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第三章
090 ツクロダダンジョン ④
しおりを挟むよし、この作戦で行こう。
俺は少しの間考えを巡らせ、一つの作戦を思いつく。
かなりごり押しになるが、モンスターを突撃させるより効率がいい。
まず初めに、ブラッドをダークネスチェインで簀巻き状態のようにする。
「う”ぅ”がぁ”あ”!」
このときブラッドが多少抵抗するが、無視しておく。
そして次に生活魔法の氷塊で、この簀巻きを凍らせる。
これで、大体の準備ができた。
さて、上手く行けよ。
最後に、勢いよく簀巻きになり凍ったブラッドを床を滑らすように投擲する。
加えてその瞬間、俺はそれに飛び乗った。
更に凍らせたダークネスチェインを、左右と上部にも展開する。
また勢いがなくならないために、生活魔法の微風に魔力を込めて追い風を作った。
それにより簀巻きになり凍ったブラッド、通称ブラッド号が通路を突き進む。
当然ワイヤートラップを発動させるが、自爆ネズミが爆発する時には既にそこにはいない。
次に左右の壁から槍が飛び出すゾーンだが、微風でタイミングよく左右に移動させて、回避する。
槍は右と左で、飛び出すタイミングが違った。
上手く回避を続けるが、多少は当たってしまう。
だが凍ったダークネスチェインは、びくともしない。
ブラッド号の勢いも衰えなかった。
そして最後に、下から炎が吹き出すゾーンへとやってくる。
ここもタイミングによって、炎が吹き出す場所が変わる感じだ。
流石にここはタイミングが上手くつかめず、何度か直撃してしまう。
それをブラッド号の下部を氷塊を絶やさず出し続けることで耐え、転覆は炎が吹き出す穴に、ダークネスチェインを引っかけることで何とか防いだ。
そうして三つ目のゾーンを越えると、目の前に階段が見えた。
直感のエクストラにより罠が無い気がしたので、俺はその時点でブラッド号から飛び降りる。
そしてブラッド号は壁に激突すると、ようやく停止した。
「ア”ガガ……」
氷塊とダークネスチェインを解くと、ブラッドは目を回して気を失っている。
「着いたよ」
「アババっ!?」
なので生活魔法の飲水をかけ、ブラッドを叩き起こした。
さて、スタート地点に戻されてはいないし、一応合法と認められたようだ。
またかなり距離が離れてしまったが、爆発ネズミのカード化を一応試みる。
おっ、これだけ離れていても、カード化はできるみたいだな。
それと罠を発動させたのが俺と判断されたからか、カード化の条件も満たしているようだ。
しかし最初の一匹目は俺じゃなく遠隔で発動された訳だが、それも俺が倒したと判断されたのだろうか?
自爆ネズミが爆発した時に、遠隔で起動した者が近くにいなかったからか?
それか前提として、遠隔操作されたというのが、そもそも間違いだったのかもしれない。
これについては、少しわからないな。
まあカード化できたので、良しとしておこう。
ちなみに自爆ネズミは、三十匹ほどカード化した。
一度の罠で複数匹落ちていたと思われるので、そう考えると意外に少ないかもしれない。
そうしてブラッドを再びダークネスチェインで持ち上げながら、四階層目に下りる。
また霧が消えたことを確認してから麻痺を治すポーションを使い、ブラッドを復活させた。
「た、助かったが、あのやり方は流石にあんまりだ……」
「そう言われても、仕方がないでしょ? あれが最善だったんだよ」
「本当に最善だったのか……?」
「うん、最善だったよ」
「そうか……」
すると治った途端に、ブラッドはそんな文句を言う。
スピードと守りが揃った、良い作戦なんだがな。
モンスターも消費しなかったし、個人的にはかなり良い結果だと思う。
そうして無事に四階層目へと来れたので、俺たちは先に進むことにした。
「まじか、アレが出てくるのかよ!」
「大丈夫、私はアレを倒すのに慣れているからね」
するとさっそく俺たちの目の前に、リビングアーマーが現れる。
手には銃を握っており、複数体が並んでいた。
この遮蔽物の無い真っすぐな通路では、こちらは実に良い的だろう。
しかし俺にとって、リビングアーマーはもはや狩りなれた相手だ。
伊達に千体も、カード化していない。
ダークネスチェインで、瞬く間に倒しきった。
「すげえ。俺は近距離専門だから、銃とか近付く間に撃たれちまうんだよな」
「とりあえず、リビングアーマーは任せて」
「ああ、頼りにしてるぜ!」
ブラッドはそう言って、サムズアップをしてくる。
だがこの階層に罠は無さそうなので、それによりブラッドはやることが実質なくなった。
まあ、ブラッドはツクロダに神授スキルを使ってくれれば、もうそれだけでいいか。
俺はそう割り切り、先へと進む。
道中は当然、リビングアーマーが何体も出てくる。
これ以上リビングアーマーはカード化できないので、個人的には美味しい相手ではない。
しかし罠よりは、断然マシだ。
ちなみに曲がり角で遭遇した際には、流石にブラッドも戦う。
接近戦であれば、リビングアーマーは相手にはならないようだ。
けれどもリビングアーマーの爆発に巻き込まれて、ブラッドは吹き飛ばされる。
だが頑丈なのか、それほど堪えた様子はなかった。
またこの階層をかなり進んだが、リビングアーマーが召喚される魔法陣は見当たらない。
おそらく、別の場所で召喚しているのだろう。
理由は輪をつけて、銃を持たせるためだと思われる。
だとすればこのリビングアーマーたちと契約している者が、ツクロダの近くにいるのかもしれない。
その点も、注意しておこう。
「楽勝だな!」
「まあそうだね」
麻痺の霧が相当辛かったのか、その分ブラッドが活き活きとしている。
そうして何事もなく進み続け、ようやく階段を見つけた。
しかし、そこで問題が起きる。
明らかに直感が、危険だと告げていた。
もしかしたら、罠があるかもしれない。
そう思いブラッドに確認させたが、罠が見つからないという。
加えてブラッドが一生懸命探していると、いつの間にかブラッドが階段の前に辿り着いてしまった。
「罠感知も発動しないし、見たところ罠なんか無いから来ても大丈夫だ!」
そう言うが、何か得体のしれないものを感じるのである。
俺が何時までも動かないからか、ブラッドがこちらに戻ってきた。
「おい、どうしたんだよ?」
「何かとてつもなく、嫌な予感がするんだよね」
「それはきっと気のせいだ。俺がここまで確認して無いんだから、間違いない」
「そうかな?」
「ああ、それに、ここでモタモタしている訳にはいかないだろ?」
「そ、そうだね……」
これは、ブラッドの言う通りかもしれない。
嫌な予感がしていてもそれが分からない以上、ここで立ち止まっているわけにはいかなかった。
何かあれば、その時対処するしかない。
しかしこの感じは払拭されないので、一応ブラッドが歩いた場所に足を置いて移動する。
だが、階段まで残り僅かというところで、それは起きた。
「え? なに、これ……」
気が付けば俺の胴体が、壁に埋まっている。
ちょうど腰あたりを境に、壁があるのだ。
足の感覚はあるので、下半身は少なくとも開けた場所にある。
目の前には通路が広がっており、何もない。
「まじか……これが伝説の壁尻……」
すると、壁の向こうからブラッドの声が聞こえた。
壁尻? なんだそれは?
よく分からないが、嫌な予感しかしない。
だがこの壁を破壊すれば、スタート地点に戻されてしまう。
ここまで来て、スタート地点に戻されるのは嫌すぎる。
「ご、ごくり……い、今助けてやるからな! へへへ」
「ぜ、ぜったい何かする気でしょ!!」
不味い。この状況では、ブラッドが血迷った行動をするかもしれない。
「だ、大丈夫だ。何もしない。ただ少し引っ張るだけだ! けど、それで触ってしまうのは、しかたがないよな?」
「ふ、ふざけないでよ! 触ったら許さないからね!」
不味い不味い不味い。
今までにないくらい、冷や汗が出る。
レフも心の中で、悲痛の叫びを上げていた。
だがレフの叫びを聞いたことで、俺はあることを思い出す。
しゅ、縮小!
それにより、俺の体はみるみるうちに小さくなる。
結果として縮小のスキルにより、俺は無事に壁から脱出を果たす。
「え? な、何で小さく??」
すると間の抜けた表情で、ブラッドがそんなことを口にした。
よく見れば、ブラッドは両手を揉むように構えており、口からはよだれを垂らしている。
最低だ。こいつ、マジで最低だ。
俺の中で処分するべき人間の一歩手前まで、ブラッドが落ちてくる。
もしこれ以上似たような事をするのであれば、ツクロダを倒したあとに、コイツも倒すか考えよう。
俺は心の中で、強くそう決意するのだった。
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