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第2章

030 絶望と後悔

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 弟くん収穫祭の初日は、あれ以降何事もなく終わった。

 そして深夜の時間帯も誰か来ることが無く、現在は二日目の朝9時である。

 平和だが、これで終わりだとは思えない。

 いつシスターモンスターが来てもいいように、俺たちは待機している。

 ちなみに、昨日ロリ―ちゃんが掘った穴や一部を破壊した第1プレートであるが、そのままにしていた。

 理由としては、そもそも補修などできないし、時間をかけて土をかけたところで一瞬で掘り返されてしまう。

 また、補修作業中にシスターモンスターが来たら一巻の終わりだ。

 秘密基地に籠っている意味がなくなってしまう。

 そういうことで、ロリ―ちゃんが掘った穴や第1プレートはそのままという訳である。

「凛也君、また来たわ……それも、一人ではなさそうよ」
「マジかよ……」

 鬱実の指さすモニターの一つには、何やら人影が写っている。

 よく見れば、先頭にはロリ―ちゃんがおり、その後ろに大勢のシスターモンスターが見えていた。

 ぱっと見だが、全部で20人~30人はいるように見える。

 しかもそれぞれシャベルやつるはしを持っており、やる気満々だ。

『ふふふ、ロリ―ちゃんが帰ってきたわよ! たくさん仲間も連れてきたんだから! これで、あんたもお終いね!』

 高らかにそう言って残虐そうな笑みを浮かべるロリ―ちゃん。

『すごい! 本当に何かある!』
『これって地下に家があるのかな?』
『どんなお兄ちゃんがいるんだろう?』
『たのしみー』

 対して、集まったシスターモンスター達はまるでピクニック気分のようだった。

『あんたたち! それじゃあ、やるわよ!』
『はーい!』
『しょうがないにゃぁ』
『お兄ちゃんを発掘ダー!』
『弟くん待っていてね』

 そして、シスターモンスター達が穴を掘り始め、プレートを破壊し始める。

 これは流石に不味くないか? ロリ―ちゃん一人ならどうにかなったけど、約30人も集まればどうにかなってしまう気がした。

「不味いわね。もしかしたら、破られるかもしれないわ」
「――ッそれは本当にヤバいな」

 いつもふざけている鬱実が、今回ばかりは誰が見ても分かるような焦りを見せている。

「ど、どうしましょう……」
「そ、そうだ。裏口みたいのはないんですか?」

 夢香ちゃんも焦り、瑠理香ちゃんは裏口が無いか鬱実に訊いた。

 確かに、裏口のようなものがあれば、もしものときは脱出することができる。

「ごめんなさい……裏口はないわ」
「そんな……」
「うそでしょ……」

 しかし、残念ながらこの秘密基地に裏口は無いようだった。

 つまり、逃げ道は無い。

 全てのプレートを破壊されれば、この秘密基地に侵入されるのも時間の問題だ。

「くっ、突破されないことを祈るしかないな」
「そうね……」

『あははっ! やっぱりパワー系がいると早いわね! 昨日の作業が嘘のようだわ!』
『兄貴に会うためなら頑張るぜッ!』
『ふんっ、引きこもりの愚弟をさっさと引きずりだしてやる!』

 俺たちが落ち込んでいる間にも、シスターモンスター達の作業は順調に進む。

 また穴が広がったことで、プレートを破壊しようとしているシスターモンスターをモニターから確認できるようになった。

 比較的身長の高いシスターモンスターが中心であり、つるはしを振り下ろす速度が尋常ではない。

 ロリ―ちゃんの言っていたパワー系というシスターモンスター達だろう。

「なんだよパワー系って……」
「あれでは、あっという間に……」
「どうしよう……」

 残り二日間も耐えられるのか不安になってくる。

 だがそれでも、俺たちにできるのは見守ることだけだ。

 そうして時間が過ぎていき、気が付けば二日目が終わっていた。

 プレートは既に何枚も破壊されており、残りは少なそうである。

 どう考えても、三日目中に突破されるのは目に見えていた。

 ははっ、やっぱり最後はこうなるのかよ。

 一時は、お兄ちゃん保護法で希望が見えていた。

 この秘密基地があれば、きっと生き残れる。

 そんな希望に満ちていた。

 三人への返事をどうするかなど、俺の危機意識はまるでない。

 これまでどうにかなっていただけに、俺はシスターモンスターをどこか甘く見ていたのだ。

 その結果が、これである。

『もうすぐ会えるからね! このロリ―ちゃんに目をつけられたのが運の尽きよ!』
『お兄ちゃん!、お兄ちゃん!、お兄ちゃん!』
『弟くん!、弟くん!、弟くん!』

 シスターモンスターは楽しそうに破壊を続けていた。

 諦める様子はどこにもない。

 そして、とうとう天井から破壊音が聞こえてきた。

「もう、無理そうだな……」
「そんな……」
「うぅ……」

 夢香ちゃんは絶望した顔になり、瑠理香ちゃんは涙を流す。

 二人とも、もう助からないことを理解しているのだろう。

 「……」

 あれだけ騒がしい鬱実も、終始無言だ。

 これは、本当に終わったかもしれない。

 バッドエンドだ。

 ゾンビものの映画でも、バッドエンドはよくある。

 現実世界の一般人である俺たちが、こうした終わり方をしてしまうのも必然なのだろう。

 もっとあれをしておけばよかった。これをしておけばよかったと、つい考えてしまう。

 最後なら、最後なりに言った方がいいよな。

「三人とも、聞いてくれ」

 俺がそう言うと、三人の視線が俺に向いた。

「こんなことになってしまったが、最後に言っておく。俺は、三人のことを愛している。死んでも、愛し続けることを誓う。はは、もっと早く言えばよかったな。ごめん」
「凛也先輩……」
「凛也お兄ちゃん……」

 俺の言葉を聞いて、夢香ちゃんと瑠理香ちゃんが俺に近づき、ゆっくりと抱きつく。

 当然、俺も二人を抱きしめた。

「本当に、遅すぎますよ……でも、うれしいです」
「うん。最後にこんな幸せなら、怖くないよ」

 涙を流して微笑む二人につられて、俺も笑みを浮かべて涙を流す。

 本当に、どうしてこうなったんだろうな……。

 俺たち三人がそんな心情でいると、反応の無かった鬱実がようやく動き出した。

「ふ、ふふふ。勝った。最後に勝ったわ。これで、あたしが女王よ」
「は?」

 何を言っているんだ? とうとう本当におかしくなったのか?

 俺は一瞬、鬱実が何を言っているのか理解できなかった。

 それは二人も同様のようだ。

「時間がないわ。三人とも、ついて来て」
「ちょっ! どういうことだよ!」

 鬱実はそれだけ言うと、秘密基地の奥へと歩き出す。

 くっ、今はついて行くしかないか。

 どういうことか分からないが、俺たちは鬱実の後を追いかけた。

 辿り着いたのは鬱実の部屋であり、既に壁には見慣れない扉がある。

「なんだよこれ……」
「もしかして、裏口でしょうか?」
「えっ、でも無いって言ってたような……」

 突然現れた扉に、俺たちは動揺どうようした。

「大丈夫よ。ついて来て」

 鬱実はそう言うと、扉を開いて先へと進んでいく。

「と、とにかく今は鬱実について行こう」
「そ、そうですね」
「うん」

 何が何だか分からない状況の中、俺たちは扉の奥に進む。

 壁は全面鉄のようなもので覆われており、ところどころ青い光が走っている。

 まるで、SFの世界に入り込んでしまったようだった。

「こんなところがあったのか」
「凄いです。でも、なんで今まで教えてくれなかったのでしょう?」
「何だか、るり不安になってきました」

 鬱実の行動はこれまでもおかしかったが、これは次元が違う。

 この先に何が待っているのか、俺たちが不安になるのも仕方がなかった。

 そうして長い廊下がしばらく続き、巨大な部屋に出る。

「まじ、かよ……」
「これって、夢ですか?」
「ほぇぇ……」

 俺たちは目の前の光景に驚き、夢ではないかと疑ってしまう。

 なぜならば、そこには巨大な宇宙船と思われる物体が存在していたからだった。
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