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第二章『青春』
第11話 初めての希茶
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「お待たせしました!」
お客様と目を合わせて、私はそう言った。
待ちわびたような表情で私をにらみつけながら、彼女は吐息を漏らした。
まあ、長い間待たせちゃったから気持ちはわかるけどね。
私もレストランで食事を待っている時は我慢できなくなるんだ。しかも、彼女が注文したのは食事ではなく、飲み物なので早く出してもらえると思ったんだろう。
ーー結局、私もメイド失格なんじゃないか?
お盆をテーブルに置くと、彼女は生き返ったかのように突如身を乗り出す。湯吞みを手に取って、中に入ったお茶を見つめた。
「紫色の茶を見るのは初めて……。これ、本当に飲んでもいいんですか?」
注ぎながら私もそう思った。あまりに不思議なお茶なので、躊躇するのは当然だろう。
「実は、私もどんな味か知りませんので……。もしよろしければ、飲んでからぜひ教えてください」
「うん、教えてあげますよ」
「ありがとうございます」
二度とメイド失格にならないように、私はできるだけ丁寧に話すようにした。
「感想くらいは大したことないでしょ?」
言って、彼女は湯吞みを口元まで運んで、香りを嗅いだ。
「香りは普通のお茶と同じですよね。なら、味も同じかなぁ」
「そうかもしれませんね。では、いっそう美味しくなるように一緒に呪文を言いましょう!」
「「おいしくな~れ、萌え萌えキュン!」」
「この魔法のおかげで、その願いは必ず叶えます!」
彼女は今どんな気持ちなのかな? 何も飲んでいないのに私はすごく緊張しているから、そっちの気持ちは想像もできなかった。
「ごゆっくり召し上がってください。冷めないうちに」
「じゃ、飲んでみようか。ま、その前にお礼を言います。本当にありがとうございます。これで、彼のことが好きだってことに気づいてくれるでしょ。そして、やっと両想いになれます!」
彼女は私の目を見つめて、微笑んだ。
そして、希茶を口に運んだ。しばらく口に含んでから飲み込んだ。
「いかがでしょうか?」
「とっても美味しいです! 普通のお茶より甘くてーー」
彼女が突如絶句したのは、湯吞みから紫色の煙が大量に出てきて店内に広がっていくから。
驚いた顔で私に目をやったけど、正直私も何が起こっているかわからない。
煙が出てくれば出てくるほど、周りが見えなくなった。
じっと見つめることしかできなくて、私たちは戸惑った。
慌てて彼女を抱きしめると、どこかに移動させられたような気がした。体中に振動を感じて、眩い光に目が眩む。
その光が消えると、私たちはどこかの薄暗い部屋にいることに気がついた。
「ここは……どこなの?」
と、彼女は身体を震わせながら言った。
しかし、私は返事をしなかった。というか、返事ができなかった。
そして、暗闇から声をかけられた。
「お帰りなさいませ、お嬢様……」
顔が見えなくても、その声はよく知っている。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
「あら、ここに来たってことは、希茶を注ぐのに成功したってことだね」
逆光に照らされた机の前に座っているのは叶だった。
見慣れた空色の髪が、沈んでいる太陽の光に輝いている。
店長の個人事務所と思しき部屋は狭く、薄暗い。部屋の中を照らすのは徐々に弱っている陽射しだけだった。
「店長? どういうことですか?」
「お客様が希茶を飲んだからには、次の段階に進めたの」
「次の段階、ですか?」
「願いを叶えてあげるのよ。ごめんね、一つ嘘をついた。希茶を飲むだけで願い事は叶わない。願いを叶えるのは、わたくしの力なのだから」
言って、叶は立ち上がり、こちらへ向かった。
「お名前はなんでしょうか?」
「あの、戸ノ崎姫奈ですけど」
「素敵なお前ですね」
叶に名前を褒められたとき、私は本当に嬉しかった。けど、やっぱり決まり文句だったのかな……。
しかし、戸ノ崎さんも喜んでいるだろうから、私は疑問を投げかけないことにした。
叶は戸ノ崎さんの肩に両手をかけて、こう言った。
「わたくしの力を信じてください」
叶は笑みを浮かべているけど、目が笑っていない。
その言葉に、戸ノ崎さんは少し困惑したようだった。
「う、うん!」
そして、叶は目を瞑って、何らかの魔法を手に込める。
両手に光が輝き出し、彼女が再び目を開けるとその光は部屋の中に広がっていく。
「す、すごい……」
と、戸ノ崎さんは呆気にとられながら言った。
数秒後、光が完全に消えて部屋が前の薄暗さに戻った。
ーーこれで願い事が叶ったのか?
「そろそろあなたの好きな人ーー西野多久馬がLINEを送りますよ。ごゆっくりと読んでください」
叶の言う通り、戸ノ崎さんの携帯がポケットに震えた。
彼女は携帯を取り出して、画面に目をやった。
「えええええぇっ!?」
お客様と目を合わせて、私はそう言った。
待ちわびたような表情で私をにらみつけながら、彼女は吐息を漏らした。
まあ、長い間待たせちゃったから気持ちはわかるけどね。
私もレストランで食事を待っている時は我慢できなくなるんだ。しかも、彼女が注文したのは食事ではなく、飲み物なので早く出してもらえると思ったんだろう。
ーー結局、私もメイド失格なんじゃないか?
お盆をテーブルに置くと、彼女は生き返ったかのように突如身を乗り出す。湯吞みを手に取って、中に入ったお茶を見つめた。
「紫色の茶を見るのは初めて……。これ、本当に飲んでもいいんですか?」
注ぎながら私もそう思った。あまりに不思議なお茶なので、躊躇するのは当然だろう。
「実は、私もどんな味か知りませんので……。もしよろしければ、飲んでからぜひ教えてください」
「うん、教えてあげますよ」
「ありがとうございます」
二度とメイド失格にならないように、私はできるだけ丁寧に話すようにした。
「感想くらいは大したことないでしょ?」
言って、彼女は湯吞みを口元まで運んで、香りを嗅いだ。
「香りは普通のお茶と同じですよね。なら、味も同じかなぁ」
「そうかもしれませんね。では、いっそう美味しくなるように一緒に呪文を言いましょう!」
「「おいしくな~れ、萌え萌えキュン!」」
「この魔法のおかげで、その願いは必ず叶えます!」
彼女は今どんな気持ちなのかな? 何も飲んでいないのに私はすごく緊張しているから、そっちの気持ちは想像もできなかった。
「ごゆっくり召し上がってください。冷めないうちに」
「じゃ、飲んでみようか。ま、その前にお礼を言います。本当にありがとうございます。これで、彼のことが好きだってことに気づいてくれるでしょ。そして、やっと両想いになれます!」
彼女は私の目を見つめて、微笑んだ。
そして、希茶を口に運んだ。しばらく口に含んでから飲み込んだ。
「いかがでしょうか?」
「とっても美味しいです! 普通のお茶より甘くてーー」
彼女が突如絶句したのは、湯吞みから紫色の煙が大量に出てきて店内に広がっていくから。
驚いた顔で私に目をやったけど、正直私も何が起こっているかわからない。
煙が出てくれば出てくるほど、周りが見えなくなった。
じっと見つめることしかできなくて、私たちは戸惑った。
慌てて彼女を抱きしめると、どこかに移動させられたような気がした。体中に振動を感じて、眩い光に目が眩む。
その光が消えると、私たちはどこかの薄暗い部屋にいることに気がついた。
「ここは……どこなの?」
と、彼女は身体を震わせながら言った。
しかし、私は返事をしなかった。というか、返事ができなかった。
そして、暗闇から声をかけられた。
「お帰りなさいませ、お嬢様……」
顔が見えなくても、その声はよく知っている。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
「あら、ここに来たってことは、希茶を注ぐのに成功したってことだね」
逆光に照らされた机の前に座っているのは叶だった。
見慣れた空色の髪が、沈んでいる太陽の光に輝いている。
店長の個人事務所と思しき部屋は狭く、薄暗い。部屋の中を照らすのは徐々に弱っている陽射しだけだった。
「店長? どういうことですか?」
「お客様が希茶を飲んだからには、次の段階に進めたの」
「次の段階、ですか?」
「願いを叶えてあげるのよ。ごめんね、一つ嘘をついた。希茶を飲むだけで願い事は叶わない。願いを叶えるのは、わたくしの力なのだから」
言って、叶は立ち上がり、こちらへ向かった。
「お名前はなんでしょうか?」
「あの、戸ノ崎姫奈ですけど」
「素敵なお前ですね」
叶に名前を褒められたとき、私は本当に嬉しかった。けど、やっぱり決まり文句だったのかな……。
しかし、戸ノ崎さんも喜んでいるだろうから、私は疑問を投げかけないことにした。
叶は戸ノ崎さんの肩に両手をかけて、こう言った。
「わたくしの力を信じてください」
叶は笑みを浮かべているけど、目が笑っていない。
その言葉に、戸ノ崎さんは少し困惑したようだった。
「う、うん!」
そして、叶は目を瞑って、何らかの魔法を手に込める。
両手に光が輝き出し、彼女が再び目を開けるとその光は部屋の中に広がっていく。
「す、すごい……」
と、戸ノ崎さんは呆気にとられながら言った。
数秒後、光が完全に消えて部屋が前の薄暗さに戻った。
ーーこれで願い事が叶ったのか?
「そろそろあなたの好きな人ーー西野多久馬がLINEを送りますよ。ごゆっくりと読んでください」
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彼女は携帯を取り出して、画面に目をやった。
「えええええぇっ!?」
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