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第五章『生死』
第40話 私、時間を遡りたい
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静まり返った病室。
私はベッドに横たわったままいい話題を考えようとしたけど、トラウマのせいかよく考えられなかった。
ややあって、長い間の沈黙を切り出したのは零士だった。
「な、みおちゃん……」
「んー?」
「キスしてもいい?」
「ええええぇー?」
と、私は急すぎる展開に戸惑って叫んだ。
ベッドに身体を引くと、術後の痛みが再び訪れてきた。私はたじろいで、目を瞑った。
「いいよ」
零士が好きーーいや、大好きだから、結局私は許可をあげた。
目を閉じたまま、私はキスを待つ。
零士は緊張しているのか、一分も経ったのにキスがまだだ……。
「零士ぃー? キスしてくれないの?」
「しまった、遅すぎた……」
片目を開けると、叶が戻ってくることに気づいた。
ーーもう、ずるいわよ……。
「希茶を用意したよ。早速始めよう」
言って、叶は病室を囲む白いカーテンを閉めた。
目立たないためなのか、彼女は希茶を水筒に入れておいたようだ。
「では、願い事を教えてください」
「……相談までは必要なのか?」
「念のため相談からしよう」
私は覚悟を決めて、願い事を告げた。
「二時間ほど時間を遡りたい」
「わかった。では、冷めないうちに飲んでくださいね」
「ちょっと待って……。飲んだら叶の個人事務所に戻るんでしょ?」
「確かにそうだけど、時間を遡ったら病院に行く必要はないし、病室にいないことが発見される前に、わたくしは必ず願い事を叶えるよ」
「なら、お願いします」
言って、私は水筒を口に運び、希茶を飲み干した。すると、慣れた瞬間移動が起こった。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
叶の個人事務所。
私は床に倒れたまま唸り声を出した。
床の冷たさが頬に伝わってきた。
叶は二時間前に戸締りしたとき、カーテンも閉めたようだ。
室内は暗く、電気スタンドに照らされた範囲しか見えなかった。
「痛いならすみません。早く終わらせるから、もう少し我慢してください」
と、叶は私を慰めるように言った。
彼女を見上げると、明らかに心配な表情を浮かべている。声音からすると、叶も少し怖がっているようだ。
「はい、わかりました」
まだ臨時休業なのに、個人事務所にいるだけで私は思わず普段の口調に戻ってしまった。
「では、希。ご武運を」
言って、叶は手を伸ばした。
見馴れた魔法が手に現れると、室内に閃光が光り出した。その眩しい光に、私は目が眩む。
そして、その光が消えるにつれ、室内が暗くなってきた。
しかし、目を開けると視界を埋めつくしているのは個人事務所ではなく、ゆめゐ喫茶の店先だった。
ということで、私は本当に時間を遡った。少し目眩がしたけど、身体がすぐに慣れて、違和感は微塵もなかった。
腕時計を見ると、針が午後三時を指している。葬式が始まるまであと二時間だ。
正直、無事に間に合うかわからない。時間を遡る前は自信がたっぷりあったけど、実際にタイムスリップしてからなぜか不安になってしまった。
しかも、タイムスリップのルールがまだわからない。例えば、叶は時間を遡った自覚があるのか? それとも、私だけなのかな……。
念のため、私は叶に疑問を投げかけた。
「あのね叶。銃を見たことあるの?」
今回、私は砕けた口調で話すようにした。
「銃? 見たことないと思うけど、なんで?」
と、叶は首を傾げて聞き返した。
まあ、疑問を持つのは当然。逆の立場だったら、私もそういう反応をするだろう。
「えーと、興味本位かな?」
そういえば、私はなんで叶から真相を隠しているのか?
「時間を遡ったのでどこまで覚えているかを確認したかった」と返したら、叶はおそらく「そうか?」と返すだけだろうに。
なのに、私は真相を説明するのが怖い。もしも、万が一真相を知らせると現代に戻るルールがあったら……。
それなら、私たちの努力は台無しになってしまう。だから、タイムスリップについては何も言わないことにした。必要があったら説明する。
「では、お葬式の会場に行こうか?」
と、叶は私に視線を向けて言った。
そろそろ矢那華の車が来ることに気づいて、私はできるだけ早く返事した。
「はい」
そっけなく答えてから、私は叶の手を鷲掴みにして、強く引っ張った。
一緒に行くつもりはなかったけど、ストレスが頭の中に溜めていてよく考えられない。だから、私の行動はすでに計画からずれてしまう。
「の、希? 遅刻しそうにないから走りなくてもーー」
「走れ!! 走ってくれ、叶! 走らないと、私ーーいや、私たちはーー」
最悪のタイミングで息が切れた。それでも、休む暇はない。
もっともっと走らなければならない。最寄りの駅に着くまで、私たちは頑張らないと……。
「だ、大丈夫なの? おかしいよ、希」
私に引っ張られながら、叶はそう言った。
でも、走りながら喋りづらいし、残りの息を無駄にしてはいけない。だから、私は黙って走り続けることしかできなかった。
しかも、ワンピースで走るのは非常に難しい。途中で何回もつまずきそうになって、鼓動が高鳴った。
そして三、四分くらい全力疾走してから、駅がようやく視界に入ってきた。
駅前にたどり着くと、私は叶の手を離して膝をついた。
呼吸が荒く、胸が疼く。
「何しているのよ、希?」
叶に目をやると、彼女の身体が汗だくだった。幸い、ワンピースは漆黒なので汗染みがあまり見えなかった。
しかし、叶ならではの青髪は別の話だ。髪の毛が乱れて、汗でびっしょり濡れた。
「ごめん。理由は言えるかどうかわからないけど、さっき走らなかったら私たちは亡くなったかもしれない……」
「亡くなった……? どういうこと?」
「な、なんでもない」
矢那華はまだどこかに潜んでいるだろうけど、私はとりあえず一安心した。
私はベッドに横たわったままいい話題を考えようとしたけど、トラウマのせいかよく考えられなかった。
ややあって、長い間の沈黙を切り出したのは零士だった。
「な、みおちゃん……」
「んー?」
「キスしてもいい?」
「ええええぇー?」
と、私は急すぎる展開に戸惑って叫んだ。
ベッドに身体を引くと、術後の痛みが再び訪れてきた。私はたじろいで、目を瞑った。
「いいよ」
零士が好きーーいや、大好きだから、結局私は許可をあげた。
目を閉じたまま、私はキスを待つ。
零士は緊張しているのか、一分も経ったのにキスがまだだ……。
「零士ぃー? キスしてくれないの?」
「しまった、遅すぎた……」
片目を開けると、叶が戻ってくることに気づいた。
ーーもう、ずるいわよ……。
「希茶を用意したよ。早速始めよう」
言って、叶は病室を囲む白いカーテンを閉めた。
目立たないためなのか、彼女は希茶を水筒に入れておいたようだ。
「では、願い事を教えてください」
「……相談までは必要なのか?」
「念のため相談からしよう」
私は覚悟を決めて、願い事を告げた。
「二時間ほど時間を遡りたい」
「わかった。では、冷めないうちに飲んでくださいね」
「ちょっと待って……。飲んだら叶の個人事務所に戻るんでしょ?」
「確かにそうだけど、時間を遡ったら病院に行く必要はないし、病室にいないことが発見される前に、わたくしは必ず願い事を叶えるよ」
「なら、お願いします」
言って、私は水筒を口に運び、希茶を飲み干した。すると、慣れた瞬間移動が起こった。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
叶の個人事務所。
私は床に倒れたまま唸り声を出した。
床の冷たさが頬に伝わってきた。
叶は二時間前に戸締りしたとき、カーテンも閉めたようだ。
室内は暗く、電気スタンドに照らされた範囲しか見えなかった。
「痛いならすみません。早く終わらせるから、もう少し我慢してください」
と、叶は私を慰めるように言った。
彼女を見上げると、明らかに心配な表情を浮かべている。声音からすると、叶も少し怖がっているようだ。
「はい、わかりました」
まだ臨時休業なのに、個人事務所にいるだけで私は思わず普段の口調に戻ってしまった。
「では、希。ご武運を」
言って、叶は手を伸ばした。
見馴れた魔法が手に現れると、室内に閃光が光り出した。その眩しい光に、私は目が眩む。
そして、その光が消えるにつれ、室内が暗くなってきた。
しかし、目を開けると視界を埋めつくしているのは個人事務所ではなく、ゆめゐ喫茶の店先だった。
ということで、私は本当に時間を遡った。少し目眩がしたけど、身体がすぐに慣れて、違和感は微塵もなかった。
腕時計を見ると、針が午後三時を指している。葬式が始まるまであと二時間だ。
正直、無事に間に合うかわからない。時間を遡る前は自信がたっぷりあったけど、実際にタイムスリップしてからなぜか不安になってしまった。
しかも、タイムスリップのルールがまだわからない。例えば、叶は時間を遡った自覚があるのか? それとも、私だけなのかな……。
念のため、私は叶に疑問を投げかけた。
「あのね叶。銃を見たことあるの?」
今回、私は砕けた口調で話すようにした。
「銃? 見たことないと思うけど、なんで?」
と、叶は首を傾げて聞き返した。
まあ、疑問を持つのは当然。逆の立場だったら、私もそういう反応をするだろう。
「えーと、興味本位かな?」
そういえば、私はなんで叶から真相を隠しているのか?
「時間を遡ったのでどこまで覚えているかを確認したかった」と返したら、叶はおそらく「そうか?」と返すだけだろうに。
なのに、私は真相を説明するのが怖い。もしも、万が一真相を知らせると現代に戻るルールがあったら……。
それなら、私たちの努力は台無しになってしまう。だから、タイムスリップについては何も言わないことにした。必要があったら説明する。
「では、お葬式の会場に行こうか?」
と、叶は私に視線を向けて言った。
そろそろ矢那華の車が来ることに気づいて、私はできるだけ早く返事した。
「はい」
そっけなく答えてから、私は叶の手を鷲掴みにして、強く引っ張った。
一緒に行くつもりはなかったけど、ストレスが頭の中に溜めていてよく考えられない。だから、私の行動はすでに計画からずれてしまう。
「の、希? 遅刻しそうにないから走りなくてもーー」
「走れ!! 走ってくれ、叶! 走らないと、私ーーいや、私たちはーー」
最悪のタイミングで息が切れた。それでも、休む暇はない。
もっともっと走らなければならない。最寄りの駅に着くまで、私たちは頑張らないと……。
「だ、大丈夫なの? おかしいよ、希」
私に引っ張られながら、叶はそう言った。
でも、走りながら喋りづらいし、残りの息を無駄にしてはいけない。だから、私は黙って走り続けることしかできなかった。
しかも、ワンピースで走るのは非常に難しい。途中で何回もつまずきそうになって、鼓動が高鳴った。
そして三、四分くらい全力疾走してから、駅がようやく視界に入ってきた。
駅前にたどり着くと、私は叶の手を離して膝をついた。
呼吸が荒く、胸が疼く。
「何しているのよ、希?」
叶に目をやると、彼女の身体が汗だくだった。幸い、ワンピースは漆黒なので汗染みがあまり見えなかった。
しかし、叶ならではの青髪は別の話だ。髪の毛が乱れて、汗でびっしょり濡れた。
「ごめん。理由は言えるかどうかわからないけど、さっき走らなかったら私たちは亡くなったかもしれない……」
「亡くなった……? どういうこと?」
「な、なんでもない」
矢那華はまだどこかに潜んでいるだろうけど、私はとりあえず一安心した。
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