12 / 44
第二章『青春』
第12話 初恋のハッピーエンド
しおりを挟む
メッセージを読み終えると、戸ノ崎さんの頬が赤くなった。
「何かありましたか?」
と、私は困った表情を浮かべて言った。
正直、メッセージの内容を知りたかっただけ。
「こ、これを見て」
言って、戸ノ崎さんは画面を見せてくれた。
『今日は本当にすまんな。せっかく恋文を手渡してくれたのに来なかった。実は、僕は姫奈さんのことがずっと好きだったけど、勉強に集中していたから告らなかった。姫奈さんの言う通りだ。僕はただの馬鹿野郎だ。でも、君の馬鹿野郎だから許してくれないか』
私がメッセージに目を通している間、戸ノ崎さんの頬がさらに赤くなった。
ーーああ、これは青春だね。
私は懐かしくなった。
高校生のころ、零士はそんなことを全然言ってくれなかった。
まあ、あのころの私も素直ではなかったけど。
「よかったですね! 明日は学校で告白するはずです」
「ホントに叶った……あたしの夢が」
「正直、私も少し驚きました。店長さんの力はすごいですね」
そして、戸ノ崎さんは叶に頭を下げた。
「本当にありがとうございました」
「あら、頭を下げなくてもいいですよ。これはわたくしの仕事だけですから」
「それでも、本当に感謝していますよ。だって、このお店のおかげであたしの願い事がやっと叶ったんですし」
お礼を言ってから、戸ノ崎さんは振り返って室内を見回した。
「あの、出口はどこですか?」
「そうですね。今ドアを開けてあげます」
と、叶はドアのほうに指差して言った。
その瞬間、不可思議なことが起こった。
叶はまだ机の後ろに立っているのに、手をあげるとドアが自動で開く。
私と戸ノ崎さんは目を見開いて、ぽかんと口を開けた。
「それでは!」
叶は『何かあったかしら?』と言わんばかりに淡々と私たちをドアまで送ってくれた。
疑問を投げかける間もなく、私たちは見慣れた食堂に戻された。
「一体何が……」
そう言ったのは、身体を震わせながら携帯を鷲掴みにしている戸ノ崎さん。
「私も、よくわかりませんけど」
と、私は彼女を慰めるように言った。
今朝時間が少なかったとはいえ、叶はそんなことを説明しておいたほうがよかったんじゃない……?
「結構遅くなっていますし、まだ女子高生ですね。そろそろ帰ったほうがいいと思いますよ」
「そ、そうですね。じゃ、あたしはこれで……」
言って、戸ノ崎さんは再びお礼を言って、一人で店を出ていった。
ーー彼女は一人で大丈夫かな……。
「じゃ、閉店しようか?」
数分後、叶は個人事務所だと私が仮定している部屋から出てきて、そう言った。
世界で一番可愛いメイドの私がここで働き始めたものの、客足はまだ増えていない。しかし、その一方で閉店準備は短かった。
数個の皿を厨房に運んでいって、食器洗い機に入れた。
私は背伸びをして、溜息を吐いた。
振り向くと、叶が厨房に忍び込んだことに気がついた。
「もう帰っていいのよ、後はわたくしに任せて」
「わかりました」
頷いて、私はそう言った。
後は着替えるだけだ。
厨房を出て、台詞を練習した更衣室に向かった。
メイド服を脱いで吊るしてから、OL服に着替え始めた。
脚を黒いタイツに通して、白いシャツを着た。長い髪を首に押し付けたまま、ブレザーに腕を通した。
静かな店内に衣擦れの音が響く。
叶の足音が聞こえてきて、私はシャツにしまわれた後ろ髪を両手で引っ張り出した。
そして、ドアの向こうから叶の声がした。
「入ってもいい?」
「はい、後は靴だけです」
叶がドアを開けて、私は靴を手に取った。
「メイド服よりそっちの方が似合うと思うの」
褒められているかどうかわからなかったけど、とにかく褒め事として受け取った。
「ありがとうございます。でも、メイド服を可愛く着こなすように頑張ります」
私は靴を履いてから更衣室を出た。
たった一日しか経っていないのに、このOL服にはもう慣れていない。タイツ以外は窮屈すぎて動きにくい。
叶は立ち止まって、真剣そうな表情で私に話しかけた。
「これから、いろんな人がこの店を訪れる。今日はめでたしめでたしで終わったけど、下心を持ってここに来る悪人もいるはずだね。皆の願い事をちゃんと聞いて、自分で判断しなければならない。頼むよ」
「わかりました。私に任せてください」
「ありがとう。今日はお疲れ様でした」
と、叶はドアを開けてくれて、言った。
「お疲れ様でした」
私は別れを告げて、薄暗い街を歩き始めた。歩きながら、黒髪が涼しい夜風にそっとなびいていた。
後ろからドアの音がかすかに聞こえた。振り向くと、叶の手を振っている姿が視界に入ってくる。
こうして、新しい仕事の初日は無事に終わったーー
そう思ったけど、一つ問題がまだ残っている。この服は、歩くことさえも一苦労するほど窮屈なんだ。
ーーもう、給料をもらったら絶対に新しい服を買いにいくわよ……。
「何かありましたか?」
と、私は困った表情を浮かべて言った。
正直、メッセージの内容を知りたかっただけ。
「こ、これを見て」
言って、戸ノ崎さんは画面を見せてくれた。
『今日は本当にすまんな。せっかく恋文を手渡してくれたのに来なかった。実は、僕は姫奈さんのことがずっと好きだったけど、勉強に集中していたから告らなかった。姫奈さんの言う通りだ。僕はただの馬鹿野郎だ。でも、君の馬鹿野郎だから許してくれないか』
私がメッセージに目を通している間、戸ノ崎さんの頬がさらに赤くなった。
ーーああ、これは青春だね。
私は懐かしくなった。
高校生のころ、零士はそんなことを全然言ってくれなかった。
まあ、あのころの私も素直ではなかったけど。
「よかったですね! 明日は学校で告白するはずです」
「ホントに叶った……あたしの夢が」
「正直、私も少し驚きました。店長さんの力はすごいですね」
そして、戸ノ崎さんは叶に頭を下げた。
「本当にありがとうございました」
「あら、頭を下げなくてもいいですよ。これはわたくしの仕事だけですから」
「それでも、本当に感謝していますよ。だって、このお店のおかげであたしの願い事がやっと叶ったんですし」
お礼を言ってから、戸ノ崎さんは振り返って室内を見回した。
「あの、出口はどこですか?」
「そうですね。今ドアを開けてあげます」
と、叶はドアのほうに指差して言った。
その瞬間、不可思議なことが起こった。
叶はまだ机の後ろに立っているのに、手をあげるとドアが自動で開く。
私と戸ノ崎さんは目を見開いて、ぽかんと口を開けた。
「それでは!」
叶は『何かあったかしら?』と言わんばかりに淡々と私たちをドアまで送ってくれた。
疑問を投げかける間もなく、私たちは見慣れた食堂に戻された。
「一体何が……」
そう言ったのは、身体を震わせながら携帯を鷲掴みにしている戸ノ崎さん。
「私も、よくわかりませんけど」
と、私は彼女を慰めるように言った。
今朝時間が少なかったとはいえ、叶はそんなことを説明しておいたほうがよかったんじゃない……?
「結構遅くなっていますし、まだ女子高生ですね。そろそろ帰ったほうがいいと思いますよ」
「そ、そうですね。じゃ、あたしはこれで……」
言って、戸ノ崎さんは再びお礼を言って、一人で店を出ていった。
ーー彼女は一人で大丈夫かな……。
「じゃ、閉店しようか?」
数分後、叶は個人事務所だと私が仮定している部屋から出てきて、そう言った。
世界で一番可愛いメイドの私がここで働き始めたものの、客足はまだ増えていない。しかし、その一方で閉店準備は短かった。
数個の皿を厨房に運んでいって、食器洗い機に入れた。
私は背伸びをして、溜息を吐いた。
振り向くと、叶が厨房に忍び込んだことに気がついた。
「もう帰っていいのよ、後はわたくしに任せて」
「わかりました」
頷いて、私はそう言った。
後は着替えるだけだ。
厨房を出て、台詞を練習した更衣室に向かった。
メイド服を脱いで吊るしてから、OL服に着替え始めた。
脚を黒いタイツに通して、白いシャツを着た。長い髪を首に押し付けたまま、ブレザーに腕を通した。
静かな店内に衣擦れの音が響く。
叶の足音が聞こえてきて、私はシャツにしまわれた後ろ髪を両手で引っ張り出した。
そして、ドアの向こうから叶の声がした。
「入ってもいい?」
「はい、後は靴だけです」
叶がドアを開けて、私は靴を手に取った。
「メイド服よりそっちの方が似合うと思うの」
褒められているかどうかわからなかったけど、とにかく褒め事として受け取った。
「ありがとうございます。でも、メイド服を可愛く着こなすように頑張ります」
私は靴を履いてから更衣室を出た。
たった一日しか経っていないのに、このOL服にはもう慣れていない。タイツ以外は窮屈すぎて動きにくい。
叶は立ち止まって、真剣そうな表情で私に話しかけた。
「これから、いろんな人がこの店を訪れる。今日はめでたしめでたしで終わったけど、下心を持ってここに来る悪人もいるはずだね。皆の願い事をちゃんと聞いて、自分で判断しなければならない。頼むよ」
「わかりました。私に任せてください」
「ありがとう。今日はお疲れ様でした」
と、叶はドアを開けてくれて、言った。
「お疲れ様でした」
私は別れを告げて、薄暗い街を歩き始めた。歩きながら、黒髪が涼しい夜風にそっとなびいていた。
後ろからドアの音がかすかに聞こえた。振り向くと、叶の手を振っている姿が視界に入ってくる。
こうして、新しい仕事の初日は無事に終わったーー
そう思ったけど、一つ問題がまだ残っている。この服は、歩くことさえも一苦労するほど窮屈なんだ。
ーーもう、給料をもらったら絶対に新しい服を買いにいくわよ……。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

優等生の裏の顔クラスの優等生がヤンデレオタク女子だった件
石原唯人
ライト文芸
「秘密にしてくれるならいい思い、させてあげるよ?」
隣の席の優等生・出宮紗英が“オタク女子”だと偶然知ってしまった岡田康平は、彼女に口封じをされる形で推し活に付き合うことになる。
紗英と過ごす秘密の放課後。初めは推し活に付き合うだけだったのに、気づけば二人は一緒に帰るようになり、休日も一緒に出掛けるようになっていた。
「ねえ、もっと凄いことしようよ」
そうして積み重ねた時間が徐々に紗英の裏側を知るきっかけとなり、不純な秘密を守るための関係が、いつしか淡く甘い恋へと発展する。
表と裏。二つのカオを持つ彼女との刺激的な秘密のラブコメディ。
もしもしお時間いいですか?
ベアりんぐ
ライト文芸
日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。
2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。
※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる