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第二章『青春』
第6話 トノサキ・ヒメナ
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ジリジリ。
ーーもう朝か……。
ジリジリジリジリ。
ーーまだ起きたくない……。
ジリジリーー
ーーもう、五月蝿いわ!!
寝ぼけたまま、あたしは目覚まし時計を力強く叩きつけた。
身体をベッドから転がさせて、陽だまりを顔に浴びた。暖かくて心地よかったけど、そろそろ学校に行かないと。
あたしは渋々立ち上がった。目をこすりながら、大きなあくびを漏らした。
ちゃんと八時間も寝ているのに、早起きが苦手。……いや、無理だ。
部屋を出ていった途端、母の声がした。
「姫奈ぁー。そろそろ起きないと遅刻するよぉー」
ーーまったく、もう起きたんだよ!!
そう思ったけど、もちろん口には出さなかった。
母はしつこいけど、それはあたしを愛している証拠だろう。だから、彼女が怒鳴ってもあたしは絶対に怒鳴り返さない。言われるがままにするのは無難だ。
「うん、早く弁当を作るわ」
言って、あたしは階段を下り、台所に向かった。
意外な事に、作られた弁当と朝ごはんがテーブルの上に置かれている。
「もう、遅刻すると心配したから用意したよ」
「マジで助かる、母さん!」
あたしがそう言うと、母は溜息を吐いた。
「今回だけだよ! 明日はちゃんと起きなさい……」
「了解、学校が終わったら目覚まし時計の設定を調整しておく」
母が作ってくれた朝ごはんの匂いが台所に漂う。匂いからして結構美味しそう!
あたしはできるだけ早く椅子に座って、箸を取った。
皿に載っているのはいくつかの卵焼き。あたしは作ったことがあるけど、上手くいったとは言えない。
ーーもっと時間があったら、もう一度作ってみたいなぁ。
朝ごはんをじっと見つめられなくて、あたしは遅刻しないように卵焼きを一つ一つ頬張った。
「美味しいぃー」
「早く食べてね」
言って、母はどこかに行った。
あたしは五分くらいで朝ごはんを食べ終えて、部屋に着替えに行った。
躓かないように階段を上って、ドアをからりと開けた。
押入れを探って制服を取り出してから、あたしは早速着替え始めた。
ーー時間がない。
あと十分に着替えて歯を磨かないと。できるだろうけどホントにきつい。髪が長いので着替えは大変だし、歯をちゃんと磨いたら二分もかかる。
とにかく、今から始めなければ間に合わない……。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
「今日こそ、あたしは絶対に彼を惚れさせる」
靴を履きながら、あたしはそう決意した。
彼というのは、西野多久馬のことだ。西野くんは優等生で勉強を優先している。なので、女心がまったくわからない。何回媚びても、彼はあたしの気持ちに気づいてくれない。
しかし、今日は違う。今日こそ告白してみせるんだ。
……そう言っても、今日中には無理だろう。
ーーいや、無理じゃない。告白はやればできるものなんだ。
「じゃ、行ってきまーす!」
靴を履いたあと、あたしは振り向いて別れを告げた。
「はーい、学校を楽しんでね」
家のどこかから母の優しい声が聞こえてきた。
今日の目標を決めて、あたしは自信満々で家を出た。
通学路を歩きながら、頭の中で計画を立てて推敲する。
今日のホームルームでは恋文をこっそりと手渡して、屋上で待ち合わせて、この美しい町を背景に告白する。
ーー成功しないわけがないでしょ?
告白に備えて、あたしは限られた時間で髪をポニーテールに結んだ。
髪を梳かす時間がなかったから、ポニーテールにしたら整えた佇まいを装うことができる。
ポニーテールが朝風に吹かれて、左右に揺られる。
夏の陽射しが私の顔をぽかぽかと温めてくれた。
顔を上げると、視界を埋め尽くしたのは雲のない青空。何匹もの鳥がその空しい空を飛んでいる。
「いい天気ぃー」
その言葉にあたしは視線を落として、先に歩いている姿に目をやった。
目の前には青井華恋。彼女とあまり喋らないけど、最近あたしのことが気になっているらしい。
「あ、戸ノ崎さん! おはよう!」
と、彼女は振り返って言った。
あたしを待っているのか、彼女は唐突に立ち止まった。
「おはよう、青井さん」
華恋は手を顎に添えて、あたしに視線を向けた。
なぜか、彼女は笑いを噛み殺そうとしているようだった。
「あのね、今日西野くんに告白するつもりって本当なの?」
歩きながら華恋はそう訊いた。
その問いに、あたしはびっくりした。
告白のことは誰にも言わなかったし、あたしが多久馬のことが好きということは秘密だと思っていた。なのに、彼女はどうやら知っている。
「誰がそんなことを言ってるの?」
「最近いろんな噂が流れているんだよ」
噂だった、か。あたしのような人気者にはよくあることなんだ。
普通は気にしないけど、多久馬も噂を聞いたら告白が台無しになるかもしれない。
ーーとにかく、一体誰がそんなことを吹聴しているのか? ムカつく……。
「ふーん、もうバレたのか。まあ、そのバカは噂を聞いても構わないよね。多分あたしのことだと気づかないでしょ」
その言葉に、華恋は首を傾げた。
「バカ……なのか? 最近のテストに満点を取ったと聞いたんだけど」
最近の中間テストを思い出して、あたしは気絶しそうになった。全部赤点を取ってしまったから、成績を親に隠して嘘を吐いた。幸いなことに、両親は何も疑っていなかった。
あたしはともかく、よりによって彼が満点を取るなんて!
華恋の話を聞いて、さらに気絶しそうになった。
ーーだって、そんなに賢いならなんで空気読めんのか!? たまにはあたしのことを考えてよ!!
「へー? そんなのありえないでしょ?」
「信じられないなら本人に直接訊いてみな」
言って、華恋はあざとい顔をした。
「しょうがないなぁ」
「とにかく、応援してるよ。きっと上手くいくよね!」
一所懸命頑張っているのに成果が全然出てこないというのは非常にもどかしい。
それでも、あたしは挫けない。どんなに悔しくても、成功するまで頑張り抜こう。
「ありがとう。でも、ホントにデートに行けるのかな……?」
「大丈夫だって。心配するより率先したほうがいいよ」
彼女のいう通りだろう。
とにかく、もう時間がない。早く歩かないと、あたしたちは遅刻しかねない。
ーーもう朝か……。
ジリジリジリジリ。
ーーまだ起きたくない……。
ジリジリーー
ーーもう、五月蝿いわ!!
寝ぼけたまま、あたしは目覚まし時計を力強く叩きつけた。
身体をベッドから転がさせて、陽だまりを顔に浴びた。暖かくて心地よかったけど、そろそろ学校に行かないと。
あたしは渋々立ち上がった。目をこすりながら、大きなあくびを漏らした。
ちゃんと八時間も寝ているのに、早起きが苦手。……いや、無理だ。
部屋を出ていった途端、母の声がした。
「姫奈ぁー。そろそろ起きないと遅刻するよぉー」
ーーまったく、もう起きたんだよ!!
そう思ったけど、もちろん口には出さなかった。
母はしつこいけど、それはあたしを愛している証拠だろう。だから、彼女が怒鳴ってもあたしは絶対に怒鳴り返さない。言われるがままにするのは無難だ。
「うん、早く弁当を作るわ」
言って、あたしは階段を下り、台所に向かった。
意外な事に、作られた弁当と朝ごはんがテーブルの上に置かれている。
「もう、遅刻すると心配したから用意したよ」
「マジで助かる、母さん!」
あたしがそう言うと、母は溜息を吐いた。
「今回だけだよ! 明日はちゃんと起きなさい……」
「了解、学校が終わったら目覚まし時計の設定を調整しておく」
母が作ってくれた朝ごはんの匂いが台所に漂う。匂いからして結構美味しそう!
あたしはできるだけ早く椅子に座って、箸を取った。
皿に載っているのはいくつかの卵焼き。あたしは作ったことがあるけど、上手くいったとは言えない。
ーーもっと時間があったら、もう一度作ってみたいなぁ。
朝ごはんをじっと見つめられなくて、あたしは遅刻しないように卵焼きを一つ一つ頬張った。
「美味しいぃー」
「早く食べてね」
言って、母はどこかに行った。
あたしは五分くらいで朝ごはんを食べ終えて、部屋に着替えに行った。
躓かないように階段を上って、ドアをからりと開けた。
押入れを探って制服を取り出してから、あたしは早速着替え始めた。
ーー時間がない。
あと十分に着替えて歯を磨かないと。できるだろうけどホントにきつい。髪が長いので着替えは大変だし、歯をちゃんと磨いたら二分もかかる。
とにかく、今から始めなければ間に合わない……。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
「今日こそ、あたしは絶対に彼を惚れさせる」
靴を履きながら、あたしはそう決意した。
彼というのは、西野多久馬のことだ。西野くんは優等生で勉強を優先している。なので、女心がまったくわからない。何回媚びても、彼はあたしの気持ちに気づいてくれない。
しかし、今日は違う。今日こそ告白してみせるんだ。
……そう言っても、今日中には無理だろう。
ーーいや、無理じゃない。告白はやればできるものなんだ。
「じゃ、行ってきまーす!」
靴を履いたあと、あたしは振り向いて別れを告げた。
「はーい、学校を楽しんでね」
家のどこかから母の優しい声が聞こえてきた。
今日の目標を決めて、あたしは自信満々で家を出た。
通学路を歩きながら、頭の中で計画を立てて推敲する。
今日のホームルームでは恋文をこっそりと手渡して、屋上で待ち合わせて、この美しい町を背景に告白する。
ーー成功しないわけがないでしょ?
告白に備えて、あたしは限られた時間で髪をポニーテールに結んだ。
髪を梳かす時間がなかったから、ポニーテールにしたら整えた佇まいを装うことができる。
ポニーテールが朝風に吹かれて、左右に揺られる。
夏の陽射しが私の顔をぽかぽかと温めてくれた。
顔を上げると、視界を埋め尽くしたのは雲のない青空。何匹もの鳥がその空しい空を飛んでいる。
「いい天気ぃー」
その言葉にあたしは視線を落として、先に歩いている姿に目をやった。
目の前には青井華恋。彼女とあまり喋らないけど、最近あたしのことが気になっているらしい。
「あ、戸ノ崎さん! おはよう!」
と、彼女は振り返って言った。
あたしを待っているのか、彼女は唐突に立ち止まった。
「おはよう、青井さん」
華恋は手を顎に添えて、あたしに視線を向けた。
なぜか、彼女は笑いを噛み殺そうとしているようだった。
「あのね、今日西野くんに告白するつもりって本当なの?」
歩きながら華恋はそう訊いた。
その問いに、あたしはびっくりした。
告白のことは誰にも言わなかったし、あたしが多久馬のことが好きということは秘密だと思っていた。なのに、彼女はどうやら知っている。
「誰がそんなことを言ってるの?」
「最近いろんな噂が流れているんだよ」
噂だった、か。あたしのような人気者にはよくあることなんだ。
普通は気にしないけど、多久馬も噂を聞いたら告白が台無しになるかもしれない。
ーーとにかく、一体誰がそんなことを吹聴しているのか? ムカつく……。
「ふーん、もうバレたのか。まあ、そのバカは噂を聞いても構わないよね。多分あたしのことだと気づかないでしょ」
その言葉に、華恋は首を傾げた。
「バカ……なのか? 最近のテストに満点を取ったと聞いたんだけど」
最近の中間テストを思い出して、あたしは気絶しそうになった。全部赤点を取ってしまったから、成績を親に隠して嘘を吐いた。幸いなことに、両親は何も疑っていなかった。
あたしはともかく、よりによって彼が満点を取るなんて!
華恋の話を聞いて、さらに気絶しそうになった。
ーーだって、そんなに賢いならなんで空気読めんのか!? たまにはあたしのことを考えてよ!!
「へー? そんなのありえないでしょ?」
「信じられないなら本人に直接訊いてみな」
言って、華恋はあざとい顔をした。
「しょうがないなぁ」
「とにかく、応援してるよ。きっと上手くいくよね!」
一所懸命頑張っているのに成果が全然出てこないというのは非常にもどかしい。
それでも、あたしは挫けない。どんなに悔しくても、成功するまで頑張り抜こう。
「ありがとう。でも、ホントにデートに行けるのかな……?」
「大丈夫だって。心配するより率先したほうがいいよ」
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