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第四章
150 哨戒までの合間にすること
しおりを挟む哨戒といっても、既に自称ハイエルフ陣営は壊滅したようなものなんだよな。
あれから夕方に目覚めダークエルフへと自身を偽装した俺は、現在ギルドの緊急依頼を熟している。
Dランクの俺に回される場所は、比較的安全らしい。
加えて俺一人ではなく、他にも人員が回されている。
暗い荒野の中を、共に明かりを浮かべて歩いていた。
もちろんこの依頼を回された理由でもある、ファングハイエナも召喚している。
ファングハイエナは、夜目がきくのだ。
明かりの届かない場所に何かいても、視認することができるだろう。
ついでに、レフも黒猫モードでついて来ている。
共に依頼を熟す冒険者と軽く会話をしながら、ひたすら命じられた範囲を哨戒し続けた。
途中モンスターも現れたが、雑魚ばかりである。
カード化したい初見のモンスターも、現れなかった。
そうして何事もなく、哨戒の依頼は終える。
朝日が昇り、解散となった。
哨戒の依頼は、ダークエルフの戦士たちが到着するまで続くらしい。
その後は、また状況に応じて緊急依頼が出されるみたいだ。
正直、面倒くさい。
自称ハイエルフの軍がやって来ることは、おそらくないだろう。
エルフ国に侵攻した軍も、ユグドラシルの異変に気が付いて後方に下がっている。
偵察しているフォレストバードから、そんな情報を得ていた。
これで自称ハイエルフのルフルフがユグドラシルに取り込まれれば、完全に瓦解するだろう。
あと気になるのは、行方知らずのカルトスくらいか。
フォレストバードやアサシンクロウで捜索しているが、見つかる気配が無い。
一応最後まで何が起きるか分からないので、警戒はしておこう。
また哨戒の依頼から完全に解放された際には、国境門の近くに移動することにする。
ダークエルフの戦士たちは、おそらく明日には来るだろう。
アサシンクロウを介して確認した感じ、そんなところだ。
なので哨戒の依頼は、あと一回という感じである。
そういう訳で再び夕方まで暇になったので、今から気になっていた場所に向かう。
俺はそう思い、とある場所に行って万能身分証を提示した。
しかし、そこで驚きの事態が起きる。
「何だそれは? ダメだ。現在このダンジョンは封鎖されている。いつ敵が来るか分からないからな。さあ、帰った帰った」
なんとそう言われ、提示した相手に万能身分証が効かなかった。
万能身分証は、その時に適した身分証へと変わるはずである。
しかし、相手の反応から変わった様子がない。
時間があるからダンジョンに挑もうと思ったのだが、まさかの事態になったな。
状況から察するに、現状適した身分証が無いという事だろうか?
そう思いながら留まっても仕方が無いので、俺はその場から離れる。
入れないのに留まり続けるのは、怪しいことこの上ない。
まさか、万能身分証が効かないことがあるとは思わなかったな。
ギルドマスターや、上位の存在の身分証などに変換しなかったのだろうか?
いや、仮に変わったとして、こんな緊急時にどうして? となるのかもしれない。
あとはこの状態で入れる身分を持つ者が限られていて、その全ての者を封鎖しているダークエルフが知っている場合か。
身分証は明らかにその者だが、容姿が全く記憶と違うとなれば、混乱するだろう。
これまで知らなかったが、万能身分証にも限界があるのだと思われる。
俺でも通れるような適した身分証が無い場合には、こうして通れないわけだ。
思えば俺は、万能身分証を国境門や村の出入りなどにしか使用していない。
入れなかったのは残念だが、これは大きな発見だ。
もしも緊急時万能身分証に限界があると知らなければ、面倒な事になっていた可能性がある。
そもそも、万能身分証で問答無用でどこでも通れるとすれば、それはもう神授スキル級だろう。
元々万能身分証は、キャラクターメイキング時にたかだか3ポイントで手に入れた物である。
だとすれば、国境門や村を通るくらいが本来の使用範囲なのかもしれない。
こっそり入ることも出来なくはないだろうが、面倒ごとはもう疲れたので止めておこう。
バレる可能性は0ではない。
国境門が開く前に封鎖が解除されたら、その時に考えよう。
何が影響して、戦いに駆り出されるのか分かったものではない。
ユグドラシルと約束を交わした以上、細心の注意を払う必要がある。
それにダンジョンは国境門を渡った先にもあるだろうし、絶対にここに入らなければいけないという理由はない。
俺はそう判断すると、ダンジョンを諦めて他の事に意識を向ける。
さて、やることが一つ無くなってしまったが、気分を切り替えて次に気になっていた場所に行こう。
そうして念のため一度宿の部屋に戻ると、俺は召喚転移でとある場所に移動する。
やってきたのは、渓谷の深いところだ。
崖となっている岩肌には、多くの巨大な穴が空いていた。
この穴は、とあるモンスターの巣となっている。
生活魔法の光球を浮かべて入ると、そいつはいた。
種族:ナイトゲッコー
種族特性
【擬態変色】【夜目】【姿隠し】
【尻尾再生】【逃走】
そう、ゲッコー車をひいていた、あのモンスターである。
夜行性であるからか、ここまで接近しても全く気がつかずに眠っていた。
見た限り、種族特性は隠れたり逃げる事が得意みたいだ。
つまり行き止まりとなっている巣穴に入れば、最早どうすることも出来ない事になる。
まあどうするもこうするも、鈍いのか未だに眠ったままだが。
すやすやと眠っているナイトゲッコーを見ると、少し罪悪感がする。
だがこれまでのことを思えば今更なので、割り切って倒そう。
そうして緑斬のウィンドソードで、サクッと始末してカード化した。
「ナイトゲッコー、ゲットだ」
「にゃーん」
俺がそう言うと、後ろについて来ていたレフも鳴く。
さて、まだまだ巣穴はあるし、モンスターたちにも手伝ってもらおう。
俺は一度巣穴を出ると、ホブン、グイン、サン、ジョン、トーン、アロマ、ついでにユニーク個体のアサシンクロウを召喚する。
「グォウ!」
グインは最近召喚されなかったからか、非難するかのように鳴き声を上げた。
対してホブンは何も言わないが、無言の圧力を感じる。
この大陸に来てそこまで経っていないはずだが、それでも思うところはあるらしい。
もしかして召喚されない間も、意識はあるのだろうか?
なので訊いてみると、うっすらと意識はあるらしい。
だがカード状態の時は心地よく、ストレスを感じることは無いみたいだ。
けれどもそれとは別に、俺の力になりたかったみたいである。
まあグインについては、ゲヘナデモクレスにやられた時が最後だったので、色々思うところがあったらしい。
グインも、これからは強くなりたいとのこと。
そんな思念が、伝わってくる。
強くなりたいのは、こいつらも同じだったわけだ。
なら次の大陸では、強くなることを目的に行動しよう。
そう思いながら、モンスターたちに命じてナイトゲッコー狩りを手伝ってもらう。
ちなみにグインは大きすぎるので、縮小のスキルによりちょうどいいサイズになっている。
しかしトーンは上部が引っ掛かるので、巣穴から逃げようとしたナイトゲッコーを狙ってもらう。
俺もトーンと共に、巣穴の外で見張ることにした。
そうして最終的に、ナイトゲッコーのカードが先ほどのと合わせて20枚集まる。
これくらい集めれば、十分だろう。
ついでに、ユニーク個体のアサシンクロウに名前を付けることにした。
なんだかんだで、今後多用していく気がする。
「よし、お前の名前はアンクだ」
「ガァ!」
アンクという名前を、コイツも気に入ったみたいだ。
バーニングライノスとの戦いでも何故か生き残っていたし、ちょうどいいだろう。
確かアンクは、古代エジプトで生命を意味していた気がする。
まあ、いつも通り種族名からも名前をとったし、意味が違っていてもいいか。
それから一度レフを除いたモンスターたちを、カードに戻す。
さて、気になっていることは、まだあるんだよな。
そう思い、次に俺はこのモンスターを召喚する。
「ふぁ、よく寝た……ふぇ? ここどこぉ?」
あくびをした後呆けた顔で周囲をきょきょろするのは、妖精の森で最初に出会ったモンスター、あのフェアリーだ。
コイツには、試してもらいたいことがある。
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