39 / 320
第二章
038 大会への参加申請
しおりを挟む翌朝目が覚めると、俺は宿屋の店主に大会の事を訊いてみた。
するとどうやら大会は王都で行われるようであり、本戦は二カ月後らしい。
現在は予選が行われているようで、ちょうどこの村でも二日後にあるようだ。
またこの宿屋はテイマーとサモナー専用という事もあり、予選の参加申請ができるようである。
それを聞いた俺は、もちろん参加申請をした。
予選参加費の銀貨一枚を払い、用紙に必要事項を記入していく。
といっても名前や年齢、性別が主であり、出身地の欄もあったが未記入でも構わないとのこと。
ちなみに文字は言語理解のおかげで、問題なく書けている。
他には簡単な説明があり、基本的にルールは三対三の勝ち抜き戦のようだ。
先に相手のモンスターを全て倒せば勝ちである。
それと、相手のモンスターを故意に殺害してはいけないそうだ。
まあそれは当たり前なので、問題はない。
後は出場に際し、モンスターを三匹用意する必要がある。
それについても余裕なので、大丈夫だ。
むしろどのモンスターを出すか、考えなければいけない。
そう言う訳で二日後の午前から予選が始まることもあり、俺は追加で二日分の宿代を払った。
さて、二日後までにできることをしておこう。
その後宿屋を出た俺は、まずはこの村、ノブモ村を散策することにする。
ちなみに村の名前は、宿屋の店主に訊いた。
ノブモ村は意外と規模が大きく、活気がある。
行きかう人も多いし、屋台などもたくさん見かけた。
そして流石モンスターを使役する国なのか、村の中でモンスターが普通に歩いている。
もちろん誰かに使役された個体なので、基本的には安全だ。
「ごぶっ!」
「ごぶが!!」
「おいやめろ!」
「こらっ! 喧嘩するな!」
だが稀にモンスター同士が喧嘩をしていたり、商品をこっそり盗もうとしていた。
他にもすれ違う女性に、ちょっかいをかけている。
まあ、そのほとんどがゴブリンなのだが。
やはり、ゴブリンの使役は難しいようである。
他にもホーンラビットやスライム、巨大な芋虫も見かけた。
おおよそ、ザコモンスターに分類されるものがほとんどだ。
しかしこれほどモンスターを使役する者が多いこと自体が、驚きである。
使役方法はスキルなのだろうか? それとも、スキル無しで使役しているのか?
気になるが、安易に鑑定はしない。
それで面倒ごとになったら困るし、そもそもマナー違反だ。
この国にいれば、いずれ詳細が分かるだろう。
そうして村の散策を続けると、俺は冒険者ギルドを見つける。
またギルドのすぐ近くには、モンスターを預ける場所があるみたいだ。
よく見れば、ホブゴブリンがいる。
何気に俺のホブゴブリン以外では、初めて他のホブゴブリンを見た。
おそらく強さは、オークと同等くらいだろう。
つまりはダンジョンボスのエクストラを持つ、俺のホブゴブリンの相手にはならない。
このホブゴブリンも、大会の予選に出てくるのだろうか。
戦うとなれば、それはそれで楽しみだ。
そんなことを思いつつ、俺は冒険者ギルドに入る。
ギルド内は、ラスターダ王国のものと大差はない。
まあ創造神によって冒険者ギルドは統一されているらしいので、気にしなくてもいいだろう。
なのでおそらく、俺も普通に活動できるはずである。
「予選に出るのか? 俺はやめにしたぜ。見たか、あのホブゴブリン。ゴブリン三匹集めても勝ち目がねえよ」
「だよなぁ。こんな村であれは反則だ。おそらく外から来た奴だろう」
「ドラゴルーラの奴か? 大会に出身国は関係ないが、何か複雑だな」
「外の奴に荒らされるのは、国境付近の村だから仕方ない。だが毎回そうだと嫌になる」
掲示板に向っていると、そんな話し声が聞こえてきた。
どうやらあのホブゴブリンは、この村の冒険者にとってはかなりのものらしい。
村規模だと、そんなものなのか。
テイマーが多いといっても、大部分はゴブリンレベルなのかもしれない。
問題は、外からやって来る強者という訳か。
あのホブゴブリン以外にもいるかもしれないし、これは注意しておこう。
そして掲示板に辿り着いて内容を確認するが、どれも微妙だ。
内容的には、護衛依頼が多い。
いつかは経験してみようとは思うが、今はその時ではなかった。
少なくとも、大会が終わるまでは進んで受けることはない。
あとはゴブリンの討伐やホーンラビットの納品、薬草採取にグリーンキャタピラーの納品などがある。
あの巨大な緑色をした芋虫の名称は、見た目通りグリーンキャタピラーのようだ。
納品という事は、有用な素材が手に入るのだろう。
続けて他の依頼も見てみるが、高ランクのものはほとんどない。
俺の受けられる範囲では、Dランクのゴブリンの村殲滅作戦だろうか。
これは人数がそろい次第、三日後に行われるようだ。
ちなみに注意事項には、使役しているゴブリンには分かりやすい目印が必須であることや、間違って殺してしまった際には当事者同士で問題を解決することが書かれている。
まあ、ぱっと見ゴブリンの違いなんて分からないから、仕方がないか。
それとスケジュールはおそらく、大会の予選を意識したものだろう。
大会の予選後にまだ受け付けていたら、その時考えるか。
この二日の間に、何かあるかもしれないしな。
そうして結局、俺は常備依頼だけを確認してギルドを出た。
元々今日は依頼を受ける気はなく、試したいことをするつもりである。
冒険者ギルドに寄ったのは、何となく目についたからだ。
その後は村を出て、人気のない場所まで歩く。
この辺ならいいだろう。
人が周囲にいないことを確認すると、俺は足元の草にとある魔法を使った。
「植育」
それは、上級生活魔法の植育である。
植育を発動させると、魔力が草に集まっていく。
「おおっ」
すると草はまるで早送りのように成長していくが、限界が来たのか途中から枯れ始める。
そして最後には灰のようになり、風と共に飛んでいく。
なるほど。植育は想像以上に凄いスキルのようだ。
ここまでするのには膨大な魔力が必要であり、正直割に合わない。
だが効果が及ぶ範囲によっては、面白いことができるだろう。
試してみる価値はある。
なので俺は、実験のためにモンスターを探した。
「ごぶ?」
そうして見つけたのは、どこにでもいるゴブリン。
「植育」
まずはゴブリンに向けて発動するが、変化はない。
まあ、これは当然だ。
「ごぶぶ!」
続いてゴブリンの目の前に、ストレージから取り出したリンゴを転がす。
ゴブリンはそれを見て周囲を確認するが、誰もいないと判断すると旨そうにリンゴを食べ始めた。
ちなみに俺は姿隠しで隠れているので、ゴブリンに見つかることはない。
さて、これならどうだろうか。
「植育」
俺はゴブリンの食べたリンゴの種を意識して発動してみるが、これも変化はない。
うーん。距離が遠すぎたのだろうか。
「ごぶあぁ!?」
なのでジャイアントリーチを数匹放ち、ゴブリンを麻痺で動けなくした。
この距離なら、どうだ?
俺は動けなくなったゴブリンの胃袋辺りに手のひらをかざし、植育を発動してみる。
すると草の時以上の魔力が必要なことに加えて、かなりの操作性と集中量が要求された。
だがそれでも魔法は通っているようなので、そのまま続ける。
「ごがごがぁあああ!!!」
そしてとうとう、ゴブリンの腹を若木が突き破って現れた。
ゴブリンはしばらく苦痛に悶えていたが、出血と根の侵食によって息絶える。
ふむ。これを実戦で使うのは、あまり現実的ではないな。
必要な魔力や時間がかかり過ぎる。
植育は、戦闘で使えるものではない。
だがもしかしたら植物系モンスターになら植育は効くかもしれないので、見つけたら試してみよう。
それと一応修理と調整を発動してみるが、何も起きない。
けれども、魔充は発動した。
ん? 体内の魔石に魔力を補充しているのか?
念のためしばらく続けていると、ゴブリンの死体に変化が訪れる。
「ご、ごぶ……」
虚ろな目をしたゴブリンが、腹に若木を生やしたまま立ち上がった。
「おおっ」
もしかして、ゾンビになったのか?
カード化してみたいが、まだカード化できない期間は続いている。
もったいないが、処分するしかない。
俺はゴブリンゾンビに魔力を込めた種火を飛ばして証拠を隠滅すると、その場から離れることにした。
うーん。ここまでしておいて何だが、流石にゴブリン相手でもやりすぎたかもしれないな。
客観的に見ても、狂気じみている。
ゴブリンの腹から植物を生やして殺害し、ゾンビ化させて焼却処分した。
けれども不思議なことに、罪悪感は一切ない。
やったことにも後悔はないし、これからも自分の力を確認する為には行い続けるだろう。
悪いが、ゴブリンには犠牲になってもらうことにする。
そうして俺は、次の実験体を探すのであった。
140
お気に入りに追加
1,602
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン]
何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?…
たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。
※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける
縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は……
ゆっくりしていってね!!!
※ 現在書き直し慣行中!!!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる