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刹那高校二年夏休み編・前編
第17話・ある笑顔いない弟
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東城風が三毛弥生を迎えに行くちょっと前まで話は遡る。 風は算学数の部屋にいた。
「約束を忘れた訳ではないだろうな?」
約束。それは更に時を遡り、夏休みの1週間前の事である。
「私達の関係はバラしてはいけない?」
「あぁ。及び数学部の事も秘密」
数学部とは算学考案の部活で、算学と風という部員二人の学校非公認の部活の事だ。
「非公認で悪かったな」
「誰に言ってるの?」
「ナレーション」
「は?」
「話がズレたな。まぁ、煎茶でも飲め」
算学はそう言うと、ペットボトルを風に受け渡した。
「煎茶?」
「そう、煎茶」
「煎茶……」
「何だ? 煎茶を知らないのか?」
「そう言う事じゃなくてこれ、ほうじ茶。色も違うし」
「話がズレたな。約束を覚えてて何よりだ」
算学は再び話をズラした。風はこれ以上言うことなく、黙ってほうじ茶を一口飲んだ。
「思ったんだが、俺達の関係ってどうなんだ?」
「私の数少ない”友達”。前言ったじゃん」
今度は算学がほうじ茶を飲む。その後少し何か考えた後、口を開いた。
「だったら、別に俺達の関係話してもいいんじゃないか?と昨日考えたんだけどさ……」
算学は顔を赤くしつつ、まともに風の方を向いて喋る事が出来なかった。
「そうだね。深く考えてもしょうがないや。”ただの友達”として弥生とかに話通しておくよ」
だが、お互い余り良い気では無かった。何故なら友達以上の関係性が築きたい。と思っていた。
今度は風が話を切り替え、空気を明るくしようとする。
「今日はキャンプなんだし、思う増分楽しもう!」
算学はそんな風の姿に魅了された。その姿はあの頃の、幼き約束を果たした時の姿が重なった見えた。算学の未来の道を明るく照らしてくれる綺麗な瞳、笑顔に算学は言葉にする事なく、ただ頷いた。
算学の住むアパートに豊海瑠璃の母の車が着く。
「今日はよろしくお願いします」
風は瑠璃の母に挨拶をし、算学は軽く会釈する。
「昨日は寝れたか? お二人さん」
そう言ったのは運転席に座る瑠璃の母の横の助手席に座る瑠璃だった。
「まぁね。以外とすぐ寝れたよ」
風は瑠璃の質問に返答した。
「なら良かった。で……」
風はここで気づいた。算学と瑠璃の二人はまともに話した事が無かった。それに算学は瑠璃に警戒している所もあった。算学も実際、複雑な気持ちであると風は悟った。
「この度はキャンプという特別な楽しそうなイベントをお招き頂き、ありがとうございます!」
算学は固く車内の中、瑠璃に向かって頭を下げた。
「あっ……あぁぁ……」
瑠璃は戸惑ってしまい、頭をかいた。
「(瑠璃が戸惑ってる!? 珍しい! ウッキーアイスの当たり棒が出るぐらい珍しい!)」
風は瑠璃の様子に驚き、瑠璃の母はその様子を見て口を手で隠し、笑っていた。
「出発するよ。シートベルトを付けてね」
こうして算学の住むアパートを出発した。
そして、今に至る。
「長いな。もう、千字越えてるぞ」
「何の話?」
「いや……あっ、こっちの話であります!」
「何処の軍隊だよ……」
算学と瑠璃のコントの中、弥生が風にひっそり耳打ちした。
「ねぇ、何で算学君が居るの?」
当然来る質問だと風は思っていたが、いざとなると風は直ぐに言葉にする事が出来なかった。
「何で?」
弥生が顔を風にどんどん近づけてきた。
「……あっ、友達かな?」
「何で語尾ハテナ?」
「そうそう、友達! 友達!」
弥生が少し怪しんでいた一方、風の声が大きくなり、瑠璃の耳にも聞こえてしまい、瑠璃が納得いったようで急に算学の肩を組み出した。
「そうか。風の新しい友達か。ならば、俺と算学も友達だな」
その瑠璃の様子に算学は恥ずかしい様で顔を赤くして、みんなの視線を逸らした。
「あれ? 柚と藤谷君と染杏ちゃんは?」
風が話を切り出す。
「柚ちゃんなら、今トイレ中」
弥生がそう返答し、瑠璃が質問する。
「トイレ? 大か?」
「レディに失礼でしょうが!」
そうツッコミを入れたのは風の妹の東城柚だ。柚は朝早く家を出て、弥生の家に訪れていた。何故なら今日も弥生の家にある弥生の母の仏壇にて挨拶をしたかったからだ。
「トイレは事前に行っとかないと」
「何を言ってるんですか?お姉ちゃん。さっきのトイレタイムは保険だよ。本日二回目なのだよ」
そう柚は偉そうに腰に手をあててご満悦のようだ。
一行はキャンプ場に無事着いた。
既に西尾染杏と藤谷航也はキャンプ場に着いており、初対面に関わらず、何やら二人は早くも意気投合したらしい。
「染杏ちゃんがよう笑ってくれるんや」
「だって……一発芸が……くだらなくて……」
「取り敢えず、テント貼るぜ。男女別な」
「何言ってるんですか?せっかくやし……」
瑠璃がテント設営の提案の中、航也が更に提案する。そんな中、弥生の表情が変わる。
「その……三毛さん。誤解やって……変な事考えて無いって……」
弥生が無言のまま、静かに怒っているのが皆に伝わった。
「違うよな。瑠璃~」
「俺に頼るな航也。弥生、コイツだけだから。変な事考えてるの」
「何言ってるん? 俺だけやないって……男の性やって……」
航也が涙目の中、弥生ではなく柚の拳が航也にヒットした。
「グーで殴られた……しかも、幼女に……」
航也は落ち込んでしまっているが、皆に無視されてしまった。
「何で誰も相手してくれへんの?」
航也以外はテント設営、魚釣りに取り掛かっている。
「幼女じゃないし。……てか、アイツ誰?」
「覚えてないの……藤谷航也や~」
柚はすっかり航也の事を嫌いになったようだ。オマケに航也の事を覚えていなかった。というのも柚と航也は一度会っただけ。しかも風と柚が一緒にスーパーに行った時たまたま会っただけだ。
「どお? 楽しんでる?」
川を見ながら石場に座っている算学に、風は周りを確認した後話し掛ける。
「あぁ。妹いたんだな」
「あっ、言ってなかったか」
「似てるな。流石姉妹だ」
「そう? 柚は結構正直者で元気で……」
「あのさ」
風の言葉を算学が切った。
「俺に弟が”いた”んだ」
「えっ?」
「弟の名前は算学計」
「ちょっと待ってよ! ”いた”って?」
「あぁ。もういないんだ。……さ、戻ろうか」
「ちょっ……ちょっと……」
算学は立ち上がり、皆の方に戻っていった。そんな中、奥の茂みにその様子を見ていた者がいた。
「約束を忘れた訳ではないだろうな?」
約束。それは更に時を遡り、夏休みの1週間前の事である。
「私達の関係はバラしてはいけない?」
「あぁ。及び数学部の事も秘密」
数学部とは算学考案の部活で、算学と風という部員二人の学校非公認の部活の事だ。
「非公認で悪かったな」
「誰に言ってるの?」
「ナレーション」
「は?」
「話がズレたな。まぁ、煎茶でも飲め」
算学はそう言うと、ペットボトルを風に受け渡した。
「煎茶?」
「そう、煎茶」
「煎茶……」
「何だ? 煎茶を知らないのか?」
「そう言う事じゃなくてこれ、ほうじ茶。色も違うし」
「話がズレたな。約束を覚えてて何よりだ」
算学は再び話をズラした。風はこれ以上言うことなく、黙ってほうじ茶を一口飲んだ。
「思ったんだが、俺達の関係ってどうなんだ?」
「私の数少ない”友達”。前言ったじゃん」
今度は算学がほうじ茶を飲む。その後少し何か考えた後、口を開いた。
「だったら、別に俺達の関係話してもいいんじゃないか?と昨日考えたんだけどさ……」
算学は顔を赤くしつつ、まともに風の方を向いて喋る事が出来なかった。
「そうだね。深く考えてもしょうがないや。”ただの友達”として弥生とかに話通しておくよ」
だが、お互い余り良い気では無かった。何故なら友達以上の関係性が築きたい。と思っていた。
今度は風が話を切り替え、空気を明るくしようとする。
「今日はキャンプなんだし、思う増分楽しもう!」
算学はそんな風の姿に魅了された。その姿はあの頃の、幼き約束を果たした時の姿が重なった見えた。算学の未来の道を明るく照らしてくれる綺麗な瞳、笑顔に算学は言葉にする事なく、ただ頷いた。
算学の住むアパートに豊海瑠璃の母の車が着く。
「今日はよろしくお願いします」
風は瑠璃の母に挨拶をし、算学は軽く会釈する。
「昨日は寝れたか? お二人さん」
そう言ったのは運転席に座る瑠璃の母の横の助手席に座る瑠璃だった。
「まぁね。以外とすぐ寝れたよ」
風は瑠璃の質問に返答した。
「なら良かった。で……」
風はここで気づいた。算学と瑠璃の二人はまともに話した事が無かった。それに算学は瑠璃に警戒している所もあった。算学も実際、複雑な気持ちであると風は悟った。
「この度はキャンプという特別な楽しそうなイベントをお招き頂き、ありがとうございます!」
算学は固く車内の中、瑠璃に向かって頭を下げた。
「あっ……あぁぁ……」
瑠璃は戸惑ってしまい、頭をかいた。
「(瑠璃が戸惑ってる!? 珍しい! ウッキーアイスの当たり棒が出るぐらい珍しい!)」
風は瑠璃の様子に驚き、瑠璃の母はその様子を見て口を手で隠し、笑っていた。
「出発するよ。シートベルトを付けてね」
こうして算学の住むアパートを出発した。
そして、今に至る。
「長いな。もう、千字越えてるぞ」
「何の話?」
「いや……あっ、こっちの話であります!」
「何処の軍隊だよ……」
算学と瑠璃のコントの中、弥生が風にひっそり耳打ちした。
「ねぇ、何で算学君が居るの?」
当然来る質問だと風は思っていたが、いざとなると風は直ぐに言葉にする事が出来なかった。
「何で?」
弥生が顔を風にどんどん近づけてきた。
「……あっ、友達かな?」
「何で語尾ハテナ?」
「そうそう、友達! 友達!」
弥生が少し怪しんでいた一方、風の声が大きくなり、瑠璃の耳にも聞こえてしまい、瑠璃が納得いったようで急に算学の肩を組み出した。
「そうか。風の新しい友達か。ならば、俺と算学も友達だな」
その瑠璃の様子に算学は恥ずかしい様で顔を赤くして、みんなの視線を逸らした。
「あれ? 柚と藤谷君と染杏ちゃんは?」
風が話を切り出す。
「柚ちゃんなら、今トイレ中」
弥生がそう返答し、瑠璃が質問する。
「トイレ? 大か?」
「レディに失礼でしょうが!」
そうツッコミを入れたのは風の妹の東城柚だ。柚は朝早く家を出て、弥生の家に訪れていた。何故なら今日も弥生の家にある弥生の母の仏壇にて挨拶をしたかったからだ。
「トイレは事前に行っとかないと」
「何を言ってるんですか?お姉ちゃん。さっきのトイレタイムは保険だよ。本日二回目なのだよ」
そう柚は偉そうに腰に手をあててご満悦のようだ。
一行はキャンプ場に無事着いた。
既に西尾染杏と藤谷航也はキャンプ場に着いており、初対面に関わらず、何やら二人は早くも意気投合したらしい。
「染杏ちゃんがよう笑ってくれるんや」
「だって……一発芸が……くだらなくて……」
「取り敢えず、テント貼るぜ。男女別な」
「何言ってるんですか?せっかくやし……」
瑠璃がテント設営の提案の中、航也が更に提案する。そんな中、弥生の表情が変わる。
「その……三毛さん。誤解やって……変な事考えて無いって……」
弥生が無言のまま、静かに怒っているのが皆に伝わった。
「違うよな。瑠璃~」
「俺に頼るな航也。弥生、コイツだけだから。変な事考えてるの」
「何言ってるん? 俺だけやないって……男の性やって……」
航也が涙目の中、弥生ではなく柚の拳が航也にヒットした。
「グーで殴られた……しかも、幼女に……」
航也は落ち込んでしまっているが、皆に無視されてしまった。
「何で誰も相手してくれへんの?」
航也以外はテント設営、魚釣りに取り掛かっている。
「幼女じゃないし。……てか、アイツ誰?」
「覚えてないの……藤谷航也や~」
柚はすっかり航也の事を嫌いになったようだ。オマケに航也の事を覚えていなかった。というのも柚と航也は一度会っただけ。しかも風と柚が一緒にスーパーに行った時たまたま会っただけだ。
「どお? 楽しんでる?」
川を見ながら石場に座っている算学に、風は周りを確認した後話し掛ける。
「あぁ。妹いたんだな」
「あっ、言ってなかったか」
「似てるな。流石姉妹だ」
「そう? 柚は結構正直者で元気で……」
「あのさ」
風の言葉を算学が切った。
「俺に弟が”いた”んだ」
「えっ?」
「弟の名前は算学計」
「ちょっと待ってよ! ”いた”って?」
「あぁ。もういないんだ。……さ、戻ろうか」
「ちょっ……ちょっと……」
算学は立ち上がり、皆の方に戻っていった。そんな中、奥の茂みにその様子を見ていた者がいた。
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