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私が歩く道を邪魔する奴が憎かった。
毎日だ。
ただ普通に歩いてるだけで“良くないこと”が起きた。
指を刺されて笑われて、‘いじられキャラ’の名称から此方の気持ちなんてお構い無しに笑われた。
そんな普通の中学時代を、‘実際誰も干渉してなかった時代’と言える日は来るのだろうか。
毎日込み上げる想いに蓋をして、みんなに合わせて馬鹿になった。
好きでもない色に染まって浸って、本当の自分が分からなかった。
口ではなんとでも言える。
でまかせも嘘も見破れる。
汚い嘘は聞いただけで耳が痛かった。
「…そんな嘘、求めてないから」
久しぶりに口にした“コトバ”の色。
それはただの無色透明でした。
7月20日
_______________
「明日から夏休みだね」
「そうだね…幸人も部活以外引きこもる感じ?」
散り散りに当たる日光が、二人の中に割って入った。
授業を終えて部活を始めるまでのものの数分、私たちはクーラーの冷気がにわかに残るこの教室でほとんど毎日、ひそひそと雑談会をしていた。
「まぁ…そうかな」
「ゲーム?次ガチャとイベが同時に来るから‘チズチズ’かな?」
「…当たり」
ふんわり笑顔を浮かべる彼, 汐留 幸人(しおどめ ゆきと)は世間で言うゲーオタだ。
剣道部に所属しているわけだがこの男、部活とゲーム以外のことはからっきしで毎度宿題を忘れては担任に大目玉を食らっている。
それでも懲りないからかなりメンタルが強いのだろうか。ある意味尊敬に値する。
「でも蜑住さんもチズチズやるんでしょ?イベント情報確認してるわけだし」
「まーね?早く幸人のレベルに追い付きたいし」
かく言う私、 蜑住 小雪(あますみ こゆき)もそこそこにゲームが好きだった。
中々周囲の人々に言ったことは無かったが、昔からゲームで遊ぶことが一つの趣味だった。
だから幅広い分野のゲームで遊ぶ幸人とは話しが合い、今では二人で話せる程の仲になっている。
「部活以外ずーっと部屋に引きこもってゲームとか…オタクを極めだしたね、幸人」
「そうかな?そんな俺とマッチングする蜑住さんも人のこといえないでしょ」
「そ?まぁ文芸部今やることないし…暇だからレベル上げして幸人ボッコボコにしよっかなーって」
「はははっ、冗談!1回しか勝ったことないじゃん!」
時折幼く笑い出す幸人の色素の薄い髪が日光に照らされて溶けているように見えた。
こんな他愛ない…と言うより幸人とじゃなきゃ出来ない話しが、まぁ私は嫌いじゃない。
「あ、5時半なっちゃったね
今日の居残り終わりかぁ…部活行かなきゃ」
「もうそんな時間?幸人、全然ノート埋まってない」
「そりゃあ…ずっと喋ってたからな」
1文字どころかノートも教科書も開かれていない様子を見るに、初めからやる気はなかったのだろう。そんな姿が子供みたいで、どこか笑ってしまいそうだった。
「ふぅ…やっぱ鞄重いね
幸人のもそうなのかな」
「そう?蜑住さん頭良いから沢山持って帰りすぎてるんだよ
もっと馬鹿やっていいじゃん」
鞄に荷物を詰め、席を立ち上がると目線が変わったのを直ぐに感じた。
中一の頃は私の方がずっと背が高かったのに。
幸人は中二に入ってぐんぐん背が伸びて、最近ではもう追い越されてしまった。
(私も高い方のはずなのに…流石にもう伸びないかな…)
「…行かなきゃ
じゃ、蜑住さんも部活ちゃんと行かなきゃ駄目だよ」
「わかってるよ!幸人みたいにサボったりしないから!」
「はいはい、じゃ…またね」
「…バイバイ!」
小走りで教室を出ていく幸人の姿を眺めていた。
色褪せた夏風がスカートを揺らし、鞄に着けている鈴に小さな音が宿った。
(嘘、今日‘も’文芸部ないんだよね)
小さな嘘も私を守る為の屈強な盾だ。
文芸部はここ1週間ずっと休みになっている。だがしかし、私は嘘を吐いてここで幸人と二人の時間を過ごしていた。
「全部思い通りには…ならないか」
再度席に座り、一冊のノートを開く。
(…今日はなんて書こうかな)
ある意味宿題より時間のかかるそれに、1文字1文字小さく可愛らしい字を並べる。
もう殆ど冷気が残っていない教室で、一汗かきながら夏のはじまりを密かに予感した。
明日から、本科的な‘夏’が、始まるような気がする。
毎日だ。
ただ普通に歩いてるだけで“良くないこと”が起きた。
指を刺されて笑われて、‘いじられキャラ’の名称から此方の気持ちなんてお構い無しに笑われた。
そんな普通の中学時代を、‘実際誰も干渉してなかった時代’と言える日は来るのだろうか。
毎日込み上げる想いに蓋をして、みんなに合わせて馬鹿になった。
好きでもない色に染まって浸って、本当の自分が分からなかった。
口ではなんとでも言える。
でまかせも嘘も見破れる。
汚い嘘は聞いただけで耳が痛かった。
「…そんな嘘、求めてないから」
久しぶりに口にした“コトバ”の色。
それはただの無色透明でした。
7月20日
_______________
「明日から夏休みだね」
「そうだね…幸人も部活以外引きこもる感じ?」
散り散りに当たる日光が、二人の中に割って入った。
授業を終えて部活を始めるまでのものの数分、私たちはクーラーの冷気がにわかに残るこの教室でほとんど毎日、ひそひそと雑談会をしていた。
「まぁ…そうかな」
「ゲーム?次ガチャとイベが同時に来るから‘チズチズ’かな?」
「…当たり」
ふんわり笑顔を浮かべる彼, 汐留 幸人(しおどめ ゆきと)は世間で言うゲーオタだ。
剣道部に所属しているわけだがこの男、部活とゲーム以外のことはからっきしで毎度宿題を忘れては担任に大目玉を食らっている。
それでも懲りないからかなりメンタルが強いのだろうか。ある意味尊敬に値する。
「でも蜑住さんもチズチズやるんでしょ?イベント情報確認してるわけだし」
「まーね?早く幸人のレベルに追い付きたいし」
かく言う私、 蜑住 小雪(あますみ こゆき)もそこそこにゲームが好きだった。
中々周囲の人々に言ったことは無かったが、昔からゲームで遊ぶことが一つの趣味だった。
だから幅広い分野のゲームで遊ぶ幸人とは話しが合い、今では二人で話せる程の仲になっている。
「部活以外ずーっと部屋に引きこもってゲームとか…オタクを極めだしたね、幸人」
「そうかな?そんな俺とマッチングする蜑住さんも人のこといえないでしょ」
「そ?まぁ文芸部今やることないし…暇だからレベル上げして幸人ボッコボコにしよっかなーって」
「はははっ、冗談!1回しか勝ったことないじゃん!」
時折幼く笑い出す幸人の色素の薄い髪が日光に照らされて溶けているように見えた。
こんな他愛ない…と言うより幸人とじゃなきゃ出来ない話しが、まぁ私は嫌いじゃない。
「あ、5時半なっちゃったね
今日の居残り終わりかぁ…部活行かなきゃ」
「もうそんな時間?幸人、全然ノート埋まってない」
「そりゃあ…ずっと喋ってたからな」
1文字どころかノートも教科書も開かれていない様子を見るに、初めからやる気はなかったのだろう。そんな姿が子供みたいで、どこか笑ってしまいそうだった。
「ふぅ…やっぱ鞄重いね
幸人のもそうなのかな」
「そう?蜑住さん頭良いから沢山持って帰りすぎてるんだよ
もっと馬鹿やっていいじゃん」
鞄に荷物を詰め、席を立ち上がると目線が変わったのを直ぐに感じた。
中一の頃は私の方がずっと背が高かったのに。
幸人は中二に入ってぐんぐん背が伸びて、最近ではもう追い越されてしまった。
(私も高い方のはずなのに…流石にもう伸びないかな…)
「…行かなきゃ
じゃ、蜑住さんも部活ちゃんと行かなきゃ駄目だよ」
「わかってるよ!幸人みたいにサボったりしないから!」
「はいはい、じゃ…またね」
「…バイバイ!」
小走りで教室を出ていく幸人の姿を眺めていた。
色褪せた夏風がスカートを揺らし、鞄に着けている鈴に小さな音が宿った。
(嘘、今日‘も’文芸部ないんだよね)
小さな嘘も私を守る為の屈強な盾だ。
文芸部はここ1週間ずっと休みになっている。だがしかし、私は嘘を吐いてここで幸人と二人の時間を過ごしていた。
「全部思い通りには…ならないか」
再度席に座り、一冊のノートを開く。
(…今日はなんて書こうかな)
ある意味宿題より時間のかかるそれに、1文字1文字小さく可愛らしい字を並べる。
もう殆ど冷気が残っていない教室で、一汗かきながら夏のはじまりを密かに予感した。
明日から、本科的な‘夏’が、始まるような気がする。
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