魔法を放ってくる。
一般人なら、立っているのも難しい風量だ。
当然俺には効かないが、そこはごっこ遊び。わざとやられたふりをして、後方へと吹っ飛ぶ。
「ぐぁああ!?」
「やった! チャンスだ! くらええ!!」
そして追い打ちとばかりに、倒れた俺の胴体へと棒を振り下ろす。
子供にしては、中々の威力である。それに、遠慮というものを感じられない。
もし仮に攻撃を受けたのが一般人であれば、多少の怪我は避けられないだろう。
「ぐはっ……や、やられた……」
とりあえずそう言って、俺はガクッと頭を下げる。
「にゃ、にゃぁ……」
すると俺の隣までやってきたレフが、ひっくり返って同じようにやられたふりをした。
「伝説のSランク冒険者であるこの魔法剣士ルミナが、悪の魔獣使いゲべべボズンを討ち取ったぞ! 正義はなされた! ふははは!」
幼い頃の女王は棒を天へと掲げると、勝どきを上げて高笑いをする。
よし、この辺でいいだろう。
他の子供たちに気持ちよく演説しているのか、こちらに意識が向いていない。
俺とレフはその隙に立ち上がると、その場からゆっくりと立ち去ろうとする。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
だがその時、幼い頃のシャーリーと思われる少女が、心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫だ。気にしないでくれ」
「にゃぁ」
「で、ですが……あの、これよろしければどうぞ」
そう返事をする俺に対し、シャーリーが軟膏のような物を差し出してくる。
ここで受け取らないのは、逆に失礼か。
「助かる」
「い、いえ。悪いのはこちらですから」
そう考えた俺は、軟膏を受け取った。
無事に受け取ってくれたことに安堵したのか、幼い頃のシャーリーがニコリと笑みを浮かべる。
そして俺に頭を一度下げると、幼い頃の女王の元へと駆けていった。
今のやり取りを思うと幼い頃のシャーリーは、色々と苦労していたんだろうな。
女王のやんちゃぶりにも驚いたが、これは俺の心の中にしまっておこう。
おそらくこれは、女王にとっても知られたくない羞恥の部分だと思われる。
今も空き地にある木箱の上に乗り、他の子供たちへと何やら自慢げに話をしていた。
もうこちらには興味が無いみたいなので、この辺で撤退しよう。
俺が、そう思った時だった。
「やっとみつけた。ここにいたのか」
「あっ! お兄様!」
その声の方へと視線を向けると、金髪碧眼の美男子が現れる。
服装は見るからに高価なものであり、背後には複数の兵士を連れていた。
その美男子を見つけると、幼い頃の女王が嬉しそうに声を上げて駆けだす。
どうやらあの美男子は、幼い頃の女王の兄のようだ。
「また冒険者ごっこか?」
「うん! 今日はね、悪の魔獣使いベゲゲボズンを倒したんだよ!」
「ベゲゲボズン?」
「そう、あれ!」
すると幼い頃の女王が、俺の方を指さす。
「これは……そこの者、妹がすまないことをした」
「いえ、大したことではないので、気にしないでください」
女王の兄ということは、王族である。
一応言葉遣いには気をつけて、謝罪を受け入れる。
「そうはいかない。これを彼に」
「はっ」
美男子は兵士の一人に何かを渡すと、俺へと運ばせた。
「こちらを」
「はあ、ありがとうございます」
兵士の男から手渡されたのは、青い宝石の埋め込まれたメダルである。
不思議な事に、受け取っても二重取りが発動しなかった。
俺は思わず、鑑定を発動させる。
名称:幻憶のメダル
説明
古き記憶の幻へと、所有者を導く。
なんとも、意味深な説明だった。
二重取りが発動しなかったのは、二つあっても仕方が無い物だと判断されたのだろう。
その効果を確認した後、俺は美男子へと視線を戻す。
「僕の名前はアルハイド・フォン・ルベニア。どうか、覚えていてほしい」
するとタイミングを計っていたのか、目と目が合った瞬間に美男子がアルハイドと名乗る。
そしてアルハイドは用が済んだのか、幼い頃の女王の手を引いて静かに去っていく。
兵士と幼い頃のシャーリーも、それについていった。
気がつけば、女王と一緒に遊んでいた子供たちの姿も無い。
幻のように、いや幻である彼らは、まるで煙のように消えてしまった。
俺の手には、青い宝石が埋め込まれた手のひらサイズのメダルだけが残る。
また幼い頃のシャーリーに貰った軟膏も、消えずに残っていた。
ちなみにこの軟膏は、傷口などに塗る普通の軟膏のようである。
これは、単なる女王の思い出を再現したものではないのだろうな。
思えば幼い頃の女王は、受け答えがはっきりしていた気がする。
そこら辺のNPC染みた人々とは、全く違う。
加えて、最後に現れたアルハイドと名乗った男。その名前には、覚えがあった。
確か守護者の契約をする前に、エンヴァーグが出していた名前である。
国宝などを奪っていった人物らしいと記憶しているが、印象が一致しない。
今話をした印象だと、妹思いの心優しき兄に見えた。
もしかしたら裏の顔があるのかもしれないが、それはどうにも腑に落ちない。
このメダルを見ていると、何だかそんな気がしてくる。
またわざわざ最後にフルネームで名乗るのは、少し不自然だ。
妹の遊びで怪我をさせたとしても、王族が見知らぬ相手にフルネームで名乗るものだろうか?
それよりも、俺に名前を知ってもらいたかっただけに思えてしまう。
このメダルの説明には、『古き記憶の幻へと、所持者を導く』とある。
説明から推測するに、俺は誘われているのだろう。
過去に何かがあり、それを俺に知ってほしいのだと思われる。
だとすればアルハイドは、果たして女王が作った幻なのだろうか?
何となく、違う気がする。
いったいあのアルハイドという人物は、何者なんだ?
これについては、女王に話すべきか悩むところでもある。
いや、こうした方法で俺にメダルを渡したという事は、秘密にしてほしいのかもしれない。
女王に話した瞬間にダメになる事だった場合、取り返しがつかないことになる。
それに女王には、色々と誓約のようなものがあった。
たとえば宝珠を集めた先にいる存在について、一切話せない事がそれにあたる。
また国がダンジョンに至るまでの経緯も、何だかんだで聞けてはいない。
話し合いをしている時も、その内容を避けていた気がする。
だとすればアルハイドとの出会いは、女王が話せない内容を知ることができる可能性があるのではないだろうか?
であればなおさら、女王にメダルのことは言わない方がいいだろう。
ストレージに入れた場合効果を発揮するか分からないので、俺はメダルをローブの内ポケットに入れておく。
ブラックヴァイパーのローブは、斥候向きだったのか意外とポケットが多いのだ。
これまで使わなかったが、今回役に立った。
あとはヴラシュやエンヴァーグたちに話すかだが、これもやめておこう。
しばらくは、様子を見ることにする。
このメダルに導かれて行けばこの国の事や、大陸の謎について知ることができるかもしれない。
思わぬところで、重要なアイテムを手に入れてしまった。
俺はそう思いながら、レフを連れてその場を去る。
念のためアルハイドたちが消えた方に進んでみたが、特に何も起きなかった。
今は、その時ではないということだろう。
そうして散歩もほどほどに、俺は表の城へと帰るのであった。
__________
200話を突破しました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
引き続き、執筆を頑張ります。
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