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第四章
129 ダークエルフの少年 ①
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「えっと、どうやって覚えさせたんですか?」
「今の火の輪潜りか?」
「は、はい」
少年は先ほどソイルバグにやらせた火の輪潜りが、気になるようだ。
しかし覚えさせたもなにも、普通に命令したのと全感共有で操作をしただけである。
なので正直に言っても、少年が真似できるものではない。
だがこれは、情報収集の切っ掛けになるチャンスだろう。
オブール王国での経験を活かして、それっぽく言うしかない。
「そうだな。まずはモンスターへの信頼と友情、そして反復練習だ。少しずつ教えていけば、モンスターは答えてくれる」
「なるほどぉ!」
俺がそう答えると、少年が尊敬するような眼差しを向けてくる。
何だか、少し心が痛い。
だが情報収集する為に、割り切ることにしよう。
「どうやら君はテイマーのようだな。肩のソイルバグは君の相棒か?」
「はい! 相棒です! でも、あまり言うことを聞いてくれないんですよね」
少年はそう言って、肩に乗せているソイルバグの頭を指で撫でる。
言うことを聞かないか。
カード召喚術を使える俺には、あまり理解できない……いや、できるか。
ゲヘナデモクレスは、言うことを聞くようなモンスターではなかった。
少年とは状況こそ違うが、多少は理解できるかもしれない。
そういえば以前、リードが使役したモンスターについて色々教えてくれたな。
確か言うことを聞かせるには、概ね二つの方法があったはず。
「長い時間をかけて友情を育むか、どちらが上か認めさせるしかない」
俺は少年に、そう言った。
「認めさせる……ですか? どうやって?」
「ああ、それは簡単だ。モンスターは強い方が上になる。一番良いのは一対一で倒すことだ」
「戦って、倒す……」
少年は倒すということが、考えに無かったようである。
おそらく戦わずに、テイムで偶然使役できたのだろう。
ランクの低いモンスターであれば、そうしたことが起こる事を知っている。
オブール王国でスライムだけを使役していた者の何人かは、同様の方法でテイムを成功させていたのだろう。
「無理そうなら、時間をかけることだ。少しずつ、言うことを聞くようになるだろう」
「そ、それだとダメなんです! で、でも僕には戦う力も無くて……どうすれば……」
少年は切羽詰まっているのか、そう言って慌てだす。
何か、事情があるようだ。
「落ち着け。ソイルバグはFランクの弱いモンスターだ。子供でもやり方次第では十分に倒せる」
「で、でも僕は魔法も使えなくて、武器適性も武器じゃなくて盾適性だし、授かったスキルはテイムだけなんだ……」
なるほど。少年は攻撃に適したスキルがないらしい。
ダークエルフは必ず武器適性と、それに関連した下級スキルを種族特性として手に入れる。
だがその中で、攻撃手段がほとんどない盾適性は不遇なのだろう。
また盾は武器というよりも、防具というイメージがあるためかもしれない。
武器適性で盾適性が取得できるのは、まあ納得できなくても仕方がないだろう。
もしかして他の子供たちからハブられていたのは、それが原因だろうか?
「攻撃系スキルが無くても大丈夫だ。盾適性があるなら、盾で押しつぶしたり殴ったりするのも通常より威力が上がるはずだ」
適性を持っていればその武具の扱い方が上手くなり、上達のスピードも上がる。
また持っていない者よりも、その武具を使った攻撃の威力や、武器の消耗率を抑えることが可能だ。
なので盾適性があるのなら、Fランクのソイルバグを倒すことは難しくない。
それにソイルバグは、Fランクモンスターでも弱い方だ。
けれども少年の反応を見るに、剣や槍の適性や攻撃系スキルが無ければ、弱いと思い込んでいるのかもしれない。
「で、でも、盾、持ってなくて……」
「これも何かの縁だ。これを使え」
俺はそう言って、ストレージから以前手に入れた盾の残りを渡す。
品質も低く、ゴブリンに持たせていた物だ。
「えっ、いいんですか?」
「ああ。どうせ使わないものだ」
「あ、ありがとうございます!」
少年は渡された盾を、大事そうに抱きしめる。
もしかして、盾を買う経済力がないのだろうか?
「それで、さっそく認めさせるのか?」
「は、はい。出来れば早いほうが良いです」
「なら、上手く行くか見守ってやろう」
「お願いしてもいいですか?」
「ああ」
そうして、少年が使役しているソイルバグを認めさせるために、俺たちは移動することにした。
流石に、人通りの多い場所で行うことはできない。
にしても、少年は警戒心が薄いな。
外から来た冒険者に、気を許し過ぎだ。
それとも、ダークエルフがそういう気質なのだろうか?
いや、少年は何か切羽詰まっているし、よそ者の冒険者である俺を頼るくらい、追い詰められているのかもしれないな。
少年についても、後で事情を訊いておこう。
そうして少年の案内で、入り組んだ場所にある小さな広場にやってくる。
人が周囲にはいないので、戦うのにはもってこいの場所だ。
俺はモンスターを認めさせるまでの手順を、少年に教えていく。
といってもソイルバグに言葉をかけて、戦うことを受諾させるだけでいい。
大抵のモンスターは、上下関係を決める戦いを拒まないと以前聞いたことがある。
またたとえ負けたとしても、使役が解けることはほとんどない。
しかし負ければ、更に言うことを聞かなくなる場合がある。
その場合は、時間を空けて再度挑戦して勝てば問題ない。
少年はそれを聞いて不安がったが、戦うことを選んだ。
そして結果として、少年はソイルバグに勝利する。
盾による一撃で、簡単に倒せた。
まあソイルバグは元々弱く、攻撃系スキルもない。
命の奪い合いではなく、認めるかどうかの戦いであれば、子供でも十分に勝てる相手だ。
次に少年は、火の輪潜りについて教えてほしいと言ってきた。
だが前提として生活魔法が必要と知ると、落胆する。
それとたとえ火の輪が用意できたとしても、まずはジャンプする練習をさせた方が良いとも教えた。
最初から火の輪を潜らせようとすれば、失敗するだろう。
「も、もし火の輪が用意できたとしたら、潜れるまでに、どれくらいの時間がかかりますか?」
「そうだな。短ければ数週間。長ければ、数ヶ月はかかるかもしれない。結局はそのソイルバグと君次第になる」
「そんな……」
少年はソイルバグが言うことを聞くようになれば、すぐに火の輪潜りができるようになると思っていたようだ。
「なぜ、そんなに焦っているんだ? 焦れば逆に失敗するぞ」
俺は、少年の焦っている理由を問う。
すると少年は、ぽつりぽつりと事情を話し始めた。
「今の火の輪潜りか?」
「は、はい」
少年は先ほどソイルバグにやらせた火の輪潜りが、気になるようだ。
しかし覚えさせたもなにも、普通に命令したのと全感共有で操作をしただけである。
なので正直に言っても、少年が真似できるものではない。
だがこれは、情報収集の切っ掛けになるチャンスだろう。
オブール王国での経験を活かして、それっぽく言うしかない。
「そうだな。まずはモンスターへの信頼と友情、そして反復練習だ。少しずつ教えていけば、モンスターは答えてくれる」
「なるほどぉ!」
俺がそう答えると、少年が尊敬するような眼差しを向けてくる。
何だか、少し心が痛い。
だが情報収集する為に、割り切ることにしよう。
「どうやら君はテイマーのようだな。肩のソイルバグは君の相棒か?」
「はい! 相棒です! でも、あまり言うことを聞いてくれないんですよね」
少年はそう言って、肩に乗せているソイルバグの頭を指で撫でる。
言うことを聞かないか。
カード召喚術を使える俺には、あまり理解できない……いや、できるか。
ゲヘナデモクレスは、言うことを聞くようなモンスターではなかった。
少年とは状況こそ違うが、多少は理解できるかもしれない。
そういえば以前、リードが使役したモンスターについて色々教えてくれたな。
確か言うことを聞かせるには、概ね二つの方法があったはず。
「長い時間をかけて友情を育むか、どちらが上か認めさせるしかない」
俺は少年に、そう言った。
「認めさせる……ですか? どうやって?」
「ああ、それは簡単だ。モンスターは強い方が上になる。一番良いのは一対一で倒すことだ」
「戦って、倒す……」
少年は倒すということが、考えに無かったようである。
おそらく戦わずに、テイムで偶然使役できたのだろう。
ランクの低いモンスターであれば、そうしたことが起こる事を知っている。
オブール王国でスライムだけを使役していた者の何人かは、同様の方法でテイムを成功させていたのだろう。
「無理そうなら、時間をかけることだ。少しずつ、言うことを聞くようになるだろう」
「そ、それだとダメなんです! で、でも僕には戦う力も無くて……どうすれば……」
少年は切羽詰まっているのか、そう言って慌てだす。
何か、事情があるようだ。
「落ち着け。ソイルバグはFランクの弱いモンスターだ。子供でもやり方次第では十分に倒せる」
「で、でも僕は魔法も使えなくて、武器適性も武器じゃなくて盾適性だし、授かったスキルはテイムだけなんだ……」
なるほど。少年は攻撃に適したスキルがないらしい。
ダークエルフは必ず武器適性と、それに関連した下級スキルを種族特性として手に入れる。
だがその中で、攻撃手段がほとんどない盾適性は不遇なのだろう。
また盾は武器というよりも、防具というイメージがあるためかもしれない。
武器適性で盾適性が取得できるのは、まあ納得できなくても仕方がないだろう。
もしかして他の子供たちからハブられていたのは、それが原因だろうか?
「攻撃系スキルが無くても大丈夫だ。盾適性があるなら、盾で押しつぶしたり殴ったりするのも通常より威力が上がるはずだ」
適性を持っていればその武具の扱い方が上手くなり、上達のスピードも上がる。
また持っていない者よりも、その武具を使った攻撃の威力や、武器の消耗率を抑えることが可能だ。
なので盾適性があるのなら、Fランクのソイルバグを倒すことは難しくない。
それにソイルバグは、Fランクモンスターでも弱い方だ。
けれども少年の反応を見るに、剣や槍の適性や攻撃系スキルが無ければ、弱いと思い込んでいるのかもしれない。
「で、でも、盾、持ってなくて……」
「これも何かの縁だ。これを使え」
俺はそう言って、ストレージから以前手に入れた盾の残りを渡す。
品質も低く、ゴブリンに持たせていた物だ。
「えっ、いいんですか?」
「ああ。どうせ使わないものだ」
「あ、ありがとうございます!」
少年は渡された盾を、大事そうに抱きしめる。
もしかして、盾を買う経済力がないのだろうか?
「それで、さっそく認めさせるのか?」
「は、はい。出来れば早いほうが良いです」
「なら、上手く行くか見守ってやろう」
「お願いしてもいいですか?」
「ああ」
そうして、少年が使役しているソイルバグを認めさせるために、俺たちは移動することにした。
流石に、人通りの多い場所で行うことはできない。
にしても、少年は警戒心が薄いな。
外から来た冒険者に、気を許し過ぎだ。
それとも、ダークエルフがそういう気質なのだろうか?
いや、少年は何か切羽詰まっているし、よそ者の冒険者である俺を頼るくらい、追い詰められているのかもしれないな。
少年についても、後で事情を訊いておこう。
そうして少年の案内で、入り組んだ場所にある小さな広場にやってくる。
人が周囲にはいないので、戦うのにはもってこいの場所だ。
俺はモンスターを認めさせるまでの手順を、少年に教えていく。
といってもソイルバグに言葉をかけて、戦うことを受諾させるだけでいい。
大抵のモンスターは、上下関係を決める戦いを拒まないと以前聞いたことがある。
またたとえ負けたとしても、使役が解けることはほとんどない。
しかし負ければ、更に言うことを聞かなくなる場合がある。
その場合は、時間を空けて再度挑戦して勝てば問題ない。
少年はそれを聞いて不安がったが、戦うことを選んだ。
そして結果として、少年はソイルバグに勝利する。
盾による一撃で、簡単に倒せた。
まあソイルバグは元々弱く、攻撃系スキルもない。
命の奪い合いではなく、認めるかどうかの戦いであれば、子供でも十分に勝てる相手だ。
次に少年は、火の輪潜りについて教えてほしいと言ってきた。
だが前提として生活魔法が必要と知ると、落胆する。
それとたとえ火の輪が用意できたとしても、まずはジャンプする練習をさせた方が良いとも教えた。
最初から火の輪を潜らせようとすれば、失敗するだろう。
「も、もし火の輪が用意できたとしたら、潜れるまでに、どれくらいの時間がかかりますか?」
「そうだな。短ければ数週間。長ければ、数ヶ月はかかるかもしれない。結局はそのソイルバグと君次第になる」
「そんな……」
少年はソイルバグが言うことを聞くようになれば、すぐに火の輪潜りができるようになると思っていたようだ。
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