19 / 44
第三章『情熱』
第19話 町中に響き渡れ、私たちの音
しおりを挟む
「じゃ、これでいいかな」
機材を地面に置いてから、水樹は立ち上がってそう言った。
私はチケットの束を足元に置いて、マイクが動作するか確認した。
「皆様、ご注目ください!」
試しにその台詞を言うと、何人かの人がこちらに視線を向けてくれた。意外と効果的でまた言いたくなった。
しかし、迷惑をかけたくないからやめておいた。
ーーそういえば、ここに私のファンはいないかな?
社会人の群れを見渡したけど、結局赤の他人ばかりだった……。
それでも、悪いことではないだろう。むしろ、新しいファンを作るチャンスだ!
じゃ、自己紹介から始めようか。
「私たちは青いドリーマーというアイドルグループです! 本日は路上ライブをするために秋葉原に来ました!」
それから、私と水樹は名前を告げる。
「青いドリーマーのあおいちゃんです! ずっと夢を追いかけて、歌っていたい!」
「水樹です! 新しいメンバーなので、皆も私と頑張って成長しましょうね!」
興味なさそうに背を向けて立ち去る人もいれば、目の前に集まってくる人もいた。
まだ夢の中にいるのかと思ったけど、瞬くとその大勢がまだ目の前にいる。
よくわからないけど、どうやら私たちは皆の気を引くのに成功したようだ。せっかくだから、最高の路上ライブをしなければならない。
「皆様、本日はここに来て本当にありがとうございます! さあ、最高の路上ライブをしてみせるよー! 盛り上がっていますか?」
私の言葉に歓声の声が街に鳴り響いた。
水樹がCDプレイヤーの電源ボタンを押すと、音楽が流れ始めた。
「さあ、行くよ! 私たちの歌を聴いてください!!」
私は深呼吸して、マイクを口元に運んできた。
水樹に視線を向けて、「準備万端です」といわんばかりに頷いた。
彼女は笑顔を見せて、頷き返す。
そして、私たちはいよいよ歌い始めた……。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
ーーできた! 私たちは、最高の路上ライブができた!!
マイクを汗だくの手で握りしめながら喘ぐ。
皆の声が次第に大きくなって、街に響き渡る。
そして、私は足元に置いたチケットの束を手に取って、観客に声をかけた。
「皆様、本日は本当にありがとうございました! 次のライブに行きたいと思っている方は、ぜひチケットを買ってください!」
その言葉に、大勢の人が私の前に集まってお金を出してくる。
チケットの束が一個一個減っていく。
私はほっとして、笑みを浮かべた。
ーー皆は優しい……思った以上に。
しかし、観客が解散したあと、チケットが思うように売れていないことに気がついた。
視線を落とすと、チケットが二割くらい残っている。少なそうな数かもしれないけど、チケットが完売しないと次のライブは満席になるわけがない。
とにかく、そんなことは考えないほうがいいだろう。
この後、ゆめゐ喫茶を訪れるからチャンスはまだある。しかも、メイドたちがチケットを買ってくれるかもしれない。
街が静まり返ったころ、水樹は片付け始めた。
「さて、あのメイド喫茶に行きましょうか? ゆめゐ喫茶でしたっけ」
「うん、行きましょう……」
と、私は目を伏せて言った。
まだゆめゐ喫茶に行きたいけど、残りのチケットを見ると気が滅入ってしまった。
最高の路上ライブだったのに、私たちはどこかで失敗しただろうか。まあ、失敗しなくてもチケットが完売するとは限らないけど。あくまで観客次第だから。
「あの、大丈夫ですか、夢輝さん? なんか悲しそうですけど」
「な、何でもないですよ。ちょっと考え込んでただけです」
「じゃ、早速ゆめゐ喫茶に行きましょうね! 夢輝さんはずっと行きたかったんでしょ?」
彼女の言う通りだ。
その言葉に、私は頭を上げて前を向いた。チケットが売り切れなかったとしても、チャンスはまだある。ゆめゐ喫茶に来たら、私の願いがようやく叶うかもしれないから……。
「うん、私はこの機会をずっと待ってたんですよ。では、行きましょうか!」
私がそう言うと、水樹はこちらを見て微笑んだ。
私たちは手をつないで、静かな街を歩き始めた。
「あのね、ゆめゐ喫茶はどこですか?」
ーーそういえば、どこなのかはまだわからない!
私はチラシを取り出した。
最初に内容を読んだときは速読したので、所在地などを読み飛ばしてもおかしくない。
しかし、ゆっくり読むと所在地は載っていないことに気がついた。
ただのポカミスだとは思わない。きっとそんな大切な情報を隠す理由があるけど、私にはよくわからない。
お客さんからすると、所在地を隠したらお店が一層胡散臭く見えてしまうのではないだろうか?
だから、本当にわからない。
ーー結局、ゆめゐ喫茶は詐欺に過ぎないのか……?
それでも、私はまだ行きたい。
携帯をポケットから取り出して、『ゆめゐ喫茶』をググってみた。
地図を拡大してから、私は水樹に画面を見せた。
「あ、近くにあるんですね! じゃ、今からそこに行きましょう!」
機材を地面に置いてから、水樹は立ち上がってそう言った。
私はチケットの束を足元に置いて、マイクが動作するか確認した。
「皆様、ご注目ください!」
試しにその台詞を言うと、何人かの人がこちらに視線を向けてくれた。意外と効果的でまた言いたくなった。
しかし、迷惑をかけたくないからやめておいた。
ーーそういえば、ここに私のファンはいないかな?
社会人の群れを見渡したけど、結局赤の他人ばかりだった……。
それでも、悪いことではないだろう。むしろ、新しいファンを作るチャンスだ!
じゃ、自己紹介から始めようか。
「私たちは青いドリーマーというアイドルグループです! 本日は路上ライブをするために秋葉原に来ました!」
それから、私と水樹は名前を告げる。
「青いドリーマーのあおいちゃんです! ずっと夢を追いかけて、歌っていたい!」
「水樹です! 新しいメンバーなので、皆も私と頑張って成長しましょうね!」
興味なさそうに背を向けて立ち去る人もいれば、目の前に集まってくる人もいた。
まだ夢の中にいるのかと思ったけど、瞬くとその大勢がまだ目の前にいる。
よくわからないけど、どうやら私たちは皆の気を引くのに成功したようだ。せっかくだから、最高の路上ライブをしなければならない。
「皆様、本日はここに来て本当にありがとうございます! さあ、最高の路上ライブをしてみせるよー! 盛り上がっていますか?」
私の言葉に歓声の声が街に鳴り響いた。
水樹がCDプレイヤーの電源ボタンを押すと、音楽が流れ始めた。
「さあ、行くよ! 私たちの歌を聴いてください!!」
私は深呼吸して、マイクを口元に運んできた。
水樹に視線を向けて、「準備万端です」といわんばかりに頷いた。
彼女は笑顔を見せて、頷き返す。
そして、私たちはいよいよ歌い始めた……。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
ーーできた! 私たちは、最高の路上ライブができた!!
マイクを汗だくの手で握りしめながら喘ぐ。
皆の声が次第に大きくなって、街に響き渡る。
そして、私は足元に置いたチケットの束を手に取って、観客に声をかけた。
「皆様、本日は本当にありがとうございました! 次のライブに行きたいと思っている方は、ぜひチケットを買ってください!」
その言葉に、大勢の人が私の前に集まってお金を出してくる。
チケットの束が一個一個減っていく。
私はほっとして、笑みを浮かべた。
ーー皆は優しい……思った以上に。
しかし、観客が解散したあと、チケットが思うように売れていないことに気がついた。
視線を落とすと、チケットが二割くらい残っている。少なそうな数かもしれないけど、チケットが完売しないと次のライブは満席になるわけがない。
とにかく、そんなことは考えないほうがいいだろう。
この後、ゆめゐ喫茶を訪れるからチャンスはまだある。しかも、メイドたちがチケットを買ってくれるかもしれない。
街が静まり返ったころ、水樹は片付け始めた。
「さて、あのメイド喫茶に行きましょうか? ゆめゐ喫茶でしたっけ」
「うん、行きましょう……」
と、私は目を伏せて言った。
まだゆめゐ喫茶に行きたいけど、残りのチケットを見ると気が滅入ってしまった。
最高の路上ライブだったのに、私たちはどこかで失敗しただろうか。まあ、失敗しなくてもチケットが完売するとは限らないけど。あくまで観客次第だから。
「あの、大丈夫ですか、夢輝さん? なんか悲しそうですけど」
「な、何でもないですよ。ちょっと考え込んでただけです」
「じゃ、早速ゆめゐ喫茶に行きましょうね! 夢輝さんはずっと行きたかったんでしょ?」
彼女の言う通りだ。
その言葉に、私は頭を上げて前を向いた。チケットが売り切れなかったとしても、チャンスはまだある。ゆめゐ喫茶に来たら、私の願いがようやく叶うかもしれないから……。
「うん、私はこの機会をずっと待ってたんですよ。では、行きましょうか!」
私がそう言うと、水樹はこちらを見て微笑んだ。
私たちは手をつないで、静かな街を歩き始めた。
「あのね、ゆめゐ喫茶はどこですか?」
ーーそういえば、どこなのかはまだわからない!
私はチラシを取り出した。
最初に内容を読んだときは速読したので、所在地などを読み飛ばしてもおかしくない。
しかし、ゆっくり読むと所在地は載っていないことに気がついた。
ただのポカミスだとは思わない。きっとそんな大切な情報を隠す理由があるけど、私にはよくわからない。
お客さんからすると、所在地を隠したらお店が一層胡散臭く見えてしまうのではないだろうか?
だから、本当にわからない。
ーー結局、ゆめゐ喫茶は詐欺に過ぎないのか……?
それでも、私はまだ行きたい。
携帯をポケットから取り出して、『ゆめゐ喫茶』をググってみた。
地図を拡大してから、私は水樹に画面を見せた。
「あ、近くにあるんですね! じゃ、今からそこに行きましょう!」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

優等生の裏の顔クラスの優等生がヤンデレオタク女子だった件
石原唯人
ライト文芸
「秘密にしてくれるならいい思い、させてあげるよ?」
隣の席の優等生・出宮紗英が“オタク女子”だと偶然知ってしまった岡田康平は、彼女に口封じをされる形で推し活に付き合うことになる。
紗英と過ごす秘密の放課後。初めは推し活に付き合うだけだったのに、気づけば二人は一緒に帰るようになり、休日も一緒に出掛けるようになっていた。
「ねえ、もっと凄いことしようよ」
そうして積み重ねた時間が徐々に紗英の裏側を知るきっかけとなり、不純な秘密を守るための関係が、いつしか淡く甘い恋へと発展する。
表と裏。二つのカオを持つ彼女との刺激的な秘密のラブコメディ。
もしもしお時間いいですか?
ベアりんぐ
ライト文芸
日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。
2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。
※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
CODE:HEXA
青出 風太
キャラ文芸
舞台は近未来の日本。
AI技術の発展によってAIを搭載したロボットの社会進出が進む中、発展の陰に隠された事故は多くの孤児を生んでいた。
孤児である主人公の吹雪六花はAIの暴走を阻止する組織の一員として暗躍する。
※「小説家になろう」「カクヨム」の方にも投稿しています。
※毎週金曜日の投稿を予定しています。変更の可能性があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる