雪のち晴

トモヒロ69

文字の大きさ
上 下
7 / 14
第1章 雪のち晴

第7話 ビール

しおりを挟む
 カーテンの隙間から入ってくる、微かな光で雪は目が覚めた。隣の布団では、晴さんが眠っている。 

 昨日から、つまり十六夜が帰った日から、僕と晴さんはほとんど話していない。

 別に話さない理由があるわけではないが、なんだか気まずいのだ。

 どうしようかと考えていると、晴さんが起きたようだ。

 だが、どうしたのだろう。起き上がったまではいいのだが、そこからピクリと動かない。
 
「パシ!」

 晴さんがいきなり自分の頬を叩いた。

「よし!今日飲むぞ!」

 ………はぁ!?

■ ■ ■

「いやー買った買った」

 今僕の手には、大量の酒が入ったビニール袋がある。近くの酒屋で10種類くらいのビールと、5種類のウイスキーとワインを晴さんが買った。因みに持つのは全部僕だ。

「なんでいきなり飲むんですか?」

「そうそう前から言おうと思ったんだけどね」

 質問は無視された。

「雪君。私に敬語を使うことを禁止します」

 …超どうでもいい。というか僕の質問遮ってこれか…

「…なんでですか?」

 一応聞いておこう。

「いや君さ、私と喋る時ほとんど敬語じゃん?私あんまり敬語好きじゃないからさ」

 まあ初対面、しかも拘置所にいきなり現れて「やあ」と言う人だからなんとなく分かる。

「分かりました。でも晴さんのほうが年上ですよ?」

 因みに、僕は26、晴さんは27らしい。

「1年早く生まれただけで、そんなに変わらないよ」 

 まあ断る理由もないし、晴さんがいいと言うならいいか。

「あーそれともう1個あってね。私をさん付けで呼ぶのも禁止」

「自分は君付けで呼んでるのに!?」

「それとこれとは別だよ。けど呼び捨ても禁止ね。私、年上だから」

 さっき1年の年の差は関係ないって言ってた人のセリフとは思えない。それにそれだとちゃん付けしかないじゃないか。

「あっ、別にちゃん付けじゃなくてもいいよ。」

 心を読まれたようだ。だがちゃん付け以外に何があるのだろう。

「例えば、様とか」

「絶対に嫌だ」

 それならちゃん付けのほうがましだ。

「…晴ちゃん」

 恐る恐る顔をあげると、そこには顔を赤らめた晴ちゃんがいた。

「いや、自分で言わせといて恥じるのかよ!」 

■ ■ ■

「ぷはっ!やっぱビールってうまいねー!」

 家に帰った僕達は、早速買ったビールを開けて飲んでいた。

 実は僕はビールをほとんど飲んだことがない。20になってすぐに捕まってしまったからだ。

「雪君は飲まないの?」

 実は僕がお酒を飲まない理由はもう1つある。

「もしかしてお酒弱い?」

 …図星だ。前に付き合ってた恋人とお酒を飲んだときに、飲むと暴走すると言われた時はとてもショックだった。

「まあまあ少しでいいから飲もうよ」

 そう言うと、大きなジョッキを持ってきて、ビールを大量に注いだ。少しという言葉を知らないのか…

「じゃあ乾杯!」

 その後のことは覚えてない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

くだらない結婚はもう終わりにしましょう

杉本凪咲
恋愛
夫の隣には私ではない女性。 妻である私を除け者にして、彼は違う女性を選んだ。 くだらない結婚に終わりを告げるべく、私は行動を起こす。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

処理中です...