上 下
78 / 287
第二章

077 モンスター園の危機

しおりを挟む
 周囲を見れば、無数にモンスターの死骸が散らばっている。

 その中心に、一人の男がいた。

 おそらく、コイツが犯人だろう。

 俺は上空からダークネスチェインで男と、リビングアーマーたちを縛る。

 男は拘束されてから慌てだすが、もう遅い。

 俺はまずリビングアーマーたちを上空へと一気に引き上げると、そこで締め千切って倒す。

 当然持っていた銃や輪が爆発するが、上空なので被害は無い。

 無数の破片が、地上へと落ちていくだけだ。

 これで、問題はない。

 そうして俺は地上に降りて、男を確認する。

 よく見れば男は、俺が戦った巨漢の男だった。

 確か、茶色い熊を召喚していたやつである。

「だ、誰だお前は!!」
「別に、そんなことはどうでもよくない? 君は既に詰んでいるんだから」
「う、嘘だ……そんなはずはない!!」

 現実が受け入れられないのか、巨漢の男が慌てだす。

 俺はその隙に、自爆されないように腕を切り飛ばして、ストレージに収納しておく。

「ぐあぁあ!?」

 突然の激痛に悲鳴を上げるが、どうでもよかった。

 まずはとりあえず、鑑定をする。
 

 名称:カボン
 種族:人族
 年齢:36
 性別:男
 スキル 
【契約召喚】【アイテムポケット】
【大食い】【精神耐性(小)】
【木登り】【威圧】【拳骨強化(小)】


 どうやら名前をカボンといい、スキル構成と見た目から荒くれ者という雰囲気だ。

 問題はアイテムポケットであり、何を入れているのか分からない。

 それも含めて、以心伝心+で探りを入れる。

 結果として訊いてみれば、いろいろな事が判明した。

 まずここの襲撃については、コイツが先走ったらしい。

 予定よりも早く襲撃して、そのままの勢いでハパンナ子爵の屋敷に一人で向かうつもりだったようだ。

 本来はミシェルと合流した後に、行う計画だったのにもかかわらず。

 最終的にそこで朽ち果てようと、ツクロダの役に立てればそれでいいらしい。

 またそもそもとして、本来ミシェルがこちらを襲撃するはずだったようだ。

 しかし俺に負けてしまったことで、計画が変わったという。

 あの試合の後やけに静かだったと思ったが、どうやらツクロダへの謝罪で頭がいっぱいだったみたいである。

 だが未来視で分かっているなら、そもそも参加するのは一人で良かったのではないかと思ったが、理由があった。

 それは未来視が、必ず当たるとは限らないためである。
 
 なので慎重な性格なのか、ツクロダの言う通り二人で挑んだとのこと。

 結果として俺に負けたので自責の念と共に、流石ツクロダ様だとより忠誠心が増したという。

 ここまでくると狂信者の域だが、そこまでツクロダという人物はカリスマ性に溢れているのだろうか?

 なのでツクロダについて調べてみると、凄い力を持っていることや、かっこいいこと、ついて行きたくなるようなカリスマ性があるらしい。

 だがその容姿を聞いて、俺は首をかしげることになる。

 ツクロダは、身長160cmほどの黒髪黒目の少年で、髪型はキノコに酷似しているようだ。

 また丸眼鏡をしており、目が細い。加えて出っ歯の細身の体をしているらしい。
 
 実際に会ったことが無いので分からないが、そこまで絶賛するものを感じなかった。

 確かに神授スキルは凄いのだが……。いや、だからか。

 俺は、とある事を理解した。

 おそらく、相手を洗脳する魔道具があるのだろう。

 しかも、精神耐性があっても突破できるようだ。

 現にこのカボンという男は、精神耐性(小)を所持している。 
 
 これにより、様々な不審点が解消された。

 まず王様に気に入られて伯爵になり、姫と結婚したのは、百歩譲っていいだろう。

 けれども高々一月ほど前に現れた人間に、果たして国の行く末を決める作戦を任せるだろうか?

 あの白い空間では、誤差はあれどほぼ全員同じ時期に転移したはずだ。

 であるならば、まだこの世界に来て一月ほどとなる。

 もしかしたらあの空間での一秒が、こちらの世界での一日以上という可能性もあるかもしれない。

 だがどちらにしても年齢は十六歳らしく、国に現れて一月ほどとこの男は心の中で言っていた。

 なのでこの世界に来たのが俺と同時期というのは、ほぼ変わらない。

 それで話を戻すが、王様が認めても、周囲の貴族などは反対するだろう。

 いかに能力と作戦が優れていても、新参者に反発する貴族は出てくるはずだ。

 加えて国の将来のかかった重大な作戦が、そんなすぐに決まるはずがない。

 何より一番の問題は、この国が大会中ということだ。

 この大会は、かなり神聖なものらしい。

 大陸が統一されていた時期からあり、多少名称や形を変えても残っている文化だという。

 これは他の二国でも別の時期に行われており、数年に一度代表を決めて三国で競う大切な行事とのこと。

 なのでこの時期への他国からの襲撃は有り得ず、逆に大会中の侵攻も有り得ないのだ。

 そんなことをすれば、二つの国が同盟を組んで襲ってくる良い口実になってしまう。

 なので例えこの作戦がいかに優れていようとも、様々な面から有り得ないことらしい。

 だがそれが実際に起こり、成功率もそれに見合うだけの価値がある。

 おそらく他の街では、既に手遅れな状況になっている可能性が高い。

 流石にそれをどうにかするのは、俺には無理だ。

 そしてそれを可能にした物こそ、洗脳の魔道具なのだろう。

 おそらくラブライア王国は、既にツクロダの手に落ちている。

 これは、想像以上に不味い状況だ。

 オブール王国は、かなりの窮地といっても過言ではない。

 またドラゴルーラ王国にも、何かしているようだ。

 この男も詳しいことは知らないようだが、戦争中に強襲をしているらしい。

 そういえば、ノブモ村の宿屋で似たようなことを聞いた記憶がある。

 となれば、かなり進んだところまで既に強襲は行われているだろう。

 あの銃を持ったリビングアーマーが襲うとなれば、ドラゴルーラ王国もかなり痛手なはずだ。

 加えてドラゴルーラ王国は、俺がやってきた国と戦争中でもある。

 これは完全に、大陸の統一を目標にしているな。

 想像以上に、ツクロダという人物は危険だ。

 以前倒したタヌゥカなど、足元にも及ばない。

 何か手を考えなければ、この大陸はツクロダの手に落ちる。

 俺はそう思いながらも、カボンから引き続き情報を収集した。

 するとどうやらアイテムポケットには、連絡用の魔道具が入っているらしい。

 他にもモンスター園でなぜかやけに強いおっさんに邪魔されて、他のモンスターを逃がされたとのこと。

 その人物は既に死んでいると言っていたので、確認すればこの園を任されているデガロという人物だった。

 一度挨拶しただけだが、決して強そうには見えない。

 おそらく周囲のモンスターの亡骸は亡くなったデガロのモンスターであり、それで戦ったのだろう。

 どうやらカボンがリビングアーマーを召喚した瞬間、合わせるように出してきたという。

 もしかしたら、不審に思い後をつけていたのかもしれない。

 俺に負けた事で、この男は相当功に焦っていたようだ。
 
 結果として俺が間に合ったのは、この人の頑張りのおかげだろう。

 でなければ、今頃無関係のモンスターたちが虐殺されていた。

 今はどうすることもできないので、生活魔法の清潔で汚れを落とすくらいしかできない。

 とりあえずこのカボンという男を、ハパンナ子爵のところに運ぼう。

 ちなみに当然のように茶色熊、ブラウングリズリーやオークをけしかけてきたので、倒しておいた。

 またコイツのモンスターは、カード化しない。

 他人のモンスター云々うんぬんというより、生理的な拒否反応が出た。

 無理やりではなく、自らこの男に従っていたモンスターなど、欲しくもない。

 人を悪人と判断して処分するのと同様に、モンスターも処分する。

 モンスターは関係ないとか、可哀かわいそうだとかは一切思わない。

 主のために仕方なくだとしても、関係ない。

 そこに確固たる意志があったのであれば、同罪だ。

 なので俺は男のモンスターはカード化しないが、輪で服従させられているリビングアーマーはカード化を行う。

 また園を任せられていたデガロが奮闘したのか、カード化できたのは三十六枚だった。
 
 つまりデガロは、十四匹のリビングアーマーを倒したことになる。

 数はミシェルが五十と心の中で言っていたので、間違いない。

 たいした人物だ。

 そんなことを思いながら、俺は後からここに来る者のために置手紙をデガロの亡骸に持たせると、グリフォンに乗る。

 ここでやることも済んだし、戻ろう。

 そうしてダークネスチェインでカボンを宙吊り状態にしながら、闘技場へと戻るのだった。

しおりを挟む
感想 66

あなたにおすすめの小説

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...