上 下
9 / 31
第1章

009 絶体絶命のピンチ

しおりを挟む
「みんな~この不審者さんはロリ―ちゃんが最初に見つけたんだから、勝手に手を出しちゃだめだよ~?」

 自分のことをロリ―ちゃんと言う少女は、ニヤニヤ笑みを浮かべながら俺を指さす。

「え~ずるいよ~」
「おうぼーだー!」
「あたしもお兄ちゃんとあそびたいー」

 すると、周囲の少女たちが騒ぎ出した。

 今にも襲い掛かってきそうで恐ろしい。

 くそ、いったいどうなるんだ。

 何とかして抜け出さないと。

 俺は必死に頭を働かせるが、妙案は思い浮かばない。

「も、もうおしまいだよぉ。るりたちここで死んじゃうんだぁ」

 瑠理香ちゃんは、精神的に追い詰められて涙を流し始める。

 本当にまずい。

 瑠理香ちゃんがこの状態じゃ、俺一人でどうにかするしかない。 

「なに必死に考えてるの~? もしかして、逃げようとか考えてる?」

 図星を突かれ、俺は一瞬たじろぐ。

 だが、ここで引いたらいけないと、本能が叫んでいた。

 主導権を握られたら終わる。

「い、いや、逃げるわけないだろ? そもそも、俺は不審者じゃない」
「えぇ、本当に~? ここ中学校だよ~? そこに、お兄さんみたいな人が女の子をおんぶしているなんて、どう見てもさらおうとしている不審さんだよ~?」

 確かに、状況だけ見ればそうかもしれない。

 昼時の中学校に高校生がいるのはおかしかった。

 しかし、瑠理香ちゃんをおんぶしているのは、果たしておかしいだろうか?

 いや、おかしくない。

 ぱっと見、体調の悪くなった妹を迎えに来た兄が、動けない妹をおんぶしているように見えないだろうか?

 そう考えた俺は、自分のことをロリ―ちゃんと呼ぶ少女にこう言い放つ。

「俺は不審者じゃない。俺は、妹の瑠理香を迎えに来ただけだ。おんぶしているのは、妹の体調が悪いからだ」

 言い終わると、俺は緊張で額に汗を浮かべる。

 俺の言葉に、周囲は一瞬静かになった。

 そして。

「へ~そうなんだ? 妹思いなんだね? でもさ、妹ちゃんと、全然顔似てないね?」
「くっ――」

 痛いところを突かれた。

 確かに、俺と瑠理香ちゃんは似ていない。

 だが、完全に兄妹でないとは言い切れないはずだ。

 けど、この妙な胸騒ぎはなんだ?

 100%兄弟ではないと確信を持って言われた気がする。

 ここで誤魔化すのは、逆に悪手か?

 俺は唾を飲み込み、覚悟を決める。

「あ、ああ。確かに、血は繋がっていない」
「やっぱりそうなんだ! 嘘ついたんだね?」

 ロリ―ちゃんは、ニヤニヤ悪そうな笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてくる。

 このままでは、噛みつきの射程範囲に入ってしまう。

 なので俺はロリ―ちゃんが目の前までくる前に、口を開く。

「血は繋がっていないが、嘘じゃない。瑠理香は、魂の妹だ! だから妹と呼ぶし、体調が悪くなれば高校を抜け出して、こうして迎えに来る。おんぶもするのは当たり前だ!」
「た、魂の、妹?」

 ロリ―ちゃんは、俺の言葉を聞いてポカンとした表情になる。

 ヤバイ、勢いで変なことまで言ってしまった。

 魂の妹ってなんだよぉおお!!

 俺は、自分自身が放った言葉でダメージを受ける。

 「へ? 凛也さん、魂の妹って……」

 瑠理香ちゃんのそんな呟きが、耳元に届く。

 これは、終わったか? な、なんとか瑠理香ちゃんだけでも逃がさないと……。

 俺が半分諦め始めたそのとき、ロリ―ちゃんがようやく反応を示す。

「ふ、ふふふ。あははっ! 魂の妹! 魂の妹だって! みんな聞いた?」

 ロリ―ちゃんは大口を開けて笑い始めた。

 どこか嬉しそうに見えるが、悪い意味でないことを祈りたい。

「聞いた聞いた!」
「私も魂の妹って言われたい!」
「お兄ちゃん最高!」
「濡れた!」
「そこに痺れる憧れるぅ!」
「お兄ちゃんオブお兄ちゃん!」

 周囲の少女たちも、嬉しそうな反応を示す。

 絶賛されている気がするが、一部変な言葉も混じってないか?

 俺はそんなことを考えながらも、内心は不安でいっぱいだった。

「見て見て―! 魂の妹ちゃんがメスの顔になってるよ!」
「なっ、なってないよ!」

 すると、俺のせいで瑠理香ちゃんもいじられ始める。

 瑠理香ちゃんには本当に申し訳ない。

「あたしも、魂の妹って言われたらメスになっちゃう!」
「うちは、そのままベッドにお兄ちゃんを連れ込んじゃう!」
「私はもう濡れた」
「さっきの決め台詞を録音して毎日聴きたい」
「いくら払えば言ってくれますか?」

 こ、これって、不味くないか?

 周囲の盛り上がりがどんどん過熱していく。

 逆に、危険かもしれない。

 早いところ脱出しないと、興奮した少女に噛まれそうだ。

 そう思った俺は、言葉を選びながらも、ロリ―ちゃんにこう切り出す。

「な、なあ。そういう訳だから、妹を家まで連れて帰りたいんだ。だから、道を開けてくれないかな? 頼むよ」
「え~? どうしよっかなぁ~?」

 ロリ―ちゃんはそう言って、もったいぶる。

 これは、このまま帰してもらえそうに無さそうだ。

 いったいどうすれば……。

 俺が唇を噛みしめて悩み始めたとき、周囲の少女に変化がうまれる。

「かわいそうだよ」
「そうだね。妹想いのお兄ちゃんだもんね」
「ロリ―ちゃん意地悪すぎ」
「これだからメスガキは……」
「私は濡れただけで満足」

 そう言って少女たちはモーゼの海割のように、外への道を作り始めた。

「へ? あ、あんたたち! ロリ―ちゃんを裏切るの!」

 対象にロリ―ちゃんは怒りをあらわにする。

「駄目だよロリ―ちゃん」
「ロリ―ちゃん待てステイ!」
「魂のお兄ちゃん。さぁ、行っていいよ!」
「ロリ―ちゃんはあたしたちが押さえておくから!」
「ここは私たちに任せて先に行け!」
「別に、倒してしまってもいいのだろう?」
「そうだ! ロリ―ちゃんを押し倒そう!」

 少女たちがロリ―ちゃんの動きを封じると、俺たちを外へと誘導してくれた。

 た、助かるのか?

 何はともあれ、俺は少女たちに感謝する。

「みんな、ありがとう! 俺は妹を連れて帰らせてもらうよ!」
「うんうん」
「ばいばーい!」
「今度はあたしを連れ帰ってねー!」

 俺は最後に軽く頭を下げると、昇降口から外に出た。

「おぼえてなさいよー! ぜ、絶対あんたのこと忘れないんだからねっ!!」

 背後からロリ―ちゃんの叫びが聞こえたが、俺は無視して駆けだす。

 不思議と、外にいた少女たちも俺たちを遠めに見るだけで襲う気配がない。

 そして、俺と瑠理香ちゃんは表門から中学校を出た。

 あの地獄の包囲網から、無事に生還を果たす。

 ……流石に、今回は駄目だと思った。

 俺はそんなことを考えながらも、そのまま元来た裏門付近の道を目指す。

「るりの、お兄ちゃん……」
「へ? 今なんか言った?」
「な、何も言ってないです!」
「そ、そう……」

 一瞬、瑠理香ちゃんが何か言った気がしたが、どうやら気のせいだったようだ。

 それはそうと、あのロリ―ちゃんとか言う少女、何となく瑠理香ちゃんに似ているな。

 同じツインテールだし、どこか雰囲気が近い気がする。

 もし瑠理香ちゃんが噛まれたら、ロリ―ちゃんになってしまう気がした。

 最後まで俺たちを見逃そうとしなかったロリ―ちゃん。

 あれが増えると面倒そうだ。

 瑠理香ちゃんが噛まれないように、気をつけないと。

 そうして走ることしばらく、俺は再び団地エリアまでやってきたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ぼっち陰キャはモテ属性らしいぞ

みずがめ
恋愛
 俺、室井和也。高校二年生。ぼっちで陰キャだけど、自由な一人暮らしで高校生活を穏やかに過ごしていた。  そんなある日、何気なく訪れた深夜のコンビニでクラスの美少女二人に目をつけられてしまう。  渡会アスカ。金髪にピアスというギャル系美少女。そして巨乳。  桐生紗良。黒髪に色白の清楚系美少女。こちらも巨乳。  俺が一人暮らしをしていると知った二人は、ちょっと甘えれば家を自由に使えるとでも考えたのだろう。過激なアプローチをしてくるが、紳士な俺は美少女の誘惑に屈しなかった。  ……でも、アスカさんも紗良さんも、ただ遊び場所が欲しいだけで俺を頼ってくるわけではなかった。  これは問題を抱えた俺達三人が、互いを支えたくてしょうがなくなった関係の話。

なぜか女体化してしまった旧友が、俺に助けを求めてやまない

ニッチ
恋愛
○らすじ:漫画家志望でうだつの上がらない旧友が、社会人の主人公と飲んで帰ったあくる日、ある出来事をきっかけとして、身体が突然――。 解説:エロは後半がメインです(しかもソフト)。寝取りとか寝取られとかは一切、ナイです。山なし海なし堕ちなしの世界ではありますが、よければご覧くださいませ。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...