31 / 44
第四章『再会』
第31話 みおちゃんのオムライス
しおりを挟む
十分後、美於ちゃんは戻ってきた。
彼女は最高のメイドを見せてあげるよと言わんばかりに胸を張って、こう言った。
「では、ご注文はお決まりでしょうか?」
俺たちは同時に頷く。
この展開は、まるでまだ夢の中にいるようだった。
ーー俺は……美於に接客されているのか!?
今更状況を飲み込んで、仕事の緊張が一気に消えた。アプリの紹介に集中したかったから、他の事はしばらく考えないようにしていた。だが、今はようやく羽を伸ばせる。
桜のほうを見ると、彼女は夢中になったようだ。
「谷川さん、注文を決めたか?」
「はい!」
俺の質問に我に返ったのか、桜は突然居住まいを正して、そう答えた。
「じゃあ、先にどうぞ」
桜は美於ちゃんに視線を向けて、目を輝かせる。
「オムライスをください!」
ーーオムライス、か。俺も美於ちゃんのオムライスが食べたいなぁ……。
「じゃ、俺もオムライスだ」
「では、少々お待ちください!」
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
私が厨房に入ると、叶の姿が目に入った。
「あら、またオムライスを作るの?」
「そうです!」
叶はカウンターから降りて、青い髪の毛を耳にかける。
「楽しみだね。前回作ったオムライスも美味しそうだったし」
「叶も、オムライスを注文したいんですか?」
「いいえ、結構です。わたくし、仕事に戻りますから」
言って、叶は厨房を後にした。
歩きながら、彼女は背筋を伸ばす。
ーーさて、料理を始めようか?
水樹のおかげで、オムライスを作ったことがある。
確かに料理の腕はまだまだなんだけど、今回は前回より美味しいオムライスを作るのを目指している。私のきちんと作ったオムライスを、零士に見せたいから。
私なりのオムライスを口にしたら、一目惚れするはずだ。
私は髪をポニーテールにまとめて、気合を入れる。
カウンターの上に置かれた材料に目を通した。
叶がさっきそれを用意してくれたのかな? まったく、彼女は優しすぎるんじゃないか? でも本当に助かる。
記憶をたどって、私はオムライスの作り方を徐々に思い出す。あ、まずは卵を割り入れたっけ。卵液をフライパンに入れたっけ。
記憶が間違っていないことを願いながら、私はひたすらレシピ通りに作ろうとする。
そして、オムライスがやっとできた……。
そんな美味しそうなオムライスを見つめて、私は後悔してしまう。
ーー自分の分も作ればよかったのに、と。
とにかく、私は二つのオムライスを皿に載せてから食堂に運んでいく。
お客様が零士だから少し緊張しているし、皿を落としてしまわないようにゆっくりと歩くようにした。
ドアを手で開けるのは無理なので、背中で開けることしかできなかった。
私はドアに背中を預けて、強く押す。
最初は開かなかったけど、二、三回押してからドアがからりと開けた。
私はバランスを崩しそうになって、突然身を乗り出す。
幸いなことに、皿を落とさずにバランスを取り戻せた。
安堵の溜息を吐いてから、私は零士のテーブルに向かった。彼が同僚と話し込んでいたので、おそらくさっきのミスに気づかなかっただろう。
「お待たせしました!」
言いながら、私は配膳した。
「美味しそうだな!」
「美味しそう~!」
少なくとも、第一印象はよさそう。緊張しながら、私は彼らの感想を待っていた。
特に零士の食レポを楽しみにしている。美味しい、と言ってほしいけど……。
「食べる前に、もしよろしければケチャップで何かを描くことができますので、描いてほしいことがあれば是非教えてください!」
「あの、私はいいんですけど」
同僚がそう言って、零士に視線を向けた。
「俺は描いてほしいことがあるよ」
「それは、なんでしょうか?」
「ハートをください」
ーーこうして告白になるのか!? でも可愛いし、本当にハートを描いてみたいなぁ。
ケチャップボトルを軽く絞って、私はハートの形をなぞる。
私が描いている間、皆が無言でオムライスに見入っていた。少しプレイヤーを感じて手が震えたけど、結局無事に描けた。
描き終えてから、私は仕上げたオムライスを零士の前に置いた。
「では、冷めないうちに食べてください!」
その言葉に、私はテーブルから離れていく。
「美味い! みーー希は料理上手だね!」
その言葉に、私は頬を染めてしまう。
零士に褒められると興奮せずにはいられないんだ。
私はテーブルに振り向いて、彼らの食べている姿をこっそりと観察した。できるだけ感情を顔に出さないようにして、零士とその同僚を交互に見る。
「お、美味しい! やっぱりオムライスを頼んでよかったわ!」
ーーほう、同僚もいいセンスだぁ!!
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
零士のことを考えながら、私は皿を洗ったり残った材料を片付けたりする。
まだ会計を済まさなかったけど、私は本当に零士に行かないでほしい。せっかく十年ぶりに会えたのに、なぜか彼が今にも消えてしまうような気がした。
ま、仕事はあるし、私より忙しいだろう。それでも、まだ別れを告げたくない。もう少しだけでもいいから……。
十年前の私が言えなかったことを今度こそちゃんと言いたい。今日は私が後悔を残さないで終わるように……。
そう思いながら、私は無意識に片付け続けた。気づいたら皿を全部洗って、材料を全部冷蔵庫に入れていた。
溜息を吐いて、髪を下ろした。長い間結んでいた髪がまだポニーテールの形を取っている。手で髪を直したあと、私は厨房を出た。
零士がまだいるか心配したけど、ドアを開けると彼の姿が視界に入った。しかも、なぜか一人ぼっちだ。
あの同僚はもう会社に戻ったのか? それとも帰路についた?
どちらにしろ、これは最高のチャンスだ。
私は零士に近づいていって、向こうの席についた。すると、彼は俯いた顔を私に向ける。
「美於ちゃん?」
彼女は最高のメイドを見せてあげるよと言わんばかりに胸を張って、こう言った。
「では、ご注文はお決まりでしょうか?」
俺たちは同時に頷く。
この展開は、まるでまだ夢の中にいるようだった。
ーー俺は……美於に接客されているのか!?
今更状況を飲み込んで、仕事の緊張が一気に消えた。アプリの紹介に集中したかったから、他の事はしばらく考えないようにしていた。だが、今はようやく羽を伸ばせる。
桜のほうを見ると、彼女は夢中になったようだ。
「谷川さん、注文を決めたか?」
「はい!」
俺の質問に我に返ったのか、桜は突然居住まいを正して、そう答えた。
「じゃあ、先にどうぞ」
桜は美於ちゃんに視線を向けて、目を輝かせる。
「オムライスをください!」
ーーオムライス、か。俺も美於ちゃんのオムライスが食べたいなぁ……。
「じゃ、俺もオムライスだ」
「では、少々お待ちください!」
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
私が厨房に入ると、叶の姿が目に入った。
「あら、またオムライスを作るの?」
「そうです!」
叶はカウンターから降りて、青い髪の毛を耳にかける。
「楽しみだね。前回作ったオムライスも美味しそうだったし」
「叶も、オムライスを注文したいんですか?」
「いいえ、結構です。わたくし、仕事に戻りますから」
言って、叶は厨房を後にした。
歩きながら、彼女は背筋を伸ばす。
ーーさて、料理を始めようか?
水樹のおかげで、オムライスを作ったことがある。
確かに料理の腕はまだまだなんだけど、今回は前回より美味しいオムライスを作るのを目指している。私のきちんと作ったオムライスを、零士に見せたいから。
私なりのオムライスを口にしたら、一目惚れするはずだ。
私は髪をポニーテールにまとめて、気合を入れる。
カウンターの上に置かれた材料に目を通した。
叶がさっきそれを用意してくれたのかな? まったく、彼女は優しすぎるんじゃないか? でも本当に助かる。
記憶をたどって、私はオムライスの作り方を徐々に思い出す。あ、まずは卵を割り入れたっけ。卵液をフライパンに入れたっけ。
記憶が間違っていないことを願いながら、私はひたすらレシピ通りに作ろうとする。
そして、オムライスがやっとできた……。
そんな美味しそうなオムライスを見つめて、私は後悔してしまう。
ーー自分の分も作ればよかったのに、と。
とにかく、私は二つのオムライスを皿に載せてから食堂に運んでいく。
お客様が零士だから少し緊張しているし、皿を落としてしまわないようにゆっくりと歩くようにした。
ドアを手で開けるのは無理なので、背中で開けることしかできなかった。
私はドアに背中を預けて、強く押す。
最初は開かなかったけど、二、三回押してからドアがからりと開けた。
私はバランスを崩しそうになって、突然身を乗り出す。
幸いなことに、皿を落とさずにバランスを取り戻せた。
安堵の溜息を吐いてから、私は零士のテーブルに向かった。彼が同僚と話し込んでいたので、おそらくさっきのミスに気づかなかっただろう。
「お待たせしました!」
言いながら、私は配膳した。
「美味しそうだな!」
「美味しそう~!」
少なくとも、第一印象はよさそう。緊張しながら、私は彼らの感想を待っていた。
特に零士の食レポを楽しみにしている。美味しい、と言ってほしいけど……。
「食べる前に、もしよろしければケチャップで何かを描くことができますので、描いてほしいことがあれば是非教えてください!」
「あの、私はいいんですけど」
同僚がそう言って、零士に視線を向けた。
「俺は描いてほしいことがあるよ」
「それは、なんでしょうか?」
「ハートをください」
ーーこうして告白になるのか!? でも可愛いし、本当にハートを描いてみたいなぁ。
ケチャップボトルを軽く絞って、私はハートの形をなぞる。
私が描いている間、皆が無言でオムライスに見入っていた。少しプレイヤーを感じて手が震えたけど、結局無事に描けた。
描き終えてから、私は仕上げたオムライスを零士の前に置いた。
「では、冷めないうちに食べてください!」
その言葉に、私はテーブルから離れていく。
「美味い! みーー希は料理上手だね!」
その言葉に、私は頬を染めてしまう。
零士に褒められると興奮せずにはいられないんだ。
私はテーブルに振り向いて、彼らの食べている姿をこっそりと観察した。できるだけ感情を顔に出さないようにして、零士とその同僚を交互に見る。
「お、美味しい! やっぱりオムライスを頼んでよかったわ!」
ーーほう、同僚もいいセンスだぁ!!
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
零士のことを考えながら、私は皿を洗ったり残った材料を片付けたりする。
まだ会計を済まさなかったけど、私は本当に零士に行かないでほしい。せっかく十年ぶりに会えたのに、なぜか彼が今にも消えてしまうような気がした。
ま、仕事はあるし、私より忙しいだろう。それでも、まだ別れを告げたくない。もう少しだけでもいいから……。
十年前の私が言えなかったことを今度こそちゃんと言いたい。今日は私が後悔を残さないで終わるように……。
そう思いながら、私は無意識に片付け続けた。気づいたら皿を全部洗って、材料を全部冷蔵庫に入れていた。
溜息を吐いて、髪を下ろした。長い間結んでいた髪がまだポニーテールの形を取っている。手で髪を直したあと、私は厨房を出た。
零士がまだいるか心配したけど、ドアを開けると彼の姿が視界に入った。しかも、なぜか一人ぼっちだ。
あの同僚はもう会社に戻ったのか? それとも帰路についた?
どちらにしろ、これは最高のチャンスだ。
私は零士に近づいていって、向こうの席についた。すると、彼は俯いた顔を私に向ける。
「美於ちゃん?」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

優等生の裏の顔クラスの優等生がヤンデレオタク女子だった件
石原唯人
ライト文芸
「秘密にしてくれるならいい思い、させてあげるよ?」
隣の席の優等生・出宮紗英が“オタク女子”だと偶然知ってしまった岡田康平は、彼女に口封じをされる形で推し活に付き合うことになる。
紗英と過ごす秘密の放課後。初めは推し活に付き合うだけだったのに、気づけば二人は一緒に帰るようになり、休日も一緒に出掛けるようになっていた。
「ねえ、もっと凄いことしようよ」
そうして積み重ねた時間が徐々に紗英の裏側を知るきっかけとなり、不純な秘密を守るための関係が、いつしか淡く甘い恋へと発展する。
表と裏。二つのカオを持つ彼女との刺激的な秘密のラブコメディ。
もしもしお時間いいですか?
ベアりんぐ
ライト文芸
日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。
2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。
※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
CODE:HEXA
青出 風太
キャラ文芸
舞台は近未来の日本。
AI技術の発展によってAIを搭載したロボットの社会進出が進む中、発展の陰に隠された事故は多くの孤児を生んでいた。
孤児である主人公の吹雪六花はAIの暴走を阻止する組織の一員として暗躍する。
※「小説家になろう」「カクヨム」の方にも投稿しています。
※毎週金曜日の投稿を予定しています。変更の可能性があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる