【完結】のぞみと申します。願い事、聞かせてください

私雨

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第五章『生死』

第43話 善意と悪意の対決(後編)

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 矢那華やなかは手でポケットを探る。銃を取り出そうとしているんだろう。
 それでも、私は動じない。むしろ、「かかってこい!」と言わんばかりに身構えた。
 銃を取り出すまで時間がある。だから、私は飛び出して不意打ちする。

「な、何!?」

 矢那華やなかは床にく。
 私は銃を探っている彼女の手を掴んで、めにする。
 唸り声を出して、矢那華やなかは私の腹を蹴ろうとする。
 しかし、私はそれを簡単にかわして、彼女を子供のように抱き上げた。
 矢那華やなかはどんなに必死に藻掻いて足を振っても無駄だった。この調子で進めば、私の勝利になりそう。
 
「銃を持っているのがわかるのよ!」

 と、私は言って彼女の身体からだを強く振る。
 すると、彼女が取り出そうとしていた銃がポケットから落ちて、床にぶつかった。
 それを見た矢那華やなかは半泣きになりそうになった。
 そして、今まで修羅場を傍から観察していた叶《かなえ》が戦闘に参加する。かなえは落ちた銃を拾って、矢那華やなかに見せた。
 
「これはもう要らないね。銃は斎場にふさわしくないよ」

 言って、かなえは銃を壁に叩きつけ、念のため何回か踏む。
 銃を踏むたび、矢那華やなかは唸り声を出した。
 彼女にはもう武器がない。必死に藻掻くことしかできない。

「ど、どうして銃を持っているのがわかったの……!?」

 と、矢那華やなかは声を絞り出すように叫んだ。
 正直、彼女は頭がよくなさそう。主犯がそんなことを叫んだら、警察がすぐに来るんじゃないか?

「タイムスリップしたんだ! 前回はあんたに膝を撃たれたせいで葬式に行けなかった。でも、叶《かなえ》が行きたいから、私はあんたを倒さなきゃ! 復讐だよ!!」

 叫んで、私は矢那華やなかかなえのほうに放り出した。
 かなえ矢那華やなか身体からだを受け取って、廊下の床を引きずり始めた。
 矢那華やなかは藻掻きすぎたせいか、体力を全部尽くしたようだ。床に引きずられながら、彼女は小さく唸った。
 私たちは廊下の突き当りにあった部屋に入って、矢那華やなかを閉じ込めた。

「今警察を連絡するから、矢那華やなかを見張ってください」

 かなえは凛々しそうに両手を腰に当てて、そう言った。
 私が頷くと、かなえきびすを返して、廊下を走り出した。
 よりによって、私はと二人きりになってしまった……。
 身体からだが痛いのか、警察を恐れているのか、彼女はえつを漏らした。
 もう何もしようとしないだろうと思って、私は矢那華やなかのそばに座った。 

「もう、零士れいじを首にしてやるよ……」
「ほう、『ただの部長』じゃなかったっけ?」
「私はそんな言葉を言わなかったけど」

 ーーしまった。この時点で彼女はその台詞を言わなかったんだ。

「なんでもない」

 言って、私は溜息を吐いた。
 葬式はこんなものだろうか? 違う、多分。
 普通に上手くいくだろう。銃を持ってくる人は来ないだろう。少なくとも、めっに来ない。
 言い方が悪いけど、この混乱は妙にふさわしく感じた。なぜかのぞみはこんなことが好きだったんだろうと思った。
 しかし、あくまで葬式だから混乱が良くないに決まっているだろう。

 ーーそういえば、警察はいつ来るのかな? これ以上この問題児の子守りをしたくないよ……。

 そう考えた途端、誰かがドアをノックした。
 私は床から飛び出してドアを開けた。
 視界に入ったのは、かなえと二人の警官だった。

「この銃ですか?」
「はい、そうです。わたくしはできるだけ振れないようにしたので、ほとんど犯人の指紋が残していると思います」
「助かります、お嬢さん」

 そして、一人の警官が部屋に入ってきて、矢那華やなかに目をやった。

矢那華やなかさんですか?」
「……はい」

 矢那華やなかは観念したように溜息を漏らした。

「銃器所持の容疑で逮捕します」

 言って、警官は矢那華やなかに手錠をかけ、廊下で立っている警官と目配せをした。
 彼女の遠ざかっていく姿を見つめながら、私は頭の中でガッツポーズをして、「ざまあみろ」と思った。
 私はかなえと廊下を歩いて、斎場の一階に向かっていく。
 矢那華やなかが逮捕されたからには、待ちわびた葬式が始まるんだろう。

 ーーさらば、矢那華やなか部長……。
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