上 下
3 / 12
第1章

第3話 スレッド

しおりを挟む
「僕と婚約してくれないだろうか?」

 スレッドの声が部屋に響き渡る。アリスはスレッドの言葉を理解するのに10数秒はかかった。

「はい?…婚約?」

 その言葉を理解したアリスの脳内はパニックになる。

「私と、ですか?」

「そうだ。他に誰がいるんだ?」

 アリスは嬉しいかったが、少し冷静になる。何か企みがあるのだろうか。決してスレッドを疑っているわけではないが、今までの経験上、優しくされた記憶がないのでついつい疑ってしまう。

「とても失礼かもしれませんが、どうして私なんかと婚約しようと?私は外見もこの痣でとても悪いですし」

「…見たら分かる。君は親から虐げられてきた。昨日倒れた時、家族で心配している人はほとんどいなかった」

 アリスはこれを聞いても「やっぱりか」くらいにしか思わなかった。

「さっきこの家の侍女の人に聞いたよ。君の痣は生まれつきなんだろ?それのせいで姉のアリーナさんと昔から比べられてきたんだろ?」

「はい、そうです」

「僕も優秀な兄と比べられてきたから分かる。アリスは努力してきたんだと思う。同じ境遇で生きてきたアリスと結婚したい。…だめだろうか?」

 スレッドの目は真剣だった。アリスにとって、これ程嬉しい事を言ってくれた人は初めてだった。

「分かりました。結婚しましょう!」

 こうして、アリスとスレッドは婚約に至ったのだった。

◆ ◆ ◆

 後日、正式に婚約するために、両家で集まることになった。そこでは簡単な手続きと、結婚式はいつするのかなどを決めた。

 アリスは家族からの祝福の言葉をもらうが、本当に心から喜んでくれている人などいないことを知っている。

 しかし、アリスはようやく家を出ていける喜びと、自分を好きでいてくれるスレッドのおかげでそんなことはどうでも良くなっていた。

 最終的に結婚式は3ヶ月後となった。少し遅いが、これはアリスの体調を考慮してだった。アリスはその結婚式が待ち遠しくてたまらなかった。

「楽しみですね」

「あぁ、そうだね」

 こんな会話だけでもアリスは楽しく思う。この先、これ以上アリスを大切にしてくれる人はいないだろう。そして、2人は幸せな家庭を築く予定だった。

◆ ◆ ◆

 アリーナは憂いでいた。妹のアリスがスレッドと仲良くしているのを見ているだけで虫唾が走るほどだった。昔からアリスの幸せそうな顔を見ると腹が立つ。

 そして、アリーナは閃いた。スレッドを手に入れる方法を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

【完結】婚約解消、致しましょう。

❄️冬は つとめて
恋愛
政略的婚約を、二人は解消する。

たとえこの想いが届かなくても

白雲八鈴
恋愛
 恋に落ちるというのはこういう事なのでしょうか。ああ、でもそれは駄目なこと、目の前の人物は隣国の王で、私はこの国の王太子妃。報われぬ恋。たとえこの想いが届かなくても・・・。  王太子は愛妾を愛し、自分はお飾りの王太子妃。しかし、自分の立場ではこの思いを言葉にすることはできないと恋心を己の中に押し込めていく。そんな彼女の生き様とは。 *いつもどおり誤字脱字はほどほどにあります。 *主人公に少々問題があるかもしれません。(これもいつもどおり?)

皇太子に愛されない正妃

天災
恋愛
 皇太子に愛されない正妃……

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

結婚二年目、愛情は欠片もありません。

ララ
恋愛
最愛の人との結婚。 二年が経ち、彼は平然と浮気をした。 そして離婚を切り出され……

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

処理中です...