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第五章
191 布石の回収
しおりを挟む流石に強者四人組でも、Aランクモンスター三体とアンデッド軍団は対処しきれなかったようである。
しかし残念なのは、溶岩の龍によって四人組の装備品や持ち物がダメになってしまったことだろう。
糸目の男は先にグインのウォーターブレスで死亡していたが、場所が近すぎたため溶岩の龍に飲み込まれたのである。
ちなみに、突撃していたアンデッド軍団にも被害が出た。まあ、それは仕方がない。
にしてもやはり、バーニングライノスの一撃は強いな。
チャージ、ホーミング、そして大噴火のコンボが素晴らしい。
繋がりを利用すれば、遠くから発射することもできる。
布石としてチャージさせ続けていたが、最後にこうして役に立った。
まあ、バーニングライノスの一撃が無くとも、どうにかなっていた気もする。
だが強者であれば何か奥の手があった可能性が高いし、使わせずに倒せたと考えれば妥当な結果だろう。
それとこれで終わりではなく、布石はもう一つある。
撤退していった連中を、逃がすはずがない。
城下町の出入り口付近には、直接モンスターを送り込んでいた。
どうやらここから多少距離があるため、まだ連中は辿り着いてはいないようだ。
余裕がありそうなので、四人組の息が無いかしっかり確かめる。
といっても殆ど原型が残っていないので、当然絶命していた。
それでも後々生きていたとなれば問題なので、こうした確認は大事だろう。
念のためボーンドラゴンとグインをここで見張らせ、アンデッド軍団で周囲の捜索をさせる。
もちろん、生き残っている者は始末するように命じた。
それと一応女王との繋がりを通して、生き残りを捕縛するか訊いてみる。
だがその答えは、必要ないとのこと。
どうやらダンジョンに挑戦者として侵入をした時点で、対話をすることはできないらしい。
倒すか追い払うかの二択になるようだ。
これは女王の判断というよりは、ダンジョンボスとしての誓約みたいなものだろう。
当たり前すぎて、俺に説明できていなかったみたいだ。
その事を謝罪されたが、仕方が無いことなので構わない。
あとは戦闘結果を絶賛され、喜ばれた。
あの四人組は、女王を倒せる可能性があったらしい。
だとすれば俺は、守護者として十分な成果を出せたことになる。
それと一度戻って来るかと訊かれたが、まだやることがあるので残ることを伝えた。
俺が知らないダンジョンの当たり前のことも、後で訊くことにしよう。
さて、俺も移動するか。
俺はレフと共に、入り口付近へと召喚転移で移動する。
「キキィ!」
「ギギギ!」
「ギャギャギャ!」
「きゅぃ!」
すると俺がやってきたことに気がつき、ジョンたちが近寄ってきた。
「これから敵がやって来るみたいだから、準備をしておいてくれ」
「ウキ!」
俺がそう言うと、代表してジョンが返事をする。
他にも階層守護者だったスケルトンナイトが、こちらに気がつき頭を下げた。
そう、この出入り口付近にはジョンたちに加えて、第二アンデッド軍団も用意していたのである。
部隊構成は、以下の通り。
・スケルトンナイト(階層守護者)
・スケルトンナイト9体
・スケルトンソードマン100体
・スケルトンソーサラー100体
・スケルトンアーチャー100体
合計310体の部隊である。
撤退中の者たち程度であれば、十分に戦える数だろう。
もし負けそうなら、それこそ追加で召喚をすればいい。
それとどうやら、出入り口付近にも侵入者たちがいたようだ。
おそらく、退路確保の要員だと思われる。
しかしそれについては、既にジョンたちによって倒されたとのこと。
ここにいた相手は、そこまで強くなかったようだ。
さて、こちらの準備はできたが、まだ敵の方は来ないみたいだな。
こっそり後をつけさせているアサシンクロウから確認すると、敵の到着はもうしばらくかかりそうである。
これは少し、時間を持て余しそうだ。
なので俺はふと思いつき、出入口の魔法陣に乗って外に行けないか確かめてみた。
しかし結果は反応を示さず、転移されることはない。
『ごめんなさい。まだ調整が済んでなくて、ジン君をダンジョン外に出せないの』
『いや、気にしていない。何となく試してみただけだ』
『そう、よかった。ダンジョンの外に出るのは、もう少し待っててね』
『ああ、分かった』
するとそんな念話が届いたので、気にしていないことを伝える。
やはり守護者がダンジョンの外に出るのは、大変らしい。
けれどもダンジョン外にいるアサシンクロウとは繋がりがあるので、召喚転移すれば出れそうな気がする。
しかしそれをして何か致命的なエラーが出たら困るので、試すのは止めておこう。
ちなみに外にいるアサシンクロウから確認をすれば、ダンジョンの外にはたくさんのテントが張られている。
補給や、怪我人を運ぶ場所なのだろう。
ふむ。ここは一つ、別のことを試してみるか。
時間もまだありそうだし、問題はない。
だがその前に一応、王に確認をとる。
『俺のスキルで配下をダンジョンの外に送れるのだが、大丈夫か?』
『え? そんな事ができるの? 本来は不可能なのだけど、ジン君の戦闘を見たあとだと普通にできそうな気がするわね。召喚系の配下には特に制限が無いから大丈夫だと思うけど、一度弱いモンスターで試してみてくれないかしら?』
『分かった。それで試してみる』
女王にしても未知の出来事らしいので、試しにスケルトンをダンジョン外に送り込む。
『召喚できたぞ。どうだ?』
『す、凄いわ。影響が全くない。これなら、幾ら召喚しても大丈夫そうよ!』
『そうか、なら遠慮はいらなそうだな』
大丈夫なことも確認できたので、俺はアサシンクロウをいくつも張られているテントの近くへと向かわせる。
そして一定の距離に近づけたので、ここでコイツ等を送り込むことにした。
種族:フェアリー
種族特性
【幻属性適性】【精神耐性(中)】
【スリープ】【フィアー】【幻物】
【幻変装】【飛行】【姿隠し】
「行ってこい」
「ええ~。久々に呼ばれたから、ごしゅのシロップほしかったのに~」
一匹文句を言うのは、自らカード化されたフェアリーだ。
「終わったら考えるから、行ってこい!」
「約束だよ! やぶっちゃダメだからね!」
考えるだけで約束したわけではないのだが、まあいいだろう。
俺はフェアリーたち十五匹を、アサシンクロウの元に送り出す。
さて、どのような結果になるか。
アサシンクロウと感覚を共有して、状況を見守る。
すると早速動き出したフェアリーたちは、まず幻変装で透明になり、姿隠しで気配も消す。
幻変装は見た目だけだが、色々と姿を変えることができるらしい。
それは、透明になる事も含まれているようだ。
ちなみに幻物は物にかけられる幻であり、石ころを金に見せたりなどイタズラに使えるとのこと。
そうしてフェアリーたちは、一匹一匹別れてテントに入っていく。
人を見つければ、そこでスリープを発動させていった。
睡眠耐性はマイナーなのか持っている者は現状いないようで、次々に成果を上げていく。
テントが終われば、次は外にいる者である。
スリープを受ければ、まるで気絶したかのように眠りにつく。
耐性スキルが無いと、ここまで強力なのか。
フェアリーはああ見えて、Cランクである。
直接の戦闘能力は皆無だが、代わりにこうしたトリッキーな事が得意のようだ。
けれどもそんな時、睡眠耐性を持っている人物が現れる。
「なっ!? なんだこれは!? て、敵襲!」
すると異常を感じ取り、叫び声を上げた。
それにより、まだスリープをかけていなかった者たちが動き出す。
なるべく人目につかない者から行っていたが、これは仕方がない。
どの道、後半では気がつかれた可能性が高かっただろう。
地面に何人もの味方が倒れている姿を一度でも見れば、異常だと分かる。
なので当然気がつかれた場合についても、考えてあった。
「頼んだぞ。行ってこい」
俺はそう言って、配下を送り出す。
「ゴッブア!」
「ガァ! おけまるー!」
召喚したのは、ホブンとアンク。
あとは敵が逃げ出しても追いつけるように、リザードシュトラウスをニ十体送った。
種族:リザードシュトラウス
種族特性
【地属性適性】【地属性耐性(小)】
【脚力強化(大)】【体力上昇(中)】
【自然回復力上昇(中)】【病気耐性(中)】
【登攀】
リザードシュトラウスは、恐竜とダチョウを足したようなBランクのモンスターである。
なので戦闘にはなるべく参加させず、あくまでも逃げ出した者限定にした。
「にゃにゃ!」
「分かった。レフも行ってこい」
するとレフも参加したいと言うので、召喚転移で送り出す。
「な、何だこいつら!?」
「アンデッドじゃないだと!?」
「ほ、ホブゴブリンか!? 強すぎだろ!」
「ひぃい!」
テントとその周辺を見張っていた護衛は、全体的にそこまで強くはない。
レフ、ホブン、アンクの三体により、テントの周辺は瞬く間に静かになっていった。
逃げ出した者も、リザードシュトラウスの脚力には敵わず、蹴り殺されていく。
今までほとんど召喚していなかったが、リザードシュトラウスはかなり強い。
おそらくあの蹴りをまともに喰らえば、Aランクのグインでもたたでは済まないだろう。
そうして起きている者の処理を終え、テント周辺の制圧を完了する。
念のためリザードシュトラウスを周囲に放ち、生き残りがいないか捜索させることにした。
しかしリザードシュトラウスは少々馬鹿なのか、ある程度走った後命じたことを忘れてしまう。
そして一度頭を捻ると一か所に集まって群れとなり、その中の一体が走り出すと全体が走り出す。
俺が途中で止めなければ、そのままどこまでも走っていったことだろう。
仕方が無いので五体はテント周辺に残し、十五体はフェアリーをそれぞれ背に乗せて運用する。
リザードシュトラウスがど忘れすれば、その都度フェアリーに命令をさせた。
最初はフェアリーが振り落とされないか心配だったが、意外にも乗りこなしている。
「ごしゅ~! これ、たっのしー」
そう言って、フェアリーが笑顔で手を振ってきた。
俺が意識を共有しているアサシンクロウが、何となくわかるらしい。
そして残ったレフたちには、眠った人たちを一か所に集めさせた。
「ガァ、あーしも、あれ乗りたいなぁ」
だが人を運ぶことのできないアンクは、暇を持て余したのかそうぼやく。
「にゃぁ!」
するとレフもそれに同調してきたので、仕方なく二体のリザードシュトラウスに乗せて走らせた。
ちなみにホブンは、役目をちゃんと果たすらしい。ホブンが真面目で助かった。
しかしテント周辺の戦力が減ったので、 Dランクのウィップバルブとブラウングリズリーをそれぞれ十体ずつ召喚しておく。
種族:ウィップバルブ
種族特性
【身体操作上昇(小)】【鞭適性】
【ウィップ】【ドレイン】
種族:ブラウングリズリー
種族特性
【威圧】【激怒】【食い溜め】
【腕力上昇(中)】【物理耐性(小)】
これで少しは時間を稼げるし、起きた者がいてもウィツプバルブが動きを封じるだろう。
そうして良い感じに時間が過ぎたことで、撤退中の者たちがそろそろやって来る。
さて、侵入者との戦いも、いよいよこれで大詰めだ。
俺はアサシンクロウとの意識の共有を切り、大通りを眺める。
すると少ししてようやく、大通りの奥から撤退中の侵入者たちが何人も現れるのだった。
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