88 / 320
第三章
086 ツクロダの登場
しおりを挟むツクロダは来ると言っていたが、中々来ない。
てっきり突然転移してきてもおかしくないと思っていたのだが、違ったのだろうか?
それとも、他の仲間を集めている可能性もある。
加えてあれから、目の前の少女とツクロダは連絡を取っていない。
また少女たちは、気絶させないでこのままにしている。
盗み聞きをするためと、ツクロダを警戒させないためだ。
しかし連絡はしていないし、今更ツクロダがやってこないとは思えない。
話を聞く限り、ツクロダはかなり俺への執着を見せていた。
であれば、この少女たちをこのまま気絶させても問題はないだろう。
最善を考えるならば殺した方がいいのかもしれないが、その場合ブラッドが騒ぐので止めておく。
そういう訳で、俺はダークネスチェインを操って少女たちを気絶させた。
「お、おい、殺したのか!?」
「いや、ただ気絶させただけだよ」
「そ、そうか。流石に美少女を殺すのは反対だったから、よかったぜ」
うーん。兵士たちを殺した時は何も言わなかったのだが、ブラッドにとってやはり美少女は別だったようだ。
俺も人族で異性に興味があったのなら、同じように思ったのだろうか?
この感覚のずれは、誰かと組む際は気を付けた方がいいかもしれないな。
些細なことで、言い合いに発展するかもしれない。
そんなことを思いながら、俺はツクロダを待つ。
ブラッドにはその間に、少女たちを縄で縛るように言っておいた。
ツクロダが来ることを話した場合、心が読める事も知られてしまう。
これはツクロダにも現状数少ない有効な事なので、ブラッドにも内緒にしておく。
何が切っ掛けで、知られるとも限らない。
「へへ、これは縛るためだから、仕方ないよな?」
「ねえ、状況分かってる? 変な事してる場合じゃないでしょ?」
「っ!? あ、ああ。分かってるって」
ブラッドはこんな時にもかかわらず、少女たちを縄で縛る際にイタズラをしていた。
これには、正直呆れる。
ツクロダとの戦いに必要だから共にいるが、全て終わったらあまり関わりたくはない人物だ。
そうして美少女たちを縛り終えて数分後、変化が訪れる。
突如として、目の前に黒目黒髪をした少年が現れた。
髪型はキノコのようであり、細い目と丸眼鏡。また特徴的な出っ歯をしており、ひ弱そうな細身をしている。
その特徴から、ツクロダだと判断した。
俺はその瞬間、両腕を獣に変えて襲い掛かる。
『おおっ、本当に猫耳美少女じゃ――うわっぁあ!?』
「な!?」
しかし俺の攻撃は空を切り、全く当たる気配が無かった。
『い、いきなり何をするんだ! ホログラムじゃなきゃ死んでたぞ!! お、お前、僕ちゃんの物にしたら覚悟しておけよ!!』
どうやら目の前のこれは、ホログラムらしい。
つまり、ツクロダはここに来ていないことになる。
「いきなりなんだ!? お前、一体何者だ!」
ツクロダがやって来ることを知らなかったブラッドが、そう誰何した。
『はぁ? 犬畜生が頭が高いんだが? 僕ちゃんはこの国、いや大陸の神、ツクロダ様だぞ? お前はいらないし、殺したら剥製にするからな』
「何だと! てめぇ、出てきやがれ! 怖くて出てこれないのか!!」
ブラッドはツクロダの言葉に激高して、ホログラムに殴りかかる。
だが当然、その攻撃は意味がない。
『うひゃひゃ! こいつ間抜け過ぎるだろ! ホログラムだって言ったばかりなのに攻撃してるとか!』
対してツクロダは、ブラッドを指さして笑い声を上げる。
俺はその隙に、鑑定や以心伝心+を発動させた。
しかしホログラムだからか、全く通じる気配が無い。
これは困ったな。コイツの狙いはなんだ? いったい本人はどこにいる?
少女たちを気絶させたのは、間違いだったかもしれない。
しかし今から起こすのは不自然だし、この状況でどうにかする必要がある。
「笑っているところ悪いけど、いったい何の用かな? もしかして、もう逃げちゃった?」
『ん? ああ、そうだった。こんな犬畜生に構っている場合じゃなかったな。どうやら猫耳ちゃんも、転移者なんだろう? 僕ちゃんには分かるぜ』
分かるも何も、おそらく少女たちから伝えられていたに過ぎないだろ。
「そうだけど、それで?」
『ああ、転移者だとほら、神授スキルを持っているだろ? 僕ちゃんも流石に警戒せざるを得ない訳じゃん?
だからさ、今僕ちゃんに絶対服従を誓うなら、お嫁さんの一人として一生かわいがってやるけど、従う気ある? ちなみに断ったら、奴隷だから』
それを言うために現れたのか? 従う訳ないだろ。
「当然断るよ」
『あっそう、じゃあ奴隷決定な』
断ることは織り込み済みだったのか、ツクロダがそう答えた瞬間、俺の足元に穴が現れる。
ブラッドも同様のようで、現れた穴へと落下していった。
対して俺は何かしてくるとは思っていたので、壁の燭台にダークネスチェインを引っかけて落下することを防いだ。
そしてダークネスチェインに引っ張らせて、俺は穴から脱出する。
『はぁ!? そこは普通落ちるだろ!? 空気読めよ!!』
「残念だったね?」
『くそが!』
思い通りにならなかった事に腹を立てたのか、ツクロダが地団駄を踏む。
「それでどうするの?」
『ちっ、早く落ちろよ! あの犬畜生がどうなってもいいのか?』
「別にいいけど?」
『はぁ!?』
ブラッドがどうなろうと、正直どうでもいい。
ただツクロダがブラッドを殺して、ポイントの事に気が付くのは少しやっかいだった。
「ウルフは今回限りの共闘だし、自分の命をかけるほどじゃないかな」
『何て薄情な奴だ! けど落ちなければ、僕ちゃんの元には辿りつけないぞ!』
「ん? それってどういう意味?」
『簡単な事だ。その穴の先は僕ちゃんが造った人工ダンジョンになっているんだ! 僕ちゃんはその最奥にいる!』
なるほど、そういうことか。しかし、それが事実かどうかは分からない。
「それを信じる理由がないかな。明らかに罠っぽいし」
『なっ!? 嘘じゃない! それにダンジョンには、僕ちゃんの作った魔道具もあるぞ! 中には金貨百枚を余裕で超える物もある! どうだ! 欲しいだろ?』
「別にいらないけど……」
どうせ、ツクロダが死んだら壊れるか爆発する魔道具だろ? それなら持っていても意味がない。
『はぁ!? お前いい加減にしろよ! 空気読めよ!』
「貴方こそいい加減にしてくれない? 出てこないなら、この城を破壊しつくすけど?」
『おまっ、悪魔か!! 城には貴族の令嬢やメイドたちもいるんだぞ!!』
「うーん。結局この国は悲惨なことになるし、犠牲と割り切るしかないかな?」
ツクロダを失えば、この国もお終いだろう。
洗脳されていたという言い訳は、通用しない。
オブール王国とドラゴルーラ王国に、おそらく滅ぼされるだろう。
だとすれば、この国の貴族や王族には破滅しかない。
兵士やメイドもいるが、仕方がないだろう。
『く、くそがぁあ! いい加減にしやがれ!』
「え!?」
するとツクロダがとうとうキレたのか、俺は直接転移させられてしまった。
「お? ジフレちゃんも来たのか。もしかして一人になるかもって、少し心配になっていたところだ」
そんな悠長なことを、ブラッドが言ってくる。
周囲は、石壁に囲まれた部屋のようだった。
おそらく、ここがツクロダの造ったダンジョンなのだろう。
それにしても直接転移をさせられるなら、最初からすればよかったのに、なぜ行わなかったのだろうか?
いや、たぶんかなり無理をしたに違いない。
一瞬だったから抵抗しきれなかったが、かなり抗った感じはした。
おそらくツクロダは、かなり消耗しているだろう。
もしかしたら、気絶しているかもしれない。
抵抗した俺を転移させるには、かなりの魔力を消耗したはずだ。
ツクロダは人族だろうし、魔道具で魔力を底上げしていても限度がある。
つまり今は、かなりのチャンスという訳だ。
このダンジョンがどこまで続いているかは分からないが、短時間で攻略すればかなり有利な状態で戦える。
まあ前提として、ツクロダの言った通り最奥に居ればの話だが。
しかし脱出するという事も考えれば、進むしかない。
「ここはツクロダの造ったダンジョンで、最奥にいるらしいから今から攻略するよ」
「お、おう。分かったぜ!」
そうして俺とブラッドは、ツクロダの造ったダンジョン、ツクロダダンジョンに挑むのであった。
141
お気に入りに追加
1,602
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン]
何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?…
たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。
※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける
縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は……
ゆっくりしていってね!!!
※ 現在書き直し慣行中!!!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる