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第三章
110 リジャンシャン樹海 ⑥
しおりを挟む小さな国境門から少し離れた場所に、俺は一時拠点を設けた。
といっても簡易的な木の壁と、中央に四角い小屋のようなものを作っただけである。
製作の強みは、魔力と操作能力次第で素人でもそれっぽいのが作れるところだろう。
釘も必要なく、小屋もクラフト系ゲームに出てくる豆腐ハウスを彷彿とさせるものだ。
その小屋の中に、転移召喚の目印になるロックハンドを召喚しておく。
硬化もできるし、もしもの時は浮遊で内側から開く小窓から脱出できる。
あとはこの一時拠点の周囲に、防衛用のモンスターを配置するだけだ。
外側の壁回りには、アプルトレントを均等に配置していく。
また壁の上には、アサシンクロウを数羽配置した。
そして壁の内側には、リビングアーマーを数十体待機させている。
敵が来ればアサシンクロウが伝え、リビングアーマーが向かう形だ。
もしも一時拠点に接近されれば、アプルトレントが時間を稼ぐ。
更に壁から数メートルは更地になっているので、敵が来ればすぐに分かるはずだ。
まあ上空からの攻撃には弱いが、小屋の中まではまず到達できないだろう。
これだけ守りを固めれば、俺がダガルマウンテンに行って戻ってくるまでは大丈夫なはずである。
それに何かあれば、繋がりから俺に何か知らせが届くはずだ。
加えて樹海の主も既にいないし、むしろこの規模は大げさだったかもしれない。
ちなみに空気を必要としないロックハンドを地面に埋めれば楽そうだとも思ったが、結果として必要魔力量が激増してしまう。
なので、その案は却下した。
また分かった範囲でだが、召喚転移で魔力量が増える理由は、次の通りとなっている。
・ロックハンドの視界が確保できていない。
・密封状態で俺とのルートが途切れている。
・転移可能範囲の減少。
召喚転移を頻繁に使うようになったが、かなり繊細なスキルという事に変わりはない。
少し条件が悪くなるだけで、比較にならないほど燃費が悪くなる。
他にも気が付いていないだけで、必要魔力量が増える原因があるかもしれない。
そうした理由から地面には埋めずに、目印は地上に出しておく。
また折衷案でロックハンドの目だけ地上に出せば、転移範囲減少だけで済む。
一瞬そう思ったのだが、結局それを守るためにモンスターを配置することになりそうなので、意味はない。
むしろ転移範囲が減少する分だけ、効率が悪くなる。
その効率の悪さは、おそらく配置する全モンスターの維持魔力数十時間分といえば、分かりやすいだろう。
ここからダガルマウンテンへと召喚転移に必要な魔力量から逆算した結果、それくらいだと予想できた。
であれば逆に大量にロックハンドを用意する手もあるが、全て気が付かれる可能性はゼロではない。
なので結局のところ、こうしたシンプルな防衛が一番効率が良いのである。
裏技みたいな方法は、現状思いつかない。
そういう訳で話が少し脱線したが、防衛の準備は完了した。
けれども、まだダガルマウンテンに向かうのは早すぎる。
なぜなら、生贄用のモンスターをもう少し集めたいからだ。
加えてこの一時拠点を守るためにも、周囲のモンスターをできるだけ減らしておきたかった。
なので俺はリビングアーマーの部隊を再編成すると、狩りへと向かわせる。
ちなみにスパークタイガーについては、一時拠点を作る途中で既にカードへと戻していた。
またリビングアーマーはスパークタイガーにより数が減っているので、魔力自体は以前よりも余裕がある。
故に俺も一時拠点の防衛に参加しながら、再びリビングアーマー用の武器を作っていく。
次は棍棒だけではなく、いらない鉄製品などを解体して槍の先端に作り変えた。
それを木材と組み合わせて、簡単な槍を作り上げる。
またストレージに収納していたモンスターの骨や腱を利用して、弓を作ってみた。
思ったよりもよくできており、悪くはない。
矢も骨や木材、カード化しなかったフォレストバードの羽を利用する。
他にも骨だけを組み合わせて、大剣を作ってみた。
切れ味はそこそこで、使えないことはない。
だが普通に、店売りの剣を買った方がいいだろう。
これはただのロマン武器だ。
後は、大盾も作っておく。
材料は骨と木材だ。鉄はあまりないので、使わなかった。
しかし見た目以上に頑丈になったので、良しとする。
ちなみに普通の剣を作らなかったのは、材料的に叩くか突く方が武器の威力が高くなると思ったからだ。
また切れ味を追求すると、魔力と時間がかなり消費されてしまう。
今は質よりも、量の方が重要なのである。
そういう訳で俺は次々と武器を作っていき、戻ってきたリビングアーマーたちに配っていく。
一部隊を十体とした場合、基本的に大盾2 大剣1 棍棒3 槍2 弓2という組み合わせになった。
槍がもう少し欲しかったが、鉄が少ないので仕方がない。
それと今更だが、リビングアーマーたちを融合した後この武器は不要になる。
まあ、今後どこかで使うかもしれないし、一応取っておこう。
俺はそう思いながら、数日の間黙々と武器を作り続けるのだった。
結果として俺がダガルマウンテンに向かうのは、リビングアーマー全員に武器が行き渡ってからになってしまう。
何となく中途半端で終わらせるのが、嫌だと思ったからかもしれない。
しかしそのおかげもあってか、カードもだいぶ手に入った。
俺がこの樹海に来てから集めたカード枚数は、次の通りになる。
【Cランク】
・ジャイアントサーペント 328枚
・アサシンクロウ 148枚
・アプルトレント 108枚
【Dランク】
・オーク 426枚+元々所持していた50枚=476枚
・ホブゴブリン 298枚+元々所持していた50枚=348枚
・スリーピングバタフライ 217枚
・トレント 304枚
リビングアーマー百部隊に数日間狩りをさせた割には、増えた枚数が意外と少ないかもしれない。
だがこれは、周辺のモンスターを狩りつくしてしまったからである。
加えて他のモンスターたちも、流石に樹海の異変を感じていなくなってしまった。
後半では、逆にモンスターを見つける方が難しかった程である。
まあ、これは仕方がない。
時間が経てば戻ってくるだろうし、減った分も自然発生するだろう。
ちなみに多くのモンスターは逃げ出したが、おそらく人がいる場所までは辿り着かないと思われる。
深層から浅層までかなりの距離があるし、そこから最寄りの村までおそらく数日はかかるはずだ。
それにモンスターは、空気中の魔素濃度が薄いと居心地が悪くなる。
なので魔素の薄い人里までは、普通は行かないだろう。
故に本来現れないランクのモンスターが人里に現れるケースは、珍しいのである。
他に可能性があるとすれば、そうした薄い魔素でも大丈夫なゴブリンとかだろう。
だがそのゴブリンも、数日かけた移動はまずしないはずだ。
まあ、あくまでこれは俺の予想なので、可能性はゼロではないが。
なお使役されているモンスターは、主人から魔力が供給されているので、魔素が薄くても普通に過ごせる。
おそらく未契約の販売モンスターも、何らかの方法で魔力を送ったり、魔素を調節しているのだろう。
そして話は戻るが、いらないモンスターカードも足した場合、今回の集めたカードで生贄が足りる。
だが中には確保したいカードもあるので、結果として生贄が足りていない。
なのでその足りない分は、ダガルマウンテンで集めることにする。
ここでの狩りは、流石にもう十分だろう。
あと周囲にモンスターはほぼいないし、一時拠点の守りも少し減らすことにする。
小屋=ロックハンド 1
壁外=アプルトレント 10
壁上=アサシンクロウ 4
壁内=リビングアーマー部隊 1 (十体)
これで十分だろう。
残りはカードに戻して、だいぶ前から待機させているフォレストバードを目印にする。
ちなみに相変わらずレフは、カードへと戻ってはいない。
「にゃん!」
「ああ、わかっている」
俺は仕方なくレフを抱きかかえると、そのまま召喚転移を発動させるのだった。
ダガルマウンテンにはBランクのロックゴーレムがいるらしいので、今から楽しみである。
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