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第三章

097 ダンジョンからの脱出

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 ブラッドの強制決闘も消えているので、俺たちはこのまま出口へと急ぐ。

 もちろん、生き残っていたモンスターはカードに戻す。

 そしてここはボスエリアであり、奥には通路があった。

 バリアを発生させていた二つの水晶も柱ごと自壊しており、通るのは問題ない。

 俺とブラッドは全力で走り、ボスエリアを抜けて奥の小部屋へと辿り着く。

 そこは半ばツクロダの自室のようになっていたが、ほとんどの物が壊れていた。

 ツクロダが死亡したことで、これらも自壊したのだろう。

 その中で俺はどこまでも続く階段と、帰還用の魔法陣を見つける。

 ちっ、こっちはダメだ。

 当然というべきか、帰還用の魔法陣は壊れて使えなくなっている。

 なのでこの階段の先に出口があると信じて、行くしかない。

 俺は一応ストレージで周囲の物を適当に収納すると、階段を駆け上がっていく。

 揺れが大きくなってきた。間に合うか?

「ま、待ってくれぇ!」

 すると俺よりも、ブラッドが遅れている。

 仕方がないので、ダークネスチェインでブラッドを引っ張ることにした。

 だがその分、俺の速度が落ちる。

 このままだと、間に合わないかもしれない。

 なら、これしかないか。

 俺はブラッドを引き寄せると、緑斬リョクザンのウィンドソードを取り出す。

 そして背後に向い、全力のウィンドを発動させる。

 また生活魔法の微風と、幻影から衝撃波も撃たせた。

「ぐわぁあああ!?」

 それにより、俺とブラッドはものすごい勢いで階段を上っていく。

 これならいける。

 すると遥か先に、いくつもの光が見えた。

 近付いてくると、その光は扉が自壊してできたスキマから差し込んでいるもののようである。

 大丈夫。おそらくこの先は……。

 そして俺とブラッドは崩れかけの扉を突き破り、外へと飛び出す。

「グルル!」
「タイミングバッチリ!」

 俺は勢いのまま空中で上手く体を捻り、グリフォンの背に乗った。

 ついでに、ブラッドをグリフォンに掴ませる。

 グリフォンの位置はカード召喚術により、ダンジョンに転移した直後から把握していた。

 場所はおそらく、王都から少し東だ。

 周囲は岩山という感じである。

 ツクロダはいずれ、ここを開発する気だったのだろうか?

 まあ、今更そんなことはどうでもいい。

 俺は上空に待機させていたグリフォンを、事前にこの場所へと呼び出していた訳である。

 そしてタイミングを合わせて、俺が乗れる丁度良い場所に移動させたのだ。
 
「このまま行くよ!」
「うぇぇえ!?」

 そうして俺は剣をしまうと、グリフォンに命じて上空へと飛び立った。

 するとその直後、大きな音を立てて周囲が埋没まいぼつし始める。

 やっぱり、地下の巨大なダンジョンが崩壊すればそうなるのか。

 これが王城の下とかであれば、大惨事だっただろう。

 とりあえず、これで一件落着かな。

 そう思うとの同時に、幻影が消え去る。

 手元に現れたカードは端から崩れ落ち、風と共に飛ばされていく。

 解放を願っていたが、どのみち融合と幻影化の二重発動を実現させたことで、全てを出しきってしまったようだ。

 コイツには、本当に助けられたな。

 お前は俺にとって、失敗作じゃなかったよ。

 そして、約束は守らなければならない。

 俺は四枚のカードを取り出すと、解放する。

 カードが消えていき、何も残らない。

 これでいい。

 少し残念だが、強いカードは今後も手に入るだろう。

 そして俺も、もっと強くなる必要がある。

 一対一で尚且なおかつ融合と幻影化の二重発動が無ければ、おそらく負けていた。
 
 勝ったのは、運の要素もあっただろう。
 
 それにブラッドもいなければ、最後の一撃を放つ前に転移で逃げていた可能性が高い。

 また数メートル転移して回避しなかったことから、転移にはある程度条件があるのだろう。

 決まった場所にしか転移できないとか、そういうのはありそうだ。

 さて、ツクロダは倒したが、まだ完全に終わりとは言えない。

 ツクロダが死んでも、洗脳は解けないと本人が言っていた。

 魔道具の自壊で、今頃王都は大変なことになっているだろう。

 同時に、それでツクロダが死亡したことも知ることになるはずだ。

 それにより今後面倒なことになるのは、避けられないだろう。

 幻影化の反動でしばらくカード化ができなくなっているだろうし、その間はハパンナ子爵の手伝いでもするかな。

 旅はカード化ができるようになってからでも、遅くはないだろう。

「おーい、そろそろ降ろしてくれ~」
「ん? あ、そういえばいたね」
「ひでぇ!」

 ブラッドがそう言うので、開けた場所で降ろした。

「それじゃ、これでお別れだね」
「え? これからも一緒じゃないのか?」
「そんなわけないじゃん。今回は一時的な協力でしょ?」
「そ、そうだけど……」

 俺は今回、改めて一人で行動した方が性に合っていることを理解した。

 一時的であれば仕方がないが、これからもというのは無理だ。

 それに、俺はそこまでブラッドに気を許してはいない。

 壁尻の件は、今も俺の中でくすぶっている。

 加えて、俺もそろそろ男に戻りたい。

 このままレフと融合したままでは、精神にまで影響が出そうだ。

 また男に戻った姿を見られれば、確実に面倒なことになる。

 なので、ここで別れるのが一番良いのだ。

「諦めて」
「どうしてもか?」
「うん」

 俺が首を縦に振らないと理解したのか、ブラッドが次の手に出る。

「こ、これからこの国で洗脳された人たちを助けるんだ! 手を貸してくれ! 俺も手伝ったんだし、良いだろ?」
「うーん。無理だね。それにこの国はもうおしまいだよ。洗脳も簡単には解けない。私たちは、大を助けるために小を犠牲にしたんだよ?
 この国を助けるということは、今度は他の二国と戦うことにもなる。それに、私はオブール王国に助けたい人がいて、その人のために今回動いたんだよね。その意味が無くなっちゃうよ」

 ブラッドの言葉は、聞き心地の良いだけの偽善だろう。

 全てを都合よく助けられるなど、物語の中だけだ。

 洗脳を解く方法は不明だし、それを行ったツクロダはもういない。

 その間に、事態は動くだろう。

 この国が起こした戦争だ。今度は侵攻される番になるだけである。

 前にも思ったが、洗脳されたことは言い訳にはならない。

 既に多くの死者が、オブール王国から出ているのだ。

 ドラゴルーラ王国も、同様に死者が多く出ただろう。

 俺に、国をどうこうする力はない。

 物理的にはあるかもしれないが、する気はなかった。

 諸悪の根源である、ツクロダを消しただけで上々だろう。

 それに、もはや止めることは不可能だ。

 今更ラブライア王国を助けるなど、むしろ悲惨な結果になるだけだろう。

 理想と現実は、違うのだ。

 ブラッドの言いたいことも分からなくもない……と言いたいところだが、コイツはダメだ。

 今の言葉が正義心ではなく、俺を引き留めるために言ったのがバレバレなのである。

 とてもたちが悪い。

「わ、分かった! じゃあ俺がそっちに行く! オブール王国に行くんだろ? 俺も連れて行ってくれよ!」
「絶対にダメ。ここでお別れ。正直君みたいな人、嫌いなんだよね」
「なあっ!?」

 俺の発言に、ブラッドが少なからずショックを受けているみたいだった。

 しかし、そんなことはどうでもいい。

 もう相手をするのも面倒だ。このまま帰ろう。

 俺がそう思った時だった。

「強制決闘発動! 俺が勝ったら、ジフレちゃんは俺に絶対服従の嫁になってもらう! 大丈夫だ! 俺はツクロダとは違う。大切にする! ジフレちゃんもきっと、後から分かってくれるはずだ!」
「最低……もう、どうしようもないね」

 周囲が暗くなり、俺は逃げることができなくなる。

 まさかコイツが、ここまで馬鹿だとは思わなかった。

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